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ミカ・ルシア side
タカオが店内に消えるのを見送った後
「ルシア、一体どういうつもり?」
「ミカこそ! どういうつもりはこっちのセリフよ! なんであいつなのよ!」
「ルシア、私が転生しているのは覚えてる?」
「ええ、覚えているわ。魔導を極めるために、記憶を残したまま転生したんでしょ? 忘れるわけ無いじゃない」
「そう。前世と合わせて約120年生きて、初めて身を任せてもいい、いえ身を任せたい、彼の子を産みたい、その後の生を一緒に歩みたい。そう望める器の持ち主に出会えた。タカオは絶対に逃がさない。どんな手を使ってでも手に入れる。実力行使も厭わない。それを止める権利は同性であるあなたには無い筈」
「だからって! なんであいつなのよ! 異世界人なのよ!? 私達はこの闘いが終わったらイグナスに戻るのよ!」
「戻る事は出来ない」
「はあ?何で!?」
「イグナスとこの世界は融合し始めている。正確に言えば、何年か経って融合が終わればイグナスとこの世界は無くなり、2つの世界を足した、全く新しい世界が出来上がる」
「はあ!? 何それ! みんな知っているの?」
「アーリマンが言ってたでしょ? 聞いていなかったの? あ、でもタカオには言った」
「またあいつなの!? 私達には言わない事をあいつには言ってるの!? なんでそんなにあいつを!」
「ルシア」
「なによ!」
「まず融合に関しての事は私達全員の前で、アーリマンが言った。だからみんな知っている。ルシア、あなた本当に聞いていなかったの?」
「あ、あれ? 聞いてた・・・・かな?」
「でしょう。少し落ち付きなさい。次に、ルシアも素直になった方がいい」
「私は元から素直よ!」
「私が気付いて無いとでも思っているの?」
「・・・・・・何をよ・・・・・・」
「ルシアもタカオの器に惹かれている」
「!!! ひっ、ひひっひかっ、惹かれてにゃんかにゃい!!」
「じゃあ何で噛むの? なんで兜を取らないの? 赤い顔を隠す為ではないの?」
「ちっちがっ」
「何も違わない。自分の気持ちを隠す為に兜を取らず、事あるごとにタカオに絡んでいる。今迄のルシアではありえなかった事。これについてはルードもザックも気付いている。勿論私も」
「違う! 私はあいつなんかに!」
「なんかに、何?・・・・・・隠して損をするのはルシア。ここで素直にならないと確実に後悔する事になる。 それにルシア、あなた気付いていないの? 感情が戻っている事に」
「・・・・・・・・・・・・え?・・・・・・」
「さっきタカオの前に降り立った瞬間からあなたは変わった。ルードもそれに驚いていた。勿論私もだけど」
「そ、そうなの?・・・・・・わ、私・・・・・・でもミカが先に・・・・・・それに既に結婚してるって」
「イグナスでは一夫多妻は普通の事。早い遅いは何の問題にもならない。」
「・・・・・・・・・・」
「ルシアが一緒にタカオに嫁いでくれるなら、私も心強い。それにルシアは勇者に認定されてから8年、今迄ずっと闘い続けていた。この闘いが終わったら人並みの幸せを手に入れても誰も何も言わない。少なくとも私たちは祝福する」
「・・・・・・そうかな・・・・・・私もいいのかな?・・・・・・」
「問題無い。私達二人で攻めれば篭絡は時間の問題」
「・・・・・・そっか・・・・・・でも実力行使はダメだと思うよ?」
「・・・・・・善処する・・・・・・」
「・・・・・・善処なんだ・・・・・・」
タカオ・ルード・ザック side
全く何なんだあの勇者は。鉄板切り裂くような剣を生身の人間に向けやがって。イカレてんのか? ブツブツ言いながらルード達を探す。・・・・・・お、いたいた・・・・・・ん? バナナ食べながら何やってるんだ?
隣りの通路から近づいて見る。何かクスクス笑ってるな、何がそんなに面白いんだ?ちょっと聞き耳を立てると・・・・・・
「ププッ、・・ぱりルシアも・・。見てい・・・な感じはした・・・」
「まあ・・・ってやるな。ル・・・ってもういい・じゃ。少し・・浮かれても仕方が・・・う」
小声で話してるからよく聞こえないな。隠れてもしょうがないから出るか。
「おいルード、何話てるんだ?」
「お、おおタカオか。早かったの、向こうの話はついたのか? ルシアはどうじゃった?」
ブフッとザックが噴き出す。おい、バナナ飛ばすなよ。何噴いてんだよ。
「いや、ミカが任せろって言うからさ、任せて来た。あんな危ない勇者相手にできるか。何考えてんだあいつ」
「・・・・・・そうか。まあそうルシアを嫌わんでやってくれんか? ルシアはあれで良い娘なんじゃよ。さっきのだってかなり手加減をしていたぞ?
