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A fused world / 融合した世界  作者: あにゃこ
1-6  ”ダ” と 炎帝バズ
34/75

6-2

 ルシア・一樹・ジル side



 あれから何分経ったのかな? 激しくリズムを打ち鳴らしていた鼓動も、茹で上がったかのように何も考えられなかった思考も、やっと落ち着いたみたい。


 婚姻の証をタカオから貰いたいって思っていたけど、今迄はそんな事を言い出せなかった。だからさっきはこれ幸いとタカオにお願いしてみたら、思ったより簡単に受け入れてくれた。聞けばこっちにも似た風習があるかららしい。


 ふふふ、短刀貰っちゃった。しかもタカオのお気に入りの短刀だって。うふふふ、タカオは短刀を渡す意味を知ってるのかな? 知ってて渡したのかな? ふふ、そんな訳無いよね。私だってそこまで期待はしていないよ。だって、だって、そ、その後、タカオが、タカオから、タカオにキ「ルシアちゃん見っけ!」いぃぃぃ!


 扉を開けて入って来たのは、タカオの次男のカズキ。何よ? 何なのこの子は? 今良い所だったのに。さっき意識を飛ばされた仕返しなの? 


「な、何かな?」


「ルシアちゃん、ナイフの投げ方教えて」


「ナイフの投げ方? 投擲術の事?」


「そう、それ。お父さんが、ルシアちゃんが教えてくれるって言ってたよ?」


「タカオは?」


「お父さんは、おにいとミカちゃんと車の練習にどっか行っちゃった」


「ふーん、タカオは練習していいって言っていた?」


「うん、ルシアちゃんにしっかり教えて貰えって言ってたよ」


「そう、なら良いわ。教えてあげる。カズキは投げナイフとか持っているの?」


「んーん、無いよ。お父さんが危ないからダメだってくれなかった」


「そう。じゃあ私ので練習しようか」


「うん、お願いします!」


 私とカズキはさっきの畑に向かった。


「ねえ、ルシアちゃん。さっきは俺に何をしたの? 急に頭が白くなって、気付いたら家の中だったんだけど」


「ああ、さっきはね、殺気を飛ばしたのよ」


「ぶふぅっ!」


 カズキがいきなり噴き出した。何か変な事言ったかしら?


「何で笑うの?」


「だ、だってさー。さっきはさっきを飛ばしただって。いひひ。何それ? おやじギャグ?」


 ・・・・・・これだから子供は・・・・・・思った事をすぐに口にする。


「さ、さあ、ここでやるわよ」


「はーい」


「じゃあ、的になる物を用意しましょう」


「何がいいの?」


「そうね、ある程度の大きさがあって、ナイフが刺さる物ね」


「じゃあそこの家の壁は? 木だから刺さるよ?」


「うん、良いわ。そうしましょう。ではまず初めにお手本を見せるわね」


「うん」


「はい、これが投擲用のナイフ。ミスリル製で良く切れるから気を付けてね」


「へー、ミスリルなんて本当にあるんだ」


「こっちには無いの?」


「無いね。話の中だけの不思議金属だね」


「ふーん、そうなんだ。で、ナイフはこう持ちます。そして構えて投げるんだけど、真っ直ぐ投げるには手首を固定する事。固定しないで投げたら回転が加わって刺さらなくなるわよ。だからこんな風に腕を振って投げると――」


 シュコンッ!


「ああやって上手く刺さるわ」


「おお~」


「熟練者になるとこうやって、手首だけでも投げれる様になるかな?」


「へー」


「まあ直ぐにコツを掴めると思うよ? はい、とりあえず五本渡しておくね」


「おー、ありがとう」


 カズキが投擲の練習を始めた頃、ジルが寄って来た。私の顔をじっと見つめている。


「何かな?」


「わふん」


「ちょっと解らないな」


「あうっ」


 ジルはカズキの方を見ている。・・・・・・何をしたいのこの子は? カズキと遊びたいの?


