10-1
他所の国の大河なのであまり気にしていなかったが、どうやら今俺達が進んでいる川は長江の様だ。スマホなどのGPSも役に立たないので、現在地が大まかにしか解らない。ゾンビ達は全く見えなくなり、代わりにいつものレギオン達が姿を現し始めた。
二日目に、巨大なダム? 水門? に行く手を阻まれたが、ルード、ザック、ルシアの三人で船を持ち上げてクリアしていた。その後もヨットが進めない場所は、陸からヨットを運んで進んだ。
その後も船の旅は三日目、四日目と続き、いい加減狭い船内にいる事が苦痛になってきた様だ。
え? 誰がって? ルシアと一樹だよ。夜は毎晩陸に上がって休んでいるし、途中でレギオンなどに遭遇した時は、ほぼ二人に任せているんだけどな。
陸に上がってキャンプ場所を決めたら、まずルシアと一樹、ジルが消える。そう遠くない場所にいるレギオン共を蹴散らして、ストレスの発散をしている様だ。
何でレギオンの居場所が解るのかと言うと、ジルの嗅覚頼りだ。たまに意図的なのか間違えたのか変な獣の所に案内されるらしい。まあそれはそれで狩って、夕飯のメニューが一品増えるだけだ。殆どジルの分だけどな。その辺の調理はザックかサイガがやってくれる。 おれは出来ないぞ。獣の捌き方何て知らないからな
次に消えるのはルードとザックだ。敵の探知が出来なくなった代わりに酒の探知が出来る様になったみたいで、毎晩何処からか大量の酒を持ち帰って来る。探知の話は勿論比喩だぞ。
俺と一馬とミカとサイガは大体留守番だ。ミカとサイガは特に何も言わないが、一日中ヨットのコントロールをしているから、流石に疲れている筈だ。だから日中何もしていない俺と一馬で夕飯の準備などをして、ミカとサイガには酒を渡してくつろいで貰っている。
五日目。ヨットの船底に穴が開いた。何度か船底を擦りながら進んだ事もあったので、とうとう来たか。と言う感じだった。ここからは再び陸路になる。時間的にはまだ早いが今日はここ迄にして、キャンプ場所と明日からの足、それに地図を探すことにする。
六日目。キャンプ場所に選んだ建物から出発しようと準備をしている時、遠くから喧騒が聞こえた。全員顔を見合わせ、建物の中に隠れる。
「何だと思う?」
「タカオ、そう結論を急ぐな。俺とサイガで偵察してくるからちょっと待ってろ」
「そうね、二人共お願い」
ザックとサイガはするりと建物から出て左右に分かれる。一体何の音だ? 俺達以外の何かがいるのは確かだけど。音が近づいて来ない所を見ると、こっちには向かって来てはいないんだろう。
五分程すると、
「待たせたな」
ザックとサイガが建物の中に戻っていた。何時の間に戻ったんだ?
「どうじゃ?」
「あー、まあ聞いて驚け。音の発生源は、ガジンの奴隷狩り部隊だった。数は諸々含めて50ってとこだな」
「ザック、本当にガジンなの?」
「ああ、紋章はガジンの物だったし、装備や引いていた馬車牢もそうだった。ランドライノに引かせてる所も同じだな。ただ勿論本人を確認した訳じゃ無いぞ?」
「私殺した筈なんだけど・・・・・・」
「ええ、それは確かよ。私もルードも見たもの。ねえルード」
「うむ。ルシアは確かにガジンの首を刎ねた」
「じゃあ何で?」
「まあ俺達地球人はそっちの話は良く解らないが、これも眷属化に何か秘密があるんじゃないのか?」
「・・・・・・今の所はそう考えるのが妥当ね。ガジン本人じゃ無くて、ガジンの狂った意思を継いだ狂人かもしれないしね」
「じゃあ早速そいつらを倒そう。それで奴隷都市とやらの場所を吐かせるんだ」
「落ち着いてタカオ。ザック、馬車牢には奴隷は乗っていた?」
「ああ、20は乗ってたぞ。この世界の何処でそんなに集めたんだか。それに奴隷を乗せてたって事は、奴隷都市に戻るんじゃないか? なあサイガ、そんな感じだったよな」
「そうだな。少なくとも、これから更に奴隷を集めようって雰囲気では無かったな」
「そう。じゃあそこそこの移動スピードはあるわね」
「ただ・・・・・・タカオ、目的地まではあとどれ位なんだ?」
サイガが訪ねて来る。
「そうだな・・・・・・予想してる目的地まで、あと半分って所かな」
「そうか。ガジンの奴隷狩りがこんな所まで来てるって事。それにゾンビババアと取引をしていたって事は、既に相当な戦力になってるぞ?」
「・・・・・・それもそうじゃな。これだけの距離を移動できるだけの物資に人員も既に所有しているという事か。うーむ、どうしたものか・・・・・・気付かれぬように後を着けるのが一番良いんじゃが・・・・・・」
ルードはちらりと俺を見る。・・・・・・言いたい事は解ってんよ。しかし・・・・・・
「これは質問なんだが、例えば一人を攫って来て、そいつに道案内をさせるってのはどうだ?」
「まあそれも有りだとは思うけど、何日も連れて歩くの?」
