A fused world / 融合した世界

１－５ 模擬戦

5-4

「一樹、終わったかぁ？　良いのあったのか？」

一樹は少し離れた場所で、武器を手に馴染ませる様に自称　“つるぎのまい”　をやっている。つーか両手に剣持ってるよな。二刀流かよ。その内口に咥えたり、肘とか膝裏に挟んだりするのか？

「あ、タカオ。カズキは見る目があるね。凄いの選んだよ」

「なんだよ凄いのって。そもそもルシアが持ってたものだろ？　何がそんなに凄いんだ？」

「・・・・・・タカオ、忘れるのも仕方が無い事だけど、こんなのでも勇者よ？　人知を超えた、人ならざる者との戦闘ばかり押し付けられていたんだから。所有する武器だって普通の物じゃないわ」

「ミカぁ、こんなのは無いんじゃない？　でもね、武器は確かに凄いんだよ？　タカオ見て、これはね審判の扉の奥にいたエグゼキューショナーが持っていた剣でね、斬った相手の魂を肉体から分離させるんだよ。これでちょびっとでも傷を付けられたらね、死亡は確実らしいよ？　私は触られる前に倒したから、本当かどうかは解らないんだけどね？　でも盗賊で試したら、パタパタ倒れて行ったから多分本当なんだと思う。凄いでしょ。あとね、小さいけどこれも凄いの。隷属の爪って言ってね、奴隷王ガジンから手に入れたんだけどね――」

ず、随分と武器の説明を楽しそうにするな。武器マニアなのか？　もしかして俺と一緒なのか？　いや、違うな。俺は眺めているのが好きなのであって、説明は好きじゃない。

「――って言う効果があるの。それでカズキが選んだ武器はね、“フロスト”　と　“フレイム”　って言う二対の短剣なの。フロストは氷の属性を持った魔剣ね。フレイムは炎の属性を持った魔剣。死者の書で呼び出された廃屋の中にある、死の世界に繋がっていると言われるダンジョンで見つけたのよ」

「何か・・・・・・呪われそうだな。大丈夫なのか？」

「ん？　大丈夫でしょ？　いざとなったらヒューもいるから、解呪もしてもらえるよ」

「・・・・・・何処にいるんだ？　そのヒューは」

「何処って・・・・・・えっと・・・・・・ほら、私が先に触っているからだいじょーぶだよ」

「・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・」

「ほらほら、朝から何時までも見つめ合っていないで。またイモシアが発動するわよ。そろそろ良いかしら？　ルード、最初にカズキの相手をして頂戴」

「うむ、解った」

「じゃあ一樹、がんばってな」

「はーい。おっちゃんから一本取ればいいんでしょ？」

「そうね、カズキ。あなたの身体のチェックもあるからね。全力でやってね」

「解ったー。じゃあ行くよ？　おっちゃん」

「うむ、何時でも良―」

ガギンッ！

ルードは右足を狙って斬りつけられた剣を手持ちの棍で止めている。

「うむ、やはり坊主は速いのう。そこらの奴だと相手にならんじゃろう」

ルードは余裕そうに言っているが・・・・・・俺、何にも見えなかったんですけど。一樹の身体が揺れたと思ったら、既にルードの足元にいたんですけど。

「カズキ、あなたの実力を見る為にやっているのよ？　もっと真面目にやりなさい。ルードを倒せたりしたら、確実に獣人族からモテモテよ？」」

「マジで！？　解った！！　じゃあおっちゃん、今度は本気で行くからね！　覚悟はいい？」

そう言って元の位置に歩いて戻る一樹。ルードは大丈夫なのか？

「ミカよ。儂からの反撃は有りなのか？」

「構わないわ。攻撃力だけ見てもしょうがないでしょう？　多少の怪我は治すから、きっちり見てあげて」

「解った。ならば少々強めで良いかのう」

ルードがそう返事を返し、棍を構える。一樹も元の位置に戻り――って、今度はルードが先に仕掛けた。上下左右から、棍の連撃を繰り出している。しかし俺の眼で追える程度のスピードだ。当然一樹も難なく避けている。

「なあミカ、俺にルードの動きが解るくらいじゃあ一樹には丸解りなんじゃないのか？」

「そうね。私もそう思うわ。でもカズキも攻め込まないところを見ると、誘われている事に気付いたんじゃないかしら？」

「ん？　ルードは誘っているのか？」

「ルードの得意技の一つに攻撃を跳ね返す物があるのよ。多分ルードはそれを狙っているんじゃないかしら」

「へー、受けた攻撃を反射するのか。凄いな」

「ん～、反射とは少し違うのよ。相手の攻撃に自分の力を乗せて返すから――」

「ああ、合気道みたいな物か？」

「それは何？」

「今ミカが言った通りの事をやる護身技術だ。相手の攻撃に自分の力を乗せて返すから、強い力で攻撃すればする程自分に返って来るダメージ量が上がる。とかそんな感じの内容だったと思うがな。俺も遥に聞いただけだから良く覚えてないんだけどな」

