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A fused world / 融合した世界  作者: あにゃこ
1-4  昔話と現状説明
25/75

4-9

「・・・・・・ああ、どうぞ」


 カチャリとドアが開き、俯きながらミカが入って来た。後ろ手にドアを閉めて顔を上げ、真っ直ぐ俺を見る。


「タカオ、さっきはごめんなさい。タカオの言う事も尤もだわ。私はタカオの事を何も思いやらずに、自分達の事しか考えていなかった。生涯を掛けて尽くすとか言っておきながら、タカオの事は何も考えていなかった。本当にごめんなさい。だからヒック、だから・・・・嫌いにならないでくださいぃ」


 泣きながらそう言ったミカ。・・・・・・え? 泣く程の事なのか? 


「お、おい、そんな泣く程の事でも無いだろ?」


「ヒック、器の相手にヒック拒絶されるのは、ヒック存在そのものを否ヒック否定されるのと一緒なのヒックだから、ヒックだからぁ・・・・・・」


 ・・・・・・重いよ・・・・・・イグナスの文化って軽い所と重い所の差が激しいよ。俺的にはそこまで言ってないし、言ったつもりも無いんだが・・・・・・。アイスブルーの瞳から、大粒の涙を流しているミカ。


「いや、だから、ああいったやり方が駄目だって言っただけであって、ミカの存在がどうのこうのって――」


「もう絶対しませんー! タカオの言う事はちゃんと聞くからー! だから嫌いにならないでくださいー!」


 わんわんと大泣きしながら懇願するミカ。あーあー、涙と鼻水で顔ぐちゃぐちゃだよ。これってまた幼児退行してるよな? さっきよりも酷いぞ。世界を跨いだ事によって、何か副作用が出ているんじゃないのか?


「ミ、ミカ。ちょっと落ち着け。ほれ、おいで」


 ぺしぺしと膝を叩きながらミカを呼ぶ。ヒックヒックとえずきながらも、俺の膝の上を跨いで座るミカ。・・・・・・ジャージを着ているからなのか? 子供って親の膝とか跨いで座るよな・・・・・・いや、何か違うか。今回は抱き付くことなく、両手で顔をぐしぐしやっている。まずはティッシュだな。


「ほら、ミカ。まずはこれで鼻を拭いて」


 ミカにティッシュを手渡すが・・・・・・


「何よこれー? こんなので誤魔化さないでよー! 本当にごめんなさいー!」


 泣きながら、ぺいっとティッシュを投げ捨てるミカ。


「いや、これはこうやって鼻をな? ほら、涙と鼻でぐしゃぐしゃだぞ?」


 それもそうか、ティッシュなんか知ってる訳ないか。うーうー言いながらもされるがままのミカ・・・・・・やっぱりギャップが激しすぎるよな? お子ちゃまモード発動か? まあ、それならそれで。


「ミカ、いいか? ああいう事は薬を使ってまでやったら駄目だ。それじゃあ強姦と一緒だぞ?解るだろ?」


「はい、解ります」


「器の相手だからって、何でもありだと思っちゃ駄目だ」


「はい、解りました。タカオの言う事は守ります」


「よし、じゃあこの話は終わりだ。俺もきつい言い方してごめんな」


 そう言ってミカを抱きしめる。ふー、疲れた。ミカはルシアが感情のコントロールが出来ないって言って

 いたけど、ミカの方が酷くないか? ・・・・・・まだ九時か・・・・・・ちょっと早いけど寝るか。


「ミカ、俺は寝ようと思うんだが。ミカはどうするんだ? ルード達を待つのか?」


「・・・・・・一緒に寝ちゃダメ?」


「何もしないぞ? 寝るだけだぞ?」


「解ってる。寝るだけ」


「解ってるならいいけど・・・・・・じゃあ着替えるから一回降りてくれ」


 ミカは素直に降りた。まあ、さっきの今じゃな。流石に言うこと聞くか。着替えを出して服を脱ごうとすると・・・・・・ミカが俺をじーっと見ている。正にガン見だ。


「・・・・・・恥ずかしかったら後ろ向いてろ」


「解った」


 と言いつつガン見ですかそうですか。恥ずかしくないんですね。俺はちょっと恥ずかしいぞ。


 俺は服を脱ぎ着替え始めたが・・・・・・そう言えば、今気付いたが寒くない? むしろ温かい?電力復帰していない筈だから、暖房点いてないよな? あ、まだ発電機止めて無かった! 上半身裸のまま動きを止めた俺を見て、


