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A fused world / 融合した世界  作者: あにゃこ
1-8  人斬りサイガ
47/75

8-1

 俺達は2台のトラックで、当面の目的地である福岡県を目指した。理由は単純で、海を渡る為に一番距離が短いであろう場所を選んだだけだ。最初は高速道路を使う事も考えたが、融合の時にかなり大きい地震が発生している事もあり、途中で崩れたりしたら不味いので下道でむかっている。


 しかし、下道は下道で放置車両が多く、思うように進めない。


「これじゃあ何時になったら福岡に着くか解らないな」


 今俺と一緒に乗っているのは、ミカとルシアだ。と言うかこの振り分けは変わらないんだろうな。


「そんなに遠いの?」


「うーん、普通に走る事が出来るなら、休み休み行っても丸1日走れば着くんだけどな。この調子じゃ何時になることやら」


「飛べたら楽なんだけどね」


「ああ、ミカとルシアは飛べるんだよな。ザックもか」


「それにジークと合流出来れば物資の心配も無くなるし」


「そうね。でもジーク達は正反対よ。タカオが西へ向かうと決めた以上、ジークは当てにできないわ」


「そうだな。一馬も佐々木さんが心配だろうし、俺も遥が心配だ。当初の二手に分かれるって選択肢が無くなったからな・・・・・・すまんな」


「いっそのこと後ろの物資は諦めて飛んでく? 私とミカで、タカオとカズマを抱いて飛ぶの。そうすれば早く目的地に着くでしょ? 物資は街とかを見つけたら、その都度調達したら良いんじゃないかな?」


「それってどの位連続で飛べるんだ?」


「私は2時間位かな? でもタカオを抱くから・・・・・・どれ位だろう? ミカは?」


「私は荷物があったとしても半日は飛べるわね。ザックも同じ位飛べる筈よ」


「その差は何だ? マナの量か?」


「そうね、マナの量に依存してるわね」


「じゃあ勇者の力を出せば、もっと飛べるんじゃないのか? すごい増えるんだろう?」


「確かに勇者の力を出せばマナの量は爆発的に増えるわ。でもその分消費量も爆発的に増えるのよ。だから時間的には余り変わらないわね。その代わりスピードが出るから、距離的には伸びるわ」


