5-7
ゆでだこ状態のルシアはひとまず放置して、次はミカか。
居間に戻るとミカは・・・・・・だから何でお前ら3人は朝から酒飲んでるんだよ?
「なあミカ、お楽しみの所悪いがちょっといいか?」
「あらタカオ、遅かったわね。これは運動後の水分補給よ」
「その通りじゃ」
「だな」
「どうでもいいよ。ミカ来てくれ」
「何? 朝からその気になったの?」
しなだれかかって来るミカ。
「はいはいそうですね。いいから来いって」
ミカの肩を押し、居間を出て隣の部屋へ向かう。
「ルシアはどうしたの?」
「え? ルシアか? えーっとルシアは・・・・・・俺の寝室にいる」
「何故?」
「何故って、えーと、そうだよ、その話でミカに来てもらったんだよ」
下手に “ルシアにキスした” とか言ったら絶対に “私も” ってせがんで来るからな。
「何の話? ルシアに関係あるの?」
「あるって言えばあるのか? ほら、ミカ達の世界では婚姻の証に何か交換するんだって? ルシアが言ってたぞ?」
「ええ、そうね。ルシアがその話をしたの?」
「ああ、こっちの世界にも同じような風習があってな。それで俺のとっておきのナイフを見せたら欲しがったからな。だからそれを渡したんだ。ナイフなんて色気のかけらも無いけどな」
「へえ、ナイフを渡したの? ルシア喜んでたでしょう?」
「あ、ああ。そうだな。言葉に表せない位喜んでたと思うぞ?」
「それはそうよ。タカオ、あなた婚姻の贈り物にナイフや短刀を渡す意味を知っていて渡したんじゃないの?」
「意味?」
「お前は俺の物だ。他人に奪われそうになったら、渡したナイフで自害しろ。って意味もあるのよ? ヘタレだとばかり思っていたけど、やるときはやるのね」
「そんな事知ってる訳無いだろ・・・・・・」
・・・・・・でもそれって何処かで聞いた事があるな。何処で見たんだ? まあいいか、結果オーライだ。キスしたから頭が茹だってフリーズしてるとか言えないしな。
「で、ミカにも何か渡そうと思うんだが、何が良いのか解らないからな。失礼かもしれないが直接聞いた方が良いかと思ってな。ミカもナイフが良いのか?」
「そう、ありがとう。嬉しいわ。でも私はナイフなんて嫌。タカオだって言ってたでしょ? ロマンのかけらも無いわ。ん~そうね、こっちでは何を渡すの?」
「大体指輪とかかな? 腕時計はちょっと違うか。」
「じゃあ指輪が良いわ。そうすれば魔術の付与とかも出来るし」
「それなんだがな、こっちでは宝石商とかに頼んで作って貰う物であってな、俺自身はそう言うスキルは無いんだよ。本当にすまない」
「まあそれもそうね。イグナスでも自作するか商人や貴族とかから仕入れるか、ダンジョンで見つける位しか入手方法は無いものね。宝石商は何処にいるの?」
「ん~もっとでかい街かな」
「じゃあそっちの方に行った時でいいわ。そうすれば好きなのを選べるでしょ? 昨日の酒屋みたいに」
「昨日みたいに選ぶって、お前・・・・・・」
「ええそうよ。タカオが考えている通りよ」
「何度も聞くが、本当に誰もいないのか?」
「ええ、心配なら宝石商に行った時に、また探知しましょうか?」
「そうしてくれると俺の良心が助かる」
「・・・・・・それにしても・・・・・・」
「どうした?」
ミカはちょいちょいと手招きをする。
「タカオ、ちょっと耳貸して」
「ん? 何だ?」
屈んでミカに耳を向けようとした時、両手で顔を挟まれミカの顔の正面で固定された。・・・・・・だから顔近いって。
「タカオ? 私はまだタカオに言っていない事もあるわ。でもそれは今言うべき事じゃ無いから言わないだけであって、隠し事をしている訳じゃ無いの。実際タカオに聞かれたことには、全て正直に隠す事無く話しているつもりよ?」
「うん、そうだな」
「それを踏まえた上で、タカオ? ・・・・・・あなた、何を隠しているの?」
俺の顔を挟んでいるミカの両手が力を増す。・・・・・・なんで解ったんだ?
