第8話:冒険者学校①
メリーの店を出た後、武器を買おうかと思ったが、
(魔法使いなら杖なんだろうけど、そもそもまだ魔法は使えないし。剣や槍や斧や弓矢ってのもあるが、将来的にはどう考えても魔法使いだしな。予備で持つにしても何が向いているのかも検討がつかないな)
そう思い、武器屋に入ることを止めた。
(ゴブリン程度なら、木の棒で何とかなるし。ゲームと現実は異なるってことか)
何となくRPG的な感覚で武器屋に行こうと考えていたが、自分の浅慮に溜息をつく。
宿屋に一旦戻って着替えた後、屋台で適当に腹ごしらえをした。
それでもまだ、12時には時間がある。
どうやって時間を潰そうか考えていると、
(あ、そういえば回復薬ってどこで売ってるんだ?ポーションやマジックポーションの材料がヨーギ草やキナ草のはずだからな)
そう思い、屋台のおじさんに聞いてみる。
「ポーション?そんな良いもんはスールじゃ売ってないよ。大体、錬金術師すらいないから、調合の仕様がない。」
「じゃあギルドで買い取ってくれる、ヨーギ草やキナ草はどうなってるんだ?」
「それなら、アバラの街に定期的に売りに行っているはずだ。確かギルドの中で乾燥させているんだと。」
「ふーん。なら街の人達が怪我をしたらどうするんだ?」
「大怪我だったら館付きの聖魔術師様にお願いするが、それは余程の時だけだ。大体はヨーギ草の汁を塗っておけば血止めには十分だ。」
「そうか。ありがとう。大体様子が分かった。話のお代の代わりに、その焼鳥串を2本くれ。」
「まいど!」
そんな話をしながらブラブラしていると、12時の鐘が聞こえてくる。
リョウはギルドに入り、ミミを探す。
ミミはいつもと違って酒場で他の職員と話していたが、リョウの姿を認めると話を切り上げてやってきた。
「待たせたか?」
「ううん、丁度お昼を食べ終わったとこ。リョウさんは?」
「ミミと一緒で食べてきた。」
「あれ?私の名前知ってるの?」
「ああ、すまん。つい癖で最初に鑑定したんだ。」
「そういうことね。何だかんだで自己紹介し忘れてたから、気にしてないわ。改めまして、ミミです。よろしくね。」
「よろしく頼む。」
そんな会話をしていると、他の職員達やまだ10代に見える冒険者達が、何とも言えない目で見てくる。
(ミミは可愛いからな。嫉妬されてるな)
リョウはミミに気付かれないようにちょっとだけ肩を竦めると、そそくさと扉を開ける。
「そんなに急がなくても、時間はたっぷりありますよ。」
ミミは明るい声で話しかけてくる。
(そういう問題じゃないんだがな。もしかして、本人は人気があることを気付いていない?)
そう思い、もう一度酒場の方に振り返ると、「やれやれ」といった感じの職員達。
(やっぱり、ミミは気付いていないんだな)
そう思い、外に出た。
リョウとミミが外に出た後、職員達は会話を再開した。
「あれが噂のミミの一目惚れの相手か?ミミと同い年位か?」
「確か20歳のはずだ。ちゃんとしているようには見えるが、正直どこに惚れたのかよく分からんぞ?」
「まあ、スールの外からやってきて冒険者になった人は久しぶりだからな。物珍しさが勝ってるんだろう。」
「ミミはこの街から出たことが無いからな。普段ならもっと落ち着いているのに、ちょっと舞い上がっているな。」
どうやら、気付いていないのはリョウの方である。
リョウとミミは20分ほど歩き、冒険者学校の前まで来た。
街の門から見て丁度左奥隅、商業区のどん詰まりにそれはあった。
大体50m×100m程の敷地の中に、建物がいくつか並んでいる。
そして、その奥に広いグラウンドのような広場が見える。
(元の世界でいう、都会の中学校ぐらいの敷地はあるな)
リョウは自分の出身中学校を思い出しつつ、建物を眺めた。
「結構大きいでしょ?」
ミミは自慢げに言う。
「正直、もっと小さいと思っていた。驚きだな。」
「実は、警備兵の練兵場を兼ねているの。だから、場所だけはたっぷりと取っているの。」
ミミはそう言うと、スタスタと建物の中に入っていく。
「ザイルおじいちゃん。」
「おう、ミミちゃんか、大きくなったのう。」
ザイルと呼ばれた老人は、そう言ってミミの頭、いや豊かなその胸に手を伸ばす。
「このエロじじいめ、いつもボケた振りしてんじゃないよ。」
ミミはペシッと手を払いつつ、可愛い顔に似合わない鉄火な台詞を吐くと、ザイルの顔を軽く睨む。
「ふぉふぉふぉ。相変わらずミミちゃんは厳しいのう。」
2人の顔に笑顔が浮かんでいるところを見ると、どうやらいつものやり取りらしい。
苦笑しつつリョウは口を挟む。
「ミミ、このエロじじいは誰だ?」
「ああごめん、このザイルことエロじじいはここの管理人兼校長よ。これでも一応、元Sランク冒険者よ。」
ミミは俺の振りに軽く乗りつつ、ザイルを紹介する。
「こら。エロじじいだの一応だの、余計な言葉がつきすぎだわい。まったく、年寄りを大事にせんかい。」
「自業自得でしょ。こちらがリョウさん。昨日スールに来たばかりの新米冒険者よ。」
「初めまして、ザイル校長、リョウといいます。」
元Sランク冒険者という言葉に驚きつつ、改めて挨拶をする。
「校長なんて堅苦しくていかん。ザイルでいいぞ、若いの。」
ザイルは目を細めてリョウを見る。
「若いのに、鍛えているようじゃな。中々見どころがあるわい。」
「解析鑑定、ですか。」
リョウはザイルと反対に目を見開き、驚いたように呟いた。
この世界では、「レベル」や「ステータス」という概念は存在しない。
正確に言えば、「解析鑑定」のレベルを9以上にすれば見えるのだが、何故か普通の人はそこまでレベルが上がらないらしい。
更に、何故かレベルが10にならないと、年齢も見えないらしい。
リョウがステータスを見ることができるのは、「解析鑑定」にSPを最大限割り振ったからだ。
ちなみに、ザイルの目からはリョウのステータスはこのように見えている。
リョウ・ヒヤマ
人族
魔法:
攻撃スキル:
能力スキル:身体能力強化10、解析鑑定10
生活スキル:採集3
称号:
どう見ても身体能力強化10が浮いて見えるからこそ、細身のリョウに「鍛えている」と言ったのだ。
「お主ほどではないが、解析鑑定持ちでな。」
しかし、リョウが驚いたのはザイルが「解析鑑定」持ちだからだけではない。
なぜか、リョウが「解析鑑定」を発動させてザイルを見ても、何も見えてこないのだ。
それこそ、名前すらも。
「そして、『隠蔽』ですね。」
リョウはセーラから貰ったスキルに関する知識の中から、該当するスキルを引っ張り出した。
「ふぉふぉふぉ。良い線いっているの、若いの。その歳で『隠蔽』を知っているとはな。じゃがな、儂は『隠蔽』持ちではない。まあ、秘密にする歳ではないが、お主の勉強の種に秘密にしておこうかの。」
そう言ってザイルは微笑んだ。
「さて、それでは早速見学に行こうかの。」
「よろしくお願いします。」
次の話は3/5(日)にアップ予定です。
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