「成程ね。ルシアだけが先行しても意味が無いもんな」


「そうね。緊急時には良いんだけどね」


「どの道海を渡る時は船が必要か・・・・・・普通に飛んだらどれ位の速さなんだ?」


「そうね・・・・・・ワイバーンから逃げられる位かしら?」


「その比較対象が解らないんだが・・・・・・」


「じゃあルシア、ちょっと飛んできてくれる?」


「解った」


 言うが早いかルシアは走行中だというのに、ドアを開け外に飛び出した。


「タカオ! 今は全然ゆっくり飛んでるよ!」


 ふむ。メーター読みで時速40㎞か。


「じゃあ普通に飛んで。適当な所で引き返してきて」


「はーい」


 返事をしてルシアは飛んで行った。中々早いな、もう点になってる。


「俺を担いでもあれ位のスピードは出せるのか?」


「まあ二人分だからもうちょっと遅いかもしれないわね」


「それでも十分だな。障害物の無い空を飛べるだけでも、かなりの時間短縮になるな」


 お、ルシアが戻って来た。


「どう? 勇者の力で飛んでもらう?」


「そうだな、どれ位速いのか知っておいた方が良いかもな」


「ルシア、最後に本気で飛んでみて」


「本気で? 解った」


 ルシアが緑のオーラに包まれる。


「多分一瞬で消えるわよ」


「そんななのか?」


 ゴウッ!! と言う音と共に、ルシアは消えた。・・・・・・近くで見てるからか? 目で追えないとは・・・・・・新幹線より早いな。何処かの戦闘民族みたいだ。


「私達はあそこまでは出来ないわ。あの速さを出せるのはルシアだけね」


「勇者って本当に凄いんだな。あれ風圧とか大丈夫なのか?」


「あそこまでやると周囲のオーラが守ってくれるわね」


「ふーん。アレはちょっと怖いな」


「戻って来たみたいね」


「おー、お疲れさん。よく解ったよ、ありがとうな」


 出た時と同じように、走行中なのにドアを開けて乗り込んで来るルシア。


「ミカ、あそこの山を越えて少し行くと、レギオンの集団がいるよ。この道を行ったらぶつかるけど。どうする?」


「数は?」


「ゴブリンのみ、3000位。それと指揮官が二人」


「ゴブリンだけなの? じゃあ私が行って焼き払って来るわ」


「そう? 私でもいいよ?」


「ずっと座りっぱなしでも疲れるから、今度は私に行かせて」


「そうだね、解った」


「じゃあタカオ、ちょっと行ってくるわね」


「ああ頼むよ。余計なお世話かもしれないが、一応気を付けてな」


「ええ、解ったわ」


 ルシアと同じように、走行中のトラックのドアを開けて飛び去るミカ。言ってくれれば停車するんだけどな。


 暫く走らせていると


 ズドオォン・・・・と言う音がして、次いで山の向こうから黒煙が上がり始めた。


「ミカか?」


「そうだね」


 道なりに走らせていると、ミカが戻って来た。車内に入って早々、


「タカオ、ごめんなさい」


「ん? 何か失敗したのか?」


「失敗なんかしないわよ。ただ周りに建物がある場所に集結していたから、辺り一面焼け野原になってしまっただけ」


「一面って・・・・・・通れるのか?」


「微妙ね」


「微妙って・・・・・・まあ行って駄目だったら迂回すればいいけどな」


 そのまま進み、現場へと到着した。


「あー、焼け野原ねえ・・・・・・」


 眼前に広がった光景は正に焼け野原だった。どちらかと言うと火災現場の様な物を想像していたが、焼け落ちて残った建物は無く、ただ黒い地面だけが残っていた。


「これって吹き飛ばしたのか? 焼き尽くしたのか?」


「焼き尽くしたわ」


 凄いなミカの魔法は。鉄筋のビルとかだってあっただろうに。


「ここまで何も無いと逆に通れるんじゃないか?」


「道も溶けてるのよ」


 トラックを降り、そこらに落ちていた木の棒でタール状になった道の先を突く。


 ボウッ! 


 木の棒の先が燃え始めた。溶岩かよ。


「成程ね。こんな所を通ったらタイヤが焼けるな・・・・・・まあいい、迂回しよう」


「そうね」


「そうしたら、今日はこの辺までだな。暗くなる前に寝る場所を探さないとだしな」


「ええ、解ったわ」


「一馬! もう少し行ったら泊まる場所探すから! もうちょっと頑張ってくれ!」


「はぁーい・・・・・・」


 一馬も慣れない運転で疲れてるな。近場に源泉かけ流しの温泉でも無いかな?





 そんなこんなで四日目の午後・・・・・・


「あー・・・・・・やっと着いた・・・・・・関東から九州まで車で来るのに、四日も掛かるとは思わなかった」


「だから二日目の時点で飛んでいこうって言ったのに」


「嫌だ。俺はもう絶対に飛ばない。飛ぶくらいなら走る」


「結局何でも無かったでしょ? あんなの只の空飛ぶトカゲだよ」




 そう、二日目の朝、俺はルシアに抱かれて空の旅がどんな物か、体験してみた事がそもそもの間違いだった。


 俺と二人っきりなのが嬉しかったのか、


「ほらタカオ、こんなことも出来るんだよ? ほーらほーら」


 急上昇に急降下、自由落下に曲芸飛行。それはもう楽しそうに・・・・・・。挙句に、


「あ、タカオ。何か飛んでるよ? ほらあそこ、10匹位かな? 見に行ってみよう」


「え、ちょっ、待てって! あれ鳥じゃねーぞ! おい! 地球にあんな首の長い鳥いねーから! ルシア! 止めろ! 戻れ!」


「大丈夫だよー、あれはワイバーンだよ。結構近づいても平気なんだよ? 見た事無いんだよね? 良かったね見れて」


 ルシアは俺を抱えたまま、ワイバーンの群れと並んで飛んだ。


「おーい、元気かーい?」


 おいいいい! 風の谷じゃねえんだから、意思疎通なんかできる訳ねえだろ! 何話しかけてんだよ! イルカじゃないんだぞ!


