閑話 2
さて、どうしたものか。よく解らん攻撃で上半身と下半身を離れ離れにされてしまったが、再生には大した時間もかかるまい。ここまでやられるのは何百年ぶりじゃろうか。ん? 誰か歩いて来とるの。
顔を向けると、そこにはムーアが立っておった。
「何じゃ、やはりやられてはおらんかったか」
「ふん、あの程度で我がやられる訳があるまい」
「まあそうだとは思っておったがの。お主も大概不死身じゃのう。わらわの国に来んか?」
「お断りだ。我は地下などに住みたくは無い」
「地下は地下で涼しくて良いんじゃがのう。ところでムーア、すまんがわらわの下半身を持って来てはくれぬか?」
「ふん」
ムーアはわらわの下半身を投げてよこした。
「もう少し丁寧に扱ってくれても良さそうな物じゃが」
「いいから早く再生しろ。また奴らが来るかもしれんぞ」
「今やっておるわ。アルゴがどうなったか解るか?」
「いや、我も解らん。死んではいないとは思うが、何処かに飛ばされたと言っていたな」
「うむ、全く訳の解らん事ばかりじゃ。お主は何か解ったか?」
「融合どうこうはさっぱりだが、破壊神アーリマンの事は魔族では伝わっている」
「ほう、どんな風にじゃ?」
「破壊神アーリマン。破壊と創造を司る神とも悪魔とも言われている。古文書によると数千年前の魔王が、アーリマンの眷属だったと伝えられている。この世の理とは異なる力を使いこなし、世界を混乱に陥れたらしい。その魔王が、魔族 対 全世界で戦争を始め、最終的には勇者一行に討たれた。古文書にはそこまでは書かれているが、その後どうなったか迄は書かれておらんのだ」
「ふむ、わらわの方に伝わっている伝承とほぼ同じじゃが、こちらの文献にはその後が記されておるぞ? その魔王は勇者一行に討たれたが、最終的には破壊神の思惑通りに世界は破壊された。その破壊後の世界が、今のイグナスだと。大まかに言えばこんな風に伝わっておるぞ? それにその時の勇者一行がそれぞれの大陸に移り住み、国家を作り上げたとな」
「不死族の伝承か?」
「不死族と言うよりヴァンパイアのじゃな」
「ふむ、一度くらい地下帝国に行くのも良いかもしれんな。では破壊神アーリマンと言うのも満更嘘ではない様だな」
「そうじゃな、対策を練らんとな・・・・・・ん?」
ズズズン――
「む、また地揺れか・・・・・・今回もデカいな」
「これが融合によるものなら、イグナスと何処かの世界が・・・・・・・・・・・・のうムーアよ、何じゃあの塔は? しかも複数あるぞ? さっきまであんな物無かった筈じゃが・・・・・・」
「確かに・・・・・・四角い塔など我も見た事が無いな。あの光っている部分は何だ? あれも融合の結果なのか? む! いかん! 結界が破られる!」
ガシャアンッ!
ムーアの結界が割れる音と共に結界の上部から顔を出したのは、今迄に見た事が無いような巨大なドラゴンじゃった。
「な、何じゃ? あの巨大なドラゴンは!」
結界から無理やり顔を出したドラゴンは、次いで右手左手と結界の外に出した。上半身?を出したドラゴンは周り一周見回すと、大きく息を吸い込んだ。
「むう、ブレスか?」
ドラゴンはブレスを吐き、連合軍の一角を薙ぎ払う。
「何じゃあのブレスは!? あそこにいた兵達は何処に行った!?」
ブレスが通った場所には赤熱化した地面しか確認できない。兵は? まさか蒸発したのか?
「ムーアよ、ちょっと不味くはないかの? 流石のわらわもあのブレスを喰らって生き残る自信がないぞ。え?」
「うむ・・・・・・ここは――」
その時、空から青白い光の帯が降って来てドラゴンの右肩辺りに当たった。その光はドラゴンの右肩を貫き、壊れかけの結界内で大爆発を起こした。右腕を削り取られたドラゴンは凄まじい爆音で吠えた。
「ガアアアアアッッ!!」
「座標修正、X軸プラス30、Y軸マイナス5、チャージ完了後即発射」
いつの間にか後ろに誰かが立っておる・・・・・・何者じゃ? わらわは臨戦態勢を取るが、
「大丈夫だヒルダよ。こやつは空中城塞の者だ。そう警戒しなくともよい。して、確かエレノアと言ったな。加勢にでも来てくれたのか?
