閑話 3 異種族好き
俺達は近所のコンビニで食事をしていた。食事の支度をするとは言ったものの、食べれる物がほとんど無かったからだ。トラック2台に荷物を積み、食事後にそのまま出発出来る様にトラックでコンビニまで来た。
「こっちのパンは美味しいね」
「全くだ。もうイグナスのパンは食べれないな」
「そんなに不味いのか?」
「不味いというか味気ないというか・・・・・・こっちのパンみたいに甘くないんだよな」
「そうね、もっと硬いしボソボソしてるし。そもそもサンドイッチとかはあるけど、こんな風に中に何か入っているパンなんか無いわ。でも紅茶はイグナスの方が美味しいわね。こっちのは薄いっていうのかしら?」
ペットボトルの紅茶を見ながらミカが言う。
「ああ、その紅茶は大量生産のやつだからな。茶葉から入れる様な高級なやつもあるぞ」
「そうなの? イグナスではよく飲んでいたから、手に入るなら欲しいわ」
「んー、ここら辺じゃ知らないな。途中で店があったら寄ればいいか?」
「ええ、お願いするわ」
「大体簡単に手に入る物は、大量生産の物だな。だから味が薄かったりするんだ。パンもそうだぞ? 高級なパンはもっと柔らかくて甘いぞ」
「へー、それも食べれる?」
「悪いが難しいだろうな。やっぱりパンにしても紅茶にしても、美味いやつは職人が作るからな。人がいなくなった今となっては、食に関する事は難しいと思う」
「そっか、残念だね」
「そうだな・・・・・・ルードって体格の割には食べないんだな」
「うむ、まあ歳が歳じゃからの」
「・・・・・・83って本当なのか?」
「なんじゃ、ミカから聞いたか? 本当じゃ。儂は83歳じゃ」
「「ええっ!」」
一馬と一樹が同時に驚く。無理も無いよな・・・・・・行っても50位に見えるもんな。平八だし。
「マナ中毒になるとこうなるらしいぞ? 老化防止に加え、死ぬ寸前まで強いままだってよ」
「「・・・・・・」」
理解できないか。そりゃそうだよな
「ザックは魔族だったよな? 魔族にもマナ中毒ってあるのか?」
「いんや、ヒト種特有の症状だな。」
「「魔族!?」」
「ん? 言って無かったか? 魔王ムーアの側近で、シェイプシフターらしいぞ?」
一樹の眼がキラキラしてる!
「シェイプシフターなんて本当にいたんだ! じゃあその姿は偽物なの? スゲー!」
「偽物って・・・・・・仮の姿とか言ってくれよ」
「後は? 後はどんなのがいるの?」
「どんなのって? 例えば何だ?」
「例えば? んーそうだね、狼男とかは?」
「ウェアウルフか、いるぞ。中々強いぞ」
「おおー、じゃあメデューサは?」
「いるな」
「おおー! やっぱり石にされるの?」
「お、おう。怒らせると石化の邪眼を使って来るな」
「へーやっぱりそうなんだ! じゃあメジャーな所でゾンビとかは?」
「ゾンビ? いるにはいるが、魔族じゃないぞ?」
「そうなの?」
「ああ、そこら辺は只のモンスターだ」
「じゃあさ、じゃあさ―――」
親の俺でも引く程の食いつきっぷりだ。何でこんな人外好きになっちまったんだ?
