10-3
結局女性13人全員が料理が出来ると言って手を挙げたが、俺達に付いて来るか聞いた所で大半が手を下げた。手を挙げたままなのは2人だった。
「じゃああなた達2人以外は解散していいわよ。ザック、サイガ、馬車にある食料とかを少し分けてあげて」
「おう、解った」
「それであなた達2人は、とりあえずは付いて来るって事でいいのね?」
「「はい、お願いします」」
「解った。別れたくなったらいつでも言って。それと奴隷扱いはしないけど、一応主人はタカオだからね?」
「「はい、解りました」」
ミカは他にも色々と説明をしている。2人共、特筆する所も無い只の村娘って所か。金髪のセミロングがニナで、茶髪を後ろで束ねている方がナディアと言うらしい。二人共ヒト種だ。扱いが良く解らない俺が口を出すより、ミカに任せておこう。
他の元奴隷たちは、僅かな物資を手に順番に去って行った。
「ミカ、あの人達ってどうするんだ?」
「さあ? 適当な場所で暮らすか、元居た場所まで戻るんじゃないかしら? 付いて来ないって言った時点で、そこまで面倒見る義理は無いわ。何? 気になるの?」
「うん? そうだな。気にならないって言ったら嘘になるな」
「タカオが気にする事じゃないわ。あの人達は自分で進む道を選んだんだから」
「・・・・・・それもそうだな。今は他の人の世話を焼いている暇は無いな」
「そうよ。じゃあそろそろ奴隷都市での予定について話しましょう。ニナ、ナディア。今はこれを食べて休憩していて」
ミカは二人に食べ物を渡す・・・・・・それ全部酒のツマミじゃんかよ・・・・・・。ナッツ類とかジャーキーとか。
俺達は奴隷狩りの御者を囲み、奴隷都市の概要を聞いた。ガジンの居城、兵の詰め所、闘技場、市場、どこにどれ位の兵がいるかなどだ。
遥と佐々木さんの事を知らないか聞いてみたら、それらしき人物が闘技場で闘わされているらしい。御者は実際に見た訳じゃ無いが、異世界の格闘術を使う女がボロボロになりながらも勝ち続けているらしい。
「・・・・・・今すぐ出発だ」
「タカオ。気持ちは解るが、それは認められん。ザックとサイガに先行させての情報収集が先じゃ」
「は? ここまで来て、移動手段も手に入れたのに今更何言ってんだ? 今こうしている間にも闘わされているのかもしれないんだぞ?」
「タカオ。それも確定した訳じゃ無いでしょ? 別人かもしれないわ。それにシグが闘った勇者の事もあるのよ?」
「そうだね、忘れてたよ。ねえ、その勇者って何なの?」
ルシアが御者に尋ねる。
「ギゼ様か? 何と言われても、ヒト種で赤く光る剣を持つという事以外は解らない。ガジン様があんたに対して対抗手段を手に入れた、って連れて来たんだ。我々じゃ相手にならないほど強いとしか言えない」
「ふーん、まあやれば解るか。赤く光る剣ねぇ、私と同じだね」
「・・・・・・やっぱり偵察をした方がいいわ。ザック、サイガ、行ける?」
「俺は構わないぞ」
「・・・・・・」
「サイガ?」
「俺一人の方が良くないか? 俺は何度もガジンの闘技場で闘っている。さっきの兵じゃ無いが顔見知りもいる筈だ」
「そう? ・・・・・・いえ、やっぱり二人で行って頂戴。サイガを疑う訳じゃ無いわよ。サイガには内部の情報、ザックは外部の情報を持って来て」
「成程ね。じゃあ行くかザック」
「万が一の為に転移結晶は各自で持っていてね」
「ああ、解った」
「よし、じゃあ行くか。一応念の為に言っておくが、余計な事はするなよ? 何時でもその首落とせるからな?」
サイガが同行する御者に忠告する。
「解っている。俺もまだ死にたくないんでな。あんたらを送った後は、その足で街を出る」
「賢明な判断よ。じゃあお願いね」
