第9話:冒険者学校②
まず、建物の2階に上り、そこにあった部屋に入った。
50人ほどが入る部屋の中には誰もいない。
リョウ・ザイルの2人が椅子に座ると、
「冒険者学校、となってはいるけど、王都にあるようなカリキュラムのある学校とは全然違うの。まあ、来たい時に来てそこでやっている講座を受ける形かな。」
そう言って、ミミは黒板に表を書き始めた。
縦軸は、午前と午後、横軸は曜日である。
尚、この世界の暦は六属性で表される。即ち、「火・水・風・土・聖・魔」である。
6日で1週間、5週間30日で1か月、12か月360日で1年である。
「基本的に、午前中は魔法の授業よ。アバラから来た魔法使いの方々が曜日に対応する魔法を教えるわ。」
ミミは話しながら、火~聖曜日まで、午前の行に曜日と同じ文字を記入する。
「午後は、武器を使った戦闘訓練よ。手が空いている警備兵やDランク冒険者が、自分達の訓練がてら色々と教えてくれるのよ。」
先ほどと同じく、火~聖曜日まで、午後の行に「戦闘訓練」と記す。
「魔曜日は休みか?」
リョウは聞くとはなしに聞いた。
「魔属性の魔法は特殊でのう。授業ができないんじゃ。それに警備兵の定期訓練の日じゃからな、外も使えんのじゃよ。じゃから、冒険者の心得を儂が教えておる。」
「まあ、そう言えば格好いいけどねえ。有体に言えばザイルおじいちゃんの昔話よ。皆1度は聴きに来るんだけど、飽きちゃって最近は誰も来てないわよ。」
そう言って、ミミは魔曜日の列に「休み」と記入した。
「休みじゃないわい、せめて、せめて茶飲み話とでも書いておくれ。」
ザイルはそう抗議したが、ミミはどこ吹く風だ。
内心、リョウは思わぬ僥倖に喜んでいた。
(元Sランク冒険者に質問し放題とは、俺には好都合だな。元々魔法と武器の使い方を覚える為の学校だったが、思わぬ副産物があったな)
「さて、何か質問ある?無ければ戦闘訓練を見学に行くわよ。」
「時間は何時から何時までだ?」
「午前は9時から11時くらいまで、1時間の昼休みを挟んで、午後は12時から3時までよ。子供達が家業を手伝う時間に合わせて設定しているの。」
そう言って、黒板を消し始めた。
「ありがとう。外を案内してもらえるか。」
ミミが黒板を消し終わったのを見て、リョウは声を掛けた。
「キーン、キーン」
何故かリョウは刃引きの槍を持たされて、冒険者と手合わせをしていた。
リョウたち3人は戦闘訓練を見学する為、練兵場に赴いた。
その時、丁度訓練の前半が終わったところで、何人かの子供達と教官役の冒険者は休憩をしていた。
見学に来ると知っていたらしく、その冒険者がリョウにどんな武得物を使うのかを聞いてきた。
リョウが特に決まった得物は無いと言うと、じゃあ適性を見ようということで、件の手合わせとなったのだ。
本来、どのスキルを伸ばすかは自分で決められない。勝手にスキルが伸びていくのである。
その為、小さな子供ならいざ知らず、ある程度年齢を経た人間が訓練をする際は、自分に向いている得物を探るのが普通である。
リョウは魔法使いは何を使うのかをザイルに聞いてみたが、どうやら人によってまちまちらしい。
但し、呪文を唱える必要がある為、歯を食いしばる必要がある、大槌のような大きな得物を使う人は少ないらしい。
それを聞き、リョウはとりあえず剣にしようと思った。
別に弓でも槍でもいいのだが、まずはオーソドックスに行こうと決めた。
「槍は向いてなさそうだな。じゃあ次は剣を握ってみろ。」
幾合か打ち合った後にそういわれ、今度は剣を持つ。
リョウは当然剣を握ったことは無い。
実家には家宝の日本刀が飾ってあり、実は歴史オタクのリョウは、手入れをしたこともあったが、使い方は分からない。
リョウは迷わずSPの恩恵に与ることに決めた。
確認したところ、目の前の冒険者はレベルは10しかないが「剣術5」「弓術3」を持っている。
普通に剣術に1ポイント振れば、剣術が向いていると気づくかもしれない。
但し、リョウが全力で剣を振ると、ATKとDEFの関係上、模擬刀が飛んでいく可能性があるので、ある程度力加減が必要だが。
先にSPを割り振ってもいいのだが、それだと「解析鑑定」持ちのザイルに怪しまれる可能性がある。
そう思い、打ち合いながら頃合いを見てSPを振ることに決めた。
「キーン、キーン」
「見た目以上に力はあるようだが、剣筋はイマイチだな。」
教官役の冒険者はそういうと、剣を引こうとした。
「ちょっと待ってください。何か掴めそうなんです。」
リョウはそういうと自分から剣を引き、横を向いて2,3回素振りをする。
その間に「剣術」にSPを1ポイント振ると、冒険者に向き直る。
「もう一度お願いします。」
そう言って、冒険者と打ち合う。
「キーン、カーン」
今までのただ金属をぶつけているだけのような音の中に、重い音が混じるようになった。
それを聞いてザイルは「解析鑑定」を発動させる。
リョウのスキルを見てやや驚いた顔をしたが、すぐに元の柔和な表情に戻り、
「どうやら、剣の才能があったようじゃの。」
そう一言だけ呟いた。
ザイルの一言を受けてリョウの適性検査は終了となり、その後は普段の訓練を見せてもらった。
一対一、一対多、多対多での戦闘訓練は、中々見ごたえがあった。
戦闘訓練が終わるころ、リョウが入学の意思をザイルとミミに伝えると、校長室兼管理人室であるザイルの部屋に連れていかれた。
ここでミミはギルドに戻ると言い、2人にお茶を入れると名残惜しそうに出て行った。
尤も、ミミのお尻を触ろうとしたザイルには、お盆による制裁を加えたが。
ミミが扉を閉め、足音が遠ざかると、当然リョウとザイルの2人きりになる。
すると、急にザイルの目が厳しくなり、
「ところでリョウ・ヒヤマよ、お主、何者じゃ?」
初めてリョウの名前を、しかもフルネームで呼び、そう尋ねた。
次の話は3/9(木)にアップ予定です。
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