4-2
居間に入るとルードとザックは既に、と言うよりまた飲んでいた。お前達飲み過ぎだろう? 足りなくなっても今日はもう行かないぞ?
全員揃った所で皆で床に座る。L字型ソファもあるのだが、一樹とジルを寝かせているので俺達は床だ。
一応全員に座布団を渡したが、ルードとザックは「要らん要らん、ミカとルシアにやってくれ。腰でも冷やしたら不味いからの」そう言って受け取らなかった。なのでミカとルシアは二枚重ねた上に座らせてある。
「タカオ、あの子とその一匹は何? どうしたの?」
「ああ、ミカ達は初めてだな。次男の一樹だ。で、そっちがペットのジル。訳あってちょっと寝ているんだ。後でまとめて説明するよ」
「・・・・・・・・・・・・そう。何が起きているのかは大体解るけど・・・・・・解った」
「さて、ミカ、ルシア、ザックはいなかったが話の続きをしたいんだが」
「うむ、そうじゃの。だがその前に、タカオは飲まんのか? ミカとルシアも今日位はいいじゃろう?」
「・・・・・・そうね、今日位は。タカオ、ルシアにはあまり酒精の強くない物を選んであげて」
「解った。ミカは何を飲むんだ?」
「私は・・・・・・ザック、さっき私が飲んでいたのはまだある? 緑の入れ物だったけど」
「おーあるぜ、ちょっと待ってろ。ミカが気に入ったみたいだったからな、帰りにいっぱい持って来たぜ」
「タカオ、コップが欲しい」
「ああ、解った。ルシアの分も作るからその時持ってくるよ」
そう言って庭に置いてあるカートに向かうザックと俺。ミカの瓶だけを取りに行ったのかと思ったら、リカーショップのかごに10本位入れている。
「この使い方で合ってるだろ?」
そう言いながら瓶を入れているが・・・・・・かごの中身全部緑色の瓶に入ったジンなんですけど・・・・・・ミカさん?
「なあ、ザック。これって全部・・・・・・」
「ああそうだぜ。ミカの奴俺より飲むぞ。流石にルードには負けるみたいだがな。タカオも覚悟しとけよ? しかもあいつ解毒魔法で酒精を中和するからな。さっきの酒の店でもタカオとルシアを待ってる間に3本開けてたぜ?」
マジか!
「そ、そうか。そんなに飲むんだ、ふーん。」
「なんだ? 酒飲みは嫌いか?」
「いや、それは無いが、今後の酒代が心配でな・・・・・・」
「なんだそんな事か。タカオはミカが転生した話は聞いたんだろ?」
「ああ、記憶を残したままって・・・・・・」
「そうだ。だが残したのは記憶だけじゃないぞ? 前世で稼いだ資産も全部残してあるぞ」
「ふーん。それって多いのか?」
「多いのかって、そりゃあ多いさ。あのな、ミカは前世では宮廷魔導士の最高責任者だったんだぞ? 長生きしてただけあって、立場的には国王の次位に偉かったんじゃないか? まあ魔法の研究ばかりで政治には関わって無かったみたいだがな。数々の魔法、魔導具の開発を始めとして、戦時にはその大魔法で敵を蹴散らし、災害時にはまた魔法で対応し、叙勲も数知れずだ。一国の国家予算に匹敵する資産を個人で所有しているのはミカぐらいのものだぞ。タカオはあれだ、逆玉ってやつだな」
「へー、それは凄いが・・・・・・今持ってる訳じゃないんだろ? それにそんな立場のミカが、なんでこんな冒険者みたいな事をしてるんだ?」
「ああ、それは今代の王が・・・・・・」
「資産は今は持って来てないけど転移魔法でいつでも取りに行ける。タカオが必要なら今すぐにでも取りに行ってくる。それに屋敷もあちこちにある。タカオが望むなら爛れた生活も可能。それとザック・・・・・・人の内情を勝手に話すのは感心しない」
「そ、そうだな。すまんミカ。めでたい日だから口が軽くなっちまったみたいだ。本当にすまん」
「タカオも。聞きたい事があるなら私に聞いて。ベッドの中でなら何でも話すから」
「まぁたお前はそっちの方に話を持って行く・・・・・・まあいいや、その内色々と教えてくれるんだろ?」
「ベッドの中でね」
「はいはい、解ったよ。じゃあ戻ろうぜ」
三人で居間に戻る。俺はキッチンでルシア用にカクテルを作ることにした。カクテルと言っても簡単な物だ。ジンを炭酸で割りライムを入れる。
ライムはスーパーにあったのでこんな事もあろうかと持って来た。作ったのは所謂簡易ジントニックだ。トニックウォーター置いて無かったんだよな。あ、氷も無い・・・・・・電気が無いって事忘れてた。まあ無い物は仕方が無いか。
氷無ジントニックとミカのグラスをを持って居間に戻ると部屋の中が明るい。あれ?電力復旧したのか? 上を見ると蛍光灯の傘の四隅に光の球が浮いていて、それが部屋を照らしている。
「暗いからライトの魔法を使ったわ。四時間位は照らすことが出来る。もっと必要なら言って」
「ああ、ありがとうミカ。助かるよ。これグラスな」
「ありがとう」
「ルシアはこれな。氷があるともっと美味しくなるんだろうが、生憎氷が無くてな」
「あ、ありがとう」
「氷? 氷なら出せるわよ」
「・・・・・・それって食べれる氷なのか?」
「失礼ね。イグナスではエールを冷やしたりするのに入れているから大丈夫」
「そうか。じゃあこれ位の大きさのを四つほど入れてやってくれ。あ、待った。そのままじゃ溢れるからミカのグラスに半分移してっと。良し、いいぞ両方に頼む」
ミカの手が青白く光り、そのままコップにかざすとポチャンポチャンと氷が落ちて来た。製氷皿で作ったような者ではなく、バーとかで出されるような透明度の高いロックアイスだ。
「飲み水とかも出せるのか?」
「ええ、そうね。マナの量に依存するけどかなりの量が出せる」
「へー、凄いな。じゃあ・・・・・・ちょっと待ってくれ」」
アイスペールを持ってくる。
「さっきと同じ位の大きさの氷をこれ一杯入れてくれないか?」
「わかった」
ミカはガラガラと氷を入れる? 作る?
