7-4
俺はぼーっとしながらトラックを走らせていた。また同じ場面からだしな。
牛丼チェーン店の前を通り。
「タカオ、ここは何?」
「牛丼って言う料理を食べられる店だ」
「美味しい?」
「人それぞれだな」
ゴトン!
何かを踏む。
クチュン!
ルシアがくしゃみをする。
「・・・・・・」
「なによー」
何も言って無いだろうに。そしてミカが、
「タカオ、誰かいる」
「ほら! まただ!」
「え?」
「な、なに!?」
「ほら、またあの男が道路に立ってる!」
その男は “またまた” 道路の真ん中に立っている。急ブレーキをかけ、離れた位置でトラックを止める。
「どうしたのタカオ? あの男が何なの?」
「さっきから何回もこれを繰り返しているんだよ! 今は4回目か?」
「これって何を?」
「何をって・・・・・・覚えてないのか? 二人とも」
「覚えているも何も、“ダ” の死体を積んだ場所から普通に走って来ただけじゃない。来るときもここを通ったけど、帰りは初めてよ? あの男も初めて見るわ」
「そういう意味じゃない! いいか? 車を降りてあの男の近くまで行くと、俺に攻撃してくるんだ。結局ルシアとミカに阻まれてあの男は死ぬんだが、過程が少しずつ変わっているんだ。で、あの男が死ぬとまた同じ場面に戻るんだよ。本当に覚えてないのか?」
「タカオ? 少し落ち着いて。タカオを疑う訳じゃ無いけど、それは本当の事なの?」
「ああ、そうだ。これで4回目だ」
「・・・・・・ルシア、いい?」
「ええ、大丈夫。タカオをお願いね」
「任せて」
ルシアはトラックを降りて、男へと近づいて行く。
「そこのあなた、言葉は通じるでしょ? あなたは何者なの? 答えなさい」
「・・・・・・」
「答えないのならこのまま斬り捨てるわよ」
「・・・・・・お前と話す口は持っていない」
「・・・・・・そう。じゃあ死になさい」
ルシアはいきなり男の首を斬り落とした。
「いきなりかよ」
「危険が降りかかる前にそれを払うのは当然よ?」
ルシアがトラックに乗り込んで来る。
「何か言ってた?」
「うん、何者か聞いたんだけどね、「お前と話す口は持っていない」だってさ」
「・・・・・・じゃあタカオとなら話すって事? 毎回タカオだけ狙って来ていたのよね?」
「ああ、ミカとルシアには見向きもせずにな」
「・・・・・・じゃあこうしましょう。もし次が始まってもタカオは覚えているんでしょ? 私達への説明は要らないから、タカオは私達にあの男を生きて捕らえるように言って」
「捕まえてどうするんだ?」
「捕縛してから話した方がタカオだって安心でしょ?」
「そりゃそうだな」
「次が来なかったらそれはそれでいいし」
「解った。そうしてみるよ」
そうして俺は車を走らせた。
またここから始まる・・・・・・。
牛丼チェーン店の前を通り、
「タカオ、ここは何?」
「・・・・・・」
「タカオ?」
「・・・・・・」
ゴトン!
「・・・・・・」
クチュン!
「・・・・・・」
「タカオ? どうかした?」
そしてミカが、
「タカオ、誰かいる」
「ああ、知ってる」
「ほら、誰か道路に立って――え?」
男はいつも通りに道路の真ん中に立っている。 さて、作戦?通りにやってみるか。
「ミカ、ルシア。あの男を生かして捕らえる事は出来るか?」
「出来るけど・・・・・・何で?」
「理由は今は話せない。捕らえる事が出来たら話す。で、やってくれるか?」
「タカオが言うならやるけど・・・・・・どうする? ミカが行く? 私が行く?」
「一人はここで俺の護衛に残ってほしいんだが。一人で捕まえられるか?」
俺が真剣に話して・・・・・・いや、怯えているのが解ったんだろう。二人とも真剣な顔つきになった。
「・・・・・・捕縛自体は何の問題も無いわ。じゃあルシアお願い。私はここで結界を張っておくから」
「頼むルシア。傷の大小は問わない。生きていて、俺の質問に答えられる状態ならそれでいい。後はルシアに任せる」
「解った。任せて」
ルシアはトラックを降りて男へと向かう。
「悪いな、何も話せなくて」
「私もルシアもタカオを信じているから大丈夫。それに “話さない” じゃなくて “話せない” なんでしょ?」
「ああ、そうだ」
すたすたと男に近づいて行ったルシアの身体がブレた。次の瞬間男の両足、膝から下が吹き飛んでいた。
当然男は倒れる。次に両手を着いて起き上がろうとする男の両腕を蹴り折った。
「中々激しいな」
「ちょっと怒っていたからね」
「ん? 何で?」
「タカオを怯えさせたから」
「そうか」
ルシアはこちらを振り向き手招きをする。
「よし、行くか。ミカ、護衛頼むぞ」
「ええ、任せて」
トラックを降りて、仰向けに転がされている男に近づく。
「タカオ、ここで結界を張るから止まって」
ミカは薄い膜の様な物を俺の周りに張る。
「この中にいれば大抵の事は大丈夫よ」
「解った。二人ともありがとう。さて・・・・・・あんたは何者だ?」
「・・・・・・俺はアーリマン様の眷属、名はカーレッド。イスナムでは永遠、不死と言う意味を持つ。スズキタカオ、お前を殺しに来た」
「・・・・・・何で俺を?」
「・・・・・・」
「アーリマンがそう命じたのか?」
