8-5
ミカが見つけたヨットハーバーに到着した。しかし、
「帆を張ってはいないけど帆船でしょ?」
「そうだよな。停泊中は帆を畳んであるよな」
「何か不味かった?」
「いや、俺は帆なんか張った事無いから出来るかなーってさ」
「誰か知ってるかしら? ねえ、帆の張り方知ってる?」
「あ、俺知ってるぜ」
声を上げたのはサイガだった。
「本当なの? 何故知ってるの?」
「ほれ、俺は一人であっちこっち行くだろ? だから操船技術も必要だったんだよな」
「何じゃ、お主は一人で海に出ておったのか?」
「いや、一人じゃねぇって。俺だってパーティ組むぐらいするぜ?」
「へー、サイガのパーティなんて初耳だな」
「ああ。昨日話したゴアタイガー狩も、パーティメンバーからのヘルプで行ったんだよ」
「エルフの隠れ里の依頼って言ってたよな?」
ザックが一馬を見ながら言う。お前止めろよ、刺激すんなよ。
一馬の目がギラリと光る。
「おう、そこの里出身のエルフでな。名前はセイラだ」
一馬よ・・・・・・どれだけエルフが好きなのかは父さん解らないが、そんな目つきで行ったらエルフの皆
さんは逃げると思うぞ?
「ま、まあいい。サイガが出来るなら有り難い。早速やって貰おう」
「そうね。ザックも余計な言い方をするのを止めなさい」
「良いじゃねぇかなぁ? 情報は大切だよな、カズマ?」
「ええ、その通りですザックさん」
「あっそ。じゃあ船の準備はサイガに任せて、俺達は必要な荷物だけ積もう」
「まあ何処の世界も帆船なんて一緒だろ? こっちは任せて貰っていいぞ」
「ああ、頼むよ」
サイガは言うだけ有り、あれよあれよと言うまに出航準備を終えてしまった。
「じゃあこのまま出航でいいか? 忘れ物はないか?」
皆口々に大丈夫だと返して来る。
聞けばサイガは操船も出来る様だ。それなら推進力はミカ、操船はサイガに任せよう。
「じゃあミカ、サイガ、まずはこの湾から出てくれ」
「解ったわ」
「おう」
二人はうまい具合にヨットを進め、湾から出るのにそう時間は掛からなかった。
「よし、次はあそこに見える島を目指してくれ。その向こうにもう一つ島があって、更に向こうにある大陸が目的地なんだ。今はこの辺で、こう大回りをしてこの辺を目指すんだ」
地図を広げて大まかな目的地の説明をする。
「ん? じゃあ真っ直ぐこっちの大きい島に向かっても良いんだろ?」
「ああ、方角が解るなら直接向かっても構わない」
「あの島を左に見ながら行けば大丈夫だろ?」
「そうね、いざとなったらルシアに飛んで貰えばいいわ」
「後は任せて、タカオ達は休んでいて良いぞ。俺は操船しながら炎帝と親睦を深めておくからよ」
「・・・・・・そうね。親睦を深める良い機会だわ」
「こんな狭い所で喧嘩しないでくれよ?」
「俺はそんなつもりは無いから安心しろよ」
「私も無いわ」
「そうか? じゃあ向こうに行ってるな」
全員適当に座って何やら話している。ジルは海が初めてだからか? 船首に立っている。そうだ、ちょっと早いけどアルマの所に行ってくるか。上陸後は韓国を移動する事になるからな。忙しくなりそうだから今のうちに行っておこう。
船尾に座って、意識が無くなっても倒れない体勢を取り、
「ミカ」
右手の指輪を指し示す。ミカは無言でコクリと頷き、サイガとの会話を再開する。
よし・・・・・・。『アルマ、聞こえるか? ちょっと早いけどいいか?』 目を瞑りそう念じてみる。・・・・・・ヨットが波を切る音が消えた。目を開けてみると、そこはアルマの白い部屋だった。白いテーブルセットに白を基調としたドレスを着たアルマが座っている。
「いらっしゃい」
「ああ、久しぶり。数日早かったけど良かったか?」
「ええ、早い分には何の問題も無いわ。私が嬉しいだけよ」
「そうか。何で今日はドレスなんか着てるんだ?」
「なんかって事は無いでしょう。タカオの為に着たのに。こういうのは嫌い?」
「まあどっちかと言えば好きだな。似合ってるよ」
「でしょう? 何か飲む?」
「何かって何があるんだ?」
「あなたの世界の飲み物から、異世界の飲み物まで何でもあるわよ? 古龍の血とかどう? 不老不死を得られるわよ?」
「いや、そんなの要らないって。普通のアイスコーヒーとかは出せるのか?」
