10-2
そこから先はスムーズだった。と言っても喋っていたのは一人だったが。
四人は奴隷都市が落ちた後は、素性を隠してスラムの片隅で生活していたらしい。それもそうだろう。解放奴隷の街だからな、大手を振って歩いてたら殺されるよな。と言うか街を出るって選択肢は無かったのか?
四人から得た情報を統合してみると、確かにガジンは勇者の手によって討ち取られた。そして奴隷達は解放され、奴隷都市は解放された奴隷たちが住む街となった。ここまではミカやルード達も知っていた様だ。
しかし一年程経った時、討ち取られた筈のガジンが再び兵を率いて攻めて来たらしい。その内の側近一人が化け物の様な強さで、一晩で街は陥落し新たな奴隷都市が再建された。時期的にはサビアル王国が、全世界に向けて宣戦布告をした辺りの様だ。その後は、今まで通りのガジンの圧政が復活したという事だ。・・・・・・今まで通りって言っても俺は知らないけどな。そして奴隷都市の正確な場所だが・・・・・・。
「ここから10日!? ・・・・・・マジかよ、あと10日も掛かるのか・・・・・・」
「10日? あなた達はあと10日も、馬車牢に奴隷を積んだまま移動する積りだったの? ・・・・・・変ね・・・・・・」
「後10日、10日も・・・・・・ん? 何が変なんだ? ミカ」
「・・・・・・もしかしてあなた達、転移結晶を持っているんじゃない?」
一人の御者が肩を震わせる。
「何だそれ?」
「一定の範囲内にある物を特定の位置まで転移させることの出来る魔導具よ。オーラと取引をしていた割には随分と遠くから来てるとは思ったけど、転移結晶を使えば一瞬だものね」
「だよな。奴隷を送る時はともかく、そんな長距離を死体を運んでるんじゃあ腐る所じゃ無いもんな」
「さて、素直に出した方が身の為だけど?」
「・・・・・・二台目の馬車に置いてある」
さっきからこいつしか喋って無いな。他の三人は不満そうに喋っている一人を睨んでいる。
「そう。ザック、お願い」
「おう」
「タカオ。喜んでいいわよ今日中には奴隷都市に着けるから」
「本当か!?」
「ええ」
「おー、あったぞ。随分たんまり持ってるな。ほれタカオ、これで目的地までひとっ飛びだ」
ザックは小さい布袋を投げて寄越す。中には・・・・・・なんだこりゃ? ビー玉か?
「これがそうなのか?」
「そうよ。簡単に言うと、それにマナを流して行きたい所を思い浮かべると、その場所に転移できるの。」
「へー、便利なもんだな」
「まあ行った事がある場所だけって言う制限はあるけどね。さて、これで最低一人は私達と一緒に転移して貰う訳だけど。立候補者はいるかしら?」
「・・・・・・何の為にガジン様の奴隷都市に行くんだ?」
「・・・・・・そこにいるタカオ。私の旦那様なんだけどね、タカオの奥さんと息子の恋人がガジンの所で囚われているらしいの。要は二人の救出ね。ガジンはついでに殺すわ」
「転移後の処遇は?」
「そうね・・・・・・こちらの要望通りの場所に転移できたなら、その場で解放してもいいわ」
「本当か?」
「ええ。但し、そのまま街を出る事をお勧めするけどね」
「要望通りの場所とは?」
「人目に付かない場所ね。勿論街の中よ?」
「町はずれの使われていない倉庫とかは?」
「良いんじゃないかしら」
「・・・・・・解った。俺が行く」
「そう、良いわよ。ルシア」
「うん」
ルシアは残りの三人の首を斬り落とした。
「お、おい! 話が違うぞ!」
