4-3
「もういいのかの? 今度こそ話は終わったのか?」
ルードか。終わるまで大人しくしててくれたんだな。
「ああ、ルード。ザックもすまんな」
「大丈夫だタカオ。気にすんな。酒が美味いから何の問題も無い」
「そうか。じゃあ今度こそ今何が起こって「待てい!!」・・・・・・何だよルード」
「タカオ、お主はふざけておるのか? のうザックよ」
「ああ、全くだぜタカオ。困った奴だ。そんなんじゃルシアとミカに呆れられるぞ」
「え?なにが?」
「バカモン! めでたい時は乾杯からじゃろうが!」
「・・・・・・・・・・・・は?」
「は? では無い!今日はミカとルシアの、え~っと、あの日! 乾杯もせずに何を話すのじゃ!?」
・・・・・・いや、乾杯って・・・・・・さっきやったよな? おい、お前ら・・・・・・後ろの瓶の山は何だ? 何でさっきの10分程度でそんなに飲めるんだ? そもそもあの日ってなんだよ! 何か違うだろ! 違い過ぎるだろ! お前ら流石に酔ってるだろ!! 特にルード! お前昼から飲みっぱなしだよな!?
「タカオ! ミカのコップが空だぞ!」
「そうじゃ! そう・・・・じゃ・・・・・・」
ん? 二人ともどうした? 急に青い顔して。気持ち悪いのか? 色々混ぜて飲んでるもんな。
「なあ、吐くならせめて庭でやってく・・・・・・?」
なんだ? 急に寒気が・・・・・・
「あなた達・・・・・・いい加減にしなさい・・・・・・」
横を見るとミカが立っていた。いや、ルシアもだ。今回ミカは両手に黒い塊を持っている。ルシアは、ってそれ何!? 剣なんか今持って無かったよね!? なんでその剣赤く光ってるの? 某暗黒卿みたいに! それに二人から陽炎の様な物が立ち上っている。・・・・・・まあそりゃあ怒るよな。
「な、なあルシア。なにも聖剣まで出す事無いんじゃないか?」
「そうじゃぞ? ほれ、ミカも。今重力魔法なんぞ食らったら、胃の中身が出てしまうじゃろ」
へー、ルシアのアレは聖剣なんだ。某宇宙戦争の光のセイバーみたいだな。瞳の色も淡いグリーンからエメラルドみたいに濃くなっている。勇者の力を出すと色が濃くなるのか? ミカのは重力魔法か。そんな事も出来るんだなミカは。押し潰したりするのか?
「あなた達は何を言っているの? 聖剣じゃないとあなた達二人を斬れないでしょ?」
「そう、それにグラビティで足止めしないと逃げるでしょ?」
「し、しかしだなミカ・・・・・・ほら、タカオが見てるぞ」
ミカとルシアが俺を見た瞬間、ルードとザックは窓から逃げ出した。しかも逃げる時に酒の入ったカートを一台担いで行きやがった・・・・・・
「まったく、だからルード達に飲ませるのは気が進まなかったのよ」
「ええ、それについては私にも責任がある。私も少し浮かれていたみたい」
「あいつらどこ行ったんだ?」
「さあ? ほとぼりが冷めるまで何処かで飲んでいるんでしょ?」
「そうか、まあいいや。これでやっと話が出来る」
「そうね」と言いながらミカは新しい酒を造っている
「緑の瓶が1で炭酸が3位だぞ」
「解った」
って言いながら3:1位の割合にしている。割合逆だから・・・・・・もういいや。
「ルシアはさっきと同じ位でいいか?」
「うん、美味しかった」