「ええ、あるわよ。砂糖とミルクは?」
「大丈夫だ、ブラック派なんでな」
「解ったわ。はいどうぞ」
テーブルにはいつの間にかアイスコーヒーが置かれている。
「毎回思うが、何も無い所からどうやって出しているんだ?」
「乙女の秘密よ」
「乙女って歳なのか?」
「身体は乙女なの」
「・・・・・・普通心は乙女って言わないか?」
「冗談よ・・・・・・で? 旅は順調なの?」
「順調と言えば順調なのか?」
「何故疑問形なの?」
「んー何て言えば良いのか・・・・・・事故や怪我が無いから、問題無く順調に旅は出来ているんだろうけどな」
「悩み事でもあるの?」
「悩みって言うか・・・・・・んー何だろうな」
「不安なのね?」
「不安。不安か。そうかもな」
「最大の不安は、離れた場所で囚われている家族の安否。次が自分と息子達の変化について。そんな所かしら?」
「アルマ、西って何処なんだ? 遥達は何処にいるんだ? それだけでも教えてくれないか?」
「そうね・・・・・・じゃあヒントをあげるわ。今タカオ達が向かっている大陸には、眷属が四組いるの。
その内の一人が、タカオが求める答えを持っているわ」
「また回りくどい事を・・・・・・ヒントでも何でもないぞ。しかも四人じゃ無くて四組とか・・・・・・」
「どの道真っ直ぐ西へ向かえば、その四組とは当たるわよ? 順番に撃破して行けばいいじゃない」
「俺にそんな力がある訳ないだろう?」
「忘れた? あなたは既に半神なのよ? ちょっとやそっとでは死なないわよ。それに仲間に手伝ってもらえばいいでしょ?」
「だからその半神とやらの力は何時目覚めるんだ?」
「目覚めてるわよ? タカオが気付いていないだけよ」
「どうやって気付くんだ?」
「さあ?」
「さあって・・・・・・」
「人それぞれなのよ。希望で覚醒する時もあれば、逆の絶望で覚醒す時もある。怒りや悲しみの時もあるし、喜びの時もあるの」
「何処かで聞いた事があるな」
「そうね。きっかけ自体はあなた達がマナ中毒って言っている物と同じね。まあどちらにしろ激しい感情のブレが必要なのよ。どうする? 私の拷問でも受けてみる? 念入りにやるわよ?」
「何言ってんだ、遠慮するに決まってるだろ」
「そう? たまにいるわよ? 早く力が欲しいから、無理にでも引き出してくれって言う人。えーっと、今回は三人が該当するわ。ほら、タカオの前にカーレッドって現れたでしょう? 彼はそう言うタイプだったわ」
「ああ、そうだ。そのカーレッドが言ってたんだ。俺が眷属になったりしたことは、他の眷属に知らせているのか? 凄い剣幕で文句を言われたぞ」
「あら、何て言ってたの?」
「自分が加護を貰えてないのに、俺がアルマから加護を貰った事が気に入らないみたいだったな」
「ふふ、そんな事仕方が無いのにね。加護なんてそんなポンポン与える物でも無いのに。バカな子ね。与えるには与えるだけの理由があるって言うのに。で、どうしたの?」
「殺すと時間が戻るって事が解ったから、生きたまま封印してある」
「それもあのミカって娘が?」
「そうだ」
「やっぱり凄いわね、あの娘は」
「アルマから見ても凄いのか?」
「ええ、そうね。私の眷属を生きたまま封印出来るなんて。あれ程の娘は中々いないわね。本当に人間かしら?」
「ふーん。・・・・・・なあ、アルマ」
「なぁに?」
「もう少し情報をくれないか? ただ漠然と西って言われただけじゃあ・・・・・・せめて国の名前だけでも」
「・・・・・・タカオ・・・・・・」
アルマの雰囲気が変わった。空気が重くなる。
「私はあなたを眷属にした上に加護を与えた。更に神器であるその指輪も与えたわ。それなのにまだ望むの?」
プ、プレッシャーが凄い。ミカの殺気とはまた違うが、これも動けない、動くことが出来ない。
「そ、それは俺が望んだ事じゃないだろ?」
「・・・・・・・・・・・・それもそうね」
俺を押し包んでいた重圧が消えた。
「じゃあ一つだけあなたの質問に答えてあげるわ。いい? 一つだけよ? よく考えなさい」
「考えるまでも無い。遥と佐々木さんの居場所だ」
「即答なの? もう少し考えたら?」
「必要ない。二人の居場所だ」
