7-5
「それで、タカオ? 眷属になったってどういう事なの? ミカは知ってたの?」
「今言わなきゃ駄目か? 帰ってから皆を交えてからじゃ駄目なのか?」
「ちゃんと話してくれるならね」
「ああ、話すよ・・・・・・・・・・・」
「タカオ? どうかした?」
「いや、ループが止まったみたいだ。やっぱり封印が正解みたいだったな」
「ふーん、そんな信じられない事ってあるんだね。あ、別にタカオを疑ってる訳じゃ無いよ?」
「まあな、俺も未だに信じられないからな。時間を戻すなんて・・・・・・これからこんな奴らが襲って来るのか?」
「でしょうね。一癖も二癖もある能力を持った奴らが来るんでしょうね」
「でも私達がいるから大丈夫だよ」
「そうね、何の問題も無いわ」
「まあ頼りにしてるよ」
その後は何事も無く自宅に着いた。家に入ると例の如くルードとザックは酒盛りをしていた。・・・・・・何で事あるごとに飲んでんだよ・・・・・・。
全員揃った所で、俺が体験した話をする。
「それってどうなんだ? タカオも “ダ” みたいになるって事か?」
「要望を聞いてくれる様な事を言っているから、タカオが望まない限りそうはならないんじゃない?」
「うむ。しかし半神と言うからには、何らかの能力を手に入れる事は確実なんじゃろう?」
「そうらしいいな。何時になるかは言って無かったけどな。楽しみにしてろってよ」
「でも凄いね、半分でも神様になったんでしょ?」
「どうだろうな? 何も実感は無いんだけどな。それと一馬と一樹。」
「何?」
「母さんと佐々木さんは西の方で囚われているらしいんだ」
「ホント?」
「・・・・・・じゃあ二人共まだ生きているんだね?」
「ああ、生きている事は確からしいがな。囚われているってのがどういう状況なんだか解らないんだ。奴隷が集う街って言ってたからもしかして・・・・・・」
「じゃあ何時までも家にいないで早く行こうよ!」
そうだよな、早く行きたいよな。
「あと西の方って言われただけで、何処か迄は解らないんだ。」
「でも、何時までもここでだらだらしてるよりはマシでしょ?」
「だからそれをこれから話し合うんだ。俺達だけじゃたどり着ける訳ないだろ?
・・・・・・マナ中毒が発症しないうちに半神化? 大丈夫かしら? 何かしらの異常が出ないといいけど。
「タカオはまだマナ中毒も発症していないのよ? 半神化の影響も解らないから暫くは旅に出ない方が良いと思うんだけど」
「ミカが言いたい事も解るが、俺達的にはそうのんびりとしていられないのも解るだろ? 家族が、離れ離れになった相手が、何処かで囚われているんだ。」
「それは解るけど・・・・・・」
「まあ俺はタカオに賛成かな? 大体とは言え探していた家族の居場所の目安が付いたんだ。居てもたってもいられないだろう?」
「儂もタカオ達が行きたいと言うなら止めはせんぞ? ミカよ、お主の心配事も解るが、儂等がフォローすれば問題無いのではないか? 途中で中毒が発症して足止めを喰らっても、少しずつでも前へ進んでいた方がタカオ達だって良いじゃろう」
「・・・・・・解ったわ。不安も残るけど出発の方向で進めましょう」
「ミカさんありがとうございます」
「悪いな」
「じゃあハルカもカズマの大事な人も西にいるから、結局は皆一緒ってことだね」
「そうね」
「あ、そうだ。持って帰って来た死体はどうするんだ?」
「これから解体して必要な部分だけ取るわ」
「必要な部分だけ? 残りは?」
「焼くわ」
「ふーん。じゃあ一馬、俺達はもう一台幌付きのトラックを探しに行くか」
「え? 何で?」
「一台は “ダ” の血とかでベチョベチョだぞ?」
「ああ、成程。そうだね、行こう」
「よし、では儂とザックが一緒に行くかの」
「おう、そうだな。今度は俺達に任せろよ」
「そう? じゃあお願いするわ。私とルシアは解体しているから」
ん? 何でそんなに行きたがるんだ?