「面倒か?」
「正直に言うとかなり面倒ね。奴隷狩りが近くにいる時に騒がれでもしたら? 食事や排泄の世話もあるのよ? ジルを連れてるのとは訳が違うわ」
「そうか。どうすれば・・・・・・」
「でもよ、あいつら自分たちが狩られるとは思ってもいないだろうから、腕の一本でも斬り落とせば案外言う事聞くんじゃねぇか?」
「別に難しく考える事無いんじゃない? 私達はこのまま進んで、出会ったガジンの兵は何人かを残して皆殺し。奴隷は解放。それが一番早いでしょ」
「残した兵は拷問か?」
「そうだね、奴隷都市の場所を吐かせないといけないからね。吐かなかったら殺せばいいし、吐いたら吐いたでガジンの兵は殺すだけだね。どうかなタカオ、一番シンプルで時間も掛からないでしょ?」
・・・・・・ルシアはたまにバイオレンスな事を言い出すんだよな。
「但し、タカオ達が人を殺せないとか言ってる様じゃあこの案も無理なんだけど・・・・・・」
・・・・・・そりゃそうだよな。ルシア達の手を汚させて、自分の手は綺麗なままとか。通る話じゃ無いよな。
「・・・・・・解った。出来るかどうかはその場にならないと解らないが、そのつもりでいる」
「・・・・・・まあ今はそれで十分じゃ。無理やりやらせても心が壊れるだけじゃからの」
「方針は決まったわね。じゃあ早速手始めに、さっきの部隊を潰しましょう」
俺達は奴隷狩りの進行方向の少し先に隠れていた。もうすぐ奴隷狩りの連中が前を通る。段取りとしてはこうだ。
ルードが正面に立ち道を塞ぐ。次にザックが物陰から弓を射る。そしてルシアとサイガが左右から挟撃する。
こんな感じでやるらしい。最初なので俺達は見学だ。ミカは俺達の護衛をするみたいだ。
・・・・・・来たか。地響きと砂埃を立てながら四台の馬車が・・・・・・馬車? あの車両を引いてる動物ってサイじゃないか?
「ミカ、あの引いてる動物って何だ?」
「あれがランドライノよ。ガジンはランドライノを使って馬車牢を引かせるの」
「イグナスの生き物なのか?」
「ん? そうだけど?」
「こっちにも似たようなのがいるんだよな。サイって言うんだけどな」
見たまんまサイだ。シロサイって奴か? ライノって言ってたから恐竜系を想像してたけど。
「力があって、体つきの割には長距離の移動も大丈夫なのよ。草食だから餌も安上がりだしね。いざという時は戦力にもなるのよ。どうせ倒しながら行くんだから、アレに乗って行っても良いんじゃないかしら?」
「ふーん、まあそれは後で考えよう」
「そうね。始まるわよ」
ルードは棍を持ち、進路を塞ぐように道の真ん中に立っている。奴隷狩りは馬車? を止めた。四人が馬車から降りて来て、ルードを取り囲む。いや、後続の馬車からも続々と降りて来る。何か話しているようだがここからは聞き取れない。
結局20人くらいの奴隷狩りに囲まれるまで、ルードは何やら話していた。話が終わったのか、ルードは “やれやれ” といった感じで首を左右に振る。それが合図だったのか、ルードの後方に回っていた奴隷狩り達の頭に矢が刺さった。・・・・・・ザックの能力なんだろうな。10人位を一度に仕留めている。
次に、一瞬の出来事で何が起きたか理解できていない奴隷狩り達は、ルードの棍の餌食になった。
御者以外の奴隷狩りが次々と馬車を降りて来るが、降りた途端にルシアとサイガの一撃を貰って崩れ落ちている。
「タカオ、終わったみたいだから行きましょう」
「あ、ああ、一瞬だったな」
「ただの使いっパシリの兵相手ならあんな物よ」
「そうか? ・・・・・・なあ、あんな真似俺には出来ないぞ」
「だから今のタカオ達にはあんな真似はさせるつもりは無いから。何度も言ってるでしょ? いざという時は相手を殺してでも自分の身を守って欲しいだけよ」
「そうか・・・・・・すまないな。俺の我儘で旅をしてるのに、ほぼ全てをおんぶに抱っこで・・・・・・」
「気にしなくていいのよ。私とルシアの残りの人生は、タカオの為だけに使うんだから。でも・・・・・・そうね、タカオがその事に関して苛まれるなら、お礼と言うか感謝の気持ちを持って子種を――」
「落ち着いたらな」
「・・・・・・約束よ」
「ああ、約束する」
「ルシアにもよ?」
「ああ、遥と佐々木さんを助け出して、落ち着いたらミカとルシアを抱くと約束する」
「よろしい」
そう言ってミカは早足で行ってしまった。全く・・・・・・こんな約束だけで照れてる奴が出来るのかよ・・・・・・。
「ミカちゃん凄いよね。交渉上手いよね」
「一樹止めろって。俺達がいること忘れてんだからよ」
・・・・・・・・・・・・だよな。一緒に隠れてたんだから全部聞こえてるよな。
生きている奴隷狩りは一か所に集められていた。全部で2人か。よく解らないけど少なくないか? 二人だけで情報なんか取れるのか?