「ああ。そうだな・・・・・・一時間位で一度戻る」
「解ったわ」
「では町はずれの倉庫へ飛ぶ」
御者の持つ結晶が眩しいほどに輝く。手をかざし光を遮る。・・・・・・光が収まった時には、三人は目の前から消えていた。
「ここが町はずれの倉庫だ。前にある道を真っ直ぐ行けば大通りに出る。通りに出て右に行けば闘技場とガジン様の居城がある」
「ここには誰か来るのか?」
「いや、今は使われていないからな。多分誰も来ないと思うぞ?」
「そうか。お前は街を出るんだろ?」
「ああ、一度家に帰って荷物を取ったら街を出る」
「まあそれが無難だな。ミカ達が来たらガジンの兵には遠慮しないだろうからな」
「解った・・・・・・」
「何だ?」
「・・・・・・ガジン様の側近は、ギゼ様の他に三人いる。傭兵と言っていたが、見た事無い飛び道具を使う奴等だ。俺が言うのも何だが気を付けろ」
「ふーん。解った、ありがとうな。じゃあそろそろ行くか。サイガ、一時間後にここに集合でいいか?」
「ああ、それだけありゃ大丈夫だろ」
そう言って二人は倉庫から出て行った。
「・・・・・・さて、街を出て何処に行くかな・・・・・・」
御者は倉庫を出て、周囲を気にしながら自宅へと戻って行った。
サイガside
ザックと別れた後、俺は真っ直ぐ闘技場へ向かった。とりあえず街の中を歩いて行ったが・・・・・・何でここにはこんなに人がいるんだ? 今迄人に会わなかった事が嘘の様だ。奴隷を売買している者、商店を開いている者、そこら辺を走り回る子供、ガジンの兵など様々だ。街として成り立っている。
「一体何処からこんなに・・・・・・」
闘技場に着き、入り口の詰め所にいる兵に話しかける。
「よお、俺の事解るか?」
「はあ? お前なんざ知るか。何の用だ?」
「・・・・・・まあ数年ぶりだしな、知らなくても無理は無いか」
「ふん、用が無いなら失せろ」
「用があるから着たんだよ。今は一般人は闘技場で闘えるのか?」
「ああん? 闘えるが・・・・・・お前が出るのか?」
「ああ、そうだぜ。これでも五年前位まではトップランカーだったんだぜ?」
「五年前? ちょっと待ってろ」
そう言い残し、兵は詰め所の奥に入って行った。待っている間に他の兵に話しかける。
「今も戦闘奴隷同士が多いのか?」
「そうでもない。天変地異によって生態系が変わったらしくてな。人対人はあまりやって無いな。人対魔物が主流だな」
「へぇー。噂じゃ随分と強い女がいるって聞いたんだけどな」
「誰からだ?」
「奴隷狩りの連中だ」
「よく捕らえられなかったな」
「ああ、俺の事を知ってる奴がいたもんでな。必死に止めてたぞ。そいつに手を出すなってな」
その時詰め所から一人の大男が出て来た。
「おお、サイガか? 久しいな」
「お、隊長さんか。久しぶりだな」
「今は隊長では無い。兵士長だ」
「なんだ、出世したのか?」
「出世と言えば出世だな。勇者に攻め込まれた時に上の物が軒並みやられたんでな」
「ああ、成程な」
「で、今日は何だ? 闘技場か?」
「そうだが、久しぶりだから今日は下見だな。ほら、世界がこんなになっちまっただろ?色々と情報収集中なんだよ」
「ああ、そうだな。何でこんな事になったんだか」
「でもこの街はどうしてこんなに活気があるんだ? ここまで旅をしてきたが、こんなに人がいる所は初めてだぞ?」
「ん? サイガは旅をしていたのか?」
「おう、スパインの南東で狩りをしていたんだけどよ、いきなり転移させられて訳の解らない場所にとばされたんだよ。十日前位だな」
「そうか。我々もその転移に巻き込まれたのだ。ただサイガと違う所は、街ごと転移させられたって所だな」
