9-3
一馬と二人でゾンビの集団を倒し終えた俺達は、キャンプ場所まで戻って来た。今回は学校? を選んだ様だ。掲示物が低年齢っぽいから小学校だろう。
「随分広い所を選んだな」
「お帰りなさい。どう? 出来る様になった?」
「ああ、ただいま。ミカは俺達が何をしていたか解ってるのか?」
「解ってるわよ? ルシアと一緒にゾンビを狩ってたんでしょ? まあ顔つきからして出来たのね。おめでとう」
「ああ。一樹とジルは?」
「その辺で遊んでるわ」
「ルード達は?」
「お酒を探しに行ったわ」
「で、ミカは留守番か」
「ええ、そうよ」
「おっ、戻って来たかタカオ」
「ん? サイガか、何かあったか?」
「おう、すぐそこに食料品の店があるんだけどよ、一緒に来てくれねーか? 字が読めないから中身が何か解らねーんだ」
「開けて確かめれば良いんじゃないか?」
「それが開けても解らないもんが多くてな。入れ物に書いてある絵と中身が全然違ってたりよ」
確かにパッケージ通りの物が入っているとは限らないな。
「ああ、成程。解った行くよ。でも俺もこの文字は読めないぞ」
「全く解らない俺達よりはマシだろ?」
「そうか? ミカ達はどうする? 待ってるか?」
「いいえ、一緒に行くわ」
「じゃあみんなで行くか。で、好きな物持って来て食べればいいだろ?」
「そうね、じゃあ行きましょう」
サイガの案内で着いた店は、小規模のスーパーマーケットだった。店内に入るとルードとザックの声がする。
「これはどうじゃ?」
「だからそれは違うって、さっきも開けただろうが。ここからこの辺までが酒なんだよ」
「ふむ、じゃあ全部持って行くとするかの。しかしこの店の “かあと” は小さくて碌に入れられんぞ」
「デカい箱でもあったら良いんだけどな」
・・・・・・毎回店の酒を飲み尽くすつもりなのか? 飲兵衛たちは放っておいて、俺達は食料を探す。
「一馬は絵を見れば何となく解るだろ? 裏とかに英文も書いてあるのもあるし」
「そうだね。まあ一応解るのと解らないのを分けて持って行くよ」
「前の文字も全く読めなかったが、今回も全く読める気がしねえな。タカオ、これは何だ? サラサラって音がするぞ」
サイガは箱入りの粉末洗剤を持っている。干してあるシャツの絵が書いてあるから多分洗剤だろう。
「服を洗う粉末の洗剤だな。サイガは向こうじゃ無くていいのか?」
「はは、俺はあいつら程飲まねえよ。あいつら毎晩飲み過ぎだ」
「だよな? 良かった。酒に対してまともな飲み方をする人がいて」
「そんなに酷かったのか?」
「酷いなんてもんじゃない。水みたいに飲むから、毎日毎日寄る店の酒を全部飲み干すんだぞ。今日も後で裏に置いてある在庫の酒も持って行くんじゃないか?」
「そんなに飲んでんのか」
「ああ。まあ色々と助けて貰っているから、それに対して不満とかは無いけどな。逆に心配な位だよ。身体壊さないかって」
「タカオ。これは何? 変な臭いがするけど。食べ物なの? 赤いけど何かの内臓?」
ミカとルシアが持って来たものは、袋に入った白菜のキムチだった。
「それはキムチって言ってな、白菜って言う野菜を香辛料とかと一緒に漬け込んだ物だ。漬け込む人によって味が違うから、合う合わないがあるかもしれないな」
「どう違うの?」
「美味しいの?」
「そうだな、辛かったり酸っぱかったりか? あとは香辛料にも依るのかな? 気になるなら持って行ったらどうだ? 俺は結構好きだぞ」
「そう。じゃあ持って行く」
「私も持って行こうっと」
魔女っ子スタイルで片手に一袋ずつキムチの入ったビニール袋をぶら下げるミカ。なんかシュールだな・・・・・・。因みにルシアはジャージが気に入った様で、道中のスポーツ用品店で何着か入手して普段着にしている。下着などもフィットネス用の物などを着ている様だ。武器と同じで鎧も一瞬で着脱できるらしく、普段から鎧を着込んでいるのは、実は窮屈だったそうな。靴もスニーカーを履いている。軽くて履きやすいと喜んでいた。
俺と一馬は簡単に食べられそうなものを買い物かごに入れて行く。
「父さん、こんなもんで良いんじゃないかな」
「そうだな。外も暗くなり始めてるからそろそろ行くか。ルード! ザック! もういいか!? 行くぞ!」
「おう! 直ぐに行く! 先行っててくれ!」
・・・・・・お前らバックヤードにいるだろ。また全部酒を持って行くのか?
