第14話:ケリー先生の魔法理論講座
やっと魔法の話です。
翌朝、リョウは6時の鐘で目が覚めた。
「昨日は1日中動き回っていたからな。今日くらいは朝寝が許されるか。」
寝坊の言い訳をしつつ、ベッドの上でゴロゴロしていた。
とはいえ、今日から本格的に魔法の勉強を始める。
それに向けた準備も必要であり、少なくとも店が開く時間帯には活動を開始しておきたい。
結局、30分ほど朝寝を楽しんだ後、朝食を摂りに1Fの食堂へと下りて行った。
朝の間に、魔法の講義をメモする為のノート、そして剣の鞘を腰に下げる為の剣帯を購入した。
リョウはアイテムボックスを持っており、本来ならば剣帯は不要である。
しかし、アイテムボックス持ちであることを隠す為、そして何より時間がある時に剣に魔力を流す為に購入したのである。
因みに、リョウは左利きの為、剣帯は右腰に下げている。
右利き用の剣帯しかなく、防具屋の主人と一緒に色々調整していた為、思った以上に時間がかかってしまった。
(結局、昨日の稼ぎは剣帯に消えたな)
決して贅沢をしている訳ではないが、細々とした出費が重なり、手許には金貨2枚分のお金しかない。
簡単な攻撃魔法を覚えたら、オークが住むという、スールから1時間ほど離れた森に遠征しようと決意するリョウであった。
講義が始まる少し前に、リョウは冒険者学校のたった一つの教室に入る。
そこには既に3名の少年が来ていた。
年齢は12~14歳、レベルは5~6、火魔法1~2持ちであった。
冒険者を目指すだけあって、そこそこに身体も大きい。
しかし、レベルが低いこともあって、ステータスはゴブリンとどっこいどっこいである。
リョウが部屋に入ってくると、少年達は見ない顔に物珍しそうな目を向けてくる。
リョウ自身は子供達と付き合う気はない。
実年齢28歳のリョウと話が合うわけもなく、それになまじ情が湧くとスールを離れ難くなるからだ。
少年達の視線を無視して空いた席に着く。
すると、少年同士でコソコソと話し、今度は険しい目線に変えてリョウの方に近づいてきた。
「なあ、兄ちゃん?最近スールに来たんだって?」
「聞いたぜ?魔物に身ぐるみ剥がれたって?だっせーの。」
「そんなひょろひょろで冒険者やろうってか?」
3人で一頻りリョウを罵ると、仲間内で笑っている。
リョウ自身は別にどうでも良いと思っているが、何がしたいのか分からず困惑している。
(年上と分かっていて喧嘩を売りに来るとは、どういう了見だ?ただの馬鹿なのか?)
リョウは呆れたような表情で黙って少年達を見ていると、リョウが怯えたと思ったか、年長の少年が、
「面白そうな木剣を持ってるな?ちょっと貸せよ?」
そう言って、リョウが右腰に下げている剣に手を伸ばしてきた。
リョウの刀は普通の剣と異なって白鞘であり、滑り止めの革も巻いていない。
その為、駆け出し冒険者用の木剣と勘違いしたのである。
流石に刀に触れられるのは不快な為、リョウは鞘を持って柄頭を少年の腹に軽く突っ込んだ。
「うえっ。」
少年は変な声を出して後ろに吹っ飛んだ。
「てめえら、俺に喧嘩売ってんのか?」
そういうと、リョウは立ち上がりざまに素早く少年達の懐に入り、同様に柄頭を少年達の腹に突っ込んだ。
「くえっ。」
「ぐふぅ。」
時代劇でよく見る意識の刈り取り方を真似てみたが、少年達は気を失うまでには至っていない。
(う~ん。思った以上に力加減が難しいな)
そう思いながら床で伸びている少年達を見下ろす。
どうしたものかと悩んでいると、丁度講師である魔法使いが教室に入ってきた。
年齢は20代前半か。白い肌にこちらでは珍しい黒髪である。
「えーっと、リョウさん?ですよね?」
そう言いつつ、リョウの顔と床に伸びている少年達を交互に見ている。
