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お嫁さんは猫耳少女  作者: ギル
1/1

猫耳少女は甘えん坊

自信ないですけどまあ読んでください

 俺、ラファエル・ローザハイド。

 職業はビーストテイマー。

 まだあまり慣れてはないけど攻略難易度の高い獣人族をパートナーにしている。

 その子の名前はアイリ。

 俺はテクニックだけでアイリを攻略した。そして今一緒に住んでいる。

 こうなったのは一年前のことだ。


「行ってきまーす」

 今日も探検に出る。

 動物を求めて歩き回る。

 そうやっているうちに昼になっていた。朝ご飯を食べていないラファエルは体力が限界だった。

 そんなときにある村を見つけた。だが、そこに着く前に倒れてしまった。

 そして起きたのは夕方だった。

「ん?」

 起きてみるとラファエルは世界樹の下で謎の少女に膝枕されていた。

「ンンンンン!!??」

「おはようございます。いい夢は見れましたか?」

 何事もなかったかのように接してくる少女はかぶっていたフードを脱いで丁寧に自己紹介をした。

「わたしはアイリです。獣人族です」

 ラファエルは飛んでもないものに遭遇していた。

 獣人族。それはビーストテイマーの夢。攻略難易度が一番高いとされている。

 その獣人族の少女に膝枕されて寝ていたとなるとこれはもう事件だ。

 まだ寝ぼけていると思いながらも自己紹介をする。

「俺はラファエル・ローザハイド。職業はビーストテイマーの十七歳」

 特に隠す理由も見当たらなかったので正直にビーストテイマーということを打ち明ける。それでも少女は何もなかったかのような表情のままだ。

「ラファエルさん。どうしてあんなところで寝てたんですか?」 

 やはり何もなかったような表情で聞いてくる。

「俺ビーストテイマーだしさ、動物探しをしてたらお腹がすき過ぎて倒れた」

「ふふっ。そんな事なら私の家に来るといいです」

 危機感がないのか、人間の、それも男を家に上げると言った。

 これはラファエルとしてはいいことではあるが獣人族の村に入っていいのか戸惑ってしまった。

 まあ本人がいいと言っているのだから問題はないと思うが、他の人?たちからどう思われるかも考えると躊躇ってしまう。だが、生きるにはこうするしかない。だってラファエルは――帰り道など覚えていないのだから。

 という恥ずかしい理由ではあるが家まで案内してもらった。

「ここが私の家です。どうぞ、上がってください」

「おぉ。広い」

 ラファエルには豪邸に見えた。

 小さな家で一人で小さな猫と戯れる生活を送ってきたラファエルは少し大きな家でも豪邸に見えてしまうというもはや病気な状態だった。

 そんなことは置いといて、二人っきりじゃないか心配になる。

 誰も「おかえりー」とも言わないし、そもそも靴が全然ない。

「あのさ、この家に誰か―」

「私は一人暮らしですよ?」

 初対面の男といきなり二人っきりなどそれでいいのだろうか?

 ラファエルは『おかしなこと』をするような人ではないがもう少し危機感を持ってほしい。

「少し待っててくださいね。直ぐできますから」

「あっはい」

 本当に作っていた。

 人間の男というものがどのようなものなのかわかっていないようだ。そうでもなければ初対面の男を家に上げるなどしないだろう。しかも十七歳という完全に大人にはなっていないような年齢の男だ。危険と思わないのだろうか。

 ラファエルに性欲という概念がないに等しいというのは事実で確かに危なくはないが――その恰好は女の子同士でもしてはいけないと思います。

 胸があってもなくても興奮する人は興奮する格好。ラファエルの中では空想上でしかあり得ないと思っていたあの恰好――そうだ。裸エプロンだ。

 今は真夏で熱いがその格好は確実にアウトだ。こんな小さな子がするような格好じゃない。どこかのエロマンガにでもなってしまいそうだ。

 初めて女性のエプロンを見るラファエルは顔が真っ赤になった。

(理性を保て。今まで女のことは無縁だったからしょうがないかもしれないけど初対面の女の子を襲ったら死んでしまう。俺に性欲なんてない性欲なんてない性欲なんてない……)

 どうにか理性を保とうにもどうしてもエプロンが視界に入ってしまう。

 反対側を向いても気づけばそっちを向いている。

 もうどうしようもない。今はとにかく早く着替えてくれることを祈るばかりだった。裸が見たくないわけではないがラファエルはラファエルで大変なので早く着替えてくれないとそろそろいろんな意味で危ない。

