6-5
ルシア・ザック・ルード・一樹・ジル side
「ねえおっちゃん、ジルにやらせてみてもいい?」
儂の後ろに来たカズキがそう言って来た。
「やらせるって何をじゃ? “ダ”への攻撃をか?」
「うん、そう」
「何を言っておる。下がっておれと言ったじゃろうが。それに儂らの攻撃を意に介さない防御力、儂でも腕を折られるほどの攻撃力。カズキにどうこう出来る訳が無いじゃろうが」
「うん、だから俺じゃ無くてジルがやるって」
「ジルが? 自分からやると言っておるのか? カズキはジルの言っている事が解るのか?」
「うん、何となくだけど。何か手があるみたいだよ?」
・・・・・・本気なのか? 確かにこの犬も凄まじい潜在能力を秘めておる。だがどちらかと言えばスピー
ド特化型じゃ。ジルの牙や爪で “ダ” の防御を破れるとは思えん。
「やらせてみても良いんじゃねえか? どうせこのままじゃじり貧だ。何か手があるなら、試させても良いとおもうぜ? この分じゃルシアも直ぐには治らないぞ」
ルシアを抱いてザックが戻って来た。
「だがのう・・・・・・」
「ルード、はっきり言ってお前の腕はもう使い物にならないよな? ルシアだってそうだ。それに俺の攻撃は通らない。やるだけやらせてみようや」
「解った。子供や犬に任せるのも情けない話じゃが、打つ手がないのも事実。ジルよ頼むぞ」
「わうっ!」
一鳴きしてジルは “ダ” へと歩み寄る。
「何だ? 今度は子供と犬か? 子供の腕力や獣如きの牙で、私の皮膚を貫けるとでも思っているのか?」
「俺じゃないよ、ジルがやるって」
「・・・・・・まあ良い。何でもやって来るが良い」
「よし! ジル、やれ!」
「グルルルルウゥゥ・・・・・・」
ジルの全身の毛が逆立っている。力を溜めておるのか? 何をするつもりなんじゃ?
「カアッ!」
ジルは口を大きく開けた。ブレスを吐くのか? いや、何も出ていない様じゃの。何をしとるんじゃ? しかし、随分と力んでいる様じゃが。
「なあルード、あいつ何やってんだ?」
「儂にも解らん。ブレスかと思ったんじゃが」
「何も出てないよな?」
「そうじゃの」
しかし “ダ” の表情が段々と歪んできておる。目に見えない何かを吐き出しているのか?
「ぐ、ぐううう・・・・・・」
“ダ” が片膝を着く。
「な、何だこれは、何が起きて――」
パンッ! と言う音と共に、“ダ”の左のこめかみの辺りが破裂し、赤い血が噴き出した。
「わ、私の皮膚が弾けただと?」
次いで “ダ” の全身が次々と弾けて行く。
「ガアアア、何ダそれは? や、ヤメろ・・・・・・」
4本の手を全て地面に付け、全身血だらけで必死に耐えている “ダ” 。ジルが何かをやっているのは確かじゃが、一体どういう事じゃ?
「おいおい、ジルのやつあいつを倒しちまうんじゃねえか?」
「うむ、何をしているのかは解らんが、体内に直接干渉する何かを吐き出している様じゃの」
「グウウウウガアアアアアアアアッッッ!!」
ドパンッ!
