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A fused world / 融合した世界  作者: あにゃこ
1-1  事の始まり
5/75

1-5

 PM18:00


 遥がまだ帰って来ない。残業か? それとも地震の片づけでもしているのか? 連絡の取り様がないので解らない。何も無ければいいが。


 腹減った・・・・あいつら何探してんだよ? 何時まで掛かってんだ? 足を引きずりながら工場に向かう。


 相変わらず向こうの空が紫の光に照らされている。電力の復旧した明かりじゃないのか? 一人が工場の前で踊りながら棒を振り回している。・・・どっちだ? 一樹か。剣道部だから棒を振り回すのはいいとしても、そんな踊りみたいな型は無いだろう?


「どした? 踊ってないで腹減ったから早く持って来てくれよ。一馬は? どこ行った?」


「おにいは佐々木さんち見に行った。あと踊りじゃないよつるぎの舞だって。」


 舞でも踊りでもどっちでもいいよ。


「はぁ~? 何やってんだよあいつはよ~」


 一馬が向かった佐々木さんとは彼女の様な仲らしい? ウチから歩いて5分位の近所にある。ウチは(佐々木家もそうだが)学区の端の方なので小学校、中学校と別だったらしいが高校で一緒になり、部活も同じ弓道部だ。毎朝同じバスで通学して、帰りもバスで一緒になっている内に仲良くなったそうだ。以前「付き合ってるのか?」と聞いたら「ん~まだ」と言っていた。「そうか、“まだ”なのか」とその時は終わらしたが。らしい? と言ったのはそういう事だ。


 棒を持ち上げ肩でトントンとやりながら一樹が


「おにいね、最近暗くなるの早いからバス停から佐々木さん家まで送ってるんだよ」


 ほう! ナイス情報だ一樹。本名 佐々木詩歩 (しほ)何回か朝の引き取り時にバス停で一馬と話しているのを見たことがあるが、佐々木さんは可愛らしい子だ。艶のある明るめのブラウンの髪、それを後ろで一纏めにしている。一昔前で言うポニーテールだ。最初は染めているのかと思ったが地毛らしい(情報元 一樹)身長は160㎝位か?175㎝の一馬と並ぶと少し小さい位だ。細身の体だが、出るところは出て引っ込む所は引っ込――


「でねー、暗いときは手を繋ぎながら帰ってるんだよ」


 なぬ? 佐々木さんのイメージを鮮明に解説しようとしている時に重要なキーワードを・・・


「でもここ最近はね、寒いから腕組んでる時が多いかな? よくぺっとりくっ付いて歩いてる。」


 ふむふむ、ぺっとりじゃなくてぴったりじゃないのかね? 一樹君。


「なんだよぺっとりって? べったりとかぴったりじゃないのかよ?」


「えーだってさー、佐々木さん腕組むって言うより腕にしがみ付く? 巻き取る? 頭だっておにいの腕にくっ付けてるし」


 ・・・・そうかぺっとりか。ぴったり? んー、ぺっとりか? それよりも何故君はそんなに詳しいのだね?


「あとねー、これは内緒だけど絶対おにいに言っちゃだめだよ? この前見ちゃったんだー」


 何をだね? 一樹君。何故そんなにニコニコしているのだね? 絶対言うなとわざわざ念を押すって事は前振りだね? 押すなよ! 絶対押すなよ!! 的なアレだね?


「佐々木さんちの近くになったらね、お互い顔を見合わせたとおもったら、電柱の陰に隠れてねー」


「ちょっと待て一樹! なんでお前がそこまで知ってる! 一馬が話す訳無いよな?」


「え? だっていつも部活帰りに尾行してるんだもん。大体帰り時間一緒だし。でねー、電柱の陰でちゅーしてたんだよ! で、ここからが面白いからさー、佐々木さんちから見えないように電柱に隠れるから、こっちから丸見えなんだよ? 全然隠れきれてないの。バカだよね? しかも俺の尾行に全く気付いてないみたいだし。笑い堪えるのが大変だったよ」


 ・・・・一樹、お前何やってんだよ。なんで実の兄を尾行してんだよ。だから最近帰りが遅かったのか。友達と寄り道でもしながら帰っているのだとばかり思っていたが・・・・。


「ストーカーかよお前は・・・・何やってんだよ」


「ストーカーじゃないよ! おにいをストーキングして何が楽しいのよ? 気持ち悪い。尾行とか追跡行為と言って欲しいな。俺将来CIAのエージェントになるからスキルアップの為の訓練」


