第5話:冒険者リョウ、始動
冒険者ギルドを出たリョウは、まず道具屋、というより街の何でも屋に赴いた。
アイテムボックスを偽装する袋を買う為である。
アイテムボックスの概念はこの世界に存在するが、極めて希少である。
王宮に仕える魔属性の魔術師数十人が、三日三晩かけて術式を構築し、それで成功率が数%。
下手に失敗すると魔術師の命にも関わる為、ここ数十年挑戦すらされていない。
現存するのは恐らく数個だろうと言われる代物である。
当然、一行商人と名乗ったリョウが持つ筈もなく、そもそも魔物に襲われて荷物を無くしたと言った以上、バレてはまずいのである。
雑貨屋で店番の婆さんに袋が欲しいというと、何故かと聞かれた。
ジャンに話した内容をもう一度話し、ついでに全財産が大銅貨1枚だと話すと、だったらタダで良いと言われ、大きな麻袋を譲り受けた。
更に、古ぼけた小さなナイフを取り出し、これも持っていけという。
さすがに何がしか払うと言ったが、
「貧乏人から金が取れるか。」
そう言って、頑として受け取ってくれなかった。
(やたら外の人間に甘くないか、この街)
そう思いつつ、店の外に出ると、
「ぐぅ。」
と腹の音が盛大に鳴った。
何せ、朝飲んだ栄養ドリンク以外、何も口にしていない。
異世界転移という、あまりにもイレギュラーな事態に遭遇した為、空腹を忘れていた。
しかし、漸く落ち着いてきたことで、腹の虫が収まらなくなってきた。
近くの屋台で一番安いサンドウィッチを銅貨2枚で買い、それで何とか誤魔化す。
物凄い勢いで食べるリョウを見て、店番がお茶をサービスしてくれた。
街の外に出る為、門に到着すると、ジャンにギルドカードを見せる。
「ほう。お前さん解析鑑定持ちだったのか。ずっとスールに居ろとは言わないが、暫く頑張ってくれよ。というか、お前1人で外に出て大丈夫なのか?」
「魔物に襲われたのは、あれだ、実は催している時でな……もうこれ以上聞いてくれるな。」
「あ、悪い。」
「一応、武器が無くてもゴブリンくらいなら倒せるし、オークも追い払うぐらいはできる。そうでなきゃ行商人はできないよ。」
「まあ大きな群れは確認されていないから大丈夫だとは思うが、気を付けてくれ。それと、6時の鐘が鳴って暫くしたら門を閉じる。それまでに必ず戻ってきてくれ。」
リョウの設定を信じてくれたらしく、そう言って、街の外に送り出してくれた。
リョウは20分ほど歩き、メタルスライムの上に落ちた草原とは反対側の林の前に来ると、落ちている手ごろな枝を拾い、簡単にナイフで削って武器代わりにした。
そして、適当に林の外縁を歩いていると、
「ギャギャギャ」
目の前の茂みから、木の棒を持ったゴブリンが出てきた。幸いにも1匹だけである。
(丁度良い、色々と試してみるか)
すでに大量のヨーギ草とキナ草がアイテムボックス内に入っている為、怪しまれない程度に時間を潰して街に戻るつもりであった。
しかし、今の自分の実力を試せれば良いと思い、手ごろな魔物を探していたのである。
まず、解析鑑定を発動させて、ゴブリンのステータスを確認する。
ゴブリン
Lv. 5
HP:50/50
MP:10/10
ATK:10(+5)
DEF:10(+0)
INT:5(+0)
AGI:10(+0)
魔法:
攻撃スキル:
能力スキル:
(レベル差を考えれば、一発殴れば終わるかな)
そう思い、ゴブリンにスタスタと近づく。
そうすると、ゴブリンは木の棒で殴りかかってきたので、手に持っている即席のこん棒で払う。
「カーン」
高い音がして、ゴブリンの持つ枝がはるか後方へ飛んでいく。
(これほどなのか)
ちょっと驚いたが、呆然としているゴブリンの横っ面を、野球のバットスイングの要領で振り抜いてみる。
「ボゴッ」
頭蓋骨が陥没する鈍い音がして、その場でゴブリンが倒れる。
