8-2
九州は福岡県。大きい海浜公園に到着した俺達は、
「じゃあまだ明るいから、船探そうぜ。で、その後は寝床の確保をして、明日の朝海に出よう」
ミカが言うには、帆船であれば風の魔術を帆に当てる事で、推進力を得る事は可能らしい。
「そうね。今から海に出て、途中で夜になったら方角が解らないものね」
「ああ、只あそこに見える島、壱岐島って言うんだが、その向こうに対馬って言う島があるんだ。対馬の更に向こうに目的の大陸があるんだよな」
「じゃあ島を目安に行けばいいってこと?」
「そうだな」
「ならどの道明日ね。昼間なら私やルシアが飛んで、方向を確かめれば良いものね」
「なんだかんだで世話になりっぱなしだな」
「妻として当然の事よ」
「そうだよ! ちゅ、妻ちょして当然だよ」
「ああ、解ってる。ありがとう」
「では儂等は泊まる場所でも探しにいくかの」
「そうですね。船は父さん達に任せるよ」
「ああ、解った。まあそっちはロードマップがあるから直ぐに見つかるだろ?」
「そうだね・・・・・・じゃあ俺達はここに向かってみるよ。青少年の家だから宿泊施設もあるでしょ」
お互いに地図を見て確認する。
「解った、後からそこに向かうよ」
「出来たら食べられそうな物も探しておくよ」
「そうだな、頼む。この辺は観光地みたいだから、直ぐに見つかるだろ」
「でもこ、このベトベトしてるの何だろうね?」
一馬がジェルの様な物を棒きれで突いている。
「ああ、そこら中にあるよな。気持ち悪いから触るのやめとけ」
「こんなの触らないよ。じゃあ後でね」
そうして俺達は別行動になった。大体別行動の時は俺、ミカ、ルシアと、ルード、ザック、一馬、一樹で分かれる。ジルはその都度変わるが、一樹と一緒にいる事が多い。因みに今回も向こうに着いて行ってしまった。
適当にキー付きの乗用車に乗り替えて、五分程走らせマリーナを見つけるが、
「帆船なんて無いじゃない」
確かに。ここはマリーナだがボートばかりだ。マニュアルがあれば始動とかは出来るだろうが、いざと言う時の対処が出来るとは思えない。
「なあ、ミカかルシアでひとっ飛びして、その辺見てきてくれないか?」
「そうね、空から探した方が早いわね」
「だろ? ちょっと頼むよ」
「タカオの頼みを断る訳無いでしょ。じゃあルシアはそっちから回って。私はこっちから回るから。見つけたらここに戻る。それでいい?」
「うん、いいよ」
「え? 二人で行くのか?」
「その方が早いでしょ? 周りには何もいないわ。だから良い子で待ってなさいな」
「ミカ、いいの?」
「ええ、たまにはタカオも一人になりたいでしょう? だから行きましょうルシア」
「ふーん、まあいいや。じゃあ行って来るね」
そう言ってルシアは飛んで行った。
「本当にミカも行くのか?」
「・・・・・・」
「ミカ?」
「・・・・・・そうよ。私も少しここから離れて帆船を探して来るわ」
俺の返事を待つことも無く、そのまま浮いて飛んで行ってしまった。
「・・・・・・なんかミカの奴変だったな」
一人でする事も無いので、マリーナの管理所に入ってみる。置いてあるテーブルセットには飲みかけのペットボトルが数本とタバコが置いてある。
「なんだかんだでタバコも吸って無かったな・・・・・・」
一本取り出し火を着ける。
「ふぅー。全く、何でこんな事になっちまったんだか・・・・・・」
タバコを咥えながら、海を見に外に出ようと入り口に向かった時、
「よお」
「うおわっ!」
振り向くと、カウンターの後ろに全身黒ずくめの男が立っていた。
全身黒ずくめ・・・・・・例えるなら、所々に装甲を付けた忍び装束みたいな服を着て、背中に二本の刀を背負っている男が立っていた。
「な、な、何だあんた!? 最初っからいたのか? 生き残りか!?」
後ずさりながら問いかけると、
「おいおい、落ち着けって。何もしねえって」
「何もしないって、その背負ってるやつ、二本とも刀だよな!? 暴徒か何かか!? 何も持ってないぞ!」
「だから違うって。話を聞きたいだけだよ。殺すつもりならわざわざ声なんか掛けねぇって」
・・・・・・それもそうか・・・・・・いや、確かに室内に人はいなかった。何処から出て来た? それ以前に地球人なのか? イグナスの人間か? 眷属じゃ無いだろうな?