 ワイバーンの群れはギイギイ鳴き合った途端に、ある者は噛みつき、ある者は尻尾で攻撃をしてきた。


「あれー? 何か機嫌悪いみたいだから逃げようか?」


 ルシアはそう言うと一気に加速した。


 ・・・・・・どれ位飛んでいたのか。気付いたら俺は地面にうずくまっていた。


「・・・・・・ルシア、何をしたの?」


「何もしてないよ。普通に飛んで、ワイバーンの群れがいたから近くに行って、挨拶したら攻撃してきたからスピード出して逃げて来ただけだよ」


「ワイバーン本当にいるんだ・・・・・・父さん大丈夫? 水でも持ってくる?」


「大丈夫だよ。タカオだって最後の方は “うっとり” して何も動かなかったよ? 景色に見惚れてたんでしょ?」


 こ、こいつ・・・・・・天然なのか? ふざけてんのか?


「“うっとり” じゃねえよ! 恐怖で “ぐったり” してたんだよ! 動かなかったんじゃねえよ! 速すぎて微動だに出来なかったんだよ!」



 ・・・・・・という事で空は却下だ。



 他にも道中の街で何度か寄り道をした。早く西に行きたいのは山々だが、イグナス人達が休憩も兼ねて気分転換も必要だと言い出したからだ。一樹もそれに賛同していた。俺もこまめな休憩には賛成だ。と言っても裏の理由はちょっと違うと思う。


 俺と一馬は正真正銘の休憩。あまり速度は出せないとしても、ずっと運転では肩も凝るし腰も痛くなる。

 ミカとルシアの二人は、車内からのウィンドウショッピングでは我慢できなくなった様だ。大きめの街では必ず休憩させ、偵察と称して自分たちは飛んで街中の散策に行っていた。因みにミカは、何回目かの散策でルビーの指輪とネックレスを持って来た。カラット数とかは良く解らないが、指輪に付いている物はかなり大きいルビーで、周りに小さいダイヤをあしらってある。ネックレスは同じルビーだが、更に大きいルビーが使われている。


「タカオ。私の婚姻のアイテムはこの指輪にするわ」


「良いのが見つかったのか?」


「ええ、タカオはこっちのネックレスね。色々と付与してから渡すわ」


「それじゃあ両方ともミカが用意した事になるけど、それでもいいのか?」


「時と場合、それに個人の考え方によるわね。ルシアみたいにお互い交換しましょうって考え方もあるし、どちらか一人が二人分用意する時もあるわ。要は婚姻の証が欲しいって事ね」


「ふーん。何かすまんな」


「いいのよ、タカオは私達を愛してくれるだけでいいの」


「そうは言ってもな」


「私がそれで納得しているんだからいいの。それとカズマとカズキとジルにも持って来たの」


「何を?」


「指輪よ。翻訳の魔術とか色々付与してから渡すわね」


「ジルは指輪なんか付けられないぞ?」


「その辺は任せて。やり様はあるから」


「ふーん」




 ルードとザックは主に酒屋だ。こいつらは一馬の運転するトラックの荷台で、ずーっと飲んでいたらしい。街で酒屋を見つけると、マイバッグならぬマイカートを持って行っていた。因みに飲み終わった瓶などは、次の酒屋で全部置いて来ている。変な所でマメだな。酷い時は走っているトラックから飛び降り、酒を調達後に走って戻って来ていたらしい。ザックは飛んでか。



 そしてカズキとジルは、ずっとマナをいじって? いたらしい。一馬曰く、


「一樹とジルさあ、会話してるんだよね。一樹は日本語を話しているんだけど、ジルは “わん” とか “あう” しか言って無いんだよ? それなのに会話が成立しているんだよ。我が弟ながらちょっと怖かったね。でさあ、二人でずっと何かやってるの」


「何かって何だよ?」


「さあ? 解らないよ。ジルが言ってる事も解らないし。何かの訓練じゃないの?」


 そして、たまに走ってトラックと並走している時もあった。


 一樹曰く、


「ずっと座ってるからムズムズしてくる」


 だそうだ。言っている事は解るが、トラックと並走しながらジルと鬼ごっこやってたよな?


