6-4
孝雄・一馬・ミカ side
俺達は何事も無くモールに到着し、アウトドア用品を物色していた。
「まずは燃料系だろ? ガスとホワイトガソリン。そう、それ。それに人数分の寝袋。あ、寝袋は予備も持って行くか。って言うか、ルードのサイズの寝袋なんて無いぞ。あとは、コンロも一個しか無いから・・・・・・小さいのと大きいの二つずつ。あとは何だ? なあ、ミカ達はこんなのでキャンプするのか?」
俺は展示してあるテントをミカに見せる。
「これテントなの? 随分と薄くない?」
ゴソゴソと中に入り物色している。
「まあ薄いけど、それなりに雨とかも大丈夫だぞ?」
「ふーん、よく解らない物が一杯ね。これは椅子なの?」
「ああ、椅子でもいいし、ベッドとしても使えるやつだな」
「へえ、中々良いわね。こっちの世界のキャンプは快適そうね。イグナスでは幕を張るだけで地面に寝るのよ。まあ敷物位は用意するけどね」
「ふーん、まあ技術レベルの違いだな。一馬、折り畳み椅子も人数分+α積んでくれ」
「はいはーい」
「私も気になった物を持って行っていい?」
「ああ、カートを持って来て好きな物を入れたらどうだ? 誰も使わないだろ?」
「解ったわ・・・・・・・・・・・・ついでに外を見て来るわ」
ミカは入口の方に走って行った。・・・・・・? 何であんなに急いでるんだ?
「ねえ父さん。携帯食とかもあるけどどうする?」
「んー、日持ちする物は全部持って行った方が良いかもな。恐らくそう遠くない将来、自給自足の生活が始まるからな。道中でも回収するとは言え、それまではもたせないといけないからな」
「だね、じゃあ食べられるものは全部持ってくね」
「ああ、頼む」
・・・・・・ミカが戻って来ないな。一人で見て回ってるのか?
「後は何が必要だ? 何か思い付くか?」
「何だろうね? その場にならないと解らないよね」
ズズン・・・・・・
「何だ? また地震か?」
いや、地震って感じじゃ無いな。何かの爆発か?
「一馬、外見に行くぞ」
「うん」
二人で店の入り口まで行くと・・・・・・駐車場は火の海だった。
「な、何これ?」
「何だ? 火事か?」
俺達が目の前の光景に困惑していると、少し離れた場所で連続して爆発が起こる。 何が起きているんだ? ミカは? ミカは何処に行った?
立ちすくむ俺達の前に、ミカが空から降りて来た。
「タカオ、ごめんなさい。眷属が襲って来たの。気付くのが遅れたわ」
そう言いつつも振り返り、手をかざし何かを展開するミカ。そこに赤い球体が当たり爆発する。
「本当にごめんなさい。私のミスだわ。結界を張るから中にいて動かないでね。直ぐに倒して来るから」
そう言って俺達の周囲に球状に結界? を張り飛び去ろうとするミカ。
「お、おい! 待てミカ! 一人で大丈夫なのか!」
「大丈夫よ。むしろ私の実力をタカオに見せるいい機会だわ。じゃあこの中にいてね」
その時、火の海の向こうから何者かが歩いてきた。
「何だ? 他にもいたのか? 探す手間が省けたな」
「・・・・・・何だありゃ?」
人・・・・・・なのか? 上半身は人の形をしているが、下半身、腰から下は火の塊? 足が火なのか?
「あなたの相手は私よ」
「ん? そうか? まあ後ろの奴らは何の能力も無さそうなムシケラみたいだしな。お前の方が楽しめそうだ」
「・・・・・・」
「ん? どした?」
「・・・・・・・・・・わね」
あれ? ミカさん? 何か雰囲気が・・・・・・
「何だよ? 聞こえねーぞ? 戦意喪失か?」
「私の旦那様に向かってムシケラって言ったわね? 灰一つ残さず焼き尽くしてやるわ!」
ミカは言い終わると同時に、火球を掌から撃ち出す。
「ははは、さっきも思ったがお前も炎を使うんだな? だがそんなちんけな炎じゃ俺は何ともないぞ? 炎ってのはこう使うんだ! ヘルファイア!!」
ゴバン! と言う音と共に、辺りに炎が広がる。いや、広がると言うより充満している。炎の竜巻になっているのか? 俺達はミカの結界に守られているから、熱さも感じないがミカは外だ。大丈夫なのか? 炎の勢いが強すぎてミカの姿が見えない! 火男の笑い声しか聞こえないぞ?