「なんじゃミカ。氷を作るなら儂等にもくれんか? タカオよ大きいコップは無いのか?」
「ん? ああ、ちょっと待って」
大きいコップ? ジョッキでいいか。
「これでいいか? ウチはこれが一番でかいな。あとはこんなどんぶりしか無いぞ」
「じゃあ俺はそっちのコップをくれ」
とザック。ルードは
「儂はそっちじゃ」
どんぶりかよ。氷を入れゴッポゴッポと酒を注いでいる。それってウォッカだよな? 日本酒をどんぶりでってのは何かで見た事はあるが、ウォッカをどんぶりでかよ・・・・・・もういいや、好きに飲んでくれ。酒は行き渡ったな。一馬は未成年だからスポーツドリンクだ。そしてルードが口を開く。
「よし、今日はルシアとミカがタカオと器の誓約を交わしためでたい日じゃ。よって最初の一杯はそれを祝福し、乾杯するとしよう。では乾杯!」
ゴッゴッゴッと喉から音を立てながらどんぶりウォッカを一気飲みするルード。ザックはジョッキを一気飲みだ。
「やっぱりめでたい時の酒は美味いのう」
「ああ、全くだ。ルード、これもいけるぞ」
再び一気飲みを始める二人。そんなペースで飲めば、あの短時間で半分以上無くなる訳だ。見てるだけで酔いそうな二人は放っておいて、女性陣を見る。
「ミカ、これ美味しいね」
「ええ、美味いわ。タカオ、ルシアに作ってくれたこれは、さっぱりして美味しい。何を入れたの?」
「ああ、タンカレー・・・・・・この緑の瓶の酒をこの炭酸水って奴で割って、このライムって言う果物を絞って混ぜたんだ。ミカはこの酒が気に入ったんだろ?」
「そうね。そのままでも美味しかったけど。ふーん、次は自分で作ってみるわ」
「わ、私はタカオにお願いしたいです」
「解った。じゃあここに置いておくから、ミカは自分でやってくれ。ルシアは終わったら言ってくれ、作るから」
「うん」
とはにかむルシア。で、一馬は? 少し離れた場所からナッツ類をポリポリ食べながらこっちを見ている。おい、目つきが悪いぞ・・・・・・まあそうだよな、おかしいよな。
「一馬、ちょっとこっちに」
一馬を呼び寄せる。
「一馬、改めて自己紹介だ。こいつはウチの長男の一馬だ。一馬、こっちがルード達と同じ世界から来た勇者、ルシア・アナ・メイシールドだ。で、こっちが同じく異世界から来た魔導士、ミカ・クリンゲル・サガだ。あとあそこの金髪イケメンはザック・シャルダー。ルードから聞いていた内の三人と食料の調達中に出会った」
「うん、河原で遭った人達だってすぐに解った」
「そうか、やっぱりミカ達だったか」
「うん、それで?」
「? ああ、それで色々あって暫く行動を共にすることになったんだが」
「うん、それで?」
「・・・・・・何か怒っているのか?」
「怒ってはいないよ」
「じゃあ何だよ?」
「じゃあ聞かせて貰うけど、父さんとルシアさん、ミカさんの関係は? 特にルシアさんは子供でも解る態度を取っているけど、そこら辺の説明が欲しいな。いや、決してみんなを責めている訳じゃないよ? でも母さんがいない時に何をやっていたのかしっかり説明して欲しい」
いきなり核心に来たか。・・・・・・何て説明する? ありのままを話して理解できるのか? 俺だって理解しきれていないのに。俺が困っているのを見て取ったのか、ミカが口を開いた。
「カズマと言ったわね。あなたとは河原で遭ったわね」
「そうですね。あの時は置いて行かれましたが」
「そうね。あの時にあなたがタカオの息子だと知っていたら、最優先で万全の体制を持って保護したわ。ただ、あの時はそれを知る由も無かったので放置してしまった。その事に関しては正式に謝罪をするわ。あの時は本当に申し訳ありませんでした。」
両手を着いて頭を下げる。所謂土下座だ。異世界にもあるんだな。
「・・・・・・解りました。あの時はお互い見ず知らずだったので僕もそこまで含む所はありません。もう結構です」
「解ったわ、ありがとう。それで私達とタカオの関係ね?」
「はい」
「カズマ。あなたは運命の赤い糸って信じている?」
「・・・・・・以前は全く信じていませんでしたが、今は信じたいです」
「信じている、では無いのね」
「・・・・・・」