「一樹はどうする?」
「裏でジルと遊んでる」
「解った。じゃあちょっとその辺を回って来る」
これでどんなに遅れても明日には出発できるだろう。家を出て、幌トラックで近所を回る。
「タカオ。どこまで探しに行くんだ?」
荷台からザックが聞いて来る。
「ん? この辺回れば直ぐに見つかると思うんだけどな」
「なあ、とらっくが見つかったらで良いんだが、ちょいと頼みがあるんだがな」
「ザックが? 俺に? 何だ?」
「ああ、見つかったらで良いんだ。ちょっとついでに積んでもらいたい物があってな」
「・・・・・・酒か?」
「へへへ、何で解ったんだ?」
「ザック! バレバレではないか」
「持って帰って来たの全部飲んだのか!?」
「う、うむ。そうじゃな。いや、まだあるぞ? あるにはあるんじゃが・・・・・・」
「残りが少ないのか。じゃあ後で昨日の店に行くか?」
「あ、ああ。それも良いんだが・・・・・・他の店は無いのか?」
・・・・・・他の店? どこ行ったって置いてあるものは大体同じ・・・・・・こいつらまさか?
「なあ二人共、昨日の夜は気を利かせてくれてありがとうな?」
「も、勿論だぜ!」
何が勿論なんだよ。
「そうじゃな、初夜の邪魔をしては悪いからの」
「ふーん・・・・・・一晩中外にいるのは大変だったろう? 何処に行ってたんだ?」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「異世界の酒は美味かったか?」
「・・・・・・気を利かせたのは本当だぜ?」
「はは、別に何とも思ってないよ。世話になってるからな。しかしあの店の酒全部飲んだのか? 本当に凄い飲むな」
「うむ、思った以上に酒が進んでのう」
「ああ、イグナスの酒は基本薄いからな。何でこっちのはあんなに濃いんだ? あとは茶色い硬い奴が上手かった」
「何だそれ?」
「何だろうなあれは? 干し肉みたいなんだが、味が全然違うんだよな。ちょっと大きくて口に入れるのが大変だったけど、くちゃくちゃやってると柔らかくなってくるんだ」
「一馬、解るか?」
「イカじゃない? 干し肉みたいって事は乾燥してあるんでしょ? ジャーキーかイカしか無いでしょ」
「イカって言うのか。あれは大きい瓶の酒に合ったな」
大きい瓶・・・・・・一升瓶、日本酒か焼酎か。
「解ったよ。もう一軒あるから帰りに寄ろう」
「流石タカオだ。話が解る!」
「すまんの」
「いいよ。こっちは命を救ってもらったりしてるんだ。酒の調達位何でもない」
「・・・・・・一晩で店一件分のお酒を飲み尽くしたの?」
「そうみたいだな」
「凄いね」
「だな」
その頃、裏の畑の一樹とジルは・・・・・・
「ねえジル。あの分身みたいのどうやってやるの?」
「わふ?」
「ジルが三匹に分かれたじゃん。アレのやり方教えてよ」
「わふん?」
あ、ジルが二匹になった。
「そう、それ。俺もそれ出来る様になりたいんだけどさ。全然やり方が解らないんだよ」
「クゥーン」
あ、一匹に戻っちゃった。んんーどうやるんだろう?
「わふっ」
「ん? 何?」
俺が見ているのを確認したジルは、また二匹になった。そして一匹に戻った。また二匹に、一匹に。
「見せてくれるのは有りがたいけど、やっぱり解らないよ」
「・・・・・・わんっ!」
ジルは俺から離れた位置まで行き、身体に雷を纏う。バチバチと電気が飛んでいる。
「ジル、それじゃないよ」
その後ジルは二匹になった。電気を纏ったままなのでピシッパシッと電気が飛んでいる。
そして一匹に戻った。バチバチ言ってる。また二匹にバチバチ言わないでパチパチ言ってる・・・・・・また一匹に・・・・・・バチバチ・・・・・・二匹に・・・・・・パチパチ・・・・・・身体に電気を纏っているのは一緒だけど、音が違う。自分を二つに分けてるから? 一つを二つに分けるから音が変わる? でも体は二つに割れないよ?