ルシアはの、11歳の時に戦争で両親と弟を亡くし、12歳の頃から戦場に身を投げ出して、14歳の時に勇者認定。それから8年ずっと闘い詰めなんじゃ。少女とはいえサビアルの最高戦力じゃ、開けても暮れても戦場や討伐に送り込まれての。種族関係なしに斬り倒し、ルシアを慕って着いて来る、何人もの兵や民の死を見て来たんじゃ。少し位感情の表し方が下手でもしょうがないじゃろ? ルシアがあそこまで感情を露わにするのも久しぶりなんじゃよ」
「そうだな、ルードの言う通りだ。いつもは感情を出す事無く淡々と依頼をこなしているもんな。あんなルシアは久しぶりだ。タカオのお陰だな」
「そう言われてもなぁ」
「儂が初めてルシアに遭ったのは戦場での、五千の軍が駐留する砦に奇襲を仕掛けようと森を進んでおったんじゃ」
ルード 回想
夜を通して行軍し、敵の砦が見渡せる山の中腹で連隊長が言う。
「良し、明け方までここで待機する。食事は火を使わない物を各自で取る様に。周囲の警戒を怠るなと各部隊長に伝達しろ」
「はっ、了解しました。」
「ルード様、明け方までお休みください。後は我々がやりますので」
「うむ、そうかの?ではお言葉に甘えるとするが、何か不穏な空気を感じるのじゃ」
「不穏な空気ですか・・・・・・敵軍からですか?」
「いや、違う。だが方向がいまいち掴めんのじゃよ。」
「そうですか、では魔導士部隊を使って警戒レベルを上げさせます」
「うむ、そうしてくれ」
そうして儂は腰を下ろしたが・・・・・・なんじゃこの気配は? 遠くにいるような近くにいるような・・・・・・日が昇るまであと少しじゃな。明るくなれば何か解るかの? 良く解らない気配を感じながら儂は眼を閉じた。
儂の耳に何処かの喧騒が聞こえる・・・・・・なんじゃ?・・・・・・敵襲か!? 即座に立ち上がり周りを見回すが儂等の陣では無い。ならば敵軍か? まだ奇襲を仕掛ける時間では無いであろうに。
「連隊長! 来い!」
敵陣が見える位置まで移動する。そこで見えた物は・・・・・・
敵の砦の門が崩壊している。何があったんじゃ? 盗賊でも攻めて来たか? 先程感じた気配も強く濃くなっておる。砦の中にいるのか? しかし儂の不安を他所に連隊長は
「砦の門が崩壊している! 今が好機だ! 行くぞ!」
兵達は我先にと砦の門へ向かう。バカ者どもが、何がいるのか解っていないと言うのに・・・・・・
バガァン!
と言う音と共に砦の横壁が吹き飛ぶ。
む? 何か出てきたのう。あの太さの丸太の壁を吹き飛ばすとは・・・・・・オーガロードでも入り込んだか? 塵芥が舞っている中を何者かがでてきた。
そこにはごく普通のありがちな村娘の服を着た少女が立っていた。腰まで伸びる白銀の髪、それに負けない程の白い肌。手には砦の兵士から奪ったのか数打ちの剣を持っている。
しかし、その全てが血に染まっている。俯いている為表情までは窺い知れない・・・・・・
こやつがやったのか?・・・・・・まさかの・・・・・・俯いていた少女が顔を上げる・・・・・・!! 眼が赤い!! いかん!
「マナ中毒者じゃ!! 全員下がれ! 後退しろ!! 連隊長! 兵を引け!!」
儂の声が聞こえた者は即座に反転し山に戻る。連隊長も撤退の合図を出している。が、聞こえない者は新たに少女が開けた穴に向かって突撃している。
「馬鹿者共が!!」
儂は少女の方に向かって飛ぼうとした時・・・・・・少女の横を走り抜けようとした数人の兵士の首が落ちた。・・・・・・
む、中々速いのう・・・・・・儂は闘気を纏い少女に向かう。その間にも少女は一歩も動くこと無く兵達の首を刈り取っている。・・・・・・何か飛ばしている様だの。
儂は一気に闘気を爆発させた。
儂の闘気に気付いた娘はこちらを向き近づいて来る。・・・・・・笑っておるな、マナ中毒で間違いないの。しかもかなりの潜在能力を持っておるようじゃ。儂でも手古摺りそうじゃの。
ふう~、すぐに捕らえられれば楽なんじゃがの、そう簡単にはいかなそうじゃの。・・・・・・さて、やるか。
「それがルシアとの出会いじゃ」
「・・・・・・・・・・・・え?・・・・・・終わり?」
「なんじゃ?」
「もうちょっとこうさ、なんつーの? そもそも今迄の話ってさ、俺に勇者の良い所を教えようとしてたんじゃないのか?」
「そうじゃな」
ザック、お前なんでバナナ食べながらニヤニヤしてるんだよ。さっきからどれだけバナナ食ってんだよ。床に落ちているバナナの皮はお前が食べたんだよな? 20本位落ちてるじゃねーか。
「だろ? 今の話じゃあ只のイカレた娘が人を斬り殺しまくったってだけじゃん。俺の時とそう変わらなくないか? そんなイカレサイコの話をしても印象が変わるどころか「シャアァァ―キンッ」・・・・・・」
この音って・・・・・・さっき聞いたな・・・・・・
「誰が・・・・・・イカレサイコだって?」
振り向くと、赤い顔をした勇者が剣を抜いた状態でプルプル震えていた。・・・・・・なんだ、やっと兜取ったのか。薄暗い店内で逆光だから良く解らないが、綺麗そうな顔立ちだな・・・・・・ってそれ所じゃ無い。
ヤバい。今の聞かれてたよな。ルードとザックにヘルプの視線を送ると、ルードはグッとサムズアップ。ザックに至っては・・・・・・こいつバナナ握りしめて腹抱えて笑ってやがる! 笑うなら声出して笑えよこの野郎!
こいつら勇者が後ろに来てるの気付いていやがったな。ミカ! ミカは何やってんだ!?
赤い顔でプルプル震えていた勇者はプイッと背中を向けると
「・・・・・・なによ・・・・・・せっかく・・・・・・」
そう言って店を出て行ってしまった。
「何なんだ、あいつは・・・・・・なあ?」
「タカオ、お主のう・・・・・・まあ良いわ、ほれ、坊主達もいい加減しびれを切らすじゃろう。早く持って行くぞ」
「ああ、そうだな」
未だ腹を抱えて笑っているザックは放っておき、カートに食料を入れる。カート五台分あれば暫くはもつだろ?




