5-1
カチャカチャカチャカチャ・・・・・・カチャカチャカチャ・・・・・・
んん、この音は・・・・・・フローリングの上を歩くジルの足音だな。元気になったのか? ・・・・・・
五時半か。動物の体内時計って凄いよな。いつもと同じ時間に起きたみたいだ。ミカは・・・・・・まだ寝てるな。
ミカを起こさない様にベッドから這い出て部屋を出る。うわっぷ! 解った! 解ったから! ジル落ち着け! 飛びつくな! うん、元気そうだな。大きさもグレートデンからヨーロピアンに戻っている。うん、大きさ以外はちゃんとジルだな。言う事も聞くみたいだし。
ジルと共に居間に行くとルシアは起きていた。いや、寝起きか。・・・・・・んん?
「タカオおはよう・・・・」
「ああ、おはようルシア。なあルシア、何か顔がカピカピしてないか? 変に艶があるって言うか」
「その子に起こされたのよ~。ペロペロやられて~」
「そ、そうか。済まないな。いつも一馬と一樹を舐めて起こしてるからな。朝の習慣だな、うん」
「もう、ぺとぺとだよ・・・・・・」
「ジルは初対面でそこまでやらないぞ。随分気に入られたな。尻尾もピコピコしてるし」
「ええ~、そうなの?」
ルシアは立ち上がり「ん~っ」と伸びをする。豊満な胸を突き出しながら・・・・・・朝からありがとうございます。あっ、ルシアが胸を抱いて隠した。顔を真っ赤にして俺を見ている。・・・・・・ソウデスネ。ガン見してました。すいません。
「ああーっと、ルシア、顔洗うか?」
「う、うん、お願い」
ルシアを連れて洗面所に行く。洗面所って言っても脱衣所の中だけどな。ん? ジルも行くのか?
洗面台の使い方をルシアに説明する。
「ここを上げると水が出るから・・・・・・そう。顔を洗ったらこのタオルで拭いてくれ」
そう言えば、昨日風呂溜めて入らなかったな。結局発電機回せば追い炊きできるか・・・・・・ルシア入るかな?
「なあルシア、昨日の夜に風呂沸かしたんだけど、結局入らなかったんだよ。温め直せば入れるけど、どうする?」
「え!? お風呂!? いいの?」
「ああ、少し待ってくれれば入れるぞ」
「ありがとうタカオ、湯浴みしたかったの」
「解った。じゃあ温めている間に使い方の説明するから」
追い炊きしている間に色々と説明する。シャワーの使い方、シャンプーとコンディショナー、ボディソープの違いと用途。後は洗顔用の・・・・・・遥すまん色々貸してやってくれ。
一通り教えたがルシアは???の様だ。捻ったり覗き込んだり、色々いじり回している・・・・・・参ったな。流石に朝から一緒にお風呂とかありえないし。ミカを起こして一緒に入らせるか?そんな事を考えていたら
「二人で何をしているの・・・・・・」
「ん? ああ、ミカか。おはよう。丁度良い、ルシアと一緒にお風呂入るか?」
「おはようミカ。一緒に入ろうよ。拭くだけじゃなくて、洗ったらその中に入って良いんだって」
「二人ともおはよう。私はいいわ。昨日浄化の魔法を掛けたし。朝から湯浴みっていうのもね」
「ええ~、面白いよミカぁ。ほら、これを回すとお湯がここから出るんだよあっ!!」
ジャバーーーーーーーーーー
「きゃあっ!」
・・・・・・あのな、何でそんなお約束を・・・・・・ミカがびちょびちょに、ってシャワー止めろよ! 何でミカがびちょびちょになって行くのを眺めてるんだよ! 更に言うと水だし! せめてお湯にしてやれよ!
