第4話:初めての街
スールの街に着くと、門番の兵士に話しかけてみる。
「街に入りたいのですが。」
「身分証は?」
「身分証?あー、街に来る途中で魔物に追われて……」
スールに着くまでの間に考えた設定を話す。
「まあいい。銀貨1枚か、何か金目の物を預けてくれれば、仮証で入れてやる。といっても、どう見ても文無しだよな。」
そう、今のリョウは薄汚れた格好をした手ぶらの若者である。
「一応、途中で採ってきたのですが。」
そういって、ポケットから出すふりをして、アイテムボックスからヨーギ草を10束出す。
解析鑑定によれば、ヨーギ草は1束銅貨1枚。大体日本円で100円である。
10束分で銅貨10枚=大銅貨2枚=銀貨1枚になる。
「現物もありといえばありなんだが。ヨーギ草だと鮮度が落ちると価値が下がるからなあ。仕方ない、俺と一緒に街に入って冒険者ギルドで売るか。」
「分かりました。助かります。」
そう、セーラから渡された知識によれば、身分証が無いと街に入れないのである。
最初から街の中に転移すれば?とも思われるのだが、そうすると最初に身分証をどこで発行するかが問題となる。
身分証が無いのに街の中にいるのは犯罪者ぐらいであり、街の外に出ることもできない。
盗まれたと言い訳することもできるが、そうすると警察権のある領軍兵士による捜査対象になり、段々と言い訳が利かなくなり……
まさかの初手で詰む可能性があるのだ。
それが、街の外であれば魔物に襲われて荷物が無くなったと言い訳できる。
それであれば、犯罪者として人相書きが回っていない限り、身分証(この場合、仮証だが)を発行してもらえる。
この仮証を基に、冒険者ギルドでギルドカードを発行すれば、公的にリョウ・ヒヤマが誕生するのである。
(尤も、≪フォム≫では姓を持つのは貴族と王族のみの為、ヒヤマの姓は登録しないが)
「俺の名前はジャンだ。こう見えて警備隊の隊長をやっている。宜しくな。」
「俺はリョウです。」
ぼろを出さないように短く挨拶すると、ジャンと共に街に足を踏み入れる。
色々と聞きたい顔をしているジャンだったが、リョウのすまし顔を見て小さくため息をつく。
まあ、どうせ仮証を発行する時に書くことになると思い、余計なことは聞かないことにした。
門内のすぐ左手が警備隊の詰め所で、すぐ右手が冒険者ギルドである。
警備隊の隊長が気軽に冒険者ギルドで売ると言ったのは、スールが辺境で暇だというのもあるが、この物理的な近さが大きい。
「邪魔するぜ。」
そう言って、慣れた感じで冒険者ギルドの扉を開ける。
中には酒場が併設されており、数名の冒険者が屯っていた。
ジャンの声くらいでは顔を向けることもない。
「こいつが魔物に襲われて身分証もろとも全財産を無くしたらしくてな。」
「そういうことでしたら、こちらでギルドカードを発行します。」
「え?仮証は?」
「いいんだよ。全財産がヨーギ草10束の奴から金を取れるか。」
「でも、預けるだけですよね?」
「あのな、ギルドカード発行にも手数料がかかるんだよ。それが大銅貨1枚。」
「なるほど。」
「まあ、お前の顔は指名手配されていないし、武器すらない。とりあえずヨーギ草を売って金を作れ。その後は―――まあ仕事を探せ。」
「ありがとうございます。」
「では、こちらで。」
「じゃあな、困ったらいつでも声を掛けてくれ。」
そういって、ジャンはさっさとギルドを出ていく。
ぽかんとしたリョウの顔を見て、ギルドの受付嬢は微笑みながら話しかける。
「ジャンさん、お人好しなのに、恥ずかしがり屋なの。多分、今顔真っ赤よ。」
そう言いつつ用紙と羽ペンを取り出し、
「では、ここに記入してください。文字は読めますか。代筆もしますが。」
「大丈夫です。」
そう言って、用紙に記入する。
名前:リョウ
性別:男
年齢:20
職業:
ここまできて、リョウは受付嬢に問いかける。幾分雰囲気に慣れて、地のぞんざいな話し方に戻る。
「この職業ってのは?冒険者でいいのか。」