「何を、隠しているの?」
「・・・・・・あー、その、な?」
「・・・・・・」
「そのー、あれだ、・・・・・・ルシアとちゅってな?」
「タカオからしたの?」
「・・・・・・はい」
「それでルシアは来ないのね?」
「ああ、例の如く真っ赤になってな・・・・・・」
「ふーん、そうなの。じゃあ、はい」
俺の顔から手を離し、眼を瞑り口で迎えに来るミカ。・・・・・・そうだよな、そうなるよな。ばれた以上ルシアにだけして、ミカにはしないって選択肢は無いよな。
「しかしこんなおっさんの何処が良いんだか」
「歳は関係ないって言ったでしょ」
「はいはい、そうでしたね」
ミカの頬に手を添え、唇と唇を合わせる・・・・・・ん? 震えてるのか? 唇を離すとミカは俯いてしまった。
「どうした?」
「・・だって・・・・・って・・・でしょ」
「ん?」
「私だってこういう事は初めてだって何十回も言ったでしょ!」
・・・・・・いや、何十回と言われた覚えも無いんだが・・・・・・一回か二回だろ? まあ俺は大人だからな。無粋な事は言わないで、ミカを優しく抱きしめる。そして頭を撫でながら、
「そうだな」
「そうよ」
「じゃあ戻るか?」
「やだ、もうちょっと」
「ちょっとだけな」
そう言ってミカをぎゅーっと抱きしめ、頭頂部の辺りにキスをする。はうーとか言ってるし。
「はい、終わり。また今度な」
「・・・・・・解った」
うん、今回は素直に離れたな。居間に戻ろうとしたが、ミカが着いてこない。
「戻らないのか?」
「先に行ってて」
「ああ、成程な。解った」
ミカは押しが強いくせに初心と言うか何と言うか。まあいい、余計な突っ込みはしないで先に戻ろう。
居間に戻るとルードとザックがいない。
「一馬、ルードとザックは何処に行ったんだ?」
「何か食べ物を探して来るって行っちゃったけど・・・・・・良かった?」
「あの二人なら大丈夫だろ? 何を持って来るかは知らんけど」
「まあそうだね」
「で、カズマ。今後どうするか少し話しておくか。お前は佐々木さんを探しに行きたいんだろ?」
「・・・・・・うん」
「だよな。だが俺は遥を優先したい。家族だしな」
「うん、それも解ってる」
「これは俺の勝手な判断だが、二手に分かれて捜索するってのはどう思う? まあ俺達だけじゃ確実に無理だから、ミカ達に協力して貰わなければいけないがな?」
「父さんはそれで良いの? 俺が母さんを探しに行かなくても?」
「だってお前佐々木さんの事ばかり考えてるだろ? 解らないとでも思ってたか?」
「いや、その・・・・・・」
「別に責めている訳じゃ無い。ミカ達の判断もあるが、俺としてはそっちで話を進めようと思うんだが。どうだ?」
「父さんがそれでいいなら俺は詩歩を探しに行きたい」
「私はそれで構わないわよ」
「ああ、ミカ。丁度良い所に来たな。なんだ、もう魔女っ子スタイルに着替えたのか?」
「何なのよ・・・・・・その魔女っ子スタイルって」
「はは、で? ミカは別行動に賛成なのか?」
「ええ、愛する人を心配するのは当然の事よ? 反対なんてしないわ。ルシアもルードもザックも協力してくれるわよ」
「そうか、助かる」
「ミカさん、ありがとうございます」
「ええ。で? どうやって分けるの? 勿論二組にするんでしょ?」
「それはそうだが、一馬はどう思う? 良い分け方あるか?」
「どう思うって・・・・・・父さんそれ本気で言ってるの?」
「カズマには悪いけど、タカオはいつもこうなの?」
「結構・・・・・・」
「何が?」
「あのさぁ、父さん、ミカさん、ルシアさんで一組。俺、一樹、ルードさん、ザックさんで一組になるに決まってるでしょ? 何言ってんの? ねえ? ミカさん」
「カズマは本当に気が利く良い子ね。そういうタイプはイグナスではモテるわよ? 特に不死族からモテると思うわよ?」
「不死族って・・・・・・人外ですか? ヴァンパイアとかですよね?」
「人外と言えば人外ね。ヴァンパイアもいるし、男が好きそうな所だとサキュバスとかもいるわよ。みんなスタイルが良くて綺麗よ? 寿命が長いから老化も遅いし。自分が老人になっても若い女を侍らせる事ができるのよ。それにヒト種との生殖行為もできるわよ?」
「お前朝から生殖行為とか言うなよ」
「あら、事実を言ったまでよ?」
「・・・・・・獣人のケモミミも捨てがたいけどサキュバスとかの妖艶さも捨てがたい。でも俺には詩歩が、でも、でも、何で父さんと一樹ばっかり。いや俺には詩歩が・・・・・・」
やっぱりお前もなんだな・・・・・・まる聞こえだぞ息子よ・・・・・・どっちも良いのかよ。獣人一択の一樹より酷くないか?