「出来ましたよ」

 やっとできた。

 服を着てくれると期待したが速攻でその期待は裏切られた。それどころかラファエルは追い打ちをかけられ、死亡寸前だった。

 俺のところに食器を置くとき、少し前かがみになる。そこまでは何の問題もない。だが、そこからが問題だ。見えてしまいそうなのだ。あと少しで胸が完全に見えてしまいそうなのだ。

慎ましやかな胸が露になりそうだ。

 もうラファエルも我慢の限界だ。

「あの!服を着てもらえると嬉しいでございますです!」

 ほぼアウトで、話し方がおかしくなった。

 そしてアイリのほうはというと、いつも裸エプロンで油断していたらしい。客がいることを忘れていたらしく、顔が真っ赤だった。

 いきなり気まずい雰囲気になってしまった。

 もはやこの常用を打破する手はないともいえるだろう。

「目をつむってるから服を着て?」

 こうすることしかできなかった。

 女と無縁な生活を送ってきたラファエルだ。扱い方など知らない。ましてやこうなることなんて人生で一度もないと思っていた。

 そんなことが今日、いきなり起きたのだ。びっくりするという次元を超えた。頭の中がグチャグチャだ。

 アイリは着替えてはくれたが、今度はミニスカート。これも実物を見るのは初めて。だが、さっきのこともあって今回は大丈夫だった。

 着替えてくれたおかげでアイリを見ることができるようになり、話せるようにもなった。


 ということがあった。

 それからよく合うようになって気づけばアイリのことが好きだった。

 一緒に遊んだり、喧嘩したり、いろいろあった。一緒に探検もした。そして出会ってから5ヶ月くらいたってから、ラファエルとアイリは付き合い始めた。

 そしてさらに二ヵ月、晴れて二人は結婚した。

 あれはいい思い出だった。

 今は街に家を買って、二人で楽しく生活している。ちなみに子供はいない。

「アイリ―、そろそろ行くよー」

「はーい」

 今日はアイリと久々の洞窟探検に行く予定だ。

 今日行く洞窟はスライム程度の強さのモンスターが来るとのことなので武器、装備を用意して、弁当も用意している。

 鉱石採取もあるが一番の目的は楽園へ到達することだ。

 楽園は、モンスターが襲ってくることもないし、見た目的には地上とあまり変わらない場所だ。そこでキャンプをするのが今日の目的。

 金も稼いだし、サブ職のエンチャンターとしての技の練習も兼ねていく。人がいれば小さなサーカスでも開こうと思っている。動物で。

「そんじゃ、行ってきまーす」

 ドアを開くとそこには地獄が待っていた。

「あ、熱い……」

「うぅ、しぬぅ」

 建物が少なく、影がない。しかも真上からの直射日光。洞窟までの道で泉でも見つけてそこで泳ぎたいところだ。この暑さは尋常じゃない。真夏ではあるがこんな暑いとは聞いてない。専門の占い師でもいてくれたら楽になるのに。

「………」

「………」

 もう話す気力もない。

 歩いているだけで限界だ。

 歩いて十分ほどで背中がびちゃびちゃになった。だが、見つけたのだ。泉を。滅茶苦茶デカい。深さもちょうどいいし、入って涼むにはいいだろう。

 人もいないし、ちょうどいい。

 ラファエルとアイリは服を脱いで泉に飛び込む。

「ヒャッハー」

「わーーい」

 ザブーーン

 飛び込まなければよかった――アイリはちっこいし大丈夫だったけど、俺は足を思いっきり打ってしまった。

 痛い。滅茶苦茶痛いけど恥ずかしすぎていえるようなことではないのでなるべく顔に出さないようにしている。

「か、回復するわー」

「きもちいー」

 岩にもたれて風呂のようにのんびりする。他に人がいなくてよかった。

「いやされるわー」

 泉に回復の機能でもあるかのような回復力だ。自然治癒もついた気がする。これなら洞窟まで歩いて行けそうだ。

「あー、癒され過ぎて歩く気にならない」

「まさかとは思うけどおんぶしろとか言わないよね?」

「どうかなー」

 いつものことだけどさすがにこの暑い中でおんぶとか嫌だ。というかいくらアイリでも暑い日に密着するのは嫌だ。暑すぎて死ぬ。

 今日くらいは自分で歩いてほしい。

 どれだけ「太るよ」と言っても意味がない。アイリはどれだけ食べても、どれだけだらけても絶対に太らないうらやましい体質だから。その代わりいまだに幼稚体型だけど。太る太らない関係なく運動くらいはしてほしいところだ。