「そう、解ったわ。えーっと、タカオの世界の地図は、と。これね」
アルマが宙で手を左右に振ると、地球の世界地図が現れた。
「この辺ね。奴隷王ガジンの城郭都市に囚われているわ」
アルマが指し示した場所は・・・・・・インドの左上、パキスタンかアフガニスタンの辺りだった。
「・・・・・・マジか・・・・・・後何日掛かるんだ・・・・・・」
しかも奴隷王ガジンってルシアが言ってたな。
「さあ? こっちの世界の生き物も魔物化しているし、向こうの世界の魔物もかなりの数が流れ込んでるからねー。結構時間が掛かるかもよ?」
「やっぱり海を渡ったらまずは移動手段を探さないとな・・・・・・」
「そろそろ戻る? 話し合いが必要でしょ?」
「その前にもう一ついいか?」
「重要な事は教えないわよ」
「違う、と思うが、駄目なら答えなくてもいい。アルマは俺達の旅を手伝う気はあるのか?」
「無いわ」
「即答かよ」
「あなたに加護を与えた時点で十分すぎる程手伝っているわ。これ以上は望まれても何も出せないわ。せいぜいがヒントをあげる位ね」
「そうか、解った。すまんな、ありがとう」
「ええ、じゃあまた一週間後ね」
「ああ、忘れないようにする」
「よろしい。ではタカオよ神託を与える」
アルマは急に真顔になり威厳を感じる程のオーラを出し始めた。
「タカオよ。この先の旅路では腐蝕と勇者に気を付けなさい・・・・さい・・・・・・さい」
気が遠くなるような感じがした後、ヨットが波を切る音と、顔に風が当たる事で意識が戻って来る。
・・・・・・ミカとサイガは、まだ何かしらを話している。険悪な感じはしないから大丈夫だろう。
「ミカ、話は終わったか?」
「何言ってるの? まだ一分も・・・・・・ああ、お帰りなさい。今回も何か情報を持って来た?」
「ああ。だからその話をしたいんだが」
「解ったわ。みんなを呼んでくる?」
「いや、俺が行くからいい」
俺は船首にいる全員を呼び寄せた。
「今からアルマから得た情報を元に、今後の方針を決めたいと思う」
「あー、タカオ。ちょっといいか? アルマって誰だ? 情報って何処から持って来たんだ?」
「ん? ああ、そうか。サイガは知らないんだよな。じゃあそこから始めるか」
サイガに今迄の事を説明した。と言っても、昨晩にルード達が話していた様なので、俺が説明したのはアルマの話だ。ただ眷属の話と、俺の半神化の話をした時に、確実にサイガの目つきが変わった。・・・・・・
おい、俺を狙うなよ? 眷属と好きなだけやってくれ。
「という事で、この先には眷属が四組いるらしい」
「それと、腐蝕と勇者に気を付けろじゃと? どういう事じゃ?」
「勇者って私の事? 私が何かするの?」
「解らない。勇者と言っただけだしな。ルシアだとは一言も言って無い。眷属に勇者がいるのかもな。それともう一つ。ルシアだったよな、奴隷王ガジンの話をしたのって」
「そうだね。隷属の爪の話をしたね。ガジンが何? 爪が欲しいの?」
「遥と佐々木さんは、奴隷王ガジンの城郭都市にいるらしい」
「ガジンの城郭都市? 何で? 私ガジンの首を取ったよ? あいつの奴隷都市は壊滅に追い込んだはずだけど」
「うむ、儂もその時一緒におったから確かじゃぞ?」
「いや、俺もそう言われただけだしな。詳細は解らない」
「ガジンもこっちに来てるのか? 昔はよく世話になったぞ」
「何じゃ? サイガはガジンと知り合いなのか」
「直接の知り合いでは無いな。ほら、ガジンの所には闘技場があっただろ? そこによく行ってたんだ」
「ああ成程。サイガらしいな」
「でもそうだな。確かにガジンは勇者に討ち取られたな。その後はガジンの奴隷都市は衰退して行き、行き場のない者達が集まるスラム都市になった筈だ」
「そうじゃな。サイガの言う通りじゃ」
「じゃあ眷属のガジンは別人って言う可能性もあるな」
「名前を語っているとかは無いかな?」
「どうかしら? 本人を見ない事には何とも言えないわね」
「まあミカ達に解らない事が俺に解る訳無いしな。じゃあ上陸後は二手に分かれて移動手段を探す事から始めるって事でいいか?」
「ええ、それでいいわ」
と言っても、またトラックなんだけどな。・・・・・・やっぱり飛んで行く事も視野に入れなければ駄目かな




