4-7
ライトを持って庭に出る。えーっと何処だ・・・・・・あったあった。箒で植え込みから出し足で突く・・・・・・指先で突く・・・・・・うん、大丈夫そうだ。宝珠を持って居間に戻る。
「ほれ、これだろ?」
「ええ、ありがとう。主神フリージアよ、感謝します」
そう言って手渡した宝珠を胸元に入れるミカ。
「私からの説明は大体終わったけれど、他に何かある?」
「そうだな・・・・・・一馬は何かあるか?」
「ええっと・・・・・・その宝珠ですか? それに触った人はみんなマナ中毒になるんですか?」
「そうよ」
は? 全員? 再び一馬と顔を見合わす。
「あー、ミカ? それには俺と一馬も触ってるんだが・・・・・・あと遥と一馬の友達も」
「ああ、さっきそう言ってたわね。イグナスでは良くある事だから気にならなかったわ」」
気にならないって・・・・・・お前な。
「触ったなら、遅かれ早かれマナ中毒にはなるわ。でも大丈夫。今は私たちがいるから心配しないで。中毒になったら私がきっちりと解消させてあげる。いざとなったらルードとザックもいるしね」
「・・・・・・それって、ルードがジルにやったみたいな事か?」
「ん? ルードが何をやったの?」
「こう、あの巨体で抱きしめてな・・・・・・」
「ああ、それね。ルードは中毒者を相手にする時によくやるわ。マナ中毒者を解消させるには、摂取したマナが底をつくまで消費させなければいけないの。過程は問わず、どう消費させてもいいの。まあ大体暴走しているから戦闘を伴った解消法になるんだけどね。ルードがやったそれは、一番手っ取り早い方法の一つね。マナ中毒中は治癒能力も暴走気味だから、それ以上のダメージを体に与えれば、摂取されたマナを多量に使って傷を治そうとする。大体の目安は、瀕死の重傷に追い込むことね。解放した時は虫の息だったんじゃない?」
「ああ、その通りだ。でもジルの時は抱き潰したけど、一樹の時は倒れるまで闘ってたぞ?」
「そうなの? それはカズキに稽古を付けてたのかも。そもそもマナっていう物は、身体能力の底上げをする物なの。普通は成長と共にゆっくりとマナの器に蓄積されていくんだけど、中毒者は違う。一気に許容量以上のマナを摂取すると、器に収まりきらなかったマナが、行き場を求めるのよ。身体の隅々までマナが巡り、神経系統を始めあらゆる器官を強制的に強化する。そして精神がそれに追いつかなくて暴走。それがマナ中毒って言われている物なの。
そして中毒の最中に闘えば闘う程、中毒解消後の強さが上がっていくわ。解るかしら? 闘いの経験値をそのまま吸収するって言うか、マナがその戦闘に対して、体の最適化を行うって言えばいいかしら。
だからルードは中毒状態を利用して、今後の伸びしろを強制的に伸ばしたとも言えるわね。ルードはカズキの事を何か言ってなかった? 強くなるとか」
「ああ、言ってたな。ルシアを超えるかもって」
「ルードがそこまで言ったの? そ、それは凄いわねこの子。あのね、今はこんなだからよく解って無いでしょうけど、恐らくルシアはイグナス最強なの。勇者の力に上限は無いって言われているのよ。相手が強ければ強いほどルシアも強くなる。どんな酷い負け戦でも、ルシアが来るまで持ちこたえればひっくり返せる。ルシアがいれば最終的にはどんな戦いも勝てるの。そのルシアを超えるかもですって? 凄まじい程の才能ね」
「そ、そうなのか? 良かったな一馬」
「・・・・・・何がどう良かったのさ・・・・・・」
「ははは、じゃああれか? ジルは伸びしろが無いって事なのか?」
「それはまた違う。今迄の話は種族の差はあれど人間の話。獣に至ってはまた違うの。例外はあるでしょうけど、人間は素手で獣には勝てないって知っているかしら?」
「ああ、本気を出したらこれ位の柴犬程度の大きさでも勝てないって何処かで聞いたな」