「さて、そろそろ出発しようか」

「だねー」

 アイリはすでに半分寝ている。

「はぁ――」

 仕方なく連れていく。

 

                  (´・ω・`)


 洞窟の入り口はいい感じに整備されていた。誰か人がすでに来ていたかのように。中をのぞく限りはモンスターはいない。

 そしてアイリは完全に寝ている。

「はぁ……ついたよー」

「ん」

 荷物とアイリを下して武器を装備する。アイリも武器を装備して先へ進む。

「きゃっ」

 上から水滴が落ちてきたのがアイリの頭に当たっただけだった。

「水滴だけで驚くような人がモンスターに遭遇したらどうなることやら」

「驚いてないもん」

 とか言いながらぽかぽかしてくる。「あはは」と笑いながらなでると「なーでーるーなー」と返ってくる。可愛い。

 特に何もない道を進んでいくと階段があった。階段を下りてみるとモンスターがちらほら―

そしてこの階には人もいる。

 ラファエルはアイリの攻撃、防御、回避を上げる。そしてアイリは後方から矢を放つ。だがそれだけでは時間がかかる。こんな時にビーストテイマーもラファエルが役に立つ。

「行け!デッドファング」

 複数の狼にゴブリンを攻撃させる。ついでに狼の攻撃も上げたので数秒で片付いた。だが、ここでこの数だとあと五階くらい下に行くと勝てなくなるかもしれない。剣は使えるが剣士系の職業は経験がなく、技が全くない。アイリはアーチャー兼魔導士。だが、魔力が超少ない。武器への属性付与を得意としているが、魔力がないせいで使えない。だからラファエルが支援しなければいけない。PTに入ってくれそうな人を募集するか、ラファエルが剣を使って攻撃するしか手はない。

(まあ、嫁を守るのが夫の務めだよね)

 剣術なんてまったく知らない。だが、暇つぶし程度に筋トレをしていた俺ならいける!

「アイリ、支援よろしく」

「わかった」

 支援専門のラファエルをアイリが支援するというのはなんだかおかしい気もするが、この夫婦は二人とも支援系の職業だから仕方がない。

 アイリは周りのゴブリンの数を数え、一番小さいやつから地道に倒していく。

 ラファエルはアイリの半径5メートル以内に近づいた奴らを優先的に倒してく。

 その結果、この階の敵はほとんど二人が倒した。ゲームのようにLvという概念がないため、強くなったかは戦ってみないとわからない。

「お疲れ。じゃ、下りるよ」

「うん」

 下の階は明かりがないとよく見えない。ところどころ明かりがあるが、間隔があき過ぎているせいで暗いところがほとんどだ。

「らふぁ、手つなご?」

「はいはい」

 周りからロリコンと思われないか心配だ。アイリとか見た目だとまだ十二歳にもなってない感じだし。おっと、ロリっ娘だから結婚したと誤解されそうだから言っておこう。性格とか俺の好みにドストライクだったからだよ。決してロリっ娘だったからじゃないよ。

 暗いせいか、アイリはいつも以上にビビっている。モンスターの鳴き声が聞こえると抱き着いてきて、足音が聞こえると後ろに隠れる。この調子だと戦うどころか進むことすら出来ない。

「アイリ、進めない」

「え?」

 アイリはその場で止まっていた。ラファエルの服の袖をつかんだまま。

「怖いなら戻る?」

「いや」

「なら進ませて?」

「う、うん」

「絶対離れないから大丈夫」

「ほんとに?」

「ほんとに」

「なら大丈夫」

 洞窟の中で声が響いて会話が聞こえるのか知らないが、たまに爆ぜろとか爆発しろとか聞こえてくる。俺はそっちのほうが怖い。ああ、視線が痛い。

 手をつないでいてはまともに戦えないので、前に現れたモンスターだけ倒しながらさらに下の階に行く。

 三階はモンスターはいないし暗くもないが、トラップが張り巡らされている。例えばそこ―

「あーーーーーーーー」

 一人落とし穴に落ちた。下に水があって死んでないみたいだけど。

(上に戻るの頑張ってください)

 そう祈りながら前へ進む。

 床をよく見ると落とし穴などはわかるのですべてかわした。そして次に待ち構えていたのはクロスボウだった。これは当たったら今の装備だと確実に即死。だが、作りが甘すぎる。この程度なら簡単に避けれるというか匍匐前進で行けば絶対に当たらない。

 クロスボウトラップも簡単に抜け出した。が、ここからが大変だった。

「らふぁ、後ろ」

「水!?ちょ、早く行かないと!」

 水の量を見ると窒息ではなく水流で流す感じだろう。飼いならしたモンスターや動物たちを何とかして逃がした。残るはラファエルとアイリ。他の探検者もいない。頭を使えば来れるのに誰もいない。