「うおっ! あいつ破裂したぞ! すげえな! 俺達が手も足も出なかった奴を、一人で倒しちまったぞ!?」
「ジルお疲れー。良くやったね、偉いぞ!」
ジルはカズキに褒められて嬉しそうじゃ。
「どうだった? ジル凄いでしょ?」
「あ、ああ。本当に見事じゃ。良くやったぞジル」
「なあ、何をやってたんだ? 何で “ダ” は破裂したんだ?」
「んー解んない」
「解んないってお前・・・・・・知っててやらせたんじゃないのかよ」
「えー、解んないよ。ジルが出来るって言うから」
「まあ今は良いじゃろう。帰ってからタカオに聞けば何か解るじゃろ?」
「それもそうか、ルシアもこんなだしな」
「ああ、全く。油断し過ぎじゃわい。しかし何故これだけの数のレギオンが、ミカの探知に引っかからなかったんじゃ?」
「あー、そういやそうだな。この距離じゃ解らない筈が無いよな」
「うむ。世界を超えた事で、儂等にも何か起きているのかもしれんな」
「帰ったらミカに聞いてみようぜ。で、“ダ” はどうする? 元はギガントドラゴンなんだろ? 素材的
には結構良いんじゃねえか?」
「うむ、儂もそれは思った。じゃが片腕がこれじゃからのう」
「だな、俺もルシアを運ばないといけないしな」
「後でタカオにとらっくで取りに来てもらえばいいじゃろう」
「解った。じゃあ一先ず帰るか」
儂等はルシアを気遣い、ゆっくり戻ることにした。
タカオの家に到着したが、タカオ達はまだ帰っていない様じゃ。ザックはルシアを寝かせ、カズキはナイフ投げの練習に戻った。
「しかし、あと19人もあんな奴が来るのか?」
「そうじゃな。 “ダ” は20人と言っておったしな」
「ミカ達もかち合ってるんじゃないか?」
「うむ。そうだとしてもだ、ミカがいるから大丈夫じゃろう?」
「それもそうか。炎帝だしな」
「そうじゃ。まあ儂等はタカオ達が帰って来るまで、戦闘の疲れを癒すとするか」
「それはいいけどよ、そろそろ酒が無くなるぜ?」
「なんと・・・・・・また調達に行かんとのう」
「お、音がするぞ? 帰って来たんじゃねえか?」
外に出ると二台のとらっくが走って来る。一台はタカオとミカが乗り、もう一台は幌馬車の様じゃな。カズマが運転しておるのか。
「おー、悪いな。ちょっとトラブルがあってって何だルードその腕! 変な方に曲がってないか? それに真紫じゃんか! 折れてるのか? どうしたんだ!?」
「うむ、儂等の方もちょっとトラブルがあっての。腕を折られてしまったんじゃ。」
「もしかして眷属が現れた?」
「何じゃ、ミカの方もか。まあ中で話そう。ルシアも傷を負ってな、ちょいと治りが遅そうじゃから治癒魔法を掛けて欲しいのじゃ」
「そう、解ったわ。ルードもその時でいい?」
「ああ、頼む」
「一樹は無事なのか?」
「ああ、カズキは何とも無い。向こうでナイフ投げやってるぜ」
「そうか。一馬、荷卸しは後でいい。一樹を呼んできてくれ」
「解った」
家に入るとルシアはソファに座っていた。
「あ、タカオお帰りなさい」
「傷を負ったと聞いたけど大丈夫なのか?」
「うん、肋骨を数本折られて気を失っただけ」
「肋骨って。大丈夫じゃないだろ? 寝てろよ! 何座ってんだよ」
「落ち着いてタカオ。骨折程度直ぐに治せるわ」
「じゃあ早くやってやれよ。痛いだろ? ルシアにしてもルードにしても」
「うん、痛いけど慣れてるから大丈夫だよ。心配してくれてありがとう」
「慣れてるって・・・・・・」
「タカオよ、儂等は魔物が跋扈する世界で生きていたんじゃぞ? 骨折程度でピーピー言う程柔ではないわ」
「ふふ、それも文化の違いね。じゃあルシア、始めるわよ。服を捲って」
「ええ、お願い」
ルシアはジャージを捲り右脇腹の患部を出す。うわ、こっちも真紫だ。あの出っ張っているのって肋骨か? ミカはぼんやり光る掌を患部に当てる。おお、みるみるうちにうっ血している部分が引いて行く。凄いな乳魔法。・・・・・・いや、違う。ルシアさん、捲ったジャージの裾から下乳がこんにちわしてますよ? ブラジャーとか無いのか? いや、違う違う。怪我人相手にどこ見てるんだ俺は。