「あれ?そうか、リョウさんは元々冒険者ではないんですね。そこには冒険者としての職業を書きます。剣士とか魔法使いとか。とりあえず空欄でいいですよ。」
リョウは頷くと、最後まで書き上げる。
ちなみに年齢は、リョウが色白で童顔であることを踏まえてサバを読んだ。
ただの茶目っ気である。
名前:リョウ
性別:男
年齢:20
職業:
特技:解析鑑定
「『解析鑑定』持ちとは珍しいですね。」
「まあ、行商人として仕入れでぼったくられない為には、ありがたいスキルだよ。」
「もしお金にお困りでしたら、常時依頼の採集依頼をこなして頂けると助かります。」
「分かった。俺としても助かる。」
「では、ヨーギ草10束とこちらの登録用紙をお預かりします。」
そういうと、受付嬢――解析鑑定ではミミ 18歳と名前は出ていたが――は奥へと引っ込んだ。
ギルドカード作成と換金が終わるまでの間、依頼ボードの前に行く。
そこには、いくつかの常時依頼と、ただ「依頼」と書かれた紙が並んでいた。
町中の雑用は置いておいて、街の外に出る依頼を眺める。
常時依頼:ランクF ヨーギ草 1束当たり銅貨1枚。最低5束以上
常時依頼:ランクF キナ草 1束当たり銅貨2枚。 最低5束以上
常時依頼:ランクE ゴブリン討伐 1体当たり銀貨1枚 最低3体以上 討伐証明部位は角
常時依頼:ランクD オーク討伐 1体当たり銀貨5枚 討伐証明部位は左耳
常時依頼:魔石 応相談
依頼:ランクD 幻夢花 1株当たり銀貨5枚 5株以上10株まで
依頼:ランクD オーク肉 1体当たり銀貨3枚
(なんかランクの低い依頼ばかりだな)
そう思いながら眺めていると、
「リョウさん、できました。こちらがギルドカードと、ヨーギ草の値段からギルドカード発行の手数料を引いた大銅貨1枚です。」
「ありがとう。」
「では、ギルド及びカードの仕組みを説明しますね。まず、ギルドランクは下から、G・F・E・D・C・B・A・Sに分かれています。Gランクは街の中の依頼のみ受けられます。依頼をこなしてポイントを稼ぐと、自動的にランクが上がります。但し、Cランク以上に上がる際にはポイントに加えて、ギルドマスターの許可、及び試験に合格する必要があります。ここまでは大丈夫ですか?」
「ああ。」
「では、ギルドカードの仕組みを説明しますね。ギルドメンバーは、ギルドカードを持っていればどこのギルド、それこそ魔族の国のギルドでも庇護を受けられます。ご存知の通り、国に依存しない自由組合ですので。依頼を受ける際はギルドカードと依頼の紙を持って来て頂ければ大丈夫です。簡単な説明は以上ですが、何か質問はありますか?」
そういって、ミミは改めてリョウの目を見る。
「質問は2つ。1つ目は、なんで登録したての俺がランクEなんだ?」
リョウはギルドカードに目を落としつつ聞いた。そこには、
名前:リョウ
性別:男
年齢:20
ランク:E
職業:
特技:解析鑑定
最終更新:1007年3の月 スール
と書かれていたからだ。
「解析鑑定のような特殊なスキルをお持ちの方は、なるべくランクの高い依頼を受けてもらいたいので、飛び級してもらっています。嫌なら下のランクからというのもできますが。」
「いや、問題無い。金がないからな。寧ろ助かる。2つ目は、こういっては何だがどうしてランクD以下の依頼しかないんだ?」
リョウは依頼ボードに目を向けつつ矢継ぎ早に聞いた。
「スールのギルドは、近くの≪アバラ≫の街のギルドの出張所になりますので、ギルドマスターが常駐していません。その為、先ほど説明したランクアップの問題もあり、Cランク以上の冒険者は殆どいません。Cランク以上の依頼はアバラのギルドに送ることになっています。」
「ありがとう。」
「では、頑張ってくださいね!」
そう言って、かわいい笑顔で送り出した。
(やべえ、ちょっとドキッとした)
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次の話は2/19(日)に投稿予定です。
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