「ご機嫌麗しゅう、魔王ムーア様。そしてお初にお目に掛かります、不死王ヒルダ様。空中城塞の主、ファーザーの側近エレノアと申します。以後お見知りおきを宜しくお願い致します。ムーア様の仰る通り、主ファーザーの命により、事態が収束に向かう様に微力ながらも助力に参りました。・・・・・・申し訳ありません、少々お待ちください。・・・・・・座標修正、X軸プラス25、Y軸変更なし。攻撃範囲、座標より半径5mに指定。発射」
再び空から青白い光の帯が降って来る。今度はドラゴンの長い首の付け根、人間で言う “うなじ” を正確に打ち抜いた。
巨大なドラゴンはうなじから真っ直ぐに身体を貫かれ、残っているムーアの結界にもたれ掛かる様に崩れて行った。
「何じゃ? あの攻撃は?」
「あれは衛星軌道上からの砲撃です。Sunlight amplification laser 略してSALと言います」
・・・・・・何だって? わらわには意味が解らんぞ?
しかしドラゴンが倒れた事により、結界に隙間が出来てしまった。そこから飛翔型の魔物が空を埋め尽くす程飛び出して来る。
「エレノアよ、あの数もどうにか出来るのか?」
「はい、ムーア様。お任せください。・・・・・・敵航空戦力多数確認、50mm砲炸裂弾頭に変更後斉射。座標を合わせるまでも無い。328・003、326・465、の範囲内に弾頭をばら撒け」
「ムーアよ、こやつは何を言っておるんじゃ?」
「ヒルダ様。私は空中城塞へ攻撃指令を出しております」
「だそうだ」
「だそうだって、お主も解っておらんのじゃろ?」
「・・・・・・」
「黙って誤魔化すのかえ?」
「ふん」
「ムーア様、ヒルダ様。今回は100億近い数の敵と伺っております。ただ、如何に空中城塞と言えども、そこまでの武器弾薬、各種エネルギーは保持しておりません。今迄の攻撃も、次元砲の準備が出来るまでの時間稼ぎでしかありません。願わくばムーア様、ヒルダ様にもご助力お願いしたいのですが」
「無論だ。空はエレノアに任せて良いのか?」
「はい」
「良し。ヒルダよ、お前は封印の結界を構築出来たはずだな? 最大でどれ位の範囲で構築できる?」
「ん? そうじゃのう・・・・・・先程のお主の結界の1,5倍くらいかのう。しかしわらわの結界はS,Aランクまでの魔物しか効果は無いぞ? それ以下の低級な魔物は素通りじゃ」
「それで十分だ。それ以外の魔物は我がやる。そして漏れ出た低ランクは連合軍に当たらせればよかろう。ヒルダは結界にだけ注力しておれば良い」
「うむ、承知した。全く、ルシアやミカがいればまた違ったんじゃろうがの」
「いない者の事を言っても仕方があるまい。今ある物で何とかせねーー」
「・・・・ォォオオル! ハンマーーー!!」
「むっ!?」
ムーアは空に向かって障壁を張る。直後、強烈な雷が撃ちおろされる。
バシャアアン!!
「ぐううっ!」
いや、雷では無い。大きめのスレッジハンマーの様な武器をムーアの障壁に叩きつけている女がいた。
「おっ? 俺のトールハンマーを防ぐとは。お前中々やるな?」
地面に着地した女はそう言いおった。南部の踊り子の様な露出の多い衣を纏い、手には長柄のハンマーを持ち体の周囲には雷が走っておる。さっきは氷で今度は雷か?
「さっき俺の妹たちと話していた奴等だよな? 全く何やってんだあいつらは、まだ生きてんじゃねぇか。しっかり止めをしないから、こうなるんだよっ!!」
再びムーアにハンマーを叩きつける女。何度かハンマーを叩きつけた後、一旦距離を取った。
「おお~、俺の攻撃をここまで防げる奴は中々いないぞ。俺は雷帝エリシア、アーリマン様の眷属だ。さっきまでここにいた氷帝アリシアの双子の姉だ」
くっ、まだこんな奴がいたのか。後他に何人いるんじゃ? ルシア達と連絡が取れない今、これ以上はちょっと不味いぞ。
そんなわらわの心情を察したのか、エリシアが言う。
「何だ? 残りが何人いるのか心配か? へへへ、教えてやろうか? 全部で八人いるぞ? 全員その辺で狩りの真っ最中だ」
「さっき巨大なドラゴンを倒したので後七人ではないのですか?」
そうだ、エレノアが、と言うか城塞が? ドラゴンを倒したんじゃったな。
「あん? ドラゴンってハースのことか? ぶははは、あいつを倒したって? 全然、ピンピンしてんぞ? 訳の解らん攻撃を受けて、びっくりして龍化が解けちまっただけだぞ」
「では未だ八人全員存命だと?」
「そうだな。ショックか?」
「いいえ、そんな事はありません。この場であなたを倒すので、結局は同じです。」
「お? お前面白い事を言うな。この雷帝エリシア様を? 倒す? ぶはははは、おうっ! 出来るもんならやってみろや!」
一息に間合いを詰め、殴りかかるエリシア。しかし、エレノアはひらりひらりとエリシアの攻撃をかわしている
「・・・・・・ふむ、成程。元からの帯電体質に加え、そのハンマーに電気を流すことによって昇圧。インパクトの瞬間に放電、と。上手くできていますね」
「ぶははは、良く解ったな。大体合ってるが全然違うぜ」
「・・・・・・合っているのか合っていないのか、どっちなんですか?」
「ま、どっちかって言ったらハズレだな。俺は帯電体質なんじゃなくて・・・・・・」
エリシアはハンマーを捨てて――
「俺が雷その物なんだよ!!」
雷雲も無い空から雷が落ち、エリシアを直撃しおった。だがエリシアは全身に紫電を纏い輝き、その手には雷で出来た?ハンマーを持っている。
「さっきまでのハンマーからは上手く逃げていたが、この紫電から作られた真のトールハンマーからは逃げられるか?」
エリシアは雷槌を振りかぶる・・・・・・ん? あれは・・・・・・
「おいおい、おめえらさっき死んでなかったか? 生き返ったのか?」
くっ、こんな時にまたあいつか。バグヘッドと言ったか?