「まあいいか、行こう」
俺達は店を後にして、キャンプ場所である学校まで戻った。
「あれ? 一樹達まだ戻ってないのかな?」
「なぁにやってんだよあいつらは。何処行ったんだ? ミカ、一樹はここの場所知ってるんだよな?」
「ええ、キャンプの場所をここに決めてから行ったから解っている筈よ」
「カズキだけならちょっと心配だけど、ジルも一緒なんでしょ? なら大丈夫だよ」
「・・・・・・それもそうか?」
「父さん・・・・・・息子よりもペットを信頼するなんて・・・・・・」
「あ、いや、それはそうなんだが、なあ?」
「まあ言いたい事は解るけどね。じゃあ俺達はご飯の支度でもしてようか。その内戻って来るでしょ」
「そうだな。腹が減ったら戻るか」
俺と一馬が夕飯の支度をしている間、ミカとルシアは持って来たキムチを食べていた。
「タカオは辛いって言ってたけど、そんなでも無いわね」
「うん、美味しい辛さだね。幾らでも食べられそう」
スーパーから持って来た紙皿に、一袋丸々出して食べている。確かに俺もキムチは好きだが、食べ過ぎじゃないか?
「なあ、食べ過ぎると喉乾くぞ?」
「・・・・・・それもそうね」
「でも美味しくて止まらないよ」
「まあ気持ちは解るがな」
ん? 話し声がするな。ルードとザックが戻ってきた様だ。一緒に一樹とジルもいる。
「一樹ぃ、お前何処まで行ってんだよ」
「島一周してきた。あっちの方にお店いっぱいあったよ。その分ゾンビも多かったけど」
「一樹はゾンビは平気なのか?」
「ん? 何が? ゴブリンよりトロいから余裕だけど。頭潰せば一発じゃん。一匹凄いのがいたけど、ジルと二人で余裕だったよ」
「・・・・・・カズキ? 凄いのって?」
「あ、ミカちゃん。キムチ食べてるの? おいしい? でも食べ過ぎると臭くなるから気を付けてね?」
「「えっ? 本当!?」」
「あ、ルシアちゃんも食べてるの? うん、本当だよ。もうお父さんとちゅー出来ないね。うひひ」
茫然とするミカと、涙目になるルシア。さっきから結構食べてたもんな。それ袋入りで一㎏位あるよな? 一人一袋ずつ食べていて、半分位食べたよな。食い過ぎだよ! 後で絶対喉乾くぞ。まあそれは良いとして、
「一樹、嘘教えんなよ。確かに臭くはなるが、一日経てば消えるだろ? それか全員で食べればみんな臭いから気にならなくなるぞ」
「・・・・・・タカオ」
「ん?」
「食べて」
「・・・・・・今はいいよ。後で食べるよ」
「ダメ。今食べて」
「・・・・・・キムチを食べたら臭くなるのは当たり前だ。そう言う物が入ってるんだからな。だからキムチを食べたミカとルシアが臭くても気にしないから大丈夫だぞ」
「ルシア」
「うん」
ルシアが立ち上がり俺の方に来る。
「タカオ。あなたも食べたかったのね。ごめんなさい気付かなくて。妻として恥ずかしいわ。今食べさせてあげるからね」
「いや、だから今はいいって、なに!?」
ルシアが俺の後ろに回り、俺の両手を封じるように抱き付いて来る。
「タカオ? 一緒に食べよう? ね?」
おいおい、背中にお胸様が当たってますよルシアさん。そんなに押し付けなくても。
「はいどうぞ」
ミカがフォークに刺したキムチを差し出して来る。って言うか多いからそれ! 白菜の葉っぱ一枚分はあるよな! 口に入らないって!
その時横から、
「おにい、ルシアちゃん凄いよね」
「はあ? 何が?」
「お父さんにおっぱい押し付けてるんだよアレ。リアル “当ててんのよ” だよ」
「ぶふうっ! ば、馬鹿一樹お前変な事言うなよ!」
「えひゃあっ!」
一樹に指摘されたルシアは飛び退いた。良く解らんが、自分で気付かない物なのか?