「違う」
「・・・・・・理由も解らないまま殺されたくはないんだがね」
「・・・・・・」
「じゃあ先に次の質問だ。お前、俺に何かしたよな?」
「・・・・・・お前自体には何もしていない。全ては俺の能力だ」
「その能力って?」
「・・・・・・」
「話す気無しか・・・・・・まあ何となくは解って来たけどな。ミカ、ルシア何が起きているか、解る範囲で説明する。まず最初に――」
俺は二人に説明をした。この男が道に立っていて、何をして何をしたか。4回分話した。
「――で、今が5回目って訳だ。嘘偽りの無い、今俺が体験している全てだ」
「・・・・・・タカオがそう言うなら信じるけど・・・・・・時間が戻ったとして、何故タカオだけしか覚えてないのかしら」
「さあな、その辺を聞き出したかったんだが、この調子じゃな」
「じゃあ拷問してみようか?」
ルシアがそう提案してきた。
「・・・・・・そうだな、訳も解らず命を狙われているんだ。それも有りかもな」
実際俺的には拷問なんてする気はさらさら無い。同意したのは多少でも脅しの効果が有れば程度だ。
「ふふふ、俺は何も喋らないぞ。やりたきゃやれよ」
「ふーん」
ルシアが剣を片手に倒れているカーレッドの足元に回る。
「足の残りをミリ単位で削ってあげようか?」
「そうね、出血は私が止めるからそうしてみる?」
「ふ、ふはははは! いいぞ! やれよ! そして殺せよ!」
「だから殺さないって言ってるじゃない」
「ふん、この状態から俺に出来る事はもう何も無い。好きにしろ。拷問しようが何をしようが俺は必ず復活する。スズキタカオ、お前を殺すまでな。他の奴等はどうでもいい。俺の狙いはお前だけだ」
「こいつ・・・・・・」
ルシアの瞳の色が濃くなってきている。
「なあ、俺お前に何かしたか? 何でそこまで・・・・・・」
「もういいよ。何度でも殺してあげるから。私とミカがいてタカオ一人を守りきれないなんて有り得ないから」
「そうね、殺し続ければその内終わるかもしれないわね」
そうしてルシアはカーレッドの首を刎ねた。
「・・・・・・」
「タカオ、次が始まったら今度は初めに説明して」
「・・・・・・ああ」
俺達はトラックに乗り、カーレッドの死体を避けて走り出した。
「・・・・・・またか」
牛丼屋の前でトラックを止める。まだカーレッドの姿は見えていない。これで6回目。流石に何が起きているかの想像くらいはつく。・・・・・・カーレッドに時間を戻されているよな。発動条件は何だ? カーレッドを殺すからか? 他に思い付くことは・・・・・・
「タカオ? どうしたの?」
「・・・・・・ミカ、ルシア。この先に男がいるんだ。名前はカーレッド、眷属らしい」
「・・・・・・何でそれを知っているの?」
「言っても信じない・・・・・・いや、ありがたい事に、2人共信じてくれるんだったな。そいつは俺を殺したくて仕方がないみたいでな。だがその男を殺すと時間が戻るんだよ」
「・・・・・・で?」
「時間を戻されても覚えているのは俺だけでな、もうどうした良いのか解らないんだ」
「殺すと戻っているの?」
「多分。それが引き金になってるんじゃないかと思う。毎回何らかの手段で、ミカとルシアが倒してくれているんだよ。それで死んだのを確認して、トラックで走り去ると戻るんだ」
「じゃあ手を出さないでそのまま通り過ぎてみるとか」
「どうも俺はそいつに恨まれてるみたいでな? 必ず殺すって言われているんだ」
「じゃあ通り過ぎても追って来る可能性が高いって事ね」
「そうだな」
「再起不能までやって、放置してみるとかはどうかな?」
「それだと結局何時かは死ぬわ」
「それもそうか・・・・・・じゃあ何処かに封印しちゃうとか?」
「そんな事出来るのか?」
「ええ、出来るわ。でも只封印するだけじゃねぇ・・・・・・封印先で自害でもしたら、恐らくまた繰り返すでしょうし・・・・・・そうね、何かの依代に封印したら大丈夫かしら?」
「あ、それ良いかも」
「封印後に何処かに埋めればいいしね」
「それは死ぬことは無いのか?」
「無いわ。物に封印するから、それ自体が破壊されない限り蘇る事も無いわ。魔神などの封印に使われるわね」
「・・・・・・それをミカがやった事があるのか?」
「ええ、何回かあるわよ。」
「・・・・・・今出来るのか?」
「出来る出来ないじゃない。やらないと何時かはタカオがやられるんでしょ?」
「まあそうなるな」
「じゃあちょっと待って。準備するから。ルシア、何か要らない武器は無い?」
「あるよ。なまくらでも良いんだよね?」
「ええ、依代にするだけだからなまくらで十分」
「解った。はい」
「ありがとう。これに陣を刻んで・・・・・・」
その時、道路の向こうからカーレッドが歩いて来た。
「おい! あいつだ! 自分から来やがった!」
「・・・・・・あれが・・・・・・ルシア、少し時間を稼いできて」
「解った。殺さなければいいよね?」
「そうね」
ルシアはトラックを降りて男へと向かう・・・・・・ん? あの男、何か持ってるな。瓶? 瓶から何かはみ出てるな。カーレッドは瓶からはみ出た何かに火を着け・・・・・・火炎瓶か!? カーレッドは2本の火炎瓶をルシアに投げた!