「父さん、またやっちゃったね」
「・・・・・・お前は平気なのか? 実際に存在する人外の情報だぞ?」
「・・・・・・俺は一樹みたいに無差別じゃないよ」
「そうなのか?」
「なんじゃ、カズキはああいった輩が好きなのか?」
「みたいだな・・・・・・興味があるだけかもしれないけどな」
「カズマはどうなんじゃ?」
「え? お、おれは~その~・・・・・・」
「何じゃお主もか。まあイグナスでも異種族好きはおったからのう。」
「へー、やっぱりどこの世界でもそういった趣向の奴はいるんだな」
「そうじゃな。エルフ、不死族、獣人の順に人気があったのう」
「エルフ!?」
「あれ? それも言って無かったか?」
「言って無いよ! 父さん! 情報は正確に伝えてよ!」
「え? そ、そうか。すまんな」
「ははは、カズマはエルフ好きか。しかしエルフは難しいと思うぞ?」
「何でだ?」
「奴らは自分たちの事を美形だと解っているからな。村一番の醜女と言われるエルフでも、他種族領、特にヒト種の国に来ると美の神でも舞い降りたかの様な大騒ぎになるからな。それが解っているから、大体のエルフは高飛車なんだよな。 だから簡単にモノに出来るとは思わない方がいいぞ」
「え、やっぱりそうなんですか?」
「うむ。その代り、一度伴侶を決めたらずっと離れんらしいぞ?」
「そんなの私達だって一緒だよ。ね、ミカ」
「そうよ。そんな事は何のアドバンテージにもならないわ。あいつらは見た目が良いだけ。カズマ、不死族の方が断然いいと思うわよ」
「へぇー。やっぱり凄い美人なんだ・・・・・・」
「・・・・・・やっぱりってそっちかよ」
脇からカズキが割り込んできた。
「何! エルフもいるの!? おにいやったじゃん! 寝言で 『俺の嫁はエルフなんだぁ』 って言う程好きだもんね? 佐々木さんどうするの?」
「こっ、おめぇ余計な事ばっか言ってんじゃねえぞ! ぶっ飛ばす・・・・・・ぞ」
全員が一馬を見ている。ミカとルシアは「そこまでなの?」とか「どんだけ好きなのかしら?」とかぼそぼそ言っている。やめろよお前ら。そんなのでも俺の息子だぞ。多感な時期なんだよ。
ザックが一馬の肩に手を置き、
「カズマ・・・・・・エルフに関してはヒューがいるから何とかなる、はずだ」
「そうじゃの。ヒューがいればエルフ領に行っても困る事はあるまい」
「相手にされるかは別問題だけどね」
「されない方がいいわ」
「お前ら止めろって。良いじゃんかよ、本人が好きだって言ってるんだから。一馬が落ち込んじまうぞ」
「そんな事言ったって・・・・・・」
「ねー」
「ミカとルシアは何でエルフに対してそんなに否定的なんだよ」
「エルフと他種族の女同士はそんなもんだぜ?」
「そうなのか?」
「ああ。何故かは俺の口からは言えないけどな」
「ふーん。ミカ、何でだ?」
「・・・・・・」
「・・・・・・? ルシア、何でだ?」
「・・・・・・」
「なあザック。そんなに言えない事なのか?」
「いや、まあ、さっきも言ったが俺の口からは何とも」
「ルードもか?」
「そうじゃの。これは女同士の闘いじゃからの。男の儂等が口を出す内容ではないのじゃ。イグナスではこの件に関しては、知っている男は一切関わらん」
「何だよそれ、余計に気になるだろ? なあ一馬」
「うん、もの凄い気になる」
「俺も気になる―」
「・・・・・・じゃあ言うわ。これはイグナスのエルフ以外の種族の総意と言っても良い事だからね」
「ミカ? いいの? カズマ達はともかくタカオに言っていいの?」
「え? そんなに大事なのか? 聞いておいて何だが、俺達が聞いていい話なのか?」
「構わないわ。むしろエルフに会う前だから、今後の事を考えるといい機会だわ」