「あれも修行になるから放っておきなさい」


 ミカはそう言ったがルシアは・・・・・・


「私も一緒にやって来ていい? ほら、私に追われれば修行の効果倍増じゃない?」


 目をキラキラさせながらそんな事を言って来た。・・・・・・脳筋のルシアちゃんもずっと座っているのは嫌なのね? お外で遊びたいのね?


「・・・・・・どうなんだ? ミカ」


「良いんじゃないかしら? ルシアのいう事もあながち間違いでは無いわ」


「そうか。おい! 一樹! ジル! ちょっと来い!」


 外でで並走しながらじゃれている二人を呼ぶ。


「なーにー?」


「今からルシアが訓練してくれるそうだ」


「えっ! ルシアちゃんが? 何するの?」


「鬼ごっこだ。鬼はルシアだ。範囲は俺達のトラックが見える範囲内でやる事。攻撃は一切なし。ルシアに捕まったら終わりだ。いいか、本気で逃げろよ」


「解った!」


「わうっ!」


 返事をして二人は散って行った。


「じゃあルシア頼むな」


「うん、直ぐに捕まえるから見てて」


 そう言ってトラックから飛び出すルシア。あれ? ルシアさん? 緑のオーラが漏れてますよ? 勇者の力は反則なのでは? 


 数秒後・・・・・・


「どう? もう捕まえたよ? 凄くない?」


「お父さーん、ルシアちゃんズルくないー? 緑でやるの反則でしょー」」


「あうぅー」


 ルシアの両脇に抱えられて一樹とジルは不満たらたらだ。


「ルシア、あなたの遊びじゃ無いのよ? カズキとジルの修行なの。勇者の力無しでやりなさい」


「なあ、一樹とジルが鬼で、ルシアに触れたら勝ちって言うのはどうだ? 二人はルシアに触る、ルシアは二人に触られない様に逃げる。こっちの方が良くないか?」


「あ、それ面白そう。二人共そうしようか」


「二対一か、いけるかな? ジル」


「わうっ!」


「うん、じゃあそれでいいよ」


「ルシア、あなたは勇者の力を使うのは禁止よ」


「ええっ!?」


「あのね・・・・それじゃあ差が付き過ぎちゃうでしょ?」


「・・・・・・それもそうか。解った」


「よーし、纏まった所で始めー」


 いきなり一樹とジルが襲い掛かったが、ルシアは難なく躱し、


「ほーら、こっちだよー」


 路駐の車の上をピョンピョンと跳ねながら逃げて行った。


 まあ暇つぶしの遊びが訓練になるならやらせておくか。




 あとは何回かレギオンに遭遇した位だ。レギオンたちはミカとルシアが、発見、即殲滅のサーチ&デストロイを実践していたので、俺が直接目にすることは無かった。目にしたのは一面の焼け野原か、一面の青野原だった。青いのはゴブリンその物と、ゴブリンの血とか中身だ。一樹とジルはたまに参加していた。毎回何かしらの課題を出されていた様だ。


 どんな事をやらせたのか聞いてみたら、


「大した事じゃないよ。動きに制限を付けたり、止めの仕方を指定したりしただけだよ」


 と、ルシアは言い、


「ゴブリンに強化魔法を施しただけよ」


 と、ミカは言った。一樹は、


「面白かった」


 と言っていた。ミカとルシアは口を揃えて、


「「私が見てるから大丈夫」」


 と言っていた。


 関東から九州までの約3日の道のりは、そんな感じだった。


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