 ・・・・・・アホだこいつ・・・・流石現役の中学二年・・・・尾行とかは俺もやったことあるからまだいいとしても、なんで色々すっ飛ばしていきなりCIAなんだよ。


「もしかして剣道部に入ったのも・・・・」


「そう、エージェントはあらゆる状況に対応する為、素手でも戦えるようにね。今は体力作りも兼ねて剣術を習ってる。」


 竹刀持って素手も何もないのでは? それに剣術じゃなくて剣道だろ? あれ? 剣道も剣術になるのか? よく解らん。流石現役の中二、色々と破綻している。


「おにい達ラブラブしてるから5m位まで近づいても解らないんだよ。話とか丸聞こえ」


 一馬がマヌケなのか一樹が凄いのか・・・・


「・・・・お前一馬も含めて絶対他人に言うなよ? 殴られるぞ、確実に」


「言う訳ないじゃん。機密の漏洩はだめなんだよ?」


 機密じゃねーよ、プライベートだよ・・・・


「でさー、投げナイフの練習したいからスローイングナイフ買ってよ」


 ・・・・ホントに何言ってんだこいつは・・・


「危ないからダメ」


「危なくならない為に練習するんじゃん。ねーお願いー」


「そもそも何に投げるんだよ?」


「敵対組織とかテロリスト!」


 何処の組織だよ・・・この辺にはいねーよ・・・テロリストは、まぁ・・・


「遥に怒られるからダメ」


「なんでよ!? おとーさんクロスボウ持ってるじゃん! ずるい!」


 そう、某海外ゾンビドラマにハマった俺は何をとち狂ったか、使いもしないのにわざわざ海外からバー〇ット社のクロスボウを購入した。ケースと替えの弦3本、矢も20本買った。ついでにスリングショットと金属球200個も購入。裏山からイノシシとか鹿が来るから撃てるかなー? って思ったけど、実際はクロスボウは弓矢に分類されるみたいで法律で禁止されていて使えなかった。


 購入費は送料も入れて約30万。遥に物凄く怒られた。あいつ身長低いくせに怒ると怖いんだよ。子供の頃から身体が小さかったから、鍛える為に(いじめられない為?)隣り町の少林寺の道場に通ってたらしい。40歳になった現在も指導員だか何だかで週一で顔を出している。何処かの大会で優勝した事もあるらしい。しかし遥はその話はあまりしたがらない。道場にも来させない。結婚後すぐ、機嫌が良い時に何でか聞いてみたら


「自分より強い女とか嫌でしょ?」


 だってさ。どんなコンプレックスだよ。


「なんだよそれ、別に嫌じゃねーよ。好きで結婚したんだし。嫌だったら結婚なんかしねーよ。それに俺より強い女なんかいっぱいいるよ」


 そう言って抱き寄せようとしたらプイッと行ってしまった。おいおい、にやけてるのが丸解りだぞ? 老執事やコンシェルジュっぽく低い声で


「お嬢さん、口元が緩んでますよ?」


 そう言ったら振り向きざまにローキックが飛んで来た・・・いや、マジで痛ぇから・・・ 照れ隠しで旦那の膝にローキック入れるなよ・・・・こっちは格闘経験なんか無いんだぞ。


 ってな感じで肉体言語で訴えて来るから怖いんだよな。


 話が逸れたな。隠している物は他にも色々あるが、一樹は知らない様なので黙っていよ――


「ナイフとか他にも色々いっぱい隠してるの知ってるんだからね!」


 ・・・・流石エージェント、既に発見されていたか。つーかいっぱい持ってねーし、それに自分の家を家探しするなよ。


「いいじゃんかよ、自分の金で買ってんだからよー。俺はああいうの見てると幸せなんだよ! 持ってるだけで満足なんだよ! そもそもエージェント、CIA入るなら英語の勉強しろよ! 英語の成績ダメダメだろうが」


「だいじょーぶ、習うより慣れろだから。そのうち覚えるでしょ?」


 何だこいつは? 誰に似たんだ? 俺か? 俺なのか?


 そんな話をしている内に一馬が戻ってきたようだ。ライトの明かりが近づいてくる。おい一樹、ニヤニヤすんな。ばれるぞ?


「おー、一馬どうだった? 佐々木さんち大丈夫だったか?」


「一樹! おめー黙ってろって言っただろ?」


「何で隠すんだよ? 仲良いのはもう知ってるんだから別にいいだろ? で、いたのか?」


「・・・・いや、いなかった・・・・」


 いや、“ちゅー”するくらいだから心配なのは解るがそんなにショックなのかよ。そんなに“ちゅー”したかったのかよ。


「ほら、俺みたいに今日まで休みの人もいるから、何処かに夕飯でも食べに行ってんじゃねーの?」


「そうだといいけど・・・・」


「なによ? 家でも壊れてたか?」


「いや、家は平気そうだったけど車があったんだよね。詩歩んち車一台だから」


 詩歩・・・詩歩ね。呼び捨てする仲なのね? まぁ“ちゅー”してるしね。おとーさん悔しくなんかないからね。何かもやもやするけど親離れして寂しいわけじゃないからね。


「じゃあさっきの地震で避難でもしたんじゃないのか? 佐々木さんちとは地区が違うから、こっちは避難警報出なくても向こうは出てたかもしれないし」


「かなー?」


「明るくなれば何か解るだろ? 寒いから家入ろうぜ」


 戻ろうとする俺に一樹がボソッと


「ナイフ」


「・・・・わかった、電気が点いたらまた話そう。暗いし寒いし腹減ったから、今は嫌だよ」


 ガランガラン・・・・


 そう言うと、持っていた棒を投げ捨て、不満そうに走って行った。ん? ちょっと待て一樹。今何振ってた? 闇の中一樹が捨てたであろう棒を照らす。・・・・・・そこには六角鉄棒が落ちていた。これも使いもしないのに購入した。今は仕事で梃子代わりに使っている。


「あいつ、片手でこれ振り回してたのか? 3㎏はあるものを片手で?」


 いやいや、ありえないから。あいつ中二だし。他の物を投げて、それが六角鉄棒に当たったんだろう。

 一馬を見るとまだ佐々木さんちの方を見ていた。


「いつまでも見ててもしょうがねーぞ?」


「・・・・んー解った・・・・」


 そう言いながら家に向かう一馬の後ろの空は紫だった。



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