再び解析鑑定を発動させると、HPが0になっており、どうやら倒せたようである。
討伐証明部位である角を何でも屋の老婆から貰ったナイフで切り取り、次に魔石を回収にかかる。
(確か魔石は心臓の代わりに入っているんだったな)
そう思い、胸を切り開く。
出てきた魔石は血まみれで、色もよく分からない。
近くの木の葉で拭うと、濁った黒、とういうより普通の黒い小石であった。
(黒だから魔属性でいいんだよな?最早普通の小石だな)
そう思いつつ、角と一緒にアイテムボックスに放り込む。そうすると、
「ギャギャー」
「ギャーギャー」
「ギュギュギュ」
3体のゴブリンが現れた。
結局、血の匂いに惹かれたゴブリンが7体ほど現れ、その都度即席こん棒や徒手空拳で打ち倒す。
8体のゴブリンの魔石と角を回収した頃には、すっかり夕方になっていた。
(そろそろ戻るか)
そう思い、林を後にし、街へと戻っていった。
ヨーギ草60束、キナ草40束、ゴブリンの角と魔石を8つずつを大きな袋に入れて門を潜った。
ジャンは別の場所に行っているらしく、別の兵士にギルドカードを確認して貰い、そのままギルドに入った。
冒険者でごった返しているかと思いきや、相変わらず閑散としており、手持無沙汰なミミの前に立った。
「リョウさん、お帰りなさい。首尾は如何でした?」
「とりあえず、色々換金して欲しい。」
そう言って、リョウはカウンターの上に諸々を並べて行く。
「うわぁ、リョウさんすごいですね。採集だけじゃなくてゴブリンまで討伐してくるとは驚きです。」
「すぐそこの林の外で換金できる草を探していたら、ゴブリンが1匹出てきて、倒したは良いが血の匂いに釣られたのか次から次へと出てきてな。」
「え?その林って、アバラとは反対方向の、歩いて20分ほどの林ですか?」
「そうだが?」
「変ですね。あそこは魔物が出るエリアから徒歩で1時間ほど離れていますが……」
「そうなのか?大方、オークにでも追われてたんじゃないか?」
「まあ、そんなとこでしょうか。でも、あそこにゴブリンが湧くと街道にも影響が出るので、ちょっと困るんですよね。一応、ギルドマスターに報告しておきます。」
「心配しすぎな気もするが……まあ、好きにしてくれ。それより、結局いくらになるんだ?」
「あ、すみません。ヨーギ草60束で銀貨6枚、キナ草40束で銀貨8枚、ゴブリンの魔石は1つ当たり銀貨1枚なので、角と合わせて銀貨16枚です。」
そう言いつつ、銀貨を手元から出し、リョウは計30枚の銀貨を受け取った。
(1日で30,000円と考えれば、悪くない仕事だな。まあ、基本は宿屋暮らしだし、休みもままならないから、サラリーマンとの単純比較は難しいが)
そんなことを考えていると、
「リョウさん、これからどうするんですか?行商人に戻るんですか?」
ミミが少し心配そうに話し掛けてきた。
「当面は宿屋に泊まりながら、冒険者として金を貯めるかな。先のことは分からん。」
「リョウさんて、魔法は使えないんですよね?」
「ああ。習ったことがないからな。」
そう、6属性全ての魔法が使えるとセーラに言われたにも関わらず、魔法にスキルポイントを振らない理由。
それは、魔法はその使い方を学ばないと、スキルポイントを割り振っても使えるようにならないのである。
尤も、普通の人はその使い方を学び、且つ才能が無いとスキルポイントが割り振られず、使えるようにはならないのだが。
何を聞くのかと思っていると、次にミミから出てきた言葉に驚いた。
「じゃあ、冒険者学校に入ってみませんか?」
まさかの学園編?
次回は今後の計画がメインになります(早くヒロイン出てこい!)。
次の話は2/23(日)にアップ予定です。
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