「そう。獣はそれ自体が最初からかなりの潜在能力を持っているの。只でさえ人より強いのに、マナ中毒でそれを大幅に引き上げられる」
「そう言えばルードもそんな事言ってたな。魔法や幻術を使ってルードが驚いてたもんな」
「へえ、この子も凄いわね。最初でいきなり魔法を使うなんて。私でも驚くわ」
「肩の肉を咬み千切られてたしな」
「それは本当に凄い。レッドドラゴンの一撃を受けても大丈夫な、ルードの体を咬み千切るなんて。もうその子はドラゴンよりも強いんじゃないかしら
「ドラゴンなんてこっちにはいないって」
「そうかしら? 世界は融合するのだから、その内見られるかもしれないわよ?」
「別にそんなの見たくはないがな。怖そうだし」
「相変わらずヘタレね」
「一般人はそんな物なの。それで、ミカはイグナスではどれ位強いんだ?」
「私? 一番よ?」
「いや、最強はルシアだって言ったよな?」
「ええ、最強はルシア。でも一番は私」
「どう違うんですか?」
「そうね、人には誰しも得手不得手があるでしょ? 剣が得意、魔法が得意、料理が得意って。私が剣でルシアに挑んでも一蹴されるだけ。ルードもそうね。あんな筋肉と殴り合うこと自体ナンセンス。逆もそう。魔法で私と並ぶ物は魔王ムーア位のもの」
「昼間はルシアには勝てないって言わなかったか?」
「勝てないとは言ってない。一緒に死ぬって言った筈」
「そうだっけ?」
「何でもありなら私が一番よ。何も相手を殺す事だけが強さの判断基準でもないでしょ? ルシアやルードの様な物理的な高火力も、一発で世界を灰に出来る様な、高威力の魔法を放つ魔王ムーアも対処法はあるわ」
「そうなのか? じゃあ、もしルードと闘う事になったらどうするんだ?」
「そうね、攻撃力も防御力も高いから正面からは闘わないで、距離を取りながらあらゆる弱体化の魔法を浴びせて動きを封じてから、異次元に封印って所かしら?」
「異次元とかもあるのか」
「ええ、あるわ。ジークが持っているマジックバッグもそうよ。袋の中を異次元に繋げているの」
「・・・・・・もしかしてミカを嫁に貰った俺って・・・・・・」
「そうね、タカオが望むなら世界を手に入れてあげるわ」
「いらないけどな」
「そう? ベッドの中で言ってくれるだけで良いのに」
「またその話かよ・・・・・・」
「いいじゃない。もう誓約は交わしたんだから」
「はいはい。で、さっき俺達もマナ中毒になるって言ったよな。何時なるんだ?」
「正直に言うと解らないわ。すぐに発症する人もいるし、数日後になる人もいる。何かしらのきっかけが必要なのよ」
「きっかけ?」
「ええ、激しい感情の昂ぶりね。大体怒りや恐怖で発症するわね。喜びで発症する人は本当に稀ね」
「そうか、明日から捜索に行こうと思っていたんだが、止めた方が良いか?」
「それは難しい所ね。中毒の解消自体は、私たちがいるから何の問題もない。でも解消後はその子達みたいに、丸1日は寝込むことになるわ」
「そうか、ルードも明日の朝までは寝込むだろうって言ってたもんな」
「ええ。かと言って何時発症するかも解らない。タカオの好きにするといいわ」
「解った。少し考えるよ。・・・・・・そうだ、因みに中毒を解消するのって、ミカならどうやるんだ?」
「聞きたい?」
「ああ、ルードのは見たけど他の人はどうするのか知りたいな。ルシアとかも」
「本当に聞きたいの?」
「あ、ああ。何か不味いのか?」
「タカオが知りたいなら教えてあげるけど、まずザックは弓で射続けるわね。木とか壁とか、無ければ地面に縫い付けて撃ちまくりよ。攻撃力が低い分、一番時間が懸かるわね。ルシアは単純明快。この子は両手両足斬り落として動けなくするわ。ダメージを負うのが手足だけだから、見た目が一番まとも・・・・じゃないわよね。ルードは知っての通り。ルードのやり方が一番良いのかしら?」