「解った。俺もこれでいいか」
一馬を除いた全員に酒が行き渡った事を確認したミカが口を開く
「じゃあ説明を始めるけどタカオ、ルードからどこまで聞いているの?」
「そうだな、ミカ達の世界イグナスにいる大体の種族と、ミカ達の仲間の事程度だな」
「解った。では今回の事の発端から説明する」
「ああ、頼む」
「事の始まりは10年前になるわ・・・・・・
私達の住む国、サビアル王国。その国王であるゴルド・フォン・サビアルは良政を敷く賢王だった。
民や臣下からも好かれ、他種族への偏見も無く、来るものは拒まず門戸を開き仕事を与える。奴隷制度も廃止し、重犯罪奴隷以外は解放して職を与え、生活に困らない程度の賃金を与える。貧民街も同様だった。やればやるだけ報われるので、皆感謝して与えられた仕事を一生懸命こなした。
貧富の差はあれど、生活に困らなければ盗みなどを働く者も減り、治安の回復、生産性の向上、それに伴う税収の増加、他国との貿易量の増加。国家予算は右肩上がりだった。軍の育成にも力を入れ、魔物や盗賊の討伐、災害時には復興の為に派兵と、国民の事だけを考えている王だった。
私も当時は宮廷魔導士だったので色々と手を貸したわ。王は私が転生した後も同じ地位を与えた。周りの臣下も私が子供の姿でも何も言わなかった。まあ、それだけの実績もあったし。
ある日、王が婚姻を結ぶ旨を発表した。国民は諸手を上げて祝福した。相手はヒト種のカミラ・ディアスと言う名前の、何の変哲も無い町娘。サラニアの鎖に導かれてやって来たと言っていた。
王の婚姻だけあって審問はしつこい位に行われた。私も立ち会ったけど、カミラにはなんら不審な所は無い。でも何かが引っかかる。魔導士の勘だ。
私はその事を王へ進言した。カミラは何かがおかしい。この婚姻は止めた方が良い、と。しかし王は聞き入れず、挙句に私を宮廷魔導士の席から外し、王都からの追放処分とした。そして許可なく王都に立ち入ったならば投獄するとまで言われた。
そこまで言うのであればと、私は辺境の館へ移住し、そこで魔法の研究を再開したわ。
それから5年。私はずっと一人で暮らしていた。いえ、正確には一人ではないか。私の世話用にゴーレム数体と一緒だった。
辺境とは言え王国の噂は色々と入って来る。王が人が変わった様に圧政を敷くようになった。重税を課すようになり、軍備を増強。民を虐げ奴隷制度の再開も始めたらしい。でも私は追放された身。私にはもう関係の無い事。下手に顔を出すと投獄されるし・・・・・・
「ミカ、すまんちょっと待った」
「・・・・・・何?」
「いや、ルシアがな・・・・・・」
俺の左に座ってジントニックを一杯飲んだルシアは、俺にもたれ掛かりながら夢の世界へと旅立っていた・・・・・・酒弱すぎだろ・・・・・・二杯目全然飲んでないし。
「まったく、この子は。相変わらずお酒に弱いのね」
そう言いながらルシアを寝かせる。俺は毛布を掛けてやり、話を続けてもらった。
6年目に入った時、ルードが一人の少女を連れてやってきた。グレーの髪は埃でパサパサ。髪だけじゃない、着ている鎧も全体的に薄汚れている。目はうつろで無表情。こちらを見ているけど見えているのかいないのか。・・・・・・ん?緑の瞳?
