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A fused world / 融合した世界  作者: あにゃこ
1-8  人斬りサイガ
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8-4

 翌朝


「何だ、結局朝になってもヴェノムトードは来なかったな。あそこにいたのが全部で、カズキとジルで倒しちまったんだな」


「そうじゃの。今回は随分と楽をさせて貰ったの」


「マジか・・・・・・俺の昨晩の苦労は何だったんだ・・・・・・どの道俺は雷魔法は使えないから一緒か。なあ、ルード、ザック。あいつらは何なんだ?」


「昨日も言ったであろう、この世界の住人で才能の塊じゃ。マナ中毒を解消して、まだ一週間経っておらんぞ」


「そうか・・・・・・色々と教えてやってるのか?」


「そうじゃな。少しずつではあるがの」


「サイガも何か教えてやったらどうだ?」


「・・・・・・そうだな。面白そうだしな」


「殺しは無しじゃぞ?」


「解ってんよ。流石の俺でも炎帝に勇者、ルードとザックを相手にして生き残れるとは思わねえよ」


「それならこっちから頼みたいくらいじゃな。お主に鍛えて貰えばカズキは更に伸びるじゃろう。どうじゃ? まだ時間も早いから今からやるか?」


「そうだな。色々と見てみたいしな。それともう一つ。あいつは人を斬った事はあるのか?」


「俺達も知り合って一週間程度だが、全く無いだろうな。でもゴブリン達は平気で斬り倒していたぞ」


「そうか・・・・・・」


「よし、ではやるとするかの。タカオ! ちょっといいか!」





 サイガが一樹に手ほどきをしてくれると言うので、俺達は開けた場所に移動した。


「サイガ、致命傷と即死技は禁止だ。それ以外なら何でも有だ。傷はミカが治すから気にしなくていいぞ」


「俺の傷も治してくれるのか?」


「あーっと・・・・・・どうなんだ? ミカ」


「カズキとジルに色々見せてくれるんでしょ? その対価にあなたが傷を負ったら治すわよ」


「そうか。そういう事なら今後の保険も兼ねて、色々見せてやるとするか」


 サイガは装甲付きの忍者装束に、さっきまでは着けていなかった、ゴーグル付きの頭巾の様な物を着けている。そして背中には二本の刀を背負っている。


「カズキ! サイガはルード並に強いからな! 手抜きすると一瞬でやられるぞ!」


「そうなんだ、解った!」


 一樹は腰に二本の短剣をぶら下げているのと、ルシアから貰ったらしい投げナイフのベルトを右太ももに装着している。勿論ナイフも差し込まれている。


「じゃあいいかー、始め!」


 例の如く、開始の合図で一樹は消えて、剣が弾かれる音と共にサイガの足元に現れる。サイガは刀を一振り抜いて防いでいる・・・・・・毎回見えないんだよな・・・・・・本当に俺にもマナが入ってるのか?


「ん?、その二振りは属性持ちの魔剣か。炎と、そっちは氷か? 良い物をもっているな」


「ルシアちゃんに貰ったんだ」


「ほう、勇者がくれたとなると相当の業物だろうな」


 一樹はサイガから離れる。


「なあ一馬、今の見えたか?」


「そうだね、前よりは見えるかも。今は目で追えるしね。俺もそろそろ中毒になるのかもね」


 中毒になるとか軽く言うなよ。しかし一馬も見えてるのか。


 距離を取った一樹は短剣を二本とも抜き、構えながらブツブツと呟いている。ん? 短剣が薄っすら光ってないか?


「昨日もだけど、あの子本当にマナの収束が出来る様になったのね」


「そうだね。“ダ” の死体を焼いた時に初めて教えたから、一週間経ってないよね。凄いね、一人であそこまで出来る様になるなんて。あれじゃあ魔剣の力を引き出せるんじゃない?」


「アレが出来ると何なんだ?」


「身体に纏わせれば身体能力の向上、武器に纏わせれば攻撃力、防具は防御力の上昇ね。魔導具に纏わせれば、それが持つ力を引き出せるんだよ」


「まだ収束も甘いし溜めも遅いけど、一週間でアレは確かに凄いわ」


「ふーん、道中一馬の横でずっとやってたらしいからな」


 サイガは先ほど防御の為に抜いた刀を鞘に戻している。良く解らんが、一々鞘に戻す必要があるのか?