「何も違わないわよ? 非協力的なら生かしておく理由は無いって言ったでしょ? さっきから質問に答えていたのはあなただけ。だからあなたは生かしてある。ああなりたくなかったら、言う事を聞く事ね」
「・・・・・・解った」
「よろしい。じゃあ次は奴隷都市の事を教えて貰おうかしら。ガジンの居場所とか兵力とか」
「ミカ、ちょっといいか?」
「何?タカオ」
「今牢屋に入っている人達はどうするんだ?」
「解放するわよ? それでさようならね」
「ここでか?」
「ええ、面倒を見る義理は無いでしょ? 解放奴隷なんてそんな物よ?」
「そうじゃな。本人たちが望んで、解放者、この場合は儂等じゃな。解放者が了承すれば付いて来させても良いが、儂等はそんな場合では無いじゃろう? じゃから解放後はお別れじゃの」
「そんな物なのか?」
「そんな物ね。・・・・・・何? タカオは奴隷が欲しいの?」
「はあ? 別に欲しくないよ。奴隷なんて見た事無いからな。扱いが気になっただけだ」
「ふーん。なら良いけど・・・・・・でも食事の準備とかで何人かいても良いのかしら?」
「あー、そうだね。ご飯の支度とかって結構面倒だよね」
・・・・・・お前達二人は料理なんてした事無いだろ。
「じゃあ話のついでだから先に奴隷を解放しましょうか」
全員で馬車牢に向かうが、
「俺はどうしたらいい?」
御者が聞いて来る。
「適当に休んでいて。逃げれると思うなら試しても良いわよ? その場合の身の安全は保障しないけどね」
「俺を殺したら転移出来ないぞ」
「ええ、だから殺さないわよ? 言ってる意味解る?」
「・・・・・・解った・・・・・・」
「じゃあちょっと待っててね」
馬車牢の中には、男が六人、女が十三人乗っていた。服装からして全員イグナス人みたいだな・・・・・・。
「どう? タカオ」
「どうって何が?」
「欲しい娘はいる?」
「何で女限定なんだよ? つーか要らないって言っただろ?」
「そう? 今からあなた達を解放するわ。ルシア、お願い」
ルシアは馬車牢の木戸を斬り壊した。ぞろぞろと奴隷たちは出て来るが、歓喜の声を上げる者、むせび泣く者、変わらず悲痛な表情をしている者様々だ。
「あなた達はこれで自由よ。元居た場所に戻っても好きな場所に行っても良いわよ」
「ガジンの兵に捕まったとあれば、死ぬまで強制労働となる所でした。解放して頂き感謝の言葉もございません。ありがとうございます」
男の奴隷が代表して? 礼を言って来る。ルードには負けるが、この人も随分ゴツイな。捕まる時に抵抗したんだろう、あちこち傷だらけで服もボロボロだ。髪もボサボサで、〇リーちゃんのパパみたいな髪型になって動いてるぞ・・・・・・動いて・・・・・・ピクピクと動いてる!?
「あら、あなた獣人なのね。ガリルの人?」
獣人!? ヤバい! 一樹が! 一馬もか?
二人は物珍しそうに見ているが、暴走した様子も無い。
「ん? お前達平気なのか?」
「「なにが?」」
「何が? って・・・・・・あの人獣人らしいぞ?」
「そうみたいだね」
「いいのか?」
「何がいいのかは解らないけど、あの人男でしょ? いくら獣人初遭遇でも男の人じゃあね。なあ一樹」
「うん、その通り。確かに珍しいけど騒ぐほどではないね」
「・・・・・・そうですか」
何なんだよこいつらは。知らねえよ! お前らマニアの基準なんて・・・・・・まあいいか。獣人って言っても人ベースなんだな。今は扱いが悪かったから仕方が無いのか、手入れをしたらふさふさっぽい尻尾も付いている。耳は柴犬みたいな立ち耳だ。全体的にグレー系の毛だから、シベリアンハスキーとかの獣人なのか?
