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A fused world / 融合した世界  作者: あにゃこ
1-4  昔話と現状説明
20/75

4-4

 ふん、戦士二人にアーチャーか。後ろでは魔導士と僧侶がいつでも魔法を撃てるように構えておるの。儂の事を知らんのか?


「ぬし等、ルシアがこうなるまで何故放っておいたのじゃ?適切な対処をすれば、こうはならんかったろうに。何故ここまで放置したのじゃ」


「放置?何言ってんだおっさん。俺たちはちゃんと適切な対処をしていたぜ?」


「そうだな。我らのやり方は間違ってはいない」


「なら何故ここまでルシアが壊れておるのだ!?」


「あのなおっさん。ルシアは勇者なんだぜ? 人知を超えた力を持つ化け物を、天災と言われるような本物の化け物に充てるのは当然だろ? そうすりゃあ化け物同士潰し合ってくれるんだ。で、弱った奴らを俺らが仕留めると。適材適所ってやつだな!」


 化け物という言葉が発せられる度に、ルシアの肩が震える。そうか、こやつらもルシアがこうなった原因の一つか・・・・・・。あんなに愛らしい笑顔を振り撒いていたルシアを・・・・・・


「って事だからよ、悪いがルシアの事は諦めろやおっさん。まあルシアも見た目は良いからな、今後はもう少し可愛がってやることにするよ」


「夜限定だがな」


「はははは、お前本当の事を言うにゃぎょ!!」


 儂は目の前に立つ戦士の若造を闘気を纏った拳で殴り飛ばしておった。左頬と顎は粉砕骨折って所か。


「耳が腐るわ! 外道どもが!!」


「おやじ! てめえ何やってぶしゃ・・・・・・」


 二人目の戦士は頭上から拳を落とし、床に叩きつける。ふん、頭蓋骨陥没と背骨が折れたのう。首もイったか? アーチャーは短刀を抜き儂の腹を刺した。


「あ、あれ? 何で刺さらないんだ?」


「愚か者が。そんなちんけな短刀が儂に刺さるか」


 アーチャーを抱きしめ力を入れる。


「ちょっ、ちょっと待っがあああああ!」


 メキ、ゴキキと骨が折れる音。あばらと背骨がイったのう。次は魔導士の女か? 儂に向けて呪文の詠唱をしておるわ。儂に対して魔法で攻撃をするのに、詠唱している時点で三流じゃの。


 一瞬で距離を詰め、その細い顎を握り潰す。ふむ、痛みで失神しおったか。まあその顎ではもうまともに話せまい。無詠唱の練習でもするんじゃな。最後の神官は腰を抜かしておるわ。


「ぬしは神官じゃの?」


「は、はははい。っそうです」


「ルシアを見るに怪我の治療だけはしっかりやってくれていた様だの」


「sっそうです!私は神官。負傷者の治療をする為だけに存在します。ルシアさんの体はいつでもキズ一つなく完璧に治しておりました!」


「そうか、それについては感謝するぞ。ルシアの綺麗な顔に傷でもあったら可哀想じゃからの」


「ええ、ええ、それは全く持ってその通・・・」


「じゃがの」


 儂は神官の両肩をがっちりと掴む。


「何故心の傷は癒そうとせんかったのじゃ?」


「え、えーとそ、それは・・・・・・」


「答えられん様じゃの。ぬしも同罪じゃ」


 そう言い捨て両腕に力を込め両肩を砕く。ビキビキビキイッ!


 なんじゃ? 声も上げる間も無く気を失いおったわ。全く、どいつもこいつもルシア一人に全て任せていたのが丸解りじゃ。・・・・・・いつの間にかルシアは儂を見ていた。


「ルシアよ、儂と一緒に来るか?」


 そう尋ねるとルシアは無言のまま立ち上がり儂の方へと歩いてきた。うむ、まだルシアの心を取り戻せるかもしれんの。


「一体何の騒ぎだ!!」


 ギルド長か。ふん、文官上がりで自分の保身しか考えられぬ奴じゃ。大方こやつが高難易度の依頼や討伐を受け、ルシアに押し付けていたんじゃろう。勇者であるルシアが依頼を完遂すれば自分の功績にもなるしの。


「ギルド長か。今この場から、ルシアは儂が身請けする。文句は無いじゃろうの」


「これはこれはルード様。何の説明も無くいきなりそんな事を言われましても、当ギルドとしても承服しかねます。それに勇者ルシア様に至っては、既に多数の依頼を受けております。依頼を破棄して行かれるとなると、高ランクの依頼ばかりという事もあり、相当額の違約金を支払う事になりますが」