「・・・・・・」 ・・・・・・ミカと目線で話す。「これ何とかしろよ!」
「・・・・・・」 ・・・・・・「タカオの息子でしょ? なんで二人ともこんななのよ!? まったく! あ! もしかして! 実はタカオも!? だから私達に中々手を・・・・」
「ふざけんな!」
あ、声に出ちまった。
「カ、カズマ? 私は不死族の王、ヴァンパイアロードのヒルダとも旧知の仲だから、もし会えたらヒルダを紹介するわ。ヒルダならあなたの気に入る娘を用意してくれると思うわよ?」
「本当ですかミカさん! ありがとうございますっ! ・・・・・・・・・・・・んんっ、でジルは人数的に父さんの方だね。父さんハーレム状態じゃん。良かったね。良かったね」
「・・・・・・うん、何で二回言ったんだ? まあお前も良かったな。で、ミカはそれで良いのか? 真面目な話、戦力的に見ても問題無いか?」
「問題無いわね。マナ中毒になっていないタカオとカズマは分かれているし、経験の少ないジルとカズキも分かれている。戦力も問題無いわ」
「解った。じゃあそれで行こう。次は準備だな。暫くここには戻らないだろうから、色々と準備しないとな」
「例えば?」
「そうだな、食料は誰もいないなら現地調達でいいとして、寝袋とかか? アウトドア用品持って行けば良いんじゃないか?」
「テントとかも?」
「テントは要らないんじゃないか? その辺の家にお邪魔すれば雨風は防げるだろ? 他人の布団で寝れるなら寝袋も要らないだろうが・・・・・・俺は嫌だぞ」
「まあそうだね」
「どの道今日一日は準備に充てて、明日出発で良いんじゃないか?」
「でもそれなら通りがかりの店で、その都度調達すればいいんじゃない?」
「・・・・・・それもそうか。じゃあ一樹が目を覚まして、調子が良さそうなら今日出発するか」
「うん。そうしたい」
「ミカもそんな予定でいいか?」
「私達は問題無いわ」
「よし。次だ。移動手段はどうするんだ? 一馬は身体能力上がってるんだよな?」
「そうだね。とりあえず走る事に関しては上がってると思う」
「ふーん、俺はまだそんな感じしないんだよな」
「人それぞれ症状の出方も違うから、そんな事もあるわ」
「そうか、俺達は車で移動する事になるが、一馬達は走って行くのか?」
「え? どうだろう?」
「車の運転覚えるか?」
「いいの?」
「もうさ、今迄の常識は捨てた方が良いんじゃないかなって思うんだよな。一馬は気付いてるか解らんが、人がいないって事はそう遠くない未来に食料や物資の供給が止まるって事だ。今ある物でこの先を生きて行くからな。自給自足も始めなければならなくなる。そんな状況の中、常識に囚われてもな・・・・・・」
「成程ね」
「食料の自給自足をやるにしても、もっといい場所を探さなければならないし」
「そうか・・・・・・じゃあ運転も覚えた方がいいね」
「だろ? ミカ達はどうする?」
「私達は飛べるから、今すぐじゃなくて良いわ。先にカズマにウンテン? 教えてあげて」
「解った。じゃあ運転の練習に行くか」
高校生の一馬は車は当然の事、バイクも乗った事が無い筈だ。車は2トントラックならオートマもあるから大丈夫だろう。バイクは・・・・・・まあ今はいいか。とりあえずは2トントラックを探さないとだな。