「全くジェイソンといいアリシアといい、本当にクソの役にも立ちゃあしねえな」
エリシアは振りかぶった雷槌を下ろし、バグヘッドの方へと向き直る。
「・・・・・・今何つった? バグソヘッド」
「ああ? おめえら姉妹はゴブリンのクソ程の役にも立たねえっつったんだよ!」
「んだとてめえ・・・・・・てめえから始末しても俺ぁ構わねぇんだぞ?」
「おう、殺れるもんなら殺ってみろや」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
おお、仲間割れか? いいぞいいぞどんどんやるが良い。こういう時は筋肉で物事を考える奴は好きじゃぞ。・・・・・・それにしても、何時の間に周囲にこれ程の砂が集まったのじゃ? 只の荒野だった場所が、今はまるで砂漠の様ではないか。
「死ねやバグソヘッド!!」
「てめえが死ね! クソ女!!」
エリシアとバグソ・・・・いや、バグヘッドの戦闘が始まりおった。わらわとムーアはお互いに目を合わせ、この場は撤退する事にした。エレノアは・・・・・・何じゃ、既におらんのか。いつの間に・・・・・・まあ良いわ。
わらわはムーアが展開している転移魔法陣へと向かおうとした時、
ズ、ズゴゴゴゴゴ・・・・・・
先程よりも激しい地揺れが始まった。
「こ、これは凄い揺れじゃ。立ってられんぞ!」
ムーアの方を見ると・・・・・・何じゃ、あ奴は! 自分だけ宙に浮きおってからに! ずるいぞ!
この揺れでは流石のバグヘッドも立っている事は困難らしく、片膝と片手を地面に付けておるわ。しかしエリシアは、ムーアと同じく宙に浮いていた。
「はん! 宙を飛べもしない下等生物が! 雷帝エリシア様を殺すだぁ!? 舐めた事を抜かしてんじゃねぇぞゴミが! てめえを殺した後、てめえのクソをてめえの口に詰めて豚の餌にしてやんよ!!」
・・・・・・しっかし口の悪い女じゃのう。親の顔を見てみたいものじゃわ。
宙を舞い揺れをものともしないエリシアは、バグヘッドを雷槌で滅多打ちにしている。
「ヒルダ! 早く来い!」
ムーアが急かす。解っとるわ。わらわだって急いでおるわ。じゃが揺れが激しい上に、砂に足を取られて上手く進めんのじゃ。何故一歩一歩こんなに足が沈み込む? まるで泥沼を歩いている様じゃ。
両手を着き、這うように進んでいたが、揺れが収まる頃には両手両足が砂に埋まって固定されていた。
「てめえええええ! 俺が動けないのを良いことに、好き放題やってくれやがったなああああ!!」
「好き放題やったがどうした! てめえはここで死ぬんだよ!!」
不味い、急がなければ。しかし何じゃこの砂は。何故いきなり固まる? 石の様に硬いぞ? どうなっとるんじゃ?
わらわは固定された手足を何とかしようともがいていたが、急に体が引っ張られ始めた。
「お、おい。待て待て。何が起こっとるんじゃ?」
「おいヒルダ! さっきから何をしている!」
「わ、解らん! 砂に手足を固定されたと思ったら、今度は身体が引っ張られるんじゃ!」
ズ、ズズ、ズゾゾゾゾ
その時、わらわの目の前の砂が動き始めた。何じゃこれは? 何故砂がわらわの腕を登って来るのじゃ?
ヒルダめ、砂に両手足を埋めて何をしている。今が撤退のチャンスだと言うのに。我も何時までも待ってはやれんぞ。大体引っ張られるとは何の事だ。
その時ヒルダの前の砂が動き出した。・・・・・・何だこの砂は? 何故風も無いのに動く? まるで生きているかの様にヒルダの腕を登っている。
「ヒルダ! その砂は何か変だぞ! 早くそこから離脱しろ!」
「そ、それが抜けん! 抜けんのじゃ! それに体が引っ張られる! 腕が、足がちぎれる!!」
その言葉を最後に、いや、ブチブチと言う音を最後にヒルダは我の目の前から消えた・・・・・・砂に埋もれた両手両足を残したまま・・・・・・