「ああ、温度調節の魔法を使ったの。寒いならもっと上げるけど・・・・・・」


 遠慮がちにそう言うミカ。


「そんな事も出来るんだな。ありがとうミカ。丁度いいよ」


「この家全体に掛けてあるから」


「そうか、じゃあ一樹とルシアも安心だな。流石に寒いまま放置は可哀想だからな」


 着替え終わったので、ランタンの灯を小さくしてベッドに入り、ミカを呼ぶ。


「ほら、いいぞミカ」


 少し迷う素振りをしながらもベッドに入るミカ。ああ、やっぱり自分のベッドはいいな。もう睡魔が来た。やっぱり疲れてるんだな・・・・・・しかしミカの奴、随分遠くにいるな。


「なあ、もっとこっちに来ていいぞ? 落ちるぞ?」


「解った」


 もそもそと近寄ってきてこっちを見る。


「タカオ」


「ん?」


「マナの摂取の事で言い忘れた事があるの」


「何を?」


「マナ中毒になったら身体を強化するって言ったの覚えてる?」


「ああ、神経とかだよな」


「そう、神経系統を始めとしたあらゆる器官。更に言うと細胞レベルから修復、強化されるの」


「うん、それで?」


「何故そうなのかは未だ解明されていないんだけど、肉体の状態がピークの時に合わせて強化されるの。タカオの身体が一番状態の良かった時っていつ頃?」


「んん~、やっぱり二十台前半とかじゃないのか? 大体二十年前だな」


「じゃあそこまで肉体年齢は若返るわ。そして、そこで固定される」


 俺も、もそもそと動き体ごとミカの方を向く。


「・・・・・・・・・・・・何度もすまない、意味が解らないんだが」


「マナ中毒になった者は体が強化される。まずそこはいいでしょ?」


「ああ」


 ミカがいつの間にか、魔導士モードに戻っている。


「その強化は中毒者の肉体が、一番良好な状態の時を基準に強化されるの。その状態が、過去であれ未来であれよ」


「何となく解る」


「タカオの肉体年齢は若返り、カズマとカズキは少し進む」


「ん? 寿命が縮むのか?」


「寿命は縮まないわ。寿命イコール肉体年齢では無いでしょう?」


「ああ、なる程。そうだな」


「だからそのぽっこりしているお腹も凹むわ」


「ソウデスカ、スンマセン」


「中毒状態中に強化された身体は、マナが解消された後も強化されたままで固定される。だからルードはカズキと打ち合い続けたのよ」


「固定?」


「死ぬまで強いまま」


「なんで?」


「だからそれは解明されて無いの。未来なんて解らないのに、どう生きて行くかも解らないのに。基準の強さは固定される。これは魔導士や研究者の生涯の課題の一つね」


「歳は取るのか?」


「年齢は普通に重ねていくわ。タカオは今45歳でしょ? 普通は年齢と共に肉体も老いて行くものだけど、マナ中毒を発症した者は60歳になろうが90歳になろうが強化されたままなの。外見も余り老いて行かなくなるわ。実はね、ルードも中毒者だったの。ルードの時は私が解消させてあげたけどね。因みに前世での話よ。それでルードは自分の歳を教えてくれた?」


「いや、特に。言わなかったし聞かなかったな。同じ位だろうとは思ってたけど」


「ルードは83歳よ」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・うそだろ?」


「騙すけど嘘は言わないわ」


 それは一緒じゃないのか? しかしルードが83ねぇ。


「それで? 寿命まで生きたらどうなるんだ?」


「・・・・・・まず目に見えて老化が始まるわ。 美しく咲いた後の花の様に」


「それって急激に・・・・・・萎むって事か?」


「はっきり言うとそうね。前兆みたいな物はあるけど。今迄無かった様な不調が体に現れるのよ。不調と言っても通常の老化に伴う物だけどね。関節の痛みとか、各種の衰えね」


「ふーん・・・・・・全員がか?」


「マナ中毒を発症して能力が上がった者全てが寿命まで生きる訳じゃ無い。寿命まで生きている方が珍しいわ。大体七割の人が能力を過信し、無茶な依頼を受けたりして、結局早死にするわね。残りの三割の内二割の人は政治に巻き込まれた挙句、策謀にハマったり暗殺対象などになって殺された人」