 丁度その時、ザックが戻って来た。


「あらザック、何処まで言っていたの? ルードは?」


「おうルシア。あそこの山の向こうにな、レギオンの集団がいるぞ。数的には800程度だったな。今はルードが見張っているが・・・・・・どうする?」


「こっちに来そうだった?」


「んー、正直解らん。現状では部隊編成中に見えたな。今すぐどうこうって事は無さそうだったがな」


「編成はどんな感じ?」


「御馴染みのゴブリン大小が各300、ウォードッグ部隊100、グレムリン50、 トロル50、それに指揮官って所だな」


「微妙な数ね・・・・・・」


「あん? 余裕だろ?」


「ほら、カズキの練習に良いかなって思ったけど・・・・・・」


「あー、成程な。素人に経験を積ませるにはグレムリンとトロルが邪魔だな」


「でしょう?」


「ま、大丈夫だろ? 俺達でグレムリンとトロルと指揮官をやっちまって、残りはカズキで行けるだろ?」


「でもそれだと簡単過ぎない?」


「そうか? じゃあトロルをやらせるか? 再生能力もあるから丁度良いんじゃねえか?」


「その方がいいかな? ザックはグレムリン、ルードが指揮官、私がゴブリンとウォードッグでトロルはカズキ」


「それで良いんじゃねぇか?」


「いざとなったら私達もいるしね。じゃあそれで行こう。カズキ!」


「ん? 何、ルシアちゃん。あ、ザックのおっちゃんいつ帰って来たの?」


「ああ、ついさっきだ」


「今から私達と修行に行くわよ? やる気はある?」


「あるよ! 修行って何!?」


「それは現地に着いてからのお楽しみね。じゃあまずは、あそこの山まで走るわよ」


「解った! あ、ナイフは? 一回返す?」


「いいえ、使うかもしれないから持っていていいよ。はい、このベルトにナイフを差して。そう、それで太腿に巻いて・・・・・・」


「うおー! カッコイイ!!」


「そ、そう、良かったね。それなら直ぐに取り出せるでしょ?」


「うん、ルシアちゃんありがとう!」


「おし、そろそろ行くか?」


「ええ、行きましょう」


 私達はルードが待つ場所まで走り出した。





 孝雄・一馬・ミカ side


 見つけた鍵でドアロックを解除して乗り込む。ミカが運転席で俺は助手席だ。はっきり言って物凄く怖い。だってそうだろう。数日前まで自動車の存在すら知らなかったのに、いきなり運転するなんて。


「で? どうするの?」


「どうするのって・・・・・・覚えたんじゃ無いのか?」


「真ん中のこれが、カズマのとらっくとは違うじゃない。それに踏むやつが二つしかないわ」


「ああ、成程ね」


 マニュアル車とオートマ車の違いね。


「そうだな。じゃあまずはエンジンを掛けて。そうすると、ここに表示が出るだろ? Pが車を止める時、Rがバック。後ろに下がる時だな。 Nは・・・・・・あまり使わないかな? で、Dは前進だ。まあ運転する時はずっとDにしておけばいい」


「左のペダルを踏んで、そう踏みっぱなし。踏んだ状態で、ここを押しながら前後に動かすんだ。そうすると・・・・・・」


 ミカに表示される文字と車両の動きを教える。


「うん、解ったわ」


 ミカはシフトレバーをDに入れ、アクセルを軽く踏む・・・・・・


「タカオ。何で進まないの?」


「ん? ああ、サイドか。サイドブレーキって言ってな、車を止めている時に動かない様にするための物でな。先端を押しながら少し上にあげると・・・・・・そう、それで下まで下げるんだ。これで走れる」