「久しいのう、ミカよ」
「ええ、久しぶりねルード。私が王都から追放されて以来かしら?」
「そんなもんじゃの」
「で? この子は? 緑の瞳ってことは」
「そうじゃ。今代の勇者に認定されたルシア・アナ・メイシールド、18歳じゃ。ルシアよ、こやつは元宮廷魔導士のミカ・クリンゲル・サガじゃ。挨拶を」
そう紹介されたルシアは、軽く会釈をするだけだった。
「で? 勇者の紹介に来た訳じゃないでしょ?」
「ああ、ちいと相談事もあっての」
「解ったわ。この屋敷には滅多に人は来ないから。ゆっくりしていくといいわ」
「すまんの、世話になる」
「構わないわ。で? この子はどうしてこんな状態なの? 心を閉ざしてるわよね」
「うむ・・・・・・まあそれは後でゆっくり説明する。そうじゃの、ミカよ。ルシアに湯浴みをさせてやってくれんか?」
「いいわよ。あなた、湯浴みの用意をして。浸かれる様に湯は多めでね。あなたはこの子の服を用意して浴室まで持って行く事。あなたとあなたはこの子の湯浴みを手伝いなさい。残りは少し早いけど食事の用意をして」
命令を受けたゴーレムたちは動き出す。
「さあルシア、浴室まで案内するわ」
ルシアは大人しく着いて来る・・・・・・何があればここまで心を閉ざすのか。浴室までルシアを案内し、後はゴーレムに任せた。私は客間に行き、果実酒を傾けながらルードに説明を聞いた。
「で?」
「うむ、儂がルシアと出会ったのは、ある戦場での。敵の砦の急襲が任務だったんじゃが、いざ攻め込もうって時にルシアが砦を破壊して出てきおってのう。しかもマナ中毒の状態でじゃ。砦の中の敵軍は全滅。そして次は儂等に襲い掛かって来たんじゃ。儂が相手をしたから友軍は軽微な損害で済んだが。しかしマナ中毒といっても動きは直線的での、すぐに捕獲出来たのが幸いじゃったわ」
「捕獲って・・・・・・あなた、あんな若い女の子にあれをやったの?」
「しょうがなかろう。あれが一番手っ取り早いのじゃからな」
「若い娘に筋肉ダルマに抱き潰されるトラウマを植え付けるなんて・・・・・・それが原因で心を閉ざしてるんじゃないの?」
「違うわ、バカモン。もっと別の理由じゃ。まあそんなこんなでマナ中毒を解消したルシアは正気に戻ったんじゃがな。話を聞くと両親は先の戦争で失い、姉弟で傭兵として働いている時にその砦の兵達に捕まっての。弟は目の前で首を刎ねられ、自らは敵兵たちの慰み者になろうとした時にマナ中毒になったそうじゃ。
恐らく極度の怒り、悲しみ、恐怖で発症したんじゃろうの。そうしてルシアは敵兵を皆殺しにして、儂等の前に立ったという訳じゃ。
その後、頼る人がいない。戦い方を教えてくれ。とルシアにせがまれての。まあ儂も討伐専門の冒険者をやっていたのでの、相手には事欠かんと思い動向を許可したのじゃ。」
「その頃はまだ勇者には成っていないのね」
「うむ、その後各地を転々としながら討伐任務ををこなしていたんだがの、剣技も覚え少しは打ち解けたのかよく笑うようになったんじゃよ。飲み過ぎる儂を叱り、誰かが酷い目に会えば怒り、褒められると照れる。過去は忘れてはおらんのじゃろうが、前を向いて真っ直ぐな良い子に育って行った。
そうして二年位経った時じゃ、ブラックドラゴンの討伐中に不意打ちを受け谷底に飛ばされてしまってのう」
「誰が?」
「儂がじゃ。仕方が無かろう。報告ではオスのブラックドラゴン一匹と言う情報じゃったが、いざ現地に行くとブラックドラゴンの番じゃ。儂等でなければ全滅していたぞ。それで戦闘区域にルシアだけが取り残されての、儂が谷底から上がって来た時には見事なまでにバラバラになった二匹のブラックドラゴンと勇者としての力、光の剣と緑の瞳を顕現させたルシアが立っていたという訳じゃ。
討伐完了の報告に王都へ戻ったら、勇者が現れたと上へ下への大騒ぎでの。当然王城へも報告が行き、勇者認定の儀を行う運びとなった。14歳の時じゃ」
ルードはグイイッと果実酒を飲み喉を潤す。
「問題はここからじゃ。ミカは勇者の固有スキルは幾つ知っておる?」
「固有スキルは既存のものは全て知っている。ただ本当にレアなスキルは、勇者本人が秘匿していたりするから知らない物もあるかもしれない」