困った顔のミカの前で、ルード、ザック、ルシア、サイガが言い争っている。ん? どうしたんだ? 言い争いなんて珍しいな。
「どうした? 生き残った奴隷狩りって二人だけなのか? 何もしていない俺が言う事じゃ無いかもしれないが、情報を取る時ってそんなもんなのか?」
「ちょっとその事で問題があってね・・・・・・」
「問題? ミカの困った顔に関係あるのか?」
「ええ。襲撃の段取りは決めていたらしいんだけどね、誰が何人残すかって決めて無かったみたいなのよ」
「ん? そうなのか? だから二人なのか?」
「その二人もかろうじて息があったから、治癒魔法で回復させたのよ」
「すまん。儂としたことが・・・・・・」
「いや、俺も悪かった。つい矢の本数増やしちまった・・・・・・」
「私も誰かが残すだろうって・・・・・・ごめんなさい」
「俺も自分で思っていた以上に船旅のストレスがあったみたいでな・・・・・・すまん」
「って事なのよ」
「・・・・・・・・・・・・そ、そうか。ま、まあ動き回れる程のデカい船ならともかく、あんな小さいヨットだったからな。ストレスも溜まるさ。二人残ってラッキーだな!」
成程、皆殺しか・・・・・・船旅のストレスでやりすぎた。という事な。
「ミカさん。運転者の人は奴隷狩りじゃないんですか?」
「運転者?」
全員の目が先頭車両の御者に向く。全員の視線を浴び、ビクッと身体を震わせる御者。ああー、そう言えば御者もいたな。あまりにも見事に馬車と同化してるから気付かなかった。まあビビッて動けなかっただけだろうけどな。
四人はささっと動き、各馬車から御者を引っ張って来た。御者は一人ずつか。御者って言っても装備は一緒だから、やっぱり兵なんだろうな。これで奴隷狩りの捕虜は六人に増えた。情報の数も増えるだろう。
「さて、あなた達には聞きたい事があるの。まず初めに、あなた達はガジンの奴隷狩りで間違いないわよね?」
奴隷狩りの連中を跪かせた前で、ミカは問いかける。ルシアは奴隷狩り達の後ろに立ち、ルードとサイガが左右。ザックはミカの横に立ち、俺達はその後ろだ。
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・あまり手間を掛けさせないで欲しいのだけど・・・・・・ルシア」
ルシアは無言で御者ではなく、治癒魔法で回復させた兵の一人の首を刎ねた。上手い具合に・・・・・・と言うかそう言う風に斬ったんだろう。斬られた兵の首は、残りの奴隷狩り達の前に転がった。
「あなた達はガジンの奴隷狩りよね?」
「・・・・・・そうだ」
御者の一人が答える。
「イグナスから来たの?」
「そうだ」
「じゃあ私達の事も知っていた筈よね?」
「炎帝に勇者、破壊僧に鷹の目、人斬りだろ?」
おう、ルードとザックの二つ名を初めて聞いたぞ。破戒僧と鷹の目か。
「タカオ。戒律を破る破戒じゃなくて、壊す方の破壊よ」
「・・・・・・だからなんで解るんだよ! ちょっと怖いぞ!」
「ふふん。まあそれは良いとして、解っていてルードに手を出してきたの? 普通逃げるでしょ」
「・・・・・・こんな訳の解らない世界に飛ばされたんだ。本物だと思わなかったんだよ」
「・・・・・・ふーん。確かにそれもそうね。じゃあ次、ガジンはそこにいる勇者ルシアに討ち取られた筈だけど、何故奴隷都市が復活しているのかしら?」
「・・・・・・それは解らない」
「ふーん・・・・・・ルシア」
「ちょっ、ちょっと待て! 本当に知らないんだ!」
「何で知らないの? 訳も解らないまま奴隷狩りをしているの? ルシアじゃなくてルードの方が良いのかしら? ルード、お願い」
「うむ」
ルードが一歩踏み出すと、
「待て待て! 本当にガジン様の事は解らないんだ! お前達がイグナスでガジン様を討った時は、俺は闘技場の衛士だったんだ。なあ人斬り、俺の事覚えてるだろ? 俺はいつもお前に賭けてたんだぞ」
「あん? ・・・・・・あー、言われてみれば見覚えがあるな。でもそれが今関係あるのか?」
「関係あるのかって・・・・・・」
「ルード」
ミカの声が響く。
「うむ」
サイガと顔見知りの兵は、ルードに首を掴まれそのままへし折られた・・・・・・。
「あなた達自分の立場を理解してる? 私達が欲しい情報を持っていなかったり非協力的なら、ガジンの兵を生かしておく理由は無いからね? その辺りをよく考えて」
首を折られた兵が地面に崩れ落ちる。
「はい次、ガジンは何で生きているの?」
三人目となる御者は、身体をビクンと震わせた。