「ふーん。文化風習は違う所もあるけど、やはり並行世界と言うのは事実なのかしらね？　似通った所が結構あるもの」

「ん～、言われてみればそうなのかもな。発展の方向が少し違っただけでこうまで変わるのも不思議なものだけどな」

「でも全然終わりそうに無いわね、あの二人」

一樹は縦横無尽に飛び回りルードを狙っているが・・・・・・昨日はもっと速かったぞ？

「・・・・・・なあ、ルードと獣王ってほぼ互角なのか？」

「そうね、それが何？」

「なに、一樹のやる気を出してやろうと思ってな。・・・・・・おい一樹！　ルードと獣王は同じ位の強さらしいぞ！？　ルードに手古摺ってるような奴が獣人に認めて貰えるのか！？」

・・・・・・あれ？　一樹の動きが止まっちゃったぞ？　聞こえてたよな？　下向いてどうしたんだ？　あいつ。

「ぬ・・・・・・来るか？」

一樹の身体がブレた。ほらな、さっきと全然動きが違う。昨日ルードとやり合っていた時の動きだ。瞬間で距離を詰め、あらゆる方向から連撃を加える。昨日やっていた空中での方向転換も使っているな。

「一馬、昨日の一樹はあんな感じだったよな？」

「動き的にはそうだね。ただ今日は武器を両手に持ってるから、昨日よりルードさんが忙しそうだね」

「ミカ、あれ位じゃルードは平気なんだろ？」

「多分もう終わるわ」

ズドン！

「え？」

ルードは棍を後ろ手に持ち、反対の手で一樹の腹に掌底を打ち込んだ所だった。一樹は見事に“く”の字になって、その後ルードの腕にもたれる様に崩れて行った・・・・・・なんだよ、よそ見して見逃した。