「幾らじゃ?」


「いえいえ、違約金の問題だけではありません。一度受けた依頼を手も付けずに破棄する。それは冒険者としての信用を無くす、という事はルード様もご存じの通りでして、更にはギルド全体のメンツにも関わってくるのです。よってルード様の仰っている事は全く持って承服しかねます」


 こやつめ・・・・・・どうあってもルシアを手放したくないらしいの。しかし一介の冒険者ならまだしもギルド長を殴り飛ばすのはルシアの今後に影響を与えかねんの。


「解った。ギルド長の言う事も尤もじゃの。ならば今現在ルシアが受けている依頼は儂が引き継ぐ。それに儂がルシアとパーティーを組んで事に当たれば何の問題もあるまい」


「・・・・・・え、ええ。それはそうなんですが・・・・・・」


「なんじゃ? まだ何かあるのか? それとも儂だと信用できんか?」


「い、いえいえ、そんな事はありません。では少々お待ちください。ルシア様が受けた依頼のリストを持って参りますので」


 ギルド長はそそくさとギルドカウンターへ行き、リストと言うよりは小冊子と言った方が合っている物を持って来た。・・・・・・おい、ギルド長よ。それは儂等高ランク用の高難易度の依頼のファイルじゃぞ。最後に漬物になりかけてる依頼を全部やらせる魂胆か。


「ギルド長よ、儂は“今ルシアが受けている依頼”と言った筈じゃがな」


「いえいえルード様。これは勇者ルシア様専用の依頼書の束です」


 こやつめ・・・・・・やっぱり殴り殺してやろうか・・・・・・


「ギルド長よ、余り欲をかくと己の身を亡ぼすぞ? それで? これを全てこなせば文句はないのだな?」


「はい、主神フリージアに誓って私は今後一切関わりません」


 ・・・・・・“私は”か。


「まあいい。報告は各地のギルドで行う。では最後にここにいる者にもう一度言っておく。ルシアは儂が身請けする。今後一切勇者ルシア・アナ・メイシールドに関わるな。もし関わるのであれば、一国の軍事力に匹敵する武力を持つ儂が相手になる。それ相応の覚悟を持つがよい。ではギルド長よ、今迄世話になったな。ルシア、行くぞ」


 ルシアは無言で着いて来る。さて、ギルドから解放されたのは良いが、これからどうするかの。奴らの言い方ではルシアの戦闘能力は問題無さそうだが、このまま連れ回しても自然に精神が回復するとは思えん。・・・・・・ミカを頼ってみるか。ミカなら転生してまで魔導の追及をしているから良い案が得られるかもしれん。




「で、私の所に来たのね」


「うむ、そうじゃ。」


「ん~そうねぇ・・・・・・まず私たちはルシアを化け物なんて思っていない事を理解させる。次に他の人との接触を避ける。今はこんな当たり前の事しか浮かばないわ。何しろイモシアのスキルの研究なんて本人がいないとやり様がないでしょ? 手探りで少しずつやるしか無いわね」


「やはりそうか。儂もここに来るまでに色々考えたんだがのう。良い案が浮かばんのじゃ」


「とりあえずルシアは暫く静養させた方がいいわね。戦い詰めだったんでしょ? この館の周囲には結界も張ってあるから魔物も来ないし。ルシアの面倒は私が見るから、あなたは押し付けられた依頼を少しでも消化してきなさい」


「そうじゃな。すまんのミカよ。ここまで頼れるのはおぬししかおらんのだ」


「構わないって言ったでしょ。あなたも一日位ゆっくりしたらいいわ」


「うむ。そうさせて貰おう」





「これが私とルシアの出会い」


「・・・・・・そうか・・・・・・そんな事があったのか。可哀想に」


 ミカは寝ているルシアの頭を撫でながら続ける。


「その後は特別な事はしなかった。いや、出来なかった。イモシアがどの程度の害があるのか、勇者ではない私達には想像も出来なかった。ルードもルシアが心配で、最初は近隣の依頼を片付けて週に一回は帰ってきたわ。