「ははははは、燃えろ! 全部燃えちまえ! 俺様の最高の炎で焼き尽くしてやる!」
「ねえ、父さん。ミカさん大丈夫なの? ヤバくないこれ?」
「いや、俺だって解らねえよ。ミカ! ミカ!!」
「だから大丈夫だって言ってるでしょ?」
「ミカか? どこだ? こっちからは見えないぞ!?」
「あのね、炎帝と呼ばれていた私がこの程度の炎でどうこうされる訳無いでしょ? もう終わらせるから、
あと少しだけそこで待ってて。 アブソーブ」
途端に周り中に燃え盛っていた炎が消えた。ミカはさっきと同じ場所にいる。少しも焼けた様子が無い。
「あ、あれ? 俺様の炎が・・・・・・て、てめえ何しやがった!」
「何って、特別な事は何もしてないわよ? あなたの炎が弱かっただけでしょ?」
「ああ? 何もしないで俺様の炎が消える訳ねーだろうが!」
「あなたの炎ならここにあるわよ?」
そう言ったミカの手のひらには、テニスボール大の光輝く球体が乗っていた。
「あなたもあれだけ時間をあげたのに、これしきの量しか炎を出せないなんて
・・・・・・大した事無いのね」
炎の渦を掌の球体に変換したのか? そんな事も出来るのか? 相変わらず異世界の常識はこっちの世界の非常識・・・・・・いや、火男も驚いているから、ミカがやっている事が非常識なのか?
「あ、有り得ねえ・・・・・・俺の、炎帝バズと呼ばれた俺の炎をそんなああああー!!」
火男はミカに向かって連続して火球を撃ち出す。しかし火球はミカに当たる直前に霧散している。そしてミカの手に乗る球体が、少しずつ大きくなっている。
「やれば出来るじゃない。もっと頑張りなさいな」
「があああああっ! ふざけんな! 何で! 何で俺の炎が!!」
火男はあらゆる火の魔法を使ってミカに攻撃しているが、全て無駄に終わっている。いや、無駄では無いか。ミカの持つ球体がどんどん大きく育っている。
「な、何でだ・・・・・・炎帝と呼ばれた、俺の、俺の炎が・・・・・・」
撃ち疲れたのか、肩で息をしている火男。ミカの持つ光球はバスケットボール位の大きさになっっている。
「・・・・・・あなたは二つの大きな間違いを犯したわ。一つ目は、あなた程度の実力で炎帝を名乗り、私の前に立ったこと。私に火傷一つ付けられないで、よく炎帝なんて名乗れたわね」
「な、何言ってんだ?」
「私もイグナスでは畏怖を込めて炎帝って呼ばれていたのよ? 私はあまり好きじゃ無かったけどね。そして二つ目。こっちの方が重要よ」
ちょっとミカさん? 後ろからでも解るほど怒ってませんか? 肩がプルプル震えてますよ? 結界の中にいても感じるんだけど、凄まじい程の殺気を出していませんか? 一馬も顔が真っ青なんですけど?
「あなたは私が探し求めて、やっと、やっと見つけた運命の伴侶を、ム、ム、ムシケラ呼ばわりした事! これは許せない! 最初に言った通りに灰一つ残さないわ!」
「ちょっ、ちょっと待っ――」
「うるさい! 死ね! アグニ!!」
!? 何だあれは? 火男の周りに・・・・・・魔法陣なのか? 凄い数の魔法陣が火男の周りに展開される。360度全方位に展開している。魔法陣の棺桶みたいだ。そしてミカの手にあった光球が魔法陣の内側に出現した。アレって火男の炎を収束したって言ってたよな。それで黄色っぽく光輝くって・・・・・・まさか、小型の太陽か!?