「ルシア、おま「ごっ、ごめんなさい! ごめんなさい! わざとじゃ無いの!!」
ルシアはそう言いながらシャワーヘッドを自分の方に向ける。
「きゃあっ! 冷たい!」
だから止めろって。焦って止め方忘れたか? ルシアからシャワーをひったくり、水を止める。
あー何だよもう、二人ともびちょびちょだよ。もうしょうがない。
「もうミカも入れよ、な?」
「・・・・・・そうね」
「ごめんなさい・・・・・・」
「もう一度簡単に説明するぞ。これとこれが頭、こっちが先な。これが顔、指の頭位出せば十分だから。これは身体な。このタオルに付けて身体をこすってくれ。デリケートな部分は手で洗ってもいいぞ」
「解ったわ」
「デリケートな部分って?」
「・・・・・・ルシアは解らないみたいだが、ミカも解らないのか?」
「私は解るわよ」
「だよな。ルシア、ミカに聞いてくれ。俺は着替えを用意しておくから。脱いだ服はこの籠に入れてくれ。じゃあごゆっくり」
そう言って俺は浴室を出た。脱衣所にはジルがいる。
「ジルはお利口だな。ずっと待ってたのか」
・・・・・・あれ? ジルはルシアとミカは初対面だよな? ジルの正面にしゃがみ問いかける。
「なあジル。あの二人は平気なのか?」
「わふっ」
「ルードは?」
「・・・・・・」
「そりゃあそうだよな。でも治してくれたんだから感謝はしなくちゃ駄目だぞ」
「わふっ」
「・・・・・・俺が言ってる事解ってるのか?」
「わふっ」
返事と共に俺を押し倒し、馬乗りになってベロベロし始めるジル。
「ちょっ、待っ、待て!」
本当にジルもパワーアップしている様だ。いつもなら手で抑えられるのに、今は全然無理だ。俺の手を避ける。捕まえようとしてもするりと躱される。はっきり言って弄ばれている。
「ジ、ジル! 解った! 解ったから。もういいから! く、くすぐったいひゃひゃひゃ」
なんでだ!? 逃げられない!? 俺は転がった状態で丸くなって防御態勢になっているが、ジルは凄い速さで動き回りあちこちからベロベロしたり、少しの隙間に頭を突っ込んだりしてくる。しかしいくらなんでも一対一でじゃれていて、防御しかできないのはおかしい。
「・・・・・・何やってるの?」
ミカの声だ。よし、ジルの攻撃も止まったな。立ち上がろうと顔を上げ、
「ああ、ミカ。助かった。全く何でこんな・・・・・・・・・・・・なあジル。何で増えてるんだ?」
「「「わふっ?」」」
じゃれ始めは確かに一匹だったはず。今はジルが三匹に見える。いや、三匹いる。
風呂場のドアから顔だけを出しているミカも唖然としている。
「・・・・・・実際見るまでは半信半疑だったけど、これは凄いわね。私も初めて見るわ。タカオ、もう出るから着替えを頂戴。後で説明するわ」
「あ、ああ。解った。すぐに持ってくる。・・・・え? もう出るのか?」
「私はね。ルシアはまだ洗っているわ。それに私は研究者でもあるのよ? そんなの見ちゃったらもう無理よ。湯浴みよりジルの方が気になるわ」
「そうか、解った」
そう言って着替えを取りに行き、風呂場に戻った時にはジルは一匹に戻っていた。
「・・・・・・」
「タカオ、ジルは大丈夫だから」
「ん? ああ、すまん。じゃあこれな。こっちがミカでこっちがルシアな。着方は一緒だから大丈夫だろ?先に居間に行ってるな」
「ええ、ありがとう」
「よし、ジル行くぞ」
「あう」
脱衣所を後にし居間に戻る。一樹はまだ起きていないか。動物の方が治癒能力は高いって言うから、そう言うのも関係しているのかもな。
「ジルは朝ご飯食べられるのか?」
「わふっ!」
うん、腰も振ってるから元気なんだな。ジルにご飯をあげ、食べ終わった頃にミカは居間に戻って来た。
「少しはさっぱりしたか?」
「ええ、ルシアはしゃんぷーとかをかなり気に入ったみたい」
「だろうな、馬鹿にする訳じゃないが、イグナスにはあんなの無いんだろう?」
「ええ、香りといい滑らかさといい、もうイグナスの石鹸なんて使えないわ」
