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その後は順調に幌付きのトラックを見つけ、別の酒屋に寄った。ルードとザックはホクホク顔で酒を積んでいた。予定より遅くはなったが、何事も無く家まで戻った。
「あ、おかえりなさい」
家に着いたらルシアが出迎えてくれた。
「ミカは?」
「今はカズキとジルと一緒に、裏で “ダ” の死体を焼いてるよ」
「そうか。じゃあ俺達はこのまま出発の準備をするから」
「うん、解った」
「儂等はミカの様子を見て来るぞ」
「ああ、解った」
「ねえ父さん、着替えとかも持って行くの?」
「着替えは要らないんじゃないか? 途中で幾らでも手に入るだろ?」
「・・・・・・じゃあ持って行く物って特に無いよね? 水もミカさんが出せるって言っていたし」
「それもそうだな・・・・・・じゃあトラックにしないでバスにした方が良かったのか?」
「今更でしょ?」
「そうか・・・・・・じゃあ特に準備する事も無いな・・・・・・時間的には早いけど、ご飯の支度でもしてるか?」
「そうだね。食べたら出発でいいんでしょ?」
「ああ、そうしよう」
・・・・・・しかし西か・・・・・・どうやって海を越える? 流石に操船は解らないな・・・・・・どうするか。
その頃、
「・・・・・・ここが融合先の世界か。ったくよー、もう少しでバグソヘッドのクソ野郎を殺れたってのによお。タイミングの悪い歪みだぜ。まあ、来ちまったもんはしょうがねー、まずはアリシアと合流するか。アリシアは・・・・・・よし、来てるな。あっちか」
踊り子の様な格好をした女は宙に浮き、そのまま飛んで行った。
別の場所では、
「・・・・・・システム正常。次元間弾薬及ビ、エネルギー補給ライン構築完了。・・・・・・・・・・・・最適化完了。武装パターンS二変更。探査機射出」
それはパシュッ、パシュッと何かを撃ち出した。
「モニター正常、通信感度良好。周辺探査開始」
撃ち出された物は、何度か周辺を飛び回った後、何処かへと飛んで行った。
また別の場所、何処かの森の中には四人の男たちがいた。
「この世界がそうみたいだな」
「なあリーダー、いつも通り好きに暴れていいんだろ?」
「けっ、おめえ遠慮なんてした事ねぇだろ?」
「げあっははは! そりゃそうだ! お前言われたって遠慮無しじゃねえか」
「いつもと何も変わらん。出会った者は皆殺しだ。住人だろうが眷属だろうがな」
「おっしゃ。今回はどんな眷属が来てんだろうな?」
「おう、そうだな。眷属狩りの方が楽しかったりするからな。歯ごたえのある奴が来てんと良いな」
「リーダーどっちから行くんだ?」
「そうだな、ちょっと待ってろ」
リーダーと呼ばれた男の手がメキメキと音を立てながら変形し、翼へと変わった。
バサリと羽ばたくと、リーダーと呼ばれた男は空へと舞い上がり、暫く旋回すると降りて来た。
「どうだった?」
リーダーと呼ばれた男は、再びメキメキと言う音と共に翼に変形させた手を元に戻しながら、
「こっちの方角に町があるから、そこから行ってみよう」
「おう、解ったぜ」
森の中へと四人は消えて行った。
うう、ここは一体何処じゃ? さっき見た変わった塔が沢山あるが・・・・・・。
全くムーアの奴め、自分だけ宙に浮きおって。わらわを抱え上げてくれても良さそうなもんじゃろうに。
さて、両手両足が無い状態では身動きも取れんのう。しかしあの砂は何だったんじゃ? わらわの手足を千切りおって。大型の獣の一匹でもいれば、血を吸って回復も早まるんじゃがのう・・・・・・さて、どうしたものか。
「ん? 何の音じゃ?」
大勢の人の声と、ガラガラと言う音がする。・・・・・・あれは・・・・・・あの装備は奴隷王ガジンの兵か? あの馬車牢といい、紋章といいガジンの物。やはりガジンの奴隷狩りか? しかしガジンはルシアに討たれた筈じゃが・・・・・・
「おい! あそこにもいるぞ!」
む、まあこんな道端に座っておれば見つかるか。数人の兵がわらわを取り囲む。
「なんだこいつ、両手足が無いぞ?」
