5-3
全員で裏の畑に来た。隣の木村さんの土地だが、誰もいないなら構わないだろう。
畑に向かいながら、大まかな事を一樹に説明する。ミカ達の事、世界が変わり始めている事、人類がほぼ全て魔物化してしまった事。
「魔物化って? 見ればすぐに解るの?」
「そうね、明らかに人とは違うから見ればわかるわ」
「あー、でもそれだと獣人族はどうなるんだ? 明らかに人とは違わないか?」
「獣人!? 獣人がいるの!?」
あ、やっぱり食いつきやがった。
「ああ、そうだ。まだ俺と一馬もあった事は無いが、二人来ているらしいぞ? 双子の可愛い娘さんだそうだ。なあミカ、何歳だっけ?」
「14歳よ」
「だってよ。一樹、同い年だな。」
「どこ!? どこにいるの!?」
「今は離れた場所にいるわ。後々向かう事になるけどね」
「へー、早く会ってみたいな。おにいもそう思うでしょ? 早く会いに行こうよ! 何やってんのおにい!」
「あ、ああ。そうだな・・・・・・」
「あのな? その二人の獣人の娘さんは、獣人の国の王様の娘さんなんだよ。で、二人とも武術特化型らしいから、下手な事すると殴り殺されるらしいぞ?」
「へー、耳とか触らしてくれるかな? 尻尾は生えてるの? 今から何するんだっけ? やらなきゃダメ?」
「・・・・・・父さん、無理」
「マジで? そんなに酷いのか?」
「違う意味で暴走してる。空想の世界の物が現実にあるって解ったんだよ? 家族でこんな言い方は嫌だけど、性的な暴行はしないまでも追いかけまわして無理やり抱き付く位はするね」
「そこまで!?」
「うん、ちゃんと説明するのを忘れた俺も悪いけど、父さんも軽率だったよ」
むうう、そんなに酷かったとは知らなかった。
「ねーおとーさーん、早くいこうよー。テストなんか無意味だよー。能有る鷲は武器隠すだよー。あっ! 良い事考えた! 俺が一人で行けば――」
「却下だ。いい加減にしろ一樹。鷲が武器隠してどうするんだよ。鷹が爪を隠すんだよ。最初と最後しか合ってねえぞ。それにこんな状況なんだ、単独行動は許さん」
「ええ~、ケモミミ~」
ヤバい、やる気を削いじゃったか? 中二にもなって口を尖らせるな! ミカえもん、ヘル~プ。ちらりと
ミカを見る。
ミカはふう、とため息をつきながら
「あのねカズキ、こっちに来ている二人はアデルとジゼルって言う名前なの」
「アデルとジゼル! 名前も可愛い!」
「ええ、二人とも凄く可愛いわよ? それに虎の獣人よ、とても強いの」
「トラッ娘!!」
おいおい、これ以上焚きつけてどうするんだ?
「カズキは獣人が好きなの?」
「うん!」
「じゃあ紹介してあげてもいいわよ?」
「ホント!? ミカちゃん大好き!」
ミカちゃんって・・・・・・ほら、ミカも口開けてびっくりしちゃってるよ。
「んんっ、た、但し条件があるわ」
「何? 何でも言って」
「獣人族は強さを求める種族なの。紹介するにしてもあなたの強さが解らなければ紹介の仕様がないと思わない? それに強さだけじゃ駄目。圧倒的な力を振り回すだけでは、それは只の暴力。・・・・・・私の言いたい事解るかしら? 私が見せて欲しい、紹介するに足る強さをあなたは持っているのかしら?」
「うん、解った。ミカちゃんのう事を聞く。まずはどうしたらいい?」
「素直な良い子ね。紹介ポイントアップよ。じゃあまずはルードと闘って。これはカズキの純粋な強さのみを見るわ。だから全力で闘ってね。もしカズキが手抜きをしたら、それは闘いを尊ぶ獣人族の精神をないがしろにしたという事になるからね?」
「わ、解りました! 真面目にやります!」
「よろしい。じゃあまずは武器はどうしましょうか? 何か持ってる?」
「・・・・・・お父さん昨日の棒は?」
「ん? あれ? 一馬、昨日アレ持って帰ったか?」
「持って来てないよ。一樹があんなで、その後ジルだし。俺も今の今迄完璧に忘れてた」
「だよな。すまん、ミカ。無い。どうする?」
「そう、なら・・・・・・」
「あ、ミカ。これ使う? そんなに凄いなら問題無く使えるんじゃない?」
これ? ・・・・・・なあルシア。昨日もそうだったが、何も持って無かったよな? 手ぶらでここまで来たよな? その剣は何処から出したんだ? ・・・・・・ミカが俺を見ている。
「・・・・・・タカオ、勇者ルシアは固有スキルとして、自分専用のインベントリを持っているの。そこに武器や防具、魔導具の類などを入れておくと、何時どこでも自由に取り出せるのよ。今出した剣もそうだし、昨晩出した聖剣もそう。その顔の答えになったかしら?」
「あ、ああ。ありがとうミカ。完璧な答えだった」
ミカはホントに凄いな。それとも俺が解りやすいのか?