「ふーん。まあシャンプーとかも種類が沢山あるからな。使い比べて自分に合うやつを探すと良い」
「解ったわ。で、ジルだけど」
「ああ」
「ルードは幻術と言ったらしいけど、さっきのアレは正確には幻術ではないわ。イグナスで言う幻術の定義は、“相手の五感に働き掛けて、幻を見せる物”なの。だから幻に触れたり、対象者に刺激を与えると解除されてしまうの。要は目くらまし的な物ね。でもタカオもさっき身を以って知った様に、この子の術には実体があった。幻術を含め、分身や分け身を使う輩もいるけど・・・・・・どうしよう、いいわ。ルードにやらせましょう」
そう言ってミカは指輪に向かって話始めた。
「ルード、何処にいるのか知らないけど、急用よ。今すぐにタカオの家に戻ってきなさい。いい? 今すぐよ」
「それも魔導具なのか?」
「ええ、遠話の魔導具よ」
「ミカの翻訳の魔導具はどれなんだ?」
「それもこの指輪よ」
「ふーん、みんなそれぞれ違うんだって?」
「そうね。同じ物にしか付与出来ない術師もいるけど、私位の魔導士になれば何にでも付与できるわ。それが宝石だろうと石だろうとね」
「・・・・・・なんか、聞けば聞く程ミカって凄いんだな。何でも知ってるし」
「そうよ。私は本当に凄いのよ? イグナスで一番だって言ったでしょ? 信じていなかったの? だからタカオはもっと私を大事にしなさい」
「そうだな、大事にしないとな。昨日泣いちゃったしな」
「はあっ!? あっ、あれはっ、え、演技よ。そうよ演技なのよ。タカオはダメね。あんな単純な演技に騙されちゃって。無防備も良い所だわ」
ぷいっと横を向くミカ
「そうかー、そうだなー。無防備過ぎてたかー確かになー。気を付けないとなー」
ミカの頭を撫でながらそう言ってみた・・・・・・まんざらでも無さそうだ。
丁度その時、庭にルードとザックが戻って来た。
「・・・・・・来たわね」
「何じゃミカ。何かあったのか?」
「ルード、ザック。一晩中何処に行ってたの?」
「・・・・・・あのな? ミカ。俺達は気を使った積りなんだがな」
「気を使う? 何に対して?」
「何じゃ、ミカも相当浮かれておった様じゃの。普段のミカなら気付く筈じゃぞ?」
「だから何が?」
ほらほら、イラついて掌に光球出さない。
「ミカ、タカオと誓約を交わしたのは昨日だよな? 合ってるよな?」
「ええ、そうよ。それが?」
「本当に気づいておらんのか?」
「何よ? はっきり言いなさい」
「そうか、じゃあはっきり言おう。ミカ、タカオとの初夜はどうだった?」
「うむ、念願の相手との初夜はどうだったのだ?」
・・・・・・・・・・・・なんなんだこいつらは。ほらミカ、何も無かったって言い返してやれ。
・・・・・・ミカさん? そのしまった! って表情は何ですか? 今舌打ちもしたよね?
「タカオ」
「何だミカ」
「もう一度ベッドに「ありえないから」・・・・・・」
「なんだタカオ、何も無かったのか?」
「ああ、ちょっと色々あってな。そっち方面に話が行かなかったんだ」
「そうか、まあ誓約を交わしたからって急いでやる物でもないしな」
「うむ、で? 急用とは何じゃ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・ミカ? 何を考えているのかは知らんが・・・・・・」
「はっ? えっ? 何も考えてないです!」
「本当か?」
「はい! 本当です! タカオに嘘は付きません!」
「そうか、そう言うなら俺はミカを信じるけどな」
「・・・・・・なあタカオ、ミカと何があったんだ? 何も無かったんだろ? なんでミカがそんなに――」
「ザック・・・・・・何も無いって言ってるでしょ? これ以上聞くなら・・・・・・」
「もうええわい。どうせミカが先走ってタカオに怒られたんじゃろ? ほれ、用件は何じゃ?」
流石ルード。全てお見通しか。
「んんっ、そうね。用件は、ルードとザックでジルの能力の確認をして欲しいの」