「ちょっと待て。俺らは少し離れてるからよ、ゆっくりやってくれ。ルード行こうぜ」
「うむ、そうじゃな」
「ええ、そうね。悪い芽は早めに摘んでおくわ」
「何だよ悪い芽って? ドキドキしてきちゃったぞ」
「そ、そんなに凄い話なんですか?」
「タカオ、カズマもカズキも、正直に答えて? ルシアの事をどう思う?」
「どう思うって・・・・・・どういう意味のどう思うだ?」
「女らしいと思う?」
「ああ、それは十分すぎる程思うぞ? なあ?」
「はい、思います」
「うん、ルシアちゃんおっぱい大きいし美人!」
「え? あ、ありがとう?」
「じゃあ私は?」
「ミカだって女らしいぞ?」
「うん、俺もそう思います」
「うん、ルシアちゃんよりおっぱい小さいけどミカちゃんも可愛い!」
「お前何言ってんだよさっきから」
パシン、と一樹の頭を軽く叩く。
「例えはともかく嬉しいわ。それにあなた達3人が、至って標準的な普通の考えを持っている人で私は嬉しい」
「で? それが何だ」
「結論はまだ。次に、エルフたちの美醜の基準ってわかる?」
「美醜って・・・・・・お前たち解るか? 美人か不細工かって事だぞ?」
「「ふーん」」
「皆美男美女なんだろ? 基準って何だ? 耳の長さとか? 耳長いんだよな?」
「ええ、長いわ。でも違う」
「髪の毛の美しさ?」
「違うわ」
「おっぱい!」
「おま、止めろって「・・・・・・当たりよ」」
「当たってんのかよ」
「ええ、女性に限っては胸の大きさで決まるの」
「男は?」
「特に無いわ」
「・・・・・・もしかして意外と俗物的なのか? エルフってもっとこう、森の守護者みたいなイメージなんだが」
「あ、俺もそう」
「タカオ達が思っているのとは少し違うと思うわ。エルフの女性は胸があると美しくないって言われるの」
「って事は・・・・・・」
「そう、胸の大小で決まるわ。大きければ大きいほど醜いとされるの」
「胸が小さければ小さいほど美人ってか?」
「そうよ。エルフの集落ではどこでもそうなの」
「ミカとルシアはエルフ領に行ったことがあるのか?」
「それは勿論あるわよ。2回だけね。その2回で、確実に3回目は行く気が起きなくなったわ」
「そんなに凄いのか?」
「ええ、私が行ったのは前世の時が初めて。タカオには前世の話を少ししたわよね?」
「ああ、ルシアみたいなスタイルだったんだろ?」
「「へー」」
二人してルシアの胸を見るなよ。ルシアの顔が赤くなってるだろ。
「そうよ。ギガントスパイダーの討伐依頼で、エルフ領に行ったのよ。その時は酷い目にあってね。依頼の担当が集落一番の美人と言われていたぺったんこのエルフだったのよ。そいつが何て言ったと思う!?
『あなたの様な胸で、この依頼が務まるんですか? 頭の栄養が全て胸に行ってしまったんですか? 御可哀想に』
クスクス笑いながらそう言ったのよ! 既に炎帝と呼ばれて恐れられていたこの私に向かって!」
「お、おう。酷い目ってそっちかよ」
「でも、その時は我慢して依頼を終わらせたわ。二度とこんな所に来るものか、と思いながらね。2回目が転生してからよ。ルードとルシアと旅をしていた話はしたでしょ? その時よ」
「ああ、言ってたな。各地を回ったって」
「ええ、その時も討伐依頼だったんだけどね。80年近く経ってるから、依頼担当のエルフは変わっただろうと思って行ったら、またそいつなのよ! 今度はルシアがターゲットになって、何て言ったと思う!?
『あなた勇者なんですって? お強いのでしょうね。でもあなたの様な胸で、この依頼が務まるんですか? 頭の栄養が全て胸に行ってしまったのですか? 御可哀想に』
ルシアにこんなセリフを吐いたのよ! しかも後半は全く同じ! そして私には!