「別に構わんだろ? 労役には付けんだろうが、見てくれはいいから使い道はあるだろ」
「それもそうか。おい! 立て!」
「何を言っておるのじゃ、立てる訳がなかろう。お主の目には何が見えておるんじゃ?」
ドズゥッ
「ぐっ」
槍を持った兵が、石突でわらわの腹を突きおった。
「自分がどうなるか理解していないようだな。我々は奴隷王ガジン様に仕える奴隷狩りだ。お前はもう奴隷王ガジン様の物だ。口の利き方に気を付けるんだな。早死にするぞ」
「やはりガジンの兵か。ガジンは勇者ルシアに討たれたと聞いておったがの?」
ゴスッ
こ、こやつ、また腹に・・・・・・
「ガジン “様” だ。もういい! 馬車牢まで引きずって行け!」
一人の兵が、わらわの髪を鷲掴みにし引きずって行く。あだだだだ。止めんか、せめて服を掴め・・・・・・どの道この手足では大したことは出来ん。手足が再生するまではのんびりとさせてもらおうかの。
馬車牢に投げ込まれたわらわは、開いている場所に座った。まあ、たまにはこういった扱いも良いかもしれんの。期を見て適当な兵を眷属化してやれば、直ぐに滅ぶじゃろう。・・・・・・ふむ、馬車牢の数も多いが、それ以上に物資を運搬している馬車も多いな。そんな事を考えていると、
「あなた、その手と足は大丈夫? あいつらにやられたの?」
ん? 見た事が無い服を着た、隣にいた娘っ子がそう聞いてきた。
「ああ、これは違うぞ。暫くしたら再生するからの。何の心配も要らんぞ? 済まんの、心配してくれて・・・・・・ん?」
何じゃ? こやつのマナの量は。尋常では無い量じゃ。ヒト種の様じゃから、中毒発症前か?
「え? 再生? 手足の再生が出来るの? じゃあ怪我の治療とかも出来るの?」
「うん? あ、ああ、限度はあるがの。ある程度の怪我なら治せるぞ? お主が怪我をしているのか?」
「いえ、私じゃ無くてこの人を助けてほしいの」
娘っ子の後ろには、もう一人女が横たわっていた。なんじゃ、ボロボロではないか。
「近所のこい、友達のお母さんなの。気が付いたら知らない場所にいて、うろうろしていたら偶然この人に会って。それで一緒に行動していたんだけど、外にいる人たちに見つかって・・・・・・。私を守ろうとして闘ってくれたんだけど、数に差がありすぎて・・・・・・こんなになるまで・・・・・・」
ポロポロと涙を零す。
「解った解った、落ち着け。ほれ、見せてみい・・・・・・かあー、派手にやられた物じゃのう。骨折が7か所に内臓の損傷か。む? こやつもマナの量が・・・・・・ふむ、面白い。とりあえずは怪我の治療じゃな」
わらわは今は無い手先にマナを溜め、治癒魔法を発動する。娘っ子は涙を流しながら黙って見ている。
「・・・・・・うむ。暫く目は覚まさんじゃろうが、これで大丈夫じゃ」
「本当ですか?ありがとうございます、ありがとうございます」
「うむ。して、ここは何処なのじゃ? この見た事も無い塔は何じゃ?」
「あ、はい。遥さんが言うには。あ、遥かさんってこの人です。私は佐々木詩歩と言います」
「わらわはヒルダじゃ。不死族の王じゃ。聞かん名じゃの、東方の出かえ?」
「東方・・・・・・まあそう言われる事もあります・・・・・・ふしぞくって何処の国ですか? 無知でごめんなさい。その国の王様なんですか?」
「・・・・・・我ら不死族の地下帝国を知らんのか?」
「え、ちょっと解りません・・・・・・」
「お主は何処の国の出なのじゃ?」
「日本です」
「ニホン? スパイン大陸にそんな国があったかのう?」
「スパイン大陸って何処の事ですか?」
「ん?」
「え?」
「・・・・・・話が噛み合わんの。ここはイグナスではないのかえ?」
「いぐなす? ここは地球と言う星ですけど・・・・・・」
「チキュウ? ・・・・・・成程のう、融合先の世界へ飛ばされたという訳か」
「・・・・・・大丈夫ですか?」
「そのハルカとやらが目覚めたら、まとめて説明しようかの。じゃからもう少し待っておれ」
「はい・・・・・・」
さて、どうしたものかの・・・・・・