「あー、まあ突出した能力を持つ者は、周りから疎まれる事もあるしな。こっちじゃ“出る杭は打たれる” って言うんだがな」


「ふーん、良い例えね。全くその通りよ。で、残りの一割の更に半分が、そのまま老衰での死を選ぶわ」


「残りは?」


「残りは私みたいなタイプね」


「ミカみたいなって、転生ってことか?」


「そう。私みたいに極限まで何かを追及しようとする人は、大体転生を選ぶわね。例外はあるけど研究者に多いわね。肉体自体は変わるから身体的な能力は無理だけど、それまで培った知識や経験は受け継げる。探究者向けでしょ?」


「例外って?」


「闘う事が全てって人達ね。因みにルードも今の所は転生を望んでいるわ」


「ルードらしいと言えばルードらしいが。他にもそんなのいるんだな」


「ふふ、そうね」


「ふーん、大体は解った。肉体年齢の若返りに強化ねぇ。」


 って事は、遥と佐々木さんが生きている可能性ってかなり高いんじゃないのか? いや、しかし今の俺と一馬みたいな状態で、あのゴブリン共に遭遇したら確実に死ぬぞ。あーもう、今考えてもどうにもならん。


「それともう一つ。


「まだあるのか」


「これで最後よ。マナ中毒になる事を “芽吹く” とも言うの。ただその言い方は全ての中毒者には当て嵌まらないんだけど・・・・・・」


「うん?」


「稀に、いえ正直に言うと30人に一人は強化に耐えられなくて精神を壊してしまうの」


「精神を壊すって・・・・・・」


「廃人になるだけならまだ良いの。質が悪いのは、力の赴くままの行動をしてしまう輩もいるの。大体が破壊的な行動をするわ。そしてそういう方向に行ってしまった事を “堕ちる” と言うの」


「一樹は平気なのか?」


「芽吹いたかどうかは中毒解消後に直ぐに解るわ。目覚めて暴れるかどうかだから。だからカズキは大丈夫」


「そうか。でも俺と一馬は・・・・・・もし俺達が芽吹いたら、それで堕ちたらどうするんだ?」


「まだどうしたらいいか解らない。イグナスでは芽吹いた者は斬首。堕ちた者は討伐対象になり、私やルードみたいな高ランク冒険者が事に当たるわ」


「斬首に討伐って・・・・・・殺すのか?」


「ええ。家族でもない限り、廃人状態の人の面倒なんか誰も見ないわ」


「まあ他人の下の世話なんかしたくはないな」


「でしょ? しかも衣食住の費用も全部自腹よ?」


「身銭を切ってまで他人の世話となると流石にか・・・・・・」


「で、堕ちた方はルードや私みたいな力を持つ者が、気の向くままに行動するのよ? 壊し、殺し、奪い、犯す。生かしておく余地は無いわ」


「元に戻らないのか?」


「一度芽吹いたら戻らない」


「芽吹かない様にする方法は無いのか?」


「無いわ。中毒になったら “飲み込まれない様に気をしっかりと持つ” としか言えないわ。本人の精神力次第で、他人がどうこう出来る問題じゃないの」


「そうか・・・・・・」


 ミカから視線を外し、考える。


 そんなこと言われてもな・・・・・・一樹の様子を見たとは言え、自分では体験していないしな。

 

 ミカに視線を戻すと、いつの間にかすうすうと寝息を立てている。泣き疲れたのか?・・・・・・まあいい、俺も寝るか。


 ミカはいつの間にか、すうすうと寝息を立てている。泣き疲れたのか?・・・・・・まあいい、俺も寝るか。



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