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五日間戦記  作者: のりまる
1日目:辺境の街「スール」
18/22

第18話:「赤き風」始動

ちょっと会計チックな話です

冒険者ギルドで無事パーティ登録を済ませた後、2人は早速オークの棲む森へと――向かわなかった。

「どうしてこの林なのよ!ゴブリン相手じゃ強くなれないからリョウに頼んだのに。」

ここはスールから歩いて20分ほどの林。魔物はゴブリンしか出てこない。

すぐにオーク狩りに行けると思っていたアウラは、リョウ相手にぶーたれていた。

「明日からはオーク狩りに行くさ。今日はその準備だ。」

「準備って?」

「今日からはパーティとして戦うんだから、まずはお互いのことを知らないとダメだろ?」

「お互いのことって……まさか貞操の危機!?キャー、おじいちゃん、助けてー。」

「ばかやろう」

ぺしっ、とリョウはアウラの頭をはたく。

「はいはい、分かってますよーだ。お互いの戦い方を知らないと連携できないっていうんでしょ。」

「分かってるならバカやってないでとっとと行くぞ。」

リョウはそう言って、林の中に分け入っていく。

「バカって言う奴がバカ……って置いてかないでよーっ!」

(どうやら、こっちの方が素なんだな。まあ、年相応か)