「まあこんな状況だ。警戒するのも解るぜ。・・・・・・じゃあこうしよう。俺はカタナをここに置く」
男はそう言って、背中の刀をカウンターに置く。やっぱり刀なのか。
「で、入り口から離れるし、お前に手の届く範囲には近づかない。これでどうだ?」
「あ、ああ」
「中々生きてる人間に会えなくてな、俺は本当に話を聞きたいだけだ。そうビビるな」
「な、何を聞きたいんだ?」
「そうだなまずは自己紹介でもするか? 俺はサイガ。只のサイガだ」
「あ、ああ。俺は鈴木孝雄だ。スズキが姓でタカオが名前だ」
「うん、タカオか・・・・・・」
雑賀? サイガ? サイガって何処かで聞いたな・・・・・・。
「聞きたい事は幾つかあるんだが、ここは何処だ?」
「何処って、福岡県だが」
「フクオカケン? それは何処だ? スパイン大陸にそんな国あったか?」
スパインだと!? こいつイグナス人だ! そうだ、サイガって人斬りって言われてる奴だ!
「なあ、一つ聞いていいか?」
「何だ?」
「俺に手出しはしないんだよな?」
「ああ、お前、タカオに対してそう言った興味は一切無い」
「あんた・・・・・・人斬りって言われていないか?」
少しずつ出入り口の方へ行く。
「・・・・・・ああ、言われてるな。・・・・・・何処で聞いた?」
「・・・・・・」
「あのな、最初に言っただろ? 殺すつもりならとっくに殺してるよ。俺が興味があるのは強者だけだ。タカオは強いのか?」
「・・・・・・いや、至って普通の人間だ」
「だろ? 俺は高みを目指しているだけだ。無差別に殺しまくっている訳じゃ無いぞ?」
「じゃあ何で人斬りなんて言われてるんだ?」
「俺達みたいに、武の世界で高みを目指している者同士が闘ったら殺し合いになるに決まってるだろ? それに俺だって自分が殺される覚悟を持って闘っている。俺より強い奴がいないとは限らないからな。だが中にはそう言う覚悟を持っていない奴も、少なからずいるんだ。そう言う奴に限って自分の実力が解って無くてな。向こうから突っかかって来るんだ。しかも集団でな」
「で、返り討ちにしていると」
「そりゃあそうだ。わざわざ殺されてやる義理も無いしな。酷い時なんて新しく手に入れた武器の試し斬りって理由だぜ? どっちが人斬りなんだって話だろ? 更に質の悪い事に、そう言う奴らに限って貴族だ騎士団だってな。要はメンツを気にするような輩ばかりなんだよ。そんな奴等が揃いも揃って王城や騎士団に縋りやがってよ、あれよあれよと言う間に重犯罪者だぜ。全く冗談じゃねえよ。人を殺しに来ておいて、殺されたら被害者面するんだぜ? あ、因みに試し斬りどうこうは騎士団の小隊長だったな」
「は? 騎士団って国とか民を守る集団じゃないのか?」
「普通はその筈だぜ? だがあいつは違ったな。最初こそ “騎士道精神に則り一対一で” とか抜かしてやがったけどよ、腕の一本でも斬り落としてやったら泣くわ喚くわでな。小隊の連中をけしかけるわ、親が騎士団の副団長だから、極刑に処されたくなかったら大人しく捕縛されろとか言い出してな。結局集団で俺を囲んでおいてよ、一対一もクソもねーっつーの」
「まあそれに関しては同情の余地はあるが・・・・・・でも強者には襲い掛かってるんだろ?」
「あのな、何処から俺の話を聞いたか知らないが、誤解がある様だな。俺は相手の合意を得ない限りは襲わないぞ? 毎回きっちりと相手に確認を取り、合意を得ない限り手出しした事は無いぞ?」
「そうなのか? 場所を問わず襲って来ると聞いているが? 王城の謁見の間とか?」
「場所を問わず “聞いて” いるんだ。俺とやらないか? ってな。それにだ・・・・・・タカオ・・・・・・お前ルードと知り合いか?」
ヤバい・・・・・・不味ったか・・・・・・?