「そうか。ならばイモシアと言うスキルは知っているか?」
「ええ、知っている。本人の意思に関係なく相手の心を読み取る。読み取ると言うより考えている事がそのまま頭に入って来るだったかしら。5代前の勇者がそのスキルの持ち主だったらしいわね。強制的に他人の考えている事が頭に入り、見たくも無い、聞きたくも無い事をずっと見ている内に徐々に心を壊していった。最終的には自害したらしいけど・・・・・・もしかしてルシアがそうなの?」
「そうじゃ。勇者に認定されて一年位は良かったんだがの、時折落ち込む素振りをするようになったのじゃ。問うても中々答えんでの。更に一年経過した16歳の時じゃ。ルシアはその頃には既に儂とは別行動での、数人とパーティーを組んで任務に当たっておった。年に数回は王都で会っていたが、会う度に感情に乏しくなっていてのう、ある日ルシアを問いただしたんじゃ。感情が乏しくなっていたルシアは、その時だけは泣きながら
「「私は化け物じゃないよね!? みんなが平和に暮らす為に闘っているんだよね!? なんでみんなあんな事言うの!? 私はなりたくて勇者になったんじゃないのに! 私は! 私は!!」」
ルシアを落ち着かせ話を聞くと、人の考えている事が勝手に頭に入って来ると言う。そして入って来る他人の考えの殆どが悪感情だと言う。儂は泣きはらすルシアを宿のベッドで寝かせ、ミカの後任の宮廷魔導士に話を聞きに行った。そこで勇者の固有スキル、イモシアであると解ったのじゃ。
宮廷魔導士に解決策は無いのか問い詰めたが、有効な物は確立されていないと言う。そしてイモシアは聞けば聞く程、放置すればする程、スキル保有者の精神は壊れていくと言う。
王城の書物庫で夜を明かした儂は、ルシアに休暇を取る様にさせる為に宿に戻ったが、既にルシアは次の討伐に向かったあとじゃった。
すぐに後を追いたかったが、儂もギガンタートルの討伐を受けておって行くことが出来なかったのじゃ。まあルシアは芯の強い娘じゃから大丈夫じゃろうと思ってしまった。
しかし実際は、ルシアの心は壊れる寸前だったのに。儂は気づかなかった、気付いてやれなかったのじゃ!
そうして次にルシアに会ったのは更に二年後、ルシアはあの状態になっておった・・・・・・
ルシアを見つけたのは王都の冒険者ギルドの酒場。ルシアのパーティーメンバーは店の中央テーブルで酒盛りをしておった。しかしその輪にはルシアはおらんかった。
店内を見回すと、ルシアは一番隅のテーブルで一人で壁の方を向いて座っていた。何故一人であんな隅に?近づいて見ると、テーブルには水の入ったカップのみで何やらブツブツとつぶやいていた。
「私は違う、化け物じゃない。私は違う、私は化け物?違う。私は違う化け物じゃない。私は違う。私は違う。化け物じゃない私は違う、化け物じゃない。私は違う、化け物じゃない。私は違う違う、化け物じゃない。私は違う、化け物じゃない。私は違う。化け物じゃない。私は違う」
・・・・・・・・・・・・ルシアの心は既に壊れておった。
ルシアがこんなになるまで放置して、利用し続けたパーティーメンバーを殴り殺そうと、闘気を纏い振り返った時
「助けて・・・・」
ルシアがそう言ったのじゃ。・・・・・・相変わらず壁を見たまま、ブツブツとうわ言の様に同じ言葉を繰り返すルシアが、確かに助けを求めたのじゃ。・・・・・・
儂は何をしようとしてたんじゃ。ルシアを利用したパーティーメンバーを殺す? ルシアが壊れかけていた時に気付きもしなかった自分を棚に上げて何をするつもりだったんじゃ。店中の者が闘気を膨らました儂を見ている。注目しているなら丁度いい。
「儂はS級冒険者のルード・グランネル。今この場で宣言する。これより勇者ルシア・アナ・メイシールドの身柄は儂が貰い受ける。今後ルシアに手を出すことは儂が許さん。もし手を出すのであれば、相応の報復を覚悟するがよい。そこのギルド職員、ギルド長にもそう伝えよ」
「は、はいっ!」
そう返事をしギルド長の部屋へ走って向かう職員。そこに、
「おい! おっさん! 何勝手な事を言ってんだ!? ウチの稼ぎ頭を勝手に連れて行かれちゃあ困るんだけどなぁ」
ルシアの“元”パーティーメンバー三人が寄って来た。