「ああ、今日から世話になる。」
リョウの落ち着いた声に、魔法使いは顔に困惑の色を浮かべる。
「教室に入るや否や、喧嘩を売ってきてな。挙句俺の剣を奪おうとしてきたから、少々折檻しておいた。」
思い当たる節があるのか、魔法使いは苦笑いを浮かべる。
「申し遅れました、私は火と風の魔法を担当しています、ケリーと言います。早速ですが、講義を始めましょうか。」
そう言って、さっさと教壇へと歩いていく。
「こいつらは?」
「自業自得なので放っておきましょう。リョウさんに絡んだ理由も何となく分かりますし。」
「何で絡んできたんだ?」
心底分からないという風にリョウは聞き返す。
「大方、ミミさんと仲良くしているリョウさんに嫉妬したんでしょう?彼女は冒険者達のアイドルですから。」
「別に仲が良いというより、受付が彼女しか居ないからよく話すだけなんだが。」
「まあ、そういうことにしておきましょう。で、リョウさんは魔法についてどこまで知ってます?」
本当に講義を始めるようで、リョウの知識を尋ねてくる。
「六属性あるということと、レベルが10段階あるということぐらいしか知らないな。」
分かりました、とケリーは答えると、黒板に書きながら説明を始めた。
「まず、全ての魔法は、初級・中級・上級・王級・神級の5つの等級に分けられます。初級はレベル1~2、中級はレベル3~4、とレベルは2段階ずつに分けられます。それぞれの等級の定義ですが、火・水・風・土は共通、聖と魔はそれぞれ別です。私は聖と魔については詳しくないので、ザイル校長に聞いてください。」
そこまで話してから、一旦リョウの方に向き直る。
いつの間にか、少年達は席に戻っている。
「ザイルじいさんは講師も兼ねているのか?」
はい、と短く答えてすぐに講義に戻った。どうやら、不要な雑談は嫌いらしい。
「まず初級は、魔素をそれぞれの元素に変化させるところまでです。上手く魔力をコントロールさえすれば、形までは自在に変えられます。中級は、性質の変化です。火ですと温度の変化です。上級は、純粋な威力の上昇です。この学校で教えるのはここまでです。」
そういって、何か質問は無いかと聞いてきた。
少年達は既に知っているようで、興味なさそうにしている。
「王級と神級の定義も教えてくれないか?」
分かりました、私自身は上級までしか使えないので、あくまでも机上の知識だけですが、と短く断り、板書を始めた。
「王級は、2つの属性を混ぜ合わせるそうです。私自身は火と風を使えますので、火魔法の威力を風魔法で強化、といったところでしょうか。練習してはいますが、なかなか上手くいきません。神級は3つ以上の属性を混ぜ合わせるそうです。私にはちょっと想像がつきません。殆どの魔法使いは上級止まり、王級の使い手となると宮廷魔術師のトップクラスです。火・水・土・風の神級は人族の国には1人しかいません。今の宮廷魔術師を束ねるルーク様だけです。」
ふむ、とリョウは少し考え、質問を続けた。
「それはつまり、王級となるには、2つ以上の属性が使えて且つぞれぞれの属性がレベル7以上必要、だから上級から王級へと等級を上げるのが急に困難になる。神級となれば更に、という理解でいいか?」
「その通りです。優秀な生徒を持てて嬉しいです。」
そう言って、ケリーは少年達を軽く睨む。
どうやら、悪ガキどもに手を焼いているようだ。
「さて、質問は以上ですか。そろそろ外で演習をしないと、子供達が寝ちゃうので。」
「ああ。また何かあったら遠慮無く聞かせてもらうよ。今は一年生だからな。」
そう言って、リョウは立ち上がった。
次の話は3/26(日)にアップ予定です。
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