「俺がそんな場所で問いかけた相手はルードだけだ。お前ルードと会った事があるのか?」
「・・・・・・」
「だから何回も言ってるだろ? タカオに武としての興味は無いって。情報が欲しいだけだ」
「わ、解った。確かにルードから聞いた」
「って事はルードもこの辺にいるのか? 何処だ? 教えてくれ!」
一瞬で間を詰めて、俺の腕を掴むサイガ。後ずさった俺は、入り口の段差に躓き後ろ向きに倒れる。
「あっ、バカ危ね――」
サイガは掴んだ腕を引っ張り、俺が倒れない様に支えようとしたが、そのまま俺達は倒れ込んだ。
「いてて・・・・・・」
「悪い、支えられると思ったんだけどな。お前見た目に寄らず、随分重いな」
「おまっ、何で俺に覆いかぶさってんだよ!」
「ああ? お前が倒れない様に支えてやろうとしたんだろうが!」
「いいから早くどけって! こんなとこ見られた「ジャリッ」ら――」
「・・・・・・何してるの?」
ミカだ! 今戻って来たのか? このタイミングで!?
「・・・・・・サイガ? 視線を感じるから罠を張ってみれば。何でサイガがこんな所に・・・・・・タカオと何をしているの?」
ヤバい、ミカが両手に火球を握っている。
「お? 炎帝ミカ・クリンゲル・サガか? お前もおっと!」
ミカの手から火球が高速で発射され、サイガの顔があった場所を通過し背後の壁をぶち抜き着弾した。
「おいちょっと待てって。俺はタカオには何もしてねーぞ!」
ミカは二発目の火球を放つが、サイガは余裕を持って躱している。
「タカオに何をしたの!!」
「だから何もしてねーって。話してただけだ! お互い転んだんだよ!」
「うるさい! どうせあなたには討伐依頼が出ている! ここで殺すわ!」
ミカが両手に魔法陣を構築する。
「・・・・・・そうか・・・・・・確認するぞ? ここで俺と殺り合うって事でいいんだな?」
うおぉ、サイガの雰囲気が変わった。 不味くないか?これ。
「ちょ、ちょっと待った! ミカ、止めろ! 本当に何もされていないから。サイガは俺が転びそうになったのを助けようとしてくれたんだ! サイガも止めてくれ! ってミカ? 何で泣いてるんだ!?」
例の如くアイスブルーの瞳からポロポロと涙を零すミカ。
「あー、ミカさん? 何故泣いてるんだ?」
「・・・・・・どうして?」
「は?」
「私達には何もしないくせに、どうしてサイガなんかと・・・・・・やっぱりタカオは男色の気が・・・・・・」
「・・・・・・ミカ、お前な、それ本気で言ってるのか?」
その時、
「ミカ!? 何で泣いてるの?」
うわ、ルシアまで戻って来た。沈静化しそうだったのに更にガソリンが。
「おお、炎帝に勇者までいるとは。それにルードもいるんだろ?」
「どうしたの? あれは、サイガ!? 何でここに? ミカ、サイガに何かされたの?」
「ルシア、タカオが・・・・・・サイガに組み敷かれてた」
「・・・・・・はあ!?」
ルシアが勇者のオーラを纏い、右手に赤く光る聖剣を持った。
「おい、炎帝に勇者よ。お前たちはとてつもない勘違いをしているぞ? まあヤルというなら相手に不足は無いがな。二対一と言うのも楽しそうだ」
ちっ、こいつ只のバトルジャンキーかよ。
「だからサイガも待ってくれ。ミカ、ルシアも止めろ! お前たちはまず話を聞け!」
「話? 話って何? サイガがタカオを組み敷いてミカを泣かせたんでしょ?」
「信じられない・・・・・・サイガの肩を持つなんて」
「・・・・・・・・・・・・ミカ、ルシア・・・・・・お前らいい加減にしろよ・・・・・・」
「「あ・・・・・・」」
俺はその後15分位、二人に説教をした。
「待たせてすまんな、サイガ」
「お、おう。面白い物見せて貰ったから大丈夫だ。炎帝と勇者が説教される所なんざ中々見れないからな」
「そうか。因みにルードと会ってもこうなるのか?」
「いや、ならないと思うけどな」
「じゃあ一緒に行くか?」
「そうだな。色々聞きたいし、暫くは行動を共にしてもいいかもな」
「解った、じゃあ行こうか」
「おう」
「「・・・・・・」」
ミカとルシアはしゅんとしている。説教って言ったって頭ごなしに言った訳じゃ無いぞ。戦闘にもなっていないのに、いきなり襲い掛かる前に話を聞けって言っただけだ。
「で、船はあったのか?」
「ええ、ちょっと戻る様だけど向こうに沢山あったわ」
・・・・・・湾の反対側か。
「ルシアは?」
「私の方には無かった」
「そうか。じゃあ明日は向こうまで戻るんだな」
「タカオ、何で船が必要なんだ?」
「ああ、俺の家族がな、海の向こうで囚われているらしいんだ」
「成程な」
俺達はサイガを伴って、一馬達の元へ戻った。




