第6話:計画策定
その夜、リョウは宿屋のベッドに腰かけ、ミミから言われた言葉を思い返しながら、今後の行く末について考えていた。
因みに、1泊朝食付きで銀貨1枚、お湯は銅貨1枚の安宿である。部屋には藁のベッド、ガタガタした机、小さなクローゼットしかない。トイレは共有である。
「まさか、この年でもう一度学校に入るとは思わなかったな。」
ミミ曰く、このスールの街は慢性的な冒険者不足に悩まされてきた。
強い魔物は出没せず、ギルドマスターもおらず昇格試験も実施できない為、Dランクの中堅ぐらいの実力を付けた冒険者は、さっさとアバラの街に出て行ってしまうらしい。
このこと自体は辺境故やむを得ないと言えばそれまでだが、人口も少ない為に冒険者志望者自体も少なく、更に冒険者になってもその多くは家業との兼業という状態。
結果、スール近郊は下級魔物が跋扈する危険地帯と化しており、商人も寄り付かなくなってしまった。
そこで、スールを治める貴族(といっても、アバラから派遣された代官だが)とギルドで協力して、冒険者養成の為の学校、というか訓練所を作ったそうだ。
そこでは、スールの街の冒険者や兵士のみならず、アバラ領主であるアバラ男爵に仕える騎士や魔法使いが教官となって、様々な内容を教えているらしい。
現時点では試験的な取り組みであり、授業料は破格の月銀貨5枚で講座を取り放題。
生徒はスールのに住む10代の子供たちばかりで人数も少なく、家業の傍ら学んでいる為イマイチ盛り上がっていないとのこと。
ミミとしては、生徒が1人でも増えれば運営が楽になるし、何よりリョウが冒険者として成長することが即スールの発展に寄与すると思い、ダメ元で提案したのである。
リョウとしても、非常にありがたい提案である。何せ、魔法をどこかで学ばないと才能の持ち腐れになってしまう。
ギルドで魔法使いと臨時パーティを組んで盗もうかと思っていたぐらいなので、ミミの提案は当に渡りに船であった。
「まあ、当座は学校に通いつつ金を稼ぐとして、今後の計画を立てる必要があるな。」
何せ、期限は約5年である。元々10人でやろうとしていた調査分析&解決を、たった1人で行う必要がある為、入念な計画が必要である。
「まずは、セーラから聞いた話の整理と、初期仮説の構築だな。」
そう言って、ギルドでの換金後に雑貨屋で購入した紙と羽ペンを取り出してに書き始めた。
【前提】
1. パラレルワールドの概念について
1-1. パラレルワールドは、その世界の知的生命体が滅亡の危機に瀕した際に、神が保険の為に元の世界をコピーすることで作成する
1-2. パラレルワールドが生まれて500~1,000年程で、その世界を管理する神が新たに生まれ、元の世界の神から管理権限を委譲される
1-3. 基本的に、神はパラレルワールド毎に1柱ずつ存在する(但し、パラレルワールドが生まれてすぐは除く)
2. ≪フォム≫について
2-1. 2011年3月11日の東日本大震災が切欠で、地球を管理するセーラが自身の判断で作成した。理由は地震の規模と原発災害
(地球の歴史上、オルドビス紀の大絶滅、恐竜の大絶滅等の際にパラレルワールドが作成された。セーラは恐竜大絶滅後に生まれた比較的新しい神)
2-2. 作成に当たり、他のパラレルワールドを管理する神の関与は無い
2-3. ≪フォム≫が生まれてすぐに、地球の300~400倍のスピードで時間が経過している
2-4. 既に現代文明は滅亡しており、魔法等の新たな概念が生まれているが、時間経過のスピードが速すぎてその経緯はセーラも知らない
2-5. その時間経過スピードの速さ故に、セーラに代わる新たな神は生まれていない
2-6. その時間経過スピードの速さ故に、元の世界の時空に悪影響を及ぼしており、このままだと元の世界の暦で約5日、≪フォム≫の暦で約5年で元の世界が崩壊する
3. 神について
3-1. 全てのパラレルワールドの神の目的は、知的生命体が進化の果てに生まれるように、そして生まれた後は滅亡しないようにすることである
3-2. 基本的に、パラレルワールドを作成する以外に、世界に干渉することはない
3-3. パラレルワールド作成以外に世界に干渉すると、著しくその力が奪われる。そうすると、パラレルワールドを暫く生み出せなくなり、目的を果たせなくなり得る
(セーラは2011年にパラレルワールドを作成したばかりで、次のパラレルワールドを作成する力は残っていない)
ここまで前提を整理した上で、新たな紙を用意し、リョウはいくつかの仮説を書き始める。
【初期仮説】
1. 現代文明滅亡の原因となった何かが、時間経過のスピードを上げているのではないか
2. 魔法の存在自体が、時間経過のスピードを上げているのではないか
3. 他の神が干渉することにより、外部的に時間経過のスピードが上げられているのではないか
4. 1~3の複合要因
「この中で、俺が調査するのは1と2だな。3はセーラが引き続き調査すると言っていたし、そもそも俺のような一人間にはどうしようもないしな。で、調査論点は、」
【調査論点】
1. ≪フォム≫の成り立ち、歴史の調査
1-1. 人族の歴史
1-2. 獣人族の歴史
1-3. エルフ族の歴史
1-4. ドワーフ族の歴史
1-5. 魔族の歴史
2. 魔法の根本的な理論の調査
「まあ、1年ずつ各種族を回って歴史の調査を行う。確信が持てる解が出れば、セーラに報告。無ければ次。移動手段や所要時間が不明だからWBSには落とせないけど、早いうちに目途はつけないとな。2は俺自身の魔法強化も兼ねて、1~2年で終わらせよう。魔族の歴史を調査する時には、相当強くなっていないとまずいだろうしな。何となく、魔族のところに答えがありそうだけど、今行っても瞬殺だろうし、外堀から埋めていくしかないか。」
仕事をしている時の癖で、ブツブツ言いながら紙に纏めていった。
書き終わると一通り眺めた上で出来栄えに満足し、アイテムボックスに突っ込んだ。
(明日は午前中は買い出しの残り。冒険者用の服を買わないとな。昼にはギルドに行ってミミと冒険者学校へ行くと。明日は無収入か、辛いな。明後日にはゴブリンでも狩らないとな……)
そんなことを考えている内に、あっという間に眠りに落ちた。
次回は街の人との交流がメインとなります。
早くヒロイン出てこい!
次の話は2/26(木)にアップ予定です。
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