 再び一樹が動く。左右にステップを踏みながらサイガに近づき、連撃を加える。


 しかしサイガは一歩も動かずに、あらゆる方向からの一樹の斬撃を難なく防いでいる。攻撃が通らない一樹は再び距離を取った。


「成程な、大体解った。カズキと言ったな。お前に色々見せるとルード達と約束しているのでな、こっちからも攻めさせてもらうぞ」


 サイガはそう言って一本のナイフを懐から取り出した。


「なるべくなら自分の術を見せたくは無いんだがな・・・・・・」


 そう言いながらサイガは取り出したナイフを投げた。


 ん? 俺でも解るぞ? 今投げたナイフって一樹を狙って無いよな? サイガが投げたナイフは、一樹の足元に刺さった。


「何やってんだあいつ? 外したのか?」


 ミカは真剣な顔で見ている。ルシアにルード、ザックもだ。


「タカオ、サイガは良く解らない術を使うの。だからサイガの手の内が少しでも解ればって、皆真剣なのよ。はっきり言って、いつ敵に回るか解らないし。」


 ルシアが前を向いたまま小声で言って来る。成程な、神出鬼没みたいな事言ってたもんな。


 サイガが歩いて一樹に近づく。・・・・・・何やってんだ一樹は? 一歩も動かずに構えたまま、サイガの接近を許している。サイガは一樹の目の前に立ち、背中の刀を抜き一樹の首に当てる。


「ほら、これでお前は死んだぞ? 何で動けないのか解らないか? 何となくは解ってるんじゃないのか?ふふふ、ほら、もう一度だ」


 地面に刺さったナイフを抜き、元の位置まで戻るサイガ。


「なあミカ、今のは何だったんだ?」


「解らないわ。一説によると、サイガは影を操るって言われているの。実際サイガと一対一で立ち会って、生き残った者はいないから本当かどうかは定かじゃないんだけどね」


「多数との闘いの時は技を見せないのか?」


「そうなのよ。技? 術? を使うのは一対一で、他人の目が無い時だけなの。だから今回はかなり珍しいわね。私達が見ている前で自分の技を見せるんだから」


「ふーん、影をあやつるねぇ・・・・・・」


 サイガが投げたナイフ・・・・・・地面に投げたナイフ・・・・・・影を操るスタイル・・・・・・って!


「影縫いか!?」


 ジロリとサイガが俺を見る。


「タカオ・・・・・・お前俺の技を知っているのか?」


「知っているか知らないかで言えば、知っている。が、聞いた事がある程度だ。実際初めて見たしな」


「そうか。まだ言うなよ? 一応戦闘中だからな」


「一樹だって何となくは知ってると思うぞ」


「そうなのか?」


 言いながら再び地面に向かってナイフを投げるサイガ。やはり一樹も気付いたようで、大きく飛び退く。


「なんだ、本当に知ってるんだな」


「・・・・・・」


 黙っている一樹にサイガが言う


「どした? もう終わりか?」




 一樹視点


 今のは影縫いだよね。忍者っぽい格好だからまさかとは思ったけど。どうやるんだろう? アレもマナの使い方次第なのかな? 投げナイフにマナを込めて・・・・・・それからどうすればいいんだ? 


 ルシアちゃんはイメージだって言ってた。イメージ、イメージ。・・・・・・刺さったと同時にマナが広がって、周りの物を固定する。くっ付ける。固定、固定固定固定、接着剤、瞬間接着剤・・・・・・。右手の親指と人差し指を付けたり離したりして、マナをこねる。 


 ・・・・・・あ・・・・・・これだ。指がくっ付いた。・・・・・・指が離れない・・・・・・離れろ離れろ離れろ・・・・・・うん、指が離れた。これをナイフに込めて――足元に投げる!


 狙い通りにサイガのおっちゃんの足元に刺さった。よしっ! これで左足は動かせない筈! 一息に間合いを詰めて、右のフェイントから左足を狙う!