「街ごとか。成程ね。それならこの人の数も納得だ。他にも聞きたい事があるんだがいいか?」
「ああ、構わないぞ。そうだな、案内しながら話してやろう」
「お、悪いな」
俺達は闘技場の中へと入って行った。
「で、何が聞きたいんだ?」
「そうだな、途中で奴隷狩りの奴等に聞いたんだが、随分と強い女がいるんだって?」
「ふふふ、相変わらず強い奴にしか興味が無いのか?」
「ああ。高みに登る事が人生の目標だからな」
「強い女か・・・・・・いるぞ」
「そいつに会えるか?」
「会ってどうするんだ?」
「解ってんだろ? 品定めだよ」
「本当に相変わらずだな。んー、今の時間だと難しいかもしれんな」
「何でだ?」
「あと一時間後位にその女は闘うのだ。だから既に控室に入っているかもしれん」
「なんだ、今は控室なんてあるのか?」
「いや、誰でも使える訳じゃないぞ。ガジン様のお気に入りだけだ」
「ああ、そう言えばガジン様って勇者に討ち取られたよな? なんで生きてるんだ? 本人なのか?」
「・・・・・・」
「ん? 答えにくい事だったか?」
「いや、そうではない。我々も良く解らんのだ。確かにあの時、ガジン様は勇者ルシアに討ち取られた。そして奴隷都市は壊滅し、スラムとなり果てた。だが一年位経った頃、再び兵を率いてガジン様がやって来たのだ」
「ああ、その辺は奴隷狩りの連中から聞いた。本人だったのか?」
「うむ、他人の空似では無い。あれはまさしくガジン様だった。ガジン様と四人の側近は、一日でスラムとなり果てた元奴隷都市を手中に入れなおしたのだ」
「ふーん。不思議な事もあるもんだな」
「全くだ」
「で、その側近って言うのは? 強いのか?」
「その辺は私も良く解らないのだ。 “勇者” と “傭兵” と呼ばれている」
「勇者と傭兵ねぇ。まぁ機会があったら手合わせしてみたいもんだな」
「止めておけ。数々の問題を力ずくで解決しているのだ、流石のお前でも殺されるぞ」
「そうか? だったら尚更だな」
「ふん。ほら、ここが控室だ。間違っても手を出すなよ」
「そん位の分別はあるよ」
部屋に入ると、そこには一人の女がいた。・・・・・・体中包帯だらけでなにやらブツブツと呟いている。
「この女は仲間の女二人を守る為に、こんなにボロボロになりながらも闘っているのだ」
「ん? どういう意味だ?」
「仲間の女を闘わせない代わりに自分が闘うって言ってな」
「ふーん」
前に回って顔を見ると・・・・・・
「右目の周りはどうしたんだ?」
「右目周辺にサンドワームの毒を受けてな。失明だ」
「こんなボロボロで闘えるのか?」
「闘わないと連れの二人が闘技場行きになるからな。出来る出来ないじゃないんだよ」
「もしこいつが死んだらその二人はどうなるんだ?」
「さあ? 俺が決めた訳じゃないからな。ガジン様次第だ」
「ふーん。こいつの名前は?」
「知らん」
「・・・・・・なあ、名前は何て言うんだ?」
「・・・・・・」
「・・・・・・なあ隊長。こいつ壊れてないか?」
「隊長では無い。兵士長だ。それに壊れていようが関係ない。いざ闘いになるとその女は強いぞ」
「なあ、お前の名前は?」
「・・・・・・」
「タカオって知ってるか?」
女は残った左目を見開き俺の顔を見る。・・・・・・やっぱりこの女みたいだな。しかしこの状態では・・・・・・
「もうすぐ来るから。あと少しだけがんばれ」
「ん? 何の話だ? 何が来るんだ?」
「あん? どう見たって先は長く無いだろ? あの世からのお迎えがもうすぐ来るぞって事だよ」
「成程な。もういいのか?」
「ああ、もうこいつに用は無い。ま、せいぜい頑張って生き残ってくれや」
「では行くか」
俺達は部屋を後にした。