 ルシアは何か言えばその通りの行動をしたわ。例えば“湯浴みに行け”って言うと、ちゃんと湯浴みをしたり。でもそれ以外はぼーっと花を見ている時が多かった。


 そして半年位経ち、段々とルードの帰って来る頻度が下がって来た。それも当然。依頼は近隣だけじゃない。


 そこで私は決めた。ルードと私、そしてルシアで旅をしようと。旅をしながら依頼をこなそうと。依頼自体は全てルードに任せ、私たちは最寄りの町で待機。ルードもルシアの様子を見に、一々戻って来るよりも効率があがる。


 そうして私はルシアにフライの魔法を教えた。ルシアは勇者だけあり魔法の適正も高く、半日で空を自由に飛べるようになった」


「そういや空飛んでたよな。ルードも飛べるのか?」


「・・・・・・飛べると思う? 見た目のまま。ルードに魔法適正はほぼ無い。」


「そりゃあそうだよな。あの巨体が飛んだら凄いわ」


「その変わり、ルードは闘気を纏う事が出来る。その状態だとかなり早く走れる」


 早く走れる? 一馬と一樹がそうだったな・・・・・・


「ふーん、俺も空飛べるのか?」


「どうかしら? ただそれを確かめる方法が無い事もない」


「どうするんだ?」


「キスをするの」


「・・・・・・あのな・・・・・・」


「本当よ。粘膜の接触が一番解りやすいのよ。ほら、自分が魔法を使えるのか知りたいなら来なさい」


 そう言ってミカは眼を瞑り、顎を上げ唇を軽く突き出す。・・・・・・こいつ本気で言ってるのか? 一馬の前でキスしろと?


「・・・・・・・・・・・・じゃあルードともキスをして確かめたのか?」


 ミカはパチリと目を開き、俺を見る。


「・・・・・・本当にヘタレね」


 やっぱり嘘か。なんで息子の前でやらなきゃいけないんだよ。そもそも何でヘタレなんて言葉を知ってる!


「話を戻すわね。飛べるようになったルシアはほんの少し、本当に少しだけど表情が柔らかくなったの。そうして次の依頼からは一緒に旅をすることになったわ。


 一緒に行動することによって依頼完遂のペースは早くなり、一年程でサビアル王国内の依頼は全て終わったの。その頃ね、サビアル王がバカみたいな政策を発表したのは」


「バカみたいって?」


「“ヒト種絶対主義国家を建国”ですって。バカそうでしょ?」


 ・・・・・・意味とやろうとしている事は解るが、なんだそのネーミングは。


「まず初めにサビアル王国は、スパイン大陸の統一戦争を始めたわ。あ、スパイン大陸とはヒト種が統治している大陸の事ね。まあ統治と言っても広い大陸に幾つかの大国と複数の小国が、それぞれの領地を持っている感じね。他には獣人が統治する大陸、バザム。魔族が統治する大陸、シャダール。バザムとシャダールは強さこそ正義って言うお国柄だから、言葉通りアルゴとムーアが統治していたわね。この三つの大陸がイグナスの大半を占めているわ。」


「ん? ドワーフとかは?」


「それはこれから。 ・・・・・・でも説明し辛いわね。何か書く物は無い?」


「ああ、ちょっと待って」


メモ帳と鉛筆をミカに渡す。


「あら、随分と上質な紙ね。これに書いていいの?」


「ああ、構わない」


「やっぱりこっちの世界の技術レベルは凄いわね」


そう言いながらメモ帳に大まかな地図を書く。


「こんな感じかしら?」


「ここがスパイン大陸で、サビアル王国はこの辺。バザムがここで、シャダールはここ。エルフはここの大陸の大森林にいるわ。で、ドワーフはここの島ね。ま、大雑把な世界地図だけどこんな所かしら?」


・・・・・・うん、並行世界って言うのは事実っぽいな? ミカが書いた世界地図は、何となく地球の世界地図に似ている。


地球の地図に照らし合わせると、ユーラシア大陸がスパイン大陸、サルビア王国はドイツの辺りか。アフリカ大陸が魔族領シャダール、北アメリカが獣人領バザム。マレーシア辺りからオーストラリアまでがドワーフ領か。南アメリカがエルフ領の大森林って所か。細部はかなり違うが大体はこんな感じだな。