「どうなったんだ？　眼を逸らしちまってた」

「フェイントを掛けて突っ込んだ所にカウンターってとこかな。動かない所を見るに、腹なのに一発で意識を刈り取られたみたいね」

ふーん。ルードが凄いのか一樹が大した事無いのか良く解らんな。

「ミカ、こんなもんで良いのじゃろう？」

「ルードは解ったんでしょう？　それなら良いわ」

「うむ、じゃあ治療を頼む。死んではおらんが、まともに入れてしまったわい。まったく、これだから動きの速い奴は苦手なんじゃ」

「解ったわ」

ミカは一樹の脇に屈み、手をかざし始めた。

「タカオよ、今回はマナ中毒では無い。それなりには加減はしてあるから安心せい」

「そうか。解った・・・・・・なあルシア。勇者の眼から見てどうなんだ？　俺には良く解らん」

「え、私？　私も良く解らないよ？　敵として向かって来るものは全て斬り倒してただけだし」

・・・・・・ちょっとこの娘大丈夫？　ちょいちょいと袖を引かれた。なんだミカか。

「タカオ、ルシアが心を壊していたのを忘れたの？」

一樹の治療が終わったミカが、そう言って来る。・・・・・ああ、そう言えばそうだったな。片っ端から押し付けられてたんだよな。忘れてた。

「解ればいいのよ」

「だから心を読むなよ！」

横では一樹が起き出していた。

「やっぱりおっちゃん強いね！　全然剣が届かなかったよ」

「うむ、坊主も中々の物だぞ。どうじゃ？　ついでにルシアともやってみるか？」

「ルシアってこっちのねぇちゃん？　強いの？」

「一樹・・・・・・説明したよな？　ルシアは勇者だぞ？　本物らしいぞ？。それに向こうの世界では最強だってよ。俺も良く解らんがな」

ルシアは片方の頬を膨らまし

「本物ですぅ」

解った解った可愛いから。その膨らましたほっぺたつつくぞ。・・・・・・解ったよ、ミカも可愛いから。そんな眼で睨むな。って言うか心を読むなっつーの。

「まあ坊主にやる気が無いのなら、余計な怪我をするだけじゃから無理にとは言わんがの？」

「ふーん、最強なんだ。じゃあやる。ルールはさっきと同じだよね？」

「そうじゃな。ルシアもそれで構わんじゃろ？」

「私は何でも平気」

何でも平気って。随分と自信満々だな。まあいまいち良く解らない、勇者とやらの力の一端でも見られればいいか。

「そうか、では向こうへ行って始めるがよい」

一樹は先ほどと同じ剣を両手に持っている。対するルシアは・・・・・・手ぶら？

「ミカ、ルシアは武器は持たないのか？」

「タカオ、はっきり言うわね。カズキではルシアの足元にも及ばないわ。ルシアもそれが解っているから無手なのよ」

「はあ？　そんなに差があるのか？」

「だから何回も世界最強だって言ってるでしょ。いつもはあんなポンコツだけど、こと戦闘に関しては全く別人だから」

「マジか？」

「マジよ」

「うむ、ミカの言っている事は事実じゃぞ。これで勇者の実力の片鱗でも見られれば良いんじゃがのう」

「ふーん、まぁ見せて貰うよ。なあ一馬」

「そうだね、ルシアさんがどれほどなのか・・・・・・」

二人とも位置に着いたな。

「じゃあルールはさっきと同じ。致命傷と即死ははダメよ。解ったルシア？　加減しなさいよ？」

「大丈夫だよ。初めてじゃないんだし」

「カズキもダメそうだったら直ぐに言いなさい。無理すると本当に死ぬわよ」

なあ二人とも、そんなに煽ったら流石に能天気な一樹でも気分悪くするぞ。ほら、顔が怒ってる。

「じゃあ二人とも良いわね。・・・・・・始め！」

掛け声と同時に一樹が弾丸の様に飛び出した。と思ったら、一樹は前のめりに転びそのまま転がって行った。何やってんだよあいつ。緊張しすぎて滑ったか？　ルシアが動く間もなく自爆かよ。

「何やってんの一樹・・・・・・滑ったのかな？　ねえ父さん」

「だな、まあ感情をコントロールして勝負を有利に運ぶってのも有りだからな」

「二人とも何を的外れな事を言ってるの？」

「ん？　何って今の一樹の転びっぷりを・・・・・・一樹の奴起きないな？　打ち所悪かったのか？」

「あのね・・・・・・二人とも聞いて。ルシアは今攻撃したの。いえ、攻撃するまでも無かったわ。カズキに向かって殺気を飛ばしただけ」

「飛ばしただけって・・・・・・殺気で転ぶのか？」

「転ぶわけないでしょ？　何言ってるの？　いい？　タカオ。私達レベルになると、殺気にしたって強弱や指向性を持たせることも出来る。今ルシアは、カズキだけにかなり本気で殺気を飛ばしたの」

「へー」

「良く解って無いわね？」

「ん～、まあな。殺気と言われてもなぁ？」

「そう・・・・・・それなら」

！？　な、何だ？　ミカがそう言った途端、空気が重くなる。いや、空気が身体を締め付けて来る。膝が揺れて立っていられない。か、一馬は？　一馬は普通にしている。な、何が起きた？　逃げない　と、こ、っ吸が、出来・・・・ない・・・・・・

ミカを見ると、アイスブルーの瞳を更に冷たくして俺を見ている。

「どう？　解った？　タカオ。これが殺気。殺気が強ければ強いほど、耐性の無い者は」

・・・・・・頷く事も出来ない・・・・・・目の前が暗くなって行く・・・・・・

「こうなるのよ。解った？」

倒れる前に、ミカに抱き止められた。

・・・・・・全身脂汗をかいてはいるが、空気の重圧も元に戻り、呼吸も出来る様になった。

「・・・・・・今のはミカが？」

「ええ、そうよ。ごめんなさい。殺気なんかは口で説明しても解らないのよ。体験して貰うのが一番早いの」

「そうか、良く解ったよ」

背筋を伸ばし、深呼吸をする。

「強すぎる殺気は、対象者の意識を強制的に刈り取るの。本能が生きる事を諦めるのよ。カズキも身体的には強くなったとは言え、ルシアやルードとは天と地ほどの差があるわ。勿論私やザックともね。カズキには圧倒的に経験が足りないの。そこを突けば直接手を下すまでも無く、ああいう事もできる。今は意識を刈り取っただけ。でももうちょっと強くやっていたら、そのまま死んでいたわ」

「イグナスの人間は全員出来るのか？」

「流石に全員は出来ないわよ。やっぱり戦闘経験をたっぷりと積んだ熟練者だけね。それは人でも魔物でも変わらないわね」

ミカと話している間にルシアとルードがカズキを担いできてくれていた。

「何度もすまんな」

「ごめん、ちょっと強すぎちゃった。戦意喪失位にしようと思ったんだけど、

「まあよかろう、これで坊主も少しは大人しくなるじゃろう」

「大人しくって？」

「ん？　ほれ、新しい物を手に入れたら使ってみたくはならんか？」

「ああ、そういう事ね。確かに凄い力を手に入れたとは言え、まだ子供だもんな。力の正しい使い方を教わらないとな」

「その通りじゃ。まあ力の使い方に関しては、儂等に任せておけ」

「そうだな、恥ずかしながら俺にはどうにか出来そうにない。悪いが頼むよ」

「タカオには私とルシアもいるんだから大丈夫よ」

「そうですか。何が大丈夫なのかは敢えて聞かないけどな」

「おーーい、もういいかあ？　この犬、さっきからずーっと俺を見てるんだけどよー」

後ろからザックが声を掛けて来た。