「これでいいわ。はい、じゃあルード」
「うむ」
再びぼんやりと光る手をルードの腕に当てる。うわぁ。ルードは曲がった腕を引っ張って、真っ直ぐにしている。痛くないのかよ・・・・・・。
「何じゃタカオ。痛いに決まっておるじゃろ。じゃがこうやって出来る所は補助をすれば、それだけ治りも早くなるのじゃ。術師のマナの消費も抑えられるしの」
「そ、そうなんだ」
「これでどう?」
「うむ、大丈夫じゃの。すまんな」
「ええ、で? そっちは何があったの?」
私達はお互いの情報を交換した
「ふむ、やっぱりそっちにも現れたか」
「ええ、こっちは楽だったけど、そっちは大変だったのね。それにしてもあと18人もいるのね」
「うむ、全員こっちに向かっていると言っておったな」
「そうね、その前にタカオとカズマにマナ中毒が発症してくれると良いんだけどね」
「まあな、そうすれば守るのも楽になるしな」
「ん? 何で楽になるんだ?」
「そりゃああれだ、多少の事では死ななくなるからだよ」
「ああ、成程ね」
「それはそうとミカよ、お主の探知魔法は正確に探知出来ておるのか? あの山の向こうじゃから範囲内じゃろ?」
「ええ、そうね。それ程の集団がいたのに気づかない事。それと周囲には敵はいないつもりだったけど、私も “バズ” に相当近づかれるまで気付かなった事。正確に探知できてるかと言われたら自信が無いわ。何が起きているかは解らないけど、警戒レベルを少し上げて行動した方が良いかもしれないわね」
「成程の。ミカでも解らん何かが起きているかもしれんのか。では全員もう少し警戒を密にする事にしよう」
「「「解った」」わ」
「俺達にはそんな技術無いから、その辺は任せるよ」
「うむ・・・・・・そう言えばタカオよ。さっき言ったジルの技に心当たりは無いか?」
「ああ、あるよ。でも俺も専門じゃ無いから詳しくは説明できないぞ?」
「うむ、構わん」
「何て言ったらいいのか・・・・・・マイクロ波って言ってな、こう、目に見えない波みたいな物でな。それを浴びせると・・・・・・えーっと分子って言っても解らないよな。まあ簡単に言うと、体内の水分を沸騰させたんだよ。それで破裂したんだ」
「外側が硬いのは関係ないのか?」
「無いな。例えば卵とかにマイクロ波を浴びせると、同じように破裂するぞ? 外側は関係ない。水分に直接作用するらしいからな」
「興味深いわね。どうやってそのまいくろはを出したのかしら?」
「電気を使ってやるからな。ジルは雷とか使えるだろ? だからじゃないか?」
「ふーん、私にも出来るかしら?」
「どうだろうな? 雷その物じゃ無いからなぁ」
「まあそれも後々研究対象にするわ。それはともかく、どうしてジルはそのまいくろはを知っていたのかしら?」
「・・・・・・さあ?」
「野生の本能とかじゃないのか?」
「野生ねえ。飼い犬だぞ?」
「ふむ、まあいいじゃろう。ジルに助けて貰った事には変わりない」
「よし、じゃあタカオ。“ダ” の死体を取りに行くのを手伝ってくれ」
「何で? そんな物持って来てどうするんだ?」
「素材的に美味しいんだよ」
「ふーん、どの辺なんだ?」
「そっち側の山の向こうだな」
「山の中か?」
「いや、開けてる場所だったぞ? 周りに建物もあったし。石切り場みたいな場所だったな」
「まあ行くだけ行ってみるか。ザックが行ってくれるのか?」
「ああ、俺だけ無傷だったしな」
「私も行くわ」
「取りに行くだけだぞ?」
「死体の状態を見たいから」
「そうか。ルシアとルードは良いのか?」
「儂等は少し休憩じゃ。傷は癒えたとは言え、消耗したマナは回復しておらんのでな。少し休んで回復させんとな」
「そうか、ルシアも眠そうだもんな。解った。じゃあ一馬達の事頼むな」
「うん、解った」
「任せておけ」
俺とミカ、ザックはトラックに乗り “ダ” とやらの死体を取りに行った。