「何で全部教えてくれないの?」


「すまん。こっちでは常識だから、知っているだろうって考えちゃうんだよ」


「ふーん、まいいわ。じゃあ行くわよ」


「な、なあミカ、くれぐれも安全運転でな。スピード出すなよ?」


 俺はシートベルトを締める。


「ミカもベルトやれって」


 ミカの方に手を伸ばし、シートベルトを装着させる。


「これは何?」


「安全装置だ。これをやっていないと、事故した時にスポーンと飛んでいくぞ?」


「ふーん。まあ私は大丈夫ね」


「何だよその自信は。何処から出て来るんだよ?」


「ほら、何時までもここで話していてもしょうがないわよ? はーいしゅっぱーつ」


 ゆっくりと駐車場から車を出し、道路に向かって走らせるミカ。お、丁度一馬が通ったな。今は右回りか。


「丁度いいわ、カズマの後ろを走りましょう」


 うん、一馬も余りスピードを出していないな。直線で50㎞位か。放置車両も多いからそんなものだろう。


「しかし・・・・・・思った以上に運転が上手だな」


「だから見て覚えたって言ったでしょう」


「見ただけで出来る物でも無いと思うんだが・・・・・・ん? どうした?」


「・・・・・・ちょっと待って」


 ミカは車を止めた。


「ルシアの気配が離れて行ってる。ザックと・・・・・・カズキね、ジルもいるみたい。四人で向こうの方へ向かっているわ」


 そう言って東の山の方を指さすミカ。


「何かあったのか?」


「さあ? 解らないわ。でも何かあったとしても、ルシアとザックがいれば何の心配も無いわ。それに本当に危険な事態が起きていたら、ルシアかザックが言いに来るはずよ?」


「・・・・・・まあそれもそうか」


「ええ、三人だけで行ったって事は修行の一環だと思うわ。それよりも、ここを回っているだけじゃ飽きるわ」


「ん? それもそうか。じゃあここで一馬を待って、来たら一緒に他の場所に行こう」


「ええ、お店がある所がいいわ」


「店? 何の?」


「何でもいいわ。こっちの世界の物を見てみたいの」


「ん? 例えば何だ?」


「そうね、服が見たいわ」


「服って・・・・・・その魔女っ子スタイルじゃ駄目なのか?」


「・・・・・・夜タカオと寝る時に着る服よ」


「お前は・・・・・・またそっちかよ。そんなの見に行くのにルシアを置いて行って良いのか?」


「む、それもそうね。じゃあ今は下見って事で」


「そうですか・・・・・・でも近くには無いぞ?」


「そうなの? あまりここから離れても不味いわね」


「だろ? だから今度にしようぜ。どうせ道中に沢山あるから」


「解ったわ。じゃあ近場でタカオが行きたい所は無いの?」


「俺か? 急に言われてもなぁ・・・・・・あ、一馬が来たからちょっと待って」


 俺は車を降りて一馬を待つ。ミカも車から降りて伸びをしている。しかしルシア達は何処まで行ったんだ? 走って行ったから近場なのか?


 車から降りている俺達の横で一馬は止まった。


「どうしたの? 何かあった?」


 一馬はトラックを降りて肩を大きく回しながら訪ねて来る。


 なんだ? 慣れない事をして肩凝ったか?


「ミカが他の場所に行きたいって言ってるんだ。一馬は何処か行きたい所あるか?」


「え、急に言われてもな・・・・・・あー、じゃあシティモールのスポーツ屋に行かない? あそこアウトドア用品多かったよね? 車なら行って帰っても1時間ちょっとしか掛からないでしょ?」


「そうするか? 練習にもちょうどいい距離かもな。ミカもそれでいいか? キャンプ用品とかが多い店なんだが」


 周囲をきょろきょろしているミカに尋ねる。


「いいわよ。でもレギオンの反応があるから、私もそっちに乗って行くわ」


「反応って近いのか?」


「今はまだ遠くにいる。でもこの先どう動くかは解らないわ」


「俺達の方に来る可能性もあると?」


「全く無い、とは言い切れないわ。なんせ私達を狙うように指示を受けているらしいから」


「マジか。じゃあ行くの止めようぜ。こっちはミカしか闘えないんだぞ? ルシアとかがいるなら話は別なんだろうが」


「・・・・・・じゃあ尚更行きましょう。タカオに私の力を見せるいい機会だわ」


「あ、あの、僕は知ってます」


「じゃあ一人で留守番してる? 今はルシアもカズキもいないわよ?」


「えー・・・・・・」


「タカオもカズマも心配し過ぎ。中毒解消後ならともかく、まだあなた達に闘わせる訳無いでしょう。私が結界を張るから、あなた達はその中にいなさい。それなら平気でしょう?」


「それでミカが一人で闘うのか?」


「だから、それを確認する為にも行きましょう。それにこっちに来るって決まった訳じゃ無いのよ? ほら、早く乗って。カズマ、あなたは運転を任せたわよ」


 俺と一馬は、ミカにトラックに押し込まれ出発した。


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