「ルシア! 何で離すの!」
「え、だ、だって・・・・・・」
とりあえずはナイスだ一樹・・・・・・。
「もういいって。顔真っ赤じゃんかよ。食べればいいんだろ? ほらミカ、それよこせ」
ミカからキムチを受け取りしゃぐしゃぐと食べる。うん、思ったよりも美味いな。辛みも丁度良い。
「うん、中々美味いな。これでいいか?」
「ダメ。もっと食べて」
はい、と皿ごと寄越して来るミカ。
「そんな食べたら腹壊すって。あとで飲みながら食べるから今はおしまいな」
「むう、解ったわ。で、カズキ? 凄いのって?」
「キムチの凄いの?」
「違うわよ。何か凄いのと闘ったんでしょ?」
「ああ、そっち? うん、凄いのいたよ」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「だからそれは何!?」
「えー、解んないよ。ゾンビっぽかったけど動きは早いし跳ねるし壁は登るし。遠くから叫びながら走って来るんだよ。でもさ、引っ掻く攻撃と噛み付きしかして来ないんじゃ避けるのも簡単だったね」
「・・・・・・壁とか走って来た?」
「うん、四つん這いで走ってたけどジルに蹴落とされてた」
「あー、ちょっと待て。それって・・・・・・」
「サイガ。あなたの考えている事は当たっているわ」
「ミカ、あれか? インフェクテッドって奴か?」
「ええ、恐らくそうね。それ以外に壁を走るようなゾンビはいない筈よ」
「ふむ。そこまで闘えるなら対人はダメじゃが、対魔物では戦力に入れても良さそうじゃの」
「そうだな。カズキとジルでSランクパーティ並の戦力があるって事だからな」
「カズキ、どうやって倒したの?」
「ん? 突っ込んできた所を避けざまに、頭にフレイムを刺してボーンって焼いたの。凄いって言ったけど、動きが速いだけで大した事無かったよ。他のゾンビと比べて凄いって事ね。あいつそんなに強い奴なの?」
「そうだな、俺達レベルだと大したことは無いが、ランクが下の冒険者達には中々きつい相手だな。闘うなら損害覚悟でやるレベルだ」
「うむ、ザックの言う通りじゃ。そんなインフェクテッドを二人で倒せるとなれば、カズキとジルはSランクの末席に入っておるかもしれんぞ?」
「へー、それって凄いの?」
「ええ、その歳でSランクなら中々凄いわよ」
「獣人にモテる?」
「そうじゃな・・・・・・獣人を対象として、1が最低で10が最高だとすると、今のカズキは6位かの」
「そうね。それ位が妥当ね」
「えー、それでも6なの?」
「カズキ。あなたは魔物に対しては強いけど、人に対してはダメでしょう? それが理由よ」
「ミカの言う通りじゃ。盗賊などが現れたらどうじゃ? 殺せるか? 魔物は殺せるけど人は殺せませんじゃ通らんじゃろ?」
「えー、でもなぁ。わざわざ殺さなくても、人を相手にする時は無力化すればいいんじゃない?」
「まあそれも有りだけどな。しかしそれを実行に移すには相当な実力が必要になるぞ? それこそ勇者並みの力を手に入れないとな」
「まあいいよ。一樹もそんなに急ぐ必要ないだろう? 俺達は人を傷つけるなって教えられて来たんだ。早々変えられないと思うぞ? 俺だってやっとゾンビの頭を潰せるようになったんだし」
「それもそうね。カズキはまだまだこれからよ。もっと強くなってそれが出来る位の実力を身に付ければいいのよ」
「うん、解った」
「ジルもだぞ」
「わふっ」
「じゃあ飯にするか。明日はまた一日ヨットだろうからな」
「あ、そうだ。タカオ、カズマとカズキも。これを渡しておくわ」
ミカが出した物は、ヨットの上で色々と付与していた指輪などだ。
「カズマとカズキはこっちの指輪よ。攻撃力、防御力、敏捷性のアップと一回だけの即死回避。それと翻訳魔法の付与をしてあるわ。サイズは自動調整だから大丈夫だと思うけど」
な、不思議だよな。金属の指輪の自動調整って。何でそんな事が出来るんだ?
「魔導具はそんな物よ」
だから心を読むなって。
「これって動物とも話せるの?」
「動物は無理よ。あくまでも他言語が翻訳されて聞こえるだけだから。二人共ちょっと指輪を外してごらんなさい」
「うん」
「私も外してみるわね」
そう言ってミカは魔導具の指輪を外した。
「カズマ、カズキ、エストラニウトフラバダム?」
ミカは指輪をはめ直し、一馬と一樹に指輪を付けるように促す。・・・・・・なんでルシアは顔を赤くしてるんだ?
「今何て言ったか解った?」
「全然解んない。名前しか解らなかった」
「うん、そうだな」
「ね、こうやって言葉だけ翻訳されるのよ」
「ふーん。凄いねこれ。どの言葉でも平気なんでしょ」
「ええ、そうよ」
「で、今は何て言ったんだ? ルシアの顔が赤いから何となくは想像できるが」
「カズマ、カズキ、弟と妹どっちが欲しい? って聞いたのよ」
「「・・・・・・」」
「・・・・・・よし! 夕飯食べて明日に備えよう!」
「そうじゃな。ゆっくり飲んで英気を養うとするかの」
ミカの発言はスルーして、食事を始める事にした。