「・・・・・・で、ミカは?」
「言ってもいいけど引かないでよ?」
「そんなに酷いのか?」
「そんな大した事ないわ、高火力の魔法で一気に焼き尽くすだけ。私のやり方は一番評判が悪いのよ。まず肉の焼ける匂いが凄いでしょ? 次に消し炭一歩手前まで焼くから、再生する時に皮膚が――」
「解った! もういい。・・・・・・つーかどれも嫌なんだが」
「中毒者は恐怖心は無いし、痛みも余り感じないから大丈夫よ。参考までに、アデルとジゼルは撲殺よ。殴り続けるわよ二人で。ジークはマジックバッグから魔物を召喚するわ。何が出るかはお楽しみね。
ヒューは・・・・・・あら? ヒューはどうだったかしら? ああ、そうだ。ヒューは光の魔法で体を吹き飛ばすんだったわ。でもヒューは神官だから、破壊しながらも治癒魔法を掛けていてね。ほら、流石に体が爆散したら即死でしょ? だから対象者は瞬時に再生するんだけど、解消出来て無かったらやり直し。爆発、再生、爆発、再生の繰り返し。
そうよ、ヒューが一番酷いやり方だから、周りがやらせなかったんだわ。思い出した」
「凄いな・・・・・・ミカ達の世界は・・・・・・ルードのやり方が一番まともに思えるとは」
流石に一馬もドン引きだ。
「なあ一馬、もしマナ中毒になったら誰に頼む?」
「ええ? それ聞く? ・・・・・・ルードさんかミカさんかな・・・・・・?」
「え? ミカは焼き殺すんだぞ!? ルードだろ!?」
「でも一瞬なんですよね? ミカさん」
「ええ、痛みや恐怖を感じる前に焼き尽くせるわ。あっと思った瞬間に終わるわね」
「ほら、やっぱりミカさんだよ。ジルの時忘れた? ルードさんに抱かれた時、すっごい暴れてたよ・・・・・・父さんはルードさんに・・・・・・抱かれたいの?」
「おっ、おまっ、お前ルードに抱かれたいとか、お前嫌な言い方するなよ!? 気持ちわるい」
「あら? もしかしてタカオはそっちのケがあったりした?」
「無いから! 完っ全に無いから!」
「そう? 全然手を出さないからそうなのかと思ったわ?」
おい、ミカ! そこで一馬をちらりと見るな! おい一馬! ああ、そういう事ね。みたいな顔するな! お前高校1年だろ!? 変な気を利かせようとするなよ? やめろよ? 前振りじゃねーぞ?
「さて、大体の話は終わったのかな? ミカさん」
「そうね、終わったわ」
「じゃあちょっと早いけど俺は部屋に戻ろうかな? 父さん一樹とジルはお願いね」
「そうね、色々聞かされて疲れたでしょう。自室で整理するといいわ。ありがとう」
おいいー!最後のありがとうって何についてのありがとうだよ! それに一馬! まだ8時だぞ! 全員集合の時間だぞ!
俺の心の叫びは一馬に届かず、一馬は居間から去って行った。残ったのは俺とミカ、寝ているルシア、一樹、ジルのみ。
「さて、タカオ? 邪魔者はいなくなったわ。実の息子にここまで気を使わせておいて、この期に及んで逃げないわよね?」
そう言いながら胡坐をかいている俺を跨ぎ、首に手を回しながらこちらを向いて座るミカ。ヤバいよ、ミカの眼が肉食獣の眼になってるよ。それにしても、人の息子を邪魔者呼ばわりするなよ、全く
・・・・・・しかしルシアも綺麗な顔立ちだけど、ミカも綺麗だな。アイスブルーの瞳、整った眉、スッと通った鼻筋、うん、語彙が少ないから上手く言えないな。俺の上に座っているミカの腰に左手を回し、右手は髪を撫でる。顔が近いが、しっかりとミカの眼を見ながら言う。
「なあ、ミ「タカオ、先に湯浴みしたい」」・・・・・・だよな。
「解った。そりゃあそうだよな。少し時間がかかるが良いか?」
「ええ、お願い」
もういいか。抵抗しても無駄だ。時間の問題だ。成り行きに身を任せよう。
俺は立ち上がり、発電機の所に向かった。