『あらあら、あなたは栄養不足かしら? ちゃんと食べてる? クスクス』
とか抜かしたのよあの女!自分は80年近く集落いちのぺったんこの座を守り続けていたくせに! 胸のあるなしじゃ無くて、盆地胸なんじゃないのあいつ! 陥没してるくせに! エルフ領なんか二度と行かないわ!」
まあ悪く言う訳じゃ無いが、ルシアは脳筋っぽいからあながち間違いでは無いのかも・・・・・・。
「ミカ、ミカ、気持ちは解ったから落ち着け。一馬も一樹もドン引きしてんぞ」
2人共ミカの剣幕に押されてしまっている。
「そうか、そんな種族なんだな。って言うか、そいつが特殊なんじゃないのか? 男に対してもそんな感じなのか?」
「ううん、男に対しては普通だよ」
今度はルシアが答える。
「普通って?」
「普通に高飛車」
「ダメダメじゃんかよ、エルフの女って」
「でもね、確かに見た目だけは良いからね。ぺったんこだから男装している人が多いよ」
「ふーん、まあ美人の男装は確かに格好いいとは思うな」
「えー、タカオもそんな事言うのー?」
「どんなに見た目が良くても、性格が最悪なのよ?」
「全員が全員そうなんじゃ無いだろ?」
「小さければ小さいほど性格に難があるわ」
「だってよ一馬。止めた方が良いんじゃないか?」
「あ、でもね、胸の大きいエルフは別だよ?」
一馬の目が光った・・・・・・様な気がした。
「自分の真の価値を解ってるって言うのかな? 醜女エルフ同士の連絡網みたいのがあるらしくてね」
「巨乳エルフネットワーク!?」
バシンと強めに一樹の頭を叩く。
「お前耳どうかしてんのか? 一言も巨乳なんて言葉出てねえだろ?」
「何きょにゅうって?」
「・・・・・・ルシアみたいな胸の事だな。巨大な乳だ」
ほら、またルシアの顔が赤くなっちゃったじゃねえか。
「んんっ。で、そのネットワークでね、醜女と蔑まれているエルフは他種族領に移り住んだ方が幸せになれるって教えられるんだって。実際き、きょにゅうエルフだけが住む集落もあったよ。ね、ミカ」
「ええ、そしてきょにゅうエルフ達は陥没エルフ達とは大違い」
「何が違うんですか?」
「エルフの集落では肩身の狭かった自分たちが、他種族領に行くと女神でも見るかの様な視線に変わるのよ? それに蔑まれていたから高飛車な娘はいないし。控えめだけど社交的にもなるし。・・・・・・そう言えばヒューの神殿にいたエルフは皆きょにゅうだったわね。みんないい娘だったわ。 信徒も多かったしね」
「あー、そうだね。あの娘達もきょにゅうねっとわーくで集めたんだろうね。実はヒューが始めた事なんじゃないの?」
巨乳エルフネットワークだろ・・・・・・何だよその風俗情報誌みたいなのは。そもそも仮称からして全く変わってるし。
「ルシア、名前が違い過ぎてるから。全然違う方向に行っちゃうから。お前達もそろそろ、巨乳巨乳言うのは止めなさい」
「じゃあ、狙い目は巨乳エルフですね?」
「うん、私もそう思う。きょにゅうエルフならヒューの所にもいるしね」
「そうね。陥没ときょにゅうエルフだったら、断然巨乳ね。でもカズマ? 不死族はどうするの?」
「正直に言うと・・・・・・どっちも捨てがたいです!」
「・・・・・・本当に正直ね」
・・・・・・駄目だこいつら、聞いてねえし・・・・・・横から一樹が囁いて来る。
「いつの間にかおっぱいの話になっちゃったね」
「・・・・・・お前が言い出したんだろうが」
「おーい、そろそろ終わったかー?」
ルードとザックが戻って来た。
「ああ、終わった。ほら、巨乳でも貧乳でもいいから。そろそろ西に向けて出発しようぜ」
「「「「はーい」」」」
俺達はトラックに乗り込み、西を目指して出発した。
「ねえタカオ」
「ん? 何だ?」
「貧乳ってなに?」
「・・・・・・」