「不味い! 一馬、目ぇ塞げ!」
「え、何で?」
「ミカの奴小型の太陽作りやがった! 直視すると目が潰れるぞ!」
「ええっ!」
俺と一馬は眼を瞑り後ろを向いてしゃがみこんだ。
「ちょっ、俺が悪かった! 待て! 待ってくれ!!」
「うるさい。早く死ね」
「待っギャアアア――」
何が起きているのかは解らんが、魔法陣の結界内で焼き尽くされているんだろう。後ろを向いて目を瞑っているのに、瞼から光を感じる。どれだけの光を発してるんだ。
「一馬! 目ぇ瞑ってるか!?」
「うん! それでも眩しいって大丈夫なのこれ!」
「解らん! ミカが良いって言うまで目ぇ瞑っとけ!」
「解った!」
30秒位経ったのか? ジュウジュウと言うかグズグズと言う、恐らく火男を焼いている音が止んだ。
「二人とも良いわよ?」
恐る恐る目を開け、ミカの方を振り向く。・・・・・・思ったより何も無いな。焼死体とか見るのを覚悟していたけど。ついでにミカも元に戻っている様だ。
「ミカ、お前なあ、あんな事やるなら先に言ってくれよ。目を塞がなかったらヤバかったぞ」
「あら、結界に入っていたからタカオ達には何の害も無いわよ? あのまま見ていても大丈夫だったのに。怒りで我を忘れてても、私がタカオ達に害をなす事をする訳無いでしょ?」
「まあ、それはそうかもしれんが・・・・・・で、本当に何も残っていないんだな」
「ええ、言った通り灰まで焼き尽くしたわ」
「炎帝って呼ばれてたんだって?」
「ええ、戦争で何度も敵兵の大群を焼き払っていたらいつの間にかね」
「さっきのも魔法なのか?」
「ええ、でも純粋な攻撃魔法じゃなくて、相手が放った魔法を吸収して結界内に放出する魔法ね。大群相手には使い勝手が悪いけど、さっきみたいな手合いだととても有効ね」
「ふーん」
「でも相性が良かったのもあるわ。もしさっきの奴にルードが一人で会っていたら、負けはしないでも相当手傷を負ったと思うわ」
「成程ね。さっきの魔法はオリジナルなのか?」
「そうよ。私だけしか使えないわ」
「他にも色々とあるのか?」
「ええ、でも先に物資の調達を再開しましょう。話ながらでも出来るでしょ?」
「ああ、大体選び終わってるから俺がここまで持ってくるよ。父さんはここで話してなよ」
「お、悪いな一馬。ミカ、念の為なんだが・・・・・・」
「ええ、私の探知範囲には今度こそ誰もいないわ。安心して」
「解った、ありがとう。じゃあいいか? 一馬」
「うん、解った。行って来る」
一馬は数台のカートを取りに店内へと戻って行った。
「で、私が使える魔法だったかしら? 単体攻撃魔法から広範囲殲滅魔法。生活魔法から治癒魔法まで。大体使えるわよ」
「火だけなのか?」
「いいえ。ほぼ全ての属性を使えるわ。使えないのは勇者固有の光魔法だけね」
「光? 昨日部屋に光の球を出して無かったか? あれは違うのか?」
「あれは生活魔法のライト。只の光源よ。光魔法では無いわ」
「ふーん。ルシアに聞いた方が早いのか?」
「んー、どうかしら? あの娘あまり光魔法使わないのよね」
「ん? 何でだ? 固有能力なんだろ?」
「ええ、そうなんだけど。以前聞いたら、剣で斬った方が早いって言ってたわ」
「はは、何だそりゃ? 脳筋か」
「ノウキンって何?」
「脳みそまで筋肉で出来ているって意味。脳みそが筋肉だから、言葉で話し合ったりしないで身体で語り合う、みたいな感じか?」
「ふふ、正に戦闘の時のルシアにぴったりだわ」
「しかし本当にミカだけで世界征服出来そうだな」
「だから何度も言ってるでしょ? タカオがその気ならって」
「ルシア達を敵に回してもか?」
「それはダメ。解って言ってるでしょ?」
「ああ、勿論だ。お、一馬が来たな。じゃあトラックに積んでってトラック!? 俺らが乗って来たトラックは!?」
「あ・・・・・・えーっと、あれかな?」
「・・・・・・黒焦げだよ・・・・・・何だよ、またトラック探すのかよ」
「ごめんなさい」
「いや、ミカが悪い訳じゃ無いだろ? さっきの火男が襲って来たんだろ?」
「ええ、それはそうだけど」
「ミカは俺達を守ってくれたんだ。感謝はしても文句なんか言わないよ」
「解ったわ。」
「よし。一馬、トラックはさっきの奴が燃やしちまったからよ、その辺に探しに行くぞ」
「え? あ、そうだよね。トラックで来たんだった。忘れてた」
「今度は幌付きのトラックにするか。雨が降ったら濡れちゃうからな」
「そうだね。埃とかも多少は防げるだろうし」
そうして俺達は、三台目のトラックを探しに行った。