「両方よ」
「は? 何が!?」
「何でもないわ」
こ、こいつ・・・・・・マジで心読んでないだろうな?
「で、どうする? これにする? 他にもあるけど」
「なあルシア、それって全部出せるのか?」
「? 出せるよ? でも武器だけで30本位あるから・・・・・・」
「ああ、そうか。置き場所か。ちょっと待ってろ。一馬と一樹、ちょっと来い。ブルーシート取りに行くぞ」
「「はーい」」
持って来たブルーシートを広げる。
「地面に直に置くよりはましだろ?」
「うん、何も無いより全然まし。じゃあ順番に出すね」
そう言ってルシアは次々と武器を出して来る。出すと言うより、ぱっ と掌に握られている。良く解らないよな? 俺も目の前で見てるのに良く解らない。 掌に現れるとしか言いようがない。
しかし色々な物が出て来る。自称隠れ武器マニアの俺としては、見ていて凄い楽しい。何本か所有欲をくすぐられる物もある。あの黒い刀身の剣とかいいな。ルシアに頼み込めばくれるかな。
「武器はこれで全部。私専用の物は抜いてあるから」
「まあそりゃあそうだ。専用装備は流石に駄目だ。で、一樹。何か良いの有ったか?」
しかし色々出て来たな。俺でも解る一般的なショート、ロングソード、両手持ちの剣、クレイモア、シャムシール、メイスやフレイル、斧。刀っぽいのもあるな。
「ルシアは槍とか弓とかは使わないのか?」
「うん。使えるけどわざわざ使わないかな。飛び道具は牽制用の投げナイフ位」
「そうなんだ。何で使わないのか聞いても良いのか?」
「ははは、タカオ。ルシアはな、弓でチマチマやるより敵陣に突っ込んで暴れた方が効率が良いんだよ」
「そうなのか?」
「ん? 解りにくかったか? じゃあこう考えて見ろ。ルードを後衛にして弓を持たせるか?」
「成程。良く解った。ありがとうザック」
「何でそれで納得するのタカオ? ルードと一緒にしないでよ!」
「わ、解った。解ったから剣をこっちに向けて詰め寄るな」
「じゃあカズキ。この中から好きなのを選んで。手に取って振ってもいいわよ」
「どれでもいいの? くれるの? 一本だけ?」
「私みたいにいっぱい持っていても、実際使うのは一本か二本よ。まずは使いやすい一本を選んだ方がいいわよ?」
「わかった。そうする」
ルシアとルード、ザックに囲まれて、説明を受けながら一樹は武器を選んでいる。
・・・・・・これからやるのって模擬戦? 練習試合? だよな。随分真剣に選んでいるみたいだけど、真剣は必要なのか?
「世界の融合は始まっているのだから、しっかりとした武器は持っていた方がいいわ」
「・・・・・・なあ、ミカ」
「なぁに?」
「俺の心とか読んでいないよな?」
「知りたい? 知りたいの? 世の中には知らない方が良いって事も沢山あるのよ?」
「・・・・・・・・・・・・」
「冗談よ。人の心なんて読める訳無いでしょう」
「なら何で」
「あのね、私が何年生きてると思っているの? 表情の変化とかで大体何を考えているのか位解るわよ」
「ふーん、そうなんだ」
「そうよ、そんなものよ。以心伝心なのよ」
「・・・・・・お前らって、たまにそう言う難しい言葉を言うよな。何で以心伝心なんて言葉を知ってるんだ?」
「自分で言いたくないけど年の功よ。それよりも、タカオとカズマも一応選んでおきなさい。今はまだ中毒前だから渡せないけど、後々は武器を取って貰うから」
「ん? 俺は剣なんか使えないぞ?」
「僕もです」
「大丈夫よ。中毒後に私達で鍛え上げてあげるから。何の心配も要らないわ」
「いや、鍛えるって言われてもな。俺は闘うつもりなんて無いぞ? 一馬はどうだ?」
「うーん・・・・・・そこまでガチガチやるつもりも無いけど、自分の身を守れる位はって所かなぁ」
成程。あと佐々木さんな。
「ミカさん、生存者達はみんな宝珠に触ったって事ですか?」
「いいえ、そうとは限らないわ。宝珠が魔を弾くエリア内に対象者がいたから、魔物化を防げただけで、触
る触らないは関係ないわ。むしろ宝珠に気付かないでいたかもしれない」
「・・・・・・そうですか・・・・・・」
「一馬、この先どうするかは後で話し合おう。俺は遥を優先したいが、お前は佐々木さんだろ? これが終わったら皆と相談しよう」
「そうだね。解った」
うん、丁度良いタイミングで、一樹も武器を選び終わったようだ。
一樹が選んだ武器は・・・・・・