パーティを組んでほしいと頼んできた時の鹿爪らしい態度は、猫を被っていただけだと分かり、少し安心するリョウ。

アウラの相手をしつつも、きちんとゴブリンの探索を行っており、単独行動のゴブリンが30m先にいることが分かっている。

「もうすぐゴブリンが1匹出てくる。まずは俺から戦い方を見せる。」

そう言って待っていると、

「ギャギャ」

予定通り、茂みの奥からゴブリンが出てきた。

リョウは無詠唱で高威力の水流をゴブリンに発射。

見事胸に直撃してよろめいたところを素早く近づき、

「ピュッ」

喉元を居合で切り裂いて倒した。

「すごい……」

アウラは素直に感心している。

「俺はこんな感じで、森の中だと水魔法と剣術を中心に戦っている。大体は剣術で仕留めるがな。」

以前オークと戦った時に使ったウォーターカッターは、相手との距離が離れると威力が目に見えて減衰する。

その為、不意打ちを受けた時以外は、消防車の放水をイメージした魔法を放ち、怯んだところを剣で仕留めることにしている。

「他にはどんな魔法が使えるの?」

「攻撃魔法は火・水・土・風の初級魔法全般だな。」

「おじいちゃんから聞いてはいたけど、リョウは規格外よね。」

「まあ、初級じゃあ宝の持ち腐れだがな。」

そう、初級~上級だと、それぞれの属性単独でしか魔法を使えない。

試しに水と火を同時に出してみようとしたが、魔力が干渉しあって魔法が顕現しなかった。

話をしつつ、討伐証明部位と魔石を取り出す。

「さて、そろそろ次の奴が来るぞ。」

「さっきから何で分かるの?」

「ん?探索スキルだな。」

アウラはブンブンと頭を振ると、ゴブリンが出てくると言われた茂みを見る。

「ギャギャ」

ゴブリンの姿を認めるや否や、アウラは風魔法を身に纏って加速する。

ゴブリンはアウラの姿を見失い、「え?」という表情を見せる。

次の瞬間、ゴブリンの後ろに回ったアウラは、ゴブリンの後頭部をメイスでぶん殴る。

一撃でゴブリンのHPが残り1割ほどに減る。

ゴブリンが振り向こうとしたところで、

「近づかないで、汚らわしい。」

そう言ってメイスから風魔法を放つと、ゴブリンの顔に直撃し、軽く吹っ飛ぶ。

アウラは暫く残身の構えのまま、ゴブリンから目を離さない。

10秒、20秒、30秒。

どうやら倒したらしいと思い、構えを解いた。


「思っていた以上にやるな。」

リョウは心からそう思い、言葉をかける。

「そう?ありがとう。」

ちょっとはにかんだ笑顔が可愛らしい。

「だが、今のままだとオークには単独で挑めないな。」

感心しつつも、リョウは既にアウラの弱点を見抜いていた。

「純粋に威力不足なのよね。」

そう、アウラ自身も気付いていた。

ゴブリン1匹を相手に、速度強化の風魔法を1回、メイスで殴った後、止めの魔法を1回。

1回の魔法で大体MPの1割、つまりゴブリン相手にMPの2割を持っていかれている。

これがオーク相手なら、その倍は手数が必要になり、2匹倒すと魔力切れ寸前である。

「それに、治癒魔法が得意なのに、近接戦闘メインとなるとちょっとちぐはぐだな。」

リョウのRPGの知識では、ヒーラーや治癒術師といわれる職業は後衛が基本だ。

それは純粋に防御力が低いということもあるが、何より治す人間が怪我をしていては意味が無いのである。

「じゃあどうすればいいの?」

そう言われ、リョウは少し考え込む。

リョウ自身は自分でSPを振り分けられるので、敵を倒せればそれで良い。

しかし、普通の人間はそういうわけにはいかない。

セーラからの知識曰く、よく使うスキルにSPが振り分けられやすいという傾向はあるが、それも絶対では無いとのこと。

「俺が前衛で敵を引き付けて対応。アウラはメイスで殴らずに済むように、後方から風魔法で援護、怪我をしたら治癒魔法。ってとこか。」

至極当たり前の答えだが、これしか思いつかなかった。

「敵が1匹ならいいけど、2匹以上に襲われたら?」

「風魔法で速度強化して回避、かな。幸い、元々アウラは素早いみたいだし。」

アウラのステータスを解析鑑定しつつ、そう答える。


アウラ

人族

Lv. 10


HP:120/120

MP:120/150


ATK:30(+20)

DEF:45(+0)

INT:100(+50)

AGI:80(+0)


魔法:風属性魔法2、聖属性魔法3

攻撃スキル:杖術2

能力スキル:

生活スキル:料理3


「リョウはそれで大丈夫なの?結構負担をかけるけど?」

「まあ、怪我しないように立ち回るなら、オークで最大2匹、ゴブリンで4匹。怪我のリスクを取ってオークで3匹、ゴブリン5匹ってとこかな。」

「じゃあ怪我はしないように敵を探してね。無茶はダメよ。」

「まあ何とかするよ。」






「右前方からゴブリン1匹。左前方から2匹。左の方が若干近い。右側の足止めを頼む。」

「了解。アウラちゃんに任せなさい!」

気合の入らないやり取りの後、リョウは左側に飛ぶ。

ゴブリンが投げつけてきた石を風魔法で叩き落し、少し遠い間合いから居合を試みる。

少し届かないが、それも想定済み。

魔法発動体でもある刀の先からウォーターカッターを射出し、顔面を横に真っ二つにする。

確認するまでもなく死んだゴブリンを飛び越え、後方から石を投げてきたゴブリンに肉薄する。

一瞬の内に頸動脈を切り裂き、アウラが相手をしている右側のゴブリンを見る。

あまりにもあっけなく仲間が殺されたのを見て慌てて逃げようとするが、アウラの風魔法を足に受けて転倒、すぐさま近づいてきたリョウに止めを刺される。


「まずまずだな。」

最初の戦闘の後、数匹で群れているゴブリンを探し、何度か狩りを行った。

最初はぎこちなかった連携も徐々に改善し、最後の狩りではパーティらしい動きになっていた。

「やっぱり前衛がいると戦いやすいわね。この調子でオークも倒せそう。」

「今の連携ならオーク3匹同時でも大丈夫かな。明日からは森に行くか。」

そんな話をしつつ、二人は空を見上げる。

「そろそろ帰るか。」






で、二人でギルドに来たのだが、リョウは肝心のことを決めていなかったことに気付く。

「お金の分配はどうする?」

「んー。リョウばっかりが戦っているから、少し多めに取ってもいいわよ。」

Sランク冒険者のザイルの養女だけあって、アウラはお金には鷹揚である。

それに、リョウと組んでから直接モンスターとやり合っていない。

遠距離から魔法でモンスターを牽制しているだけである。

ずっとソロで戦っていたアウラからすれば、かなり楽になっているのである。

「いや、俺も背中を預かってもらっているんだから、対等な方が遠慮しなくて済む。」

「リョウが良いならいいけど……。どっちみち、暫くリョウが預かっておいてよ。おじいちゃんのとこで暮らしている限り、自分のお金は要らないし、失くしても困るから。」

「じゃあ換金する内、3分の1は俺が貰う。宿暮らしで生活費は必要だし、旅の資金を貯めたいからな。3分の1はアウラの分として取っておく。残りの3分の1は、パーティ内留保として取っておくよ。」