 サイガ視点


 ・・・・・・動き自体はまあまあだが、攻撃が正直すぎるな。中毒を解消してから一週間位ではあんなものか? ふふふ、しかしカズキと言ったな。若い頃の俺みたいな動きをしやがって。だがあれじゃあ俺は殺せない。今はまだまだ粗削りだが、色々と教え込めば強くなりそうだ・・・・・・俺を殺せるほどにな! 


 今も何かをやろうとしているんだろう? 投げナイフを取り出して何やってんだ? いいぞ? 待っていてやる。俺を驚かせてみせろ!


 む? 表情が変わったな。来るか? ・・・・・・ナイフを投げて来たが、避けるまでも無い。俺の足元に刺さるな。投げ方は堂に入っていたから、真っ直ぐ目標に飛ぶと思うんだがなぁ・・・・・・ほら、地面に刺さった。牽制のつもりかは知らんが、それがお前の狙いか? 意味が解らんぞ?


 ナイフが刺さったのを確認してから、カズキは間合いを詰めて来た。・・・・・・右からのフェイントで左の足狙いか。まあ身長差を考えたら足狙いは正解だが、狙いがバレバレだぞ? 攻撃箇所を見過ぎだ。防ぐまでも無い、避けて殴って終わりにするか。先は長いみたいだからゆっくり教え込めばいいだろう。


 カズキは俺の左足の膝を狙って炎の魔剣を振っている。如何にマナを纏った魔剣でも一歩下がれば当たらな――何だ!? 左足が動かん! 地面に――


 ガシュッ・・・・・・


「あ・・・・・・」


 ・・・・・・左足の膝から下を斬り落とされたか・・・・・・ガキだと思って油断、いや、慢心だな。


「ご、ごめんなさ――」


 ゴヅッ!


 斬り落とされた方の膝で、カズキの顔面に蹴りを入れる。加減はしたが鼻血位は出してもらわないとな。


「おいおい、足を一本斬ったくらいで俺に勝ったつもりか? 俺も随分と舐められたもんだな」


「で、でも、あし、足が」


「足ぃ? お前も俺の二つ名知ってんだろ? 人斬りだ。そんな二つ名を持ってる俺が、足の一本で降参するとでも思ってんのか? おら、立て。続きだ」


「で、でも・・・・・・」


「何だお前? 人を斬るのは初めてか?」


 カズキは鼻血を垂らしながら、無言で頷く。


「・・・・・・チッ、おいザック! 戦意喪失だ! 終わりだ!」





 戦意喪失したカズキは、炎帝と勇者が連れて行った。


 俺は斬られた足の接合に取り掛かる。やり方は秘密だ。まあ例え言ったとしても、俺にしか出来ない治療法なんだけどな。


「どうじゃった、カズキは?」


「んー身体能力があっても精神が幼過ぎるな。足一本斬った位であれじゃあな」


「まあの、それは儂等も思っておったが実際幼いからのう。それに試し斬りする様な相手もおらんし」


「そう思ったからサイガは斬られてやったのか?」


「バカな事言ってんじゃねえよ! 確かに油断していたのは認めるが、アレはマジで斬られたんだ」


「ええっ? マジか!?」


「ああ、あいつ俺の・・・・・・」


「俺の?」


「もういいか。俺が最初にカズキの足元にナイフを投げたろ? あれ何か解ったか?」


「いや、解らん」


「俺も解らなかったな」


「あれは影縛りって言ってな、対象の足元に変質させた特殊なマナを込めたナイフを投げる事によって、相手の動きを封じる術なんだよ。流石に効果範囲は狭かったが、あいつそれを真似しやがってよ」