「まあいいわ。私たちの世界イグナスでも同じような物があって、それはサラニアの鎖と言われているの。私達生物は、生命力の根源と言われているマナの器を一人一つ持っている。これは異世界人のあなた達も同じ。気付いていないだけで生きとし生けるもの全てに共通する事。サラニアの鎖とはその器と器を深い縁で繋ぐもの。そして、私達イグナスの女性は、一定の年齢になるとその鎖が見えるようになる。ここまではいいかしら?」
「はい。こっちで言う運命の赤い糸が見えるんですよね?」
「そう。あなただったらその糸が見えたらどうする? 見えない振りをして、その場で生を全うする?」
「いえ、糸の先を探しに行きますね」
「でしょう?私たちの世界ではサラニアの鎖が見えるのは女性限定だけど、見えるようになった女性は例外なく旅に出て、鎖を辿り、器の相手を探しに行く。何故なら、その相手を見つけ出し、結婚し、その後の生を共に歩めば幸せになれる事が主神フリージアによって確約されているから」
ミカの奴、相変わらずだな。反論できないと言うか、反論させない言い回しと言うか。一種の誘導になるのか? これも年の功なんだろうな。と思った途端にミカが俺を睨み付けてきた。・・・・・・まさか心まで読めるとか無いよな? ほら、手に光を集めない。いい子だから。一馬を説得?したら、後でいい子いい子してやるぞ? 手の光を消しやがった。口元が緩んでる! おい!本当に読心術とかやめてくれよ?
「んんっ、私たちは異世界からこの世界まで旅をしてきた。勿論器の相手を探しに来た訳じゃ無いわ。カズマ、あなたはタカオの息子。だから隠さないで本当の事を言う。私は転生者。前世では104歳まで生きた。そして魔導の深淵を追及する為に、この体に転生した。前の人生でサラニアの鎖に繋がれた相手は見つからなかったわ。死産だった赤子を譲り受け、蘇生させ、意識と記憶を保ったまま転生。新しい体で19年生きた。いい?今は19歳なのよ?解った?間違えないようにね?」
「ミカ。話がずれてる」
一応声を掛けておく。ちょっと一馬が引いてたぞ。まったく。
「そうね、話がずれたわね。で、こっちの世界に来た当初から、サラニアの鎖が反応している気がしたけど気のせいだと思っていた。だって、まさか異世界に自分の運命の相手がいるとは思わないでしょ? そしてタカオと出会った。タカオを見た瞬間、確信したわ。この人とサラニアの鎖で繋がれていると。合計で123年生きてきて、初めて見つけた私の器の相手は異世界にいた。イグナスで見つからない訳だわ。だって異世界にいるのだから」
「・・・・・・それは、ミカさんの運命の相手が父さんだった。そう言ってるんですか?」
「ええ、そうよ。でも私だけじゃない、隣にいるルシアもそうなの」
「・・・・・・父さんはこの話を信じたと?」
「ええ、結果的にはね。でも最初はあなたと同じ、疑っていたわ」
「僕にもそれを信じろと?」
「いいえ、そんな事言わない。カズマが聞いてきたから事実を答えているだけ。でもこの際だからはっきりと言っておくわ。イグナスではサラニアの鎖に導かれた者同士は必ず婚姻関係を結ぶ。相手を愛し、愛され、死するまで同じ時を歩む。イグナスの女性は誰だってそうする。私とルシアも例外では無い」
「例外では無いって・・・・・・それって・・・・・・」
「そう、私とルシアはタカオと器の誓約を交わし婚姻関係となった」
「・・・・・・・・・・・・」
「な、なあ一馬・・・・・・」
「ん? 何? 父さん。おめでとう」
「え? あ、あ~っと、あれ? 文句の一つでも言われると思ってたけど・・・・・・」
「何で俺が文句を言うのさ? 父さんがそう決めたんでしょ? なら別に何も言わないよ。それに二人とも美人だしね。良かったじゃん、こんな綺麗な人を二人も」
「そ、そうか? 何かすまんな」
「但し!!!」
「へ?」
「母さんとの話し合いはきっちりやってね。俺達にとばっちりが来ない様に」
「あ、ああ。そうだな・・・・・・」
「ミカさん、ルシアさん、こんな父ですがよろしくお願いします」
「こちらこそ宜しくね、カズマ」
「よろしくお願いします。カズマ君」
・・・・・・いや、カズマの理解を得られた事は喜ばしい事なんだが・・・・・・何か腑に落ちないと言うか。カズマっぽく無いって言うか・・・・・・???まあいいか。