暫くしてからジルは帯電を止めた。座って空を見上げる。
「うーん、やっぱり無理なのかなぁ。分身したかったなぁー」
「わふっ」
「なーにー?」
ジルを見ると、今度はもやの様な物を纏っている。そのもやは段々と形を作っていって・・・・・・二匹目のジルが出来上がった。
「もやみたいのを出すの?」
「わう」
「どうやって?」
「わうー?」
2人?で首をかしげる。
「何やってるのあなた達・・・・・・」
“ダ” って言う変な生き物の残骸を引きずって、ミカちゃんとルシアちゃんが来た。
「うんとねー、ジル、もやもやっとしたの出して」
言われた通りにジルはもやを出してくれた。
「ねー、これってどうやって出すの? 二人共出来る?」
「出来るわよ? マナを纏っているんでしょ? まだカズキには無理じゃないかしら?」
「でも、これが出来ると傷の応急処置とかに使えるよね」
2人共簡単そうにもやで全身を包む。
「どうやって出すの?」
「どうやって? ルシア、どうやって出すの?」
「え? 何でミカ知らないの?」
「出し方は解るけど、どうやって説明したらいいのかしら?」
「何言ってるのミカ・・・・・・そうね・・・・・・カズキ、いきなり私達みたいに全身を覆うのは無理だから、まずは指一本だけ覆うように練習しましょう」
「うん」
「体の中で血液が循環しているのは知ってるわよね?」
「うん」
「マナも一緒。身体の中を循環しているの。まずはそれを感じ取るのよ」
「どうやって?」
「そうね・・・・・・イメージかしら? カズキ、あなたはもう確実に体内にマナが流れているの。あなたが気付いていないだけなの。それを感じ取るのよ」
「流れてるー感じろー」
うーんうーんと唸るカズキ。
「一回解れば次からは簡単なんだけどね。一本一本の指先まで温かい物が流れてるイメージかしら?」
「そうね、そんな感じかも。でも意識しすぎても無理じゃない?」
「あー、そうかも。でもそれを感じられないと話にならないよ。はっきりとイメージする事が大切だから。頑張って練習してね」
“ダ” を焼く為に立ち去ろうとした時、カズキがぼそっと
「成程・・・・・・考えるな、感じろか・・・・・・」
「・・・・・・いい言葉ね」
「・・・・・・そうだね」
私達は “ダ” を引きずって離れた場所に向かった。
・・・・・・駄目だ、解らない。感じろって言ったってなぁ。ジルは俺の横で座って待っている。
「どう? 解った?」
ルシアちゃんだ。
「解んない」
「そっか・・・・・・最初は難しいよね。そうだなー」
ルシアちゃんが俺の前にしゃがみ込む。
「じゃあ目を瞑って手出して」
はい、と手を出すと、ルシアちゃんは俺の手を握った。
「今私の手から何か感じる?」
「感じない」
「じゃあ今は?」
「何か温かい」
「そう、それ。今のがマナなの。私のマナをカズキの手に流したの。すごいね、もう解ったの? じゃあ今度は両手出して」
両手を握られ、
「今はどう?」
「何も感じない」
「うん、じゃあ今は?」
「右手だけ温かい」
「じゃあ次、今は?」
「左手だけ温かい」
「うん、良い感じだね。じゃあ次はちょっと難しいかな? ・・・・・・どう?」
「・・・・・・右手から入って左手から抜けてる」
「おー、良く解ったね、すごいすごい。次はちょっと強めに行くよ? 目は閉じてるんだよ・・・・・・どう?」
「うん、さっきよりも流れてる」
「じゃあ目を閉じたままその感じを覚えてー、そのままそのままー。手だけじゃなくて全身を巡るイメージをしてー。右手から入ったマナを直ぐに左手に流さないで、身体の方に流してー。急がなくていいからねー、ゆっくりと足の指先まで流して―」
「・・・・・・」
「・・・・・・どうかな? 全身を流れてる?」
「流れてる、と思う」
「隅々まで?」
「うん」
「じゃあそのまま目を開けてごらん?」
言われた通りに目を開けると、ルシアちゃんは俺の手を握っていなかった。
「それがマナだよ。おめでとう」
ルシアちゃんは微笑みながらそう言った。