「留保って何?」

聞き慣れない言葉にアウラは戸惑う。

「パーティとして出費する時の為に、積み立てておくってことだ。」

「なんでそんな面倒なことをするの?」

ずっとザイルと旅暮らしだったアウラは、お金の管理には疎い。

「例えば、俺がゴブリンから不意打ちを喰らったとする。」

「リョウがゴブリンごときに不意打ちされる訳が無いでしょ。」

「話の腰を折るな。例えばだ。」

「もうちょっとましな例えをしてよ。せめてビッグモスぐらいで。」

ビッグモスは森に生息するAランクモンスターで、文字通り体長3mの蛾の魔物である。

当然ながらスールの近くにはいないが、森での狩りを想定した際にはなかなかリアルな例えではある。

「まあ何でもいい。で、ビッグモスに気付いたアウラが、メイスで俺を庇う。」

「アウラちゃん格好いいっ!」

「でだ、その時に……」

「ちょっと無視しないでよ。」

「アウラのメイスが折れてしまう。」

「やーだー。」

まるで駄々っ子である。

「で、そのメイスの修理代金は誰が払う?」

「んー?おじいちゃん?」

「「「何でだ!」」」

近くで微笑ましそうに聞いていた冒険者、ギルド職員、そして当然リョウが異口同音に叫ぶ。

「冗談よ。流石に理解しているわよ。パーティで活動中の出費はパーティとして持つってことね。でも、2人なら話し合いで何とかなるんじゃない?」

「まあ2人ならそうだ。だけど、アウラが強くなってくれば、他の冒険者学校の子供達をパーティに入れることも視野に入る。」

ここでギルドの換金の順番が来たので、話は中断。

結局、換金後にアウラを家に――といっても冒険者学校の敷地内だが――送る道すがらに、リョウは軽く説明した。


リョウのイメージでは、パーティは「企業」である。

企業でいう営業活動はギルドの依頼を達成すること、その報酬が即ち売上。

コストは冒険者の労務費、そして武器等にかかる消耗品の費用である。

普通はパーティ内で報酬を山分けしてしまうので、利益は残らない。

しかし、そこで敢えて山分けにせずに利益=留保を残すことで実現できることがある。

例えば、さっきのようなケースでの装備の修繕である。

戦闘経験を積む方がレベルが上がりやすいので、Fランク以上の冒険者を強いパーティが連れていくことを、冒険者を育成したいスールとしては望んでいる。

しかし、お金がない新人冒険者は良い装備を持っていない。

それこそ、ゴブリン相手でも連戦して装備が壊れたら、それだけで大赤字である。

だから、新人冒険者はよほどお金に困らない限りリスクの高い魔物狩りの依頼を受けないし、Dランク位のパーティは分け前が減るのをよしとしない為、わざわざ低ランク冒険者をパーティに入れない。

結果、慢性的な冒険者不足に悩まされているのである。

これを打破する為に、パーティに内部留保を積み立て、いざという時に支出できる体制を作る。

この仕組みを信頼できる人間が引き継いでいけば、スール内に常に新人冒険者を育成するパーティが存在し続けることになる。

更に志望者が増えたら領主やギルドから出資を募ってもいい。


こんなことを話しているリョウの目はイキイキとしているのだが、普通の冒険者、しかも15歳の少女に会計を前提とした企業の仕組みを語っても分かる訳がない。

当然アウラとはいうと、

「リョウ、メリーさんとこに新作の服が飾っているわよ。」

「お腹空いたー。屋台で何か買ってよー。」

完全に興味無し。お互いに我が道を行くパーティである。

お読み頂き、有難うございます。

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