獣人の男とミカは何やら話している。
「はい。私はガリルの北部の街、ボウリで暮らしておりましたシグと言います。スノーウルフの獣人です。ルード様、ルシア様、ミカ様ですよね? 助けて頂きありがとうございます」
「あなたも飛ばされたのかしら?」
「はい。大きな地揺れの後に、気付いたら見知らぬ場所に立っておりまして・・・・・・彷徨っている内に奴隷狩りに会いまして、多勢に無勢でこの有様です」
スノーウルフ・・・・・・ウルフか、狼ね。勝手に犬だと思ってすいません。
「スノーウルフの獣人ならこの程度の兵なら余裕じゃないの?」
「はい。私もそう思い抵抗し、馬車牢の奴隷を解放しようとしたのですが、一人手練れがおりまして・・・・・・」
「ふむ、ウルフ種の獣人が手練れと言う程じゃ。儂等レベルの相手じゃったのか?」
「その、言いにくいのですが・・・・・・ “勇者ギゼ” と名乗っておりまして」
「「「勇者?」」」
「はい。その “勇者” には手も足も出ずに・・・・・・恥ずかしながら一撃で意識を刈り取られました」
「“勇者ギゼ” ? 聞いた事無いわね?」
「聞いた事もなにも勇者は一世代一人じゃろ? ルシアはここにおるぞ?」
「うん。まだ私に勇者の力は宿ってるよ」
そう言って緑のオーラを出すルシア。
「なあ、ちょっといいか? 俺は勇者どうこうは良く解らないが、イグナスの勇者はルシアなんだろ? って事はイグナスの勇者じゃ無くてさ・・・・・・」
「・・・・・・有り得るわね。今迄出会った眷属は、イグナスでは見た事も聞いた事も無いものね」
「へー、じゃあ異世界の勇者なんだね。どれ位強いのかな? 」
「・・・・・・こちらの冴えない男は? 荷物持ちですかな?」
「あのね・・・・・・私とルシアの旦那様よ。丁重に扱ってね」
「そ! それは失礼いたしました! 知らなかったとは言えとんでもないご無礼を! 平にご容赦ください!」
シグは片膝を着き片方の手を地面に付け、もう片方の手は後ろに回して頭を下げている。
「獣人族の最上位の礼よ」
ミカがぼそっと言って来る。そしてザック! 笑うなら声出して笑えよ! なんかそれやるのも久しぶりだな!
「勇者ルシア様と炎帝ミカ様を娶られるとは。さぞかし名のある御仁かとお見受けします。それにルード様も含め対等に接している所から、腕の方もかなりの物とお見受けします」
「・・・・・・そうね。私達が惚れ込んだ位だからね」
「そうだね。タカオ以外にいなかったもんね」
「そうじゃな。ミカとルシアに言う事を聞かせられるのは、そこにいるタカオ位のものであろう」
君達やめてくれよ・・・・・・シグの目がキラキラしてきてるだろ? 獣人族って強者が全てなんだろ? 実際の事を知った時どうすんだよ。で、ザック! 何がそこまで面白いんだよ! 腹抱えて蹲ってんなよ!
「なんと! イグナスで最強と言われるお二人がそこまで言われるとは・・・・・・。タカオ様、機会があれば是非、手ほどきの方をお願いいたします」
「ほらタカオ、こう言ってるわよ?」
「え? まあ、き、機会があったらね」
「はい。ありがとうございます。して、皆様はこれから如何なされるんですか?」
「うむ、タカオの嫁と息子のカズマの恋人がガジンに囚われておっての。その救出と、ガジンの討伐に行く所じゃ」
「なんと!? タカオ様の奥方とご子息の恋人を!? やはりガジンはとんでもない愚か者ですな。触れてはいけない場所に平然と手を出すとは」
「その通りね。でもあなたと同じ様に、飛ばされた先で奴隷狩りに捕まったみたいなのよ」
「成程・・・・・・では私もご一緒してもよろしいですかな? 少しはお役に立てると思いますが」
「良いんじゃない? スノーウルフの獣人なら、戦力的には十分でしょ?」
「タカオ、どうする?」
「ミカ、はっきり言って俺に聞かれても解らない。彼がどれ位強いとかも知らないし」
「確かに、タカオ様を始めとした皆様と比べたらムシケラの様な物ですが、これでも獣人族では上から数えて17番目の強さであります。何かしらのお役には立てると思いますが」
17番って・・・・・・微妙な数字だな
「へぇ、そうなんだ。1番はアルゴでしょ? 2番は?」
「2番はジゼル様です。3番はアデル様です」
「ジゼルのが強いんだ」
「はい。そうなります」
「まあそうかもね。ジゼルは受け流しが異様に巧いからね」
「で、如何でしょう? タカオ様」
「・・・・・・ミカに任せるよ」
「そう? じゃあシグ、あなたにはカズマの護衛をお願いするわ」
「はい。解りました。この身に変えてもご子息のカズマ様をお守り致します。タカオ様の方は宜しいので?」
「タカオは私とルシアが守るから大丈夫よ。それと、タカオとカズマは、まだマナ中毒を発症していないから、そのつもりでね」
「成程。了解いたしました」
「で、残った人達はどうするんだ?」
「そうね・・・・・・この中に料理の出来る人はいるかしら?」
ミカは馬車牢に乗っていた全員を見回しながら言った。