「ルシア斬るな! 避けろ!」
しかしルシアは聖剣で火炎瓶に斬りつけた。
バァン! と言う音と共にルシアが火に包まれる。
「ルシア!!」
「タカオ待って!」
トラックから降りようとする俺をミカが止める。
「ミカ離せ! ルシアが!」
「タカオ! あの程度の火でルシアをどうこう出来ないから! よく見て!」
「何言ってんだ! ガソリンを頭から被って・・・・・・あれ?」
ルシアは確かに炎に包まれたはず。しかしルシア自体には炎は付いておらず、周りの地面が燃え上がっているだけ。
カーレッドは続けて火炎瓶をルシアに投げるが、全てルシアに斬り落とされ地面に広がっている。しかも炎がルシアを避けている様にも見える。
「どうなってんだ? あれは」
「あれも勇者の力ね。簡単に言うと、勇者の力を解放しているルシアには障壁が張られるの。ルシアの意思に関係なくね。だから一定以下の攻撃は全て無効化されるわ」
「そうなのか? じゃあ何でわざわざ斬ってるんだ?」
「相手に見せつけようとしてるんじゃないかしら。何をやっても通用しないぞって。時間稼ぎもあるしね」
カーレッドが投げた火炎瓶はルシアにとって何の障害にもならず、そのままルシアの接近を許してしまっている。
「また何か話しているな・・・・・・」
「んー、よし出来た。じゃあ行きましょうか」
ミカに連れられ、カーレッドの所まで行く。
「あ、ミカ。出来た?」
「ええ、もういいわよ」
ミカがそう言った途端、ルシアはカーレッドの後ろに回り込み、瞬時に組み伏せる。
「さて、カーレッドだったわね。初めましてでいいのかしら?」
「・・・・・・」
「まあいいわ。これが何か解る?」
ミカはルシアから受け取った短刀を見せる。
「今から、あなたを生きたままこの短刀に封印するから。あなたが死ぬと時間が戻るらしいわね? だから殺さないわ。生きたまま永遠にこの短刀の中にいなさい」
生きたまま封印と聞いて、初めてカーレッドの表情が険しい物になった。やっぱり死ぬことによって発動するんだな。
「じゃあ始めるわね」
ミカはブツブツと何かを呟きだした。封印の呪文か何かだろう。カーレッドは必死にルシアの拘束から逃れようと暴れているが、ルシアはものともせずに押さえつけている。
「もう少しだから大人しくしてなさい」
「ぐうっ」
更に強く押さえつけるルシア。
「く、畜生! お前に加護さえなければ始末できたのに!」
「加護? 何言ってんのこいつ」
ルシアとミカが俺を見る。
「あー、いや。封印されるから混乱してるんじゃないのか?」
「ああ? 何だ貴様、話して無いのか? じゃあ俺が代わりに言ってやるよ! こいつはな! 我が主であるアーリマン様の眷属になったんだ! しかも加護まで貰いやがって! 俺でさえ加護など貰っていないのに! ふざけやがって!」
ふざけやがって? カーレッドが貰っていない加護を俺が貰ったから? ・・・・・・まさか嫉妬で俺を狙ったのか?
「眷属? 加護? タカオ、何の話?」
「すまんルシア。後で話す。まずはこいつだ。ミカ、頼む」
「ええ」
詠唱が終わったのか、短剣は光輝いている。その短剣をカーレッドの額に当てる。
「畜生! 加護さえ無ければお前に記憶が残る事も無かったのに! 俺より先に半神になりやが――」
そこまで吠えてカーレッドは消えた。
「封印できたのか?」
「ええ、もう大丈夫のはずよ。これは何処かに埋めましょう」
ミカは、カーレッドが封印された短剣を懐にしまう。
「そうか。ありがとう。ルシアもありがとうな」
「うん」
「さあ、みんな待ってるから帰りましょう」
「ああ、そうだな」
俺達はトラックに乗り、7度目の出発をした。