「なあ、この辺に島は無いのか?」


 日本がある辺りには何も記されないので聞いてみると、


「ん? 無い筈よ?」


 なんだよ。日本は無いのかよ


「そうか。不死族は?」


「不死族はまた特殊なのよね。世界のあちこちに転移門を設置してあって、そこからヒルダが統治する地下帝国へと行けるの。大体各大陸の隅の方に設置してあるわね」


「ふーん、転移門ね。そんなのもあるんだな。他国と貿易とかしてるのか?」


「ええ、それはしているわよ。」


「まあ内容はそれぞれの特産品とかだろうが、どうやって運ぶんだ?」


「陸路もあるし海路もあるわよ? 空は流石に無いけどね。陸路は馬車で海路は帆船よ」


「へー、帆船か」


「で、どうやったかは当時は解らなかったけど、サルビア王国は一カ月でスパイン大陸を制圧、統治下にしたわ。今思えばレギオンを大量に召喚したんでしょうけどね」


「成程ね」


「それと同時に、大陸内にいるヒト種以外の種族を全て捕らえ、恭順か死かを選ばせたわ。

恭順を選んだ場合はそのまま奴隷堕ち、そうで無い者はその場で処刑された。

因みに戦えるヒト種は徴兵され、そうで無い者は武器や兵糧の生産で強制的に働かされていたわ。どの道奴隷扱いだったらしいわ。

 そしてそんな事をすれば当然各国から使者がやってくる。獣人族、エルフ族、ドワーフ族が使者を送って来て不死族と魔族は送って来なかったの。

 3種族の使者は王城に入った途端に捕らえられ、これも恭順か死かを選ばせた。恭順する者などいるはずも無く、全員が首を刎ねられた」


「それって戦争にならないのか?」


「勿論なったわ。でもその前にきな臭さを感じた私たちは、獣王アルゴ・ブラッドファングが統べる国、バザム大陸にあるガリルへと亡命していたの。ルードとアルゴは、何て言うの? 喧嘩友達?で、快く迎え入れてくれたわ。アルゴも自分が本気を出しても壊れない、数少ない相手が頼って来た事が嬉しかったんでしょうね。これがルシアが19歳と半年位の時ね。そこでルシアに変化があったの。


 獣人の国ガリルにいた事が幸いしたのね。獣人族は強さこそが正義。武でも魔でも力こそ全て。そう言う考えの種族なの。そんな種族だからヒト種最強と言われるルシアは、ルード以上に歓迎されたわ。

 アルゴにルシアの状態を説明した時に「獣人族にそんな下らん事を言う奴はいない!」 そう言い切ったわ。

 でも少し心配だったから様子を見ていたけど、ルシアの持つ常識外れの武力は、獣人たちにとって恐怖の対象ではなく感動、憧れの対象。本当に純粋に心の底からそう思っている獣人たちに囲まれて生活している間に、ルシアの心は少しずつ回復していったの。

 最初はアルゴがルシアと組み手をした時。なんでそういう事になったのかは覚えていないけど、病人そのもののルシアに油断していたのもあるんでしょうね、ルシアはアルゴを投げ飛ばしたの。

 周りの観客は静まり返ったわ。でもその後は大歓声の嵐。その場にいた獣人族全員が称賛していたわ。それもその筈、絶対的強者である種族の長を組み手とは言え投げ飛ばしたのだから。戦の勝どき以上の称賛の嵐にルシアは驚いていたわ。ええ、本当に驚いた表情をしていたの。

 私はこれまでにルシアの心をどうやって取り戻すか考えていた。悪意の感情に押し潰されたのなら、反対に純粋な好意の感情を向ければルシアの心を取り戻せるのでは?と。でもその純粋な好意のみを持つ対象が頭に浮かばなかった。しかしガリルにはいた。あんなに沢山。

 そうしてルシアは毎日毎日朝から晩まで獣人族と組み手をしていた。

 やがて組み手が終わった後にお礼と称賛を送って来る獣人族に 「ありがとう」 とルシアもお礼を返すようになった。

 次は組み手後に「あなたは脇が開いている」 とか 「重心はもっと下げた方が良い」 などとアドバイスをするようになった。

 次は出来もしない料理を自分から手伝いに行っていたわ。流石にそれは失敗して凹んでいたけど。料理の不味さを笑って指摘されたルシアは、料理は諦め食材調達の手伝いを始めた。

 そして更に半年経ち20歳になったルシアは、笑いはしないけど普通に話せるようになっていたわ。

 その頃ね。獣人、エルフ、ドワーフと戦争をしていたサビアル王国が、全世界に向けて宣戦布告。サビアル王国 対 獣人族、魔族、不死族、エルフ族、ドワーフ族の他種族国家連合との大戦が始まったの」


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