「で、動けなかった所を斬られたのか?」


「ああ、そうだ。カズキもあそこまで上手く行くと思わなかったんだろうな。俺の足を斬った後、気が抜けた顔してやがったからな」


「ふむ、しかしサイガよ。殺し合いがルールではない限り、足を斬られたお主の負けではないのか? ん?」


「ばっ、ルードてめえ! 俺が・・・・・・まあそれもそうか。油断していたとは言え、完全にカズキの策に嵌まって、足斬られてんだもんな」


「そうじゃ。命を懸けての殺し合いなら続きもあるが、これは模擬戦じゃ。一本入った時点で終わりじゃ」


「だな。はあぁぁぁ・・・・・・人斬りと呼ばれてから初の敗北が、ガキ相手の模擬戦とは・・・・・・」


「ははは、あいつら普通じゃねえからな。どうだサイガ、ジルともやるか?」


「ザックがやられたんだろ? 足はくっ付けたが、流石に今日はもう戦闘は無理だ。また次の機会にするさ」 


「くっ付けたって自分でか?」


「ああ、そうだぜ」


「お前そんな事も出来るんだな」


「まあ歩く程度は問題無いが、付けただけだからな。出来たら炎帝に治癒魔法を掛けてもらいたいんだが」


「ああ、そうだな。ミカ! サイガの足を見てやってくれ!」




 その後、新しい仲間? のサイガを伴って、ミカが見たと言うヨットを目指して出発する。


 サイガは移動中はトラックの荷台で、ルード達と何やら話していたそうだ。


 ミカは、


「タカオ、サイガと行動を共にするのは止めた方がいいと思う」


「何でだ?」


「サイガは人斬りって言われる程、人を斬り殺しているのよ? いつ何時私達に剣を向けるか解らないわ」


「そんな事やりそうに見えなかったけどな」


「サイガと闘って負けるとは思わないけど、もし、サイガが私達の不意を突いて、本気でタカオの命を狙ったら、私でも止められる自信が無いわ」


「んー、でもなあ・・・・・・。なあ、ミカとルシアはサイガが重犯罪者になった理由を知ってるか?」


「ええ。10年位まえだったかしら。とある領主の一人息子と、騎士団副団長の息子で・・・・小隊長だったかしら? その二人を殺したからよ。一人息子を殺された領主は怒り、同じような目にあっている有権者を集め、王城に直接申し入れに行ったの。有権者には副団長も入っているわ。」


「殺した理由は?」


「理由? 二人共正々堂々と一対一の勝負をしに行ったのに、卑劣な手口でって聞いてるわ。それが何?」


「いや、俺がサイガから聞いた話と随分と違うなと思ってな」


「サイガは何て言ってたの?」


「簡単に言うと、集団で襲われたから返り討ちにしたって言ってたぞ?」


「それは無いわ。領主の息子は解らないけど、騎士団の小隊長も被害者なのよ?」


「父親が副団長の小隊長?」


「ええ、そうよ。」


「サイガ言うにはその小隊長は、新しく手に入れた剣の試し斬りって理由でサイガを狙って来たらしいぞ?」


「サイガがそう言ったの?」


「ああ、最初は一対一って言っていたらしいけどな。で、腕を一本斬り落としたら小隊全員をけしかけて来たらしい。いう事やる事無茶苦茶だったらしいぞ、その小隊長は」


「あー、でもあの小隊長、名前なんて言ったっけ?」


「ライアン・ミルズよ」


「そう、そのミルズ小隊長って良い噂無かったよね。親の七光りで小隊長の座に収まってさ、小隊の団員達もコネで騎士団に入った奴ばかりだから、実力が無いくせに口ばかり達者でさ。不祥事ばかり起こしてたじゃん。私だって何回も声かけられたよ? 私その時13か14歳だよ? 凄い怖かったんだから」


「そう言えばそうね。宮廷魔導士筆頭の私にも、『自分の妻になれば将来は安泰だぞ』 とか抜かしてたわね。思いっきり無視してやったけど」


「何だ? 成人前だろ? 国を守る騎士団なのにそんなのがまかり通るのか?」


「親が三人いる副団長の一人だからねー。もみ消しや報告書の改ざんもやりたい放題だったんじゃない?」


「・・・・・・思い出したわ。領主の一人息子もろくでなしだったわ」


「そうなんだ。当時は依頼だったから特に気にしなかったけど、今思うと色々とおかしいね」


「ふーん。じゃあ案外サイガの方が被害者で、言ってる事も正しいんじゃないのか?」


「組織が大きければ腐った部分も出来るしね」


「ああ、それもそうだな。こっちでも汚職だ不祥事だってしょっちゅう叩かれてるからな。・・・・・・で、どうするんだ?」


「どうするとは?」


「まだサイガを疑うのか?」


「・・・・・・まあ私達が直接何かされた訳じゃ無いし。一度サイガと話すわ」


「ああ、そうしてくれ。それでも無理なら・・・・・・まあ仕方がないな」





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