 走る。とにかく走る。水流はすぐそこまで来ているが、強化して走っているので何とか逃げ切れている。と言っても辛うじてというレベルだ。追いつかれるのも体力が切れるのも時間の問題だ。

 疲れて速度が落ち、「終わった……」と思った時には水は来ていなかった。

「逃げ切った……?」

「はぁ、はぁ……やったね、らふぁ」

「疲れたし休もうか。寝てていいよ。起こすから」

「ん、ありがと」

 アイリはラファエルに寄りかかって眠る。その間ラファエルはアイリを見守っている。

「いつもありがとう」

 そう言い、アイリの頭を撫でる。

 こんなこと起きているアイリに言えるようなことではない。

 ラファエルとアイリはよく一緒に寝ている。アイリが一人で寝るのが怖いと言って布団に潜り込む感じだが。

 そんな感じで一緒に寝ても最近はあまり何も思わない。だが、こういうところだと意識してしまう。それが正解な気もしないでもないが――とにかく、いつもより意識してしまう。

 この状況で探検者が前を通らないのが救いだ。もし前を通ったら何と言われることやら……

 アイリはもう深い眠りについている頃だろうと思い、背負って下の階に下りる。

 今は四階にいる。

 モンスターはいない。トラップもない。その代わりにテントが張ってある。

「ここでいいや」

 いいタイミングで休憩エリアに到着した。

 そこにテントを張って、中でアイリを寝かせる。

 俺も疲れたし寝るか。

「いやいや。ダメでしょ」

 ここは洞窟で、しかも周りにはたくさん人がいる。そこで俺も寝てしまうと、もしものことがあったら大変だ。起きて見守っているのが今やることだ。

「お疲れさま」

 起きないように小さな声で言う。

 こうしてみるとやっぱ女の子だなーと思う。いつもあまり見ることのない寝顔や、寝相。丸くなって寝ているので顔はよく見えないが、想像できる。

「アイス………買って………?」

 アイス買って?って―どんな夢を見ているのだろう。ただ甘えん坊スキルが発動しているのかお腹がすいたのか。

グゥゥゥ

 お腹がすいているだけだった。

「アイリー、ご飯ですよー」

 今少しびくってなった。

「とってもあったかい白米ですよー」

 またなった。

「あ、あんなところにステーキが」

 最後はバッと起きた。

「おはよ。ステーキはないけどご飯はあるよ。はいこれ」

 アイリに朝作っておいた弁当を渡す。

 よっぽどお腹がすいていたのか、目が輝いている。

「食べていい?」

「どうぞ、召し上がれ」

 蓋を開けると中には―?

「さかな!?」

「そう、魚。美味しいかわからないけど食べてみて」

 そういわれてアイリは魚を一口で平らげる。

「おいしい!おかわり!」

「はい」

「もう一個」

「もうない」

「えー」

 一口で食べるから悪い。でもまあおいしいならよかった。

 他のものも、「おいしー」と言ってすべて食べてくれた。ラファエルの分も含めて。

 まあそうなることは予測済みだった。三つめの弁当を開いて今度こそ食べる。

「あー、もうないって嘘だったんだ―」

「俺の分がなくなったら困る」

「ですよね~」

「帰ったら作ってあげるから」

「わーい」

 という雰囲気はこのテントの中だけだった。やはり周りからは「爆ぜろ」などと聞こえてくる。出会いがないなら女性をPTに誘えばいいのに。

「なんか怖いし次の階行こうか」

「なんで怖いの?」

「だってみんなから「爆ぜろ」って言われるし」

「えー、いいじゃん。もっとイチャイチャしようよー」

「ちょっ」

 アイリがあえて聞こえるように言った。もうこれは爆ぜろと言われて済む話ではなくなっていた。

 布を超えて視線を感じる。貫通している。痛いというかもうこれは激痛だ。

 ヤバい気がして、急いでアイリの口を押え、アイリの耳元で囁く。

「下手したら乗り込んでくるかもしれないからあまり挑発しないで」

「ご、ごめん。でもイチャイチャしたいのは嘘じゃない」

 ラファエルの方の顔が赤くなってしまう。

「と、とにかく、早く次の階行くよ」

「らじゃー」

 ラファエルはアイリの手を引き、逃げるように階段へと向かう。本当にマジで冗談抜きで怖かった。もうお化け屋敷とか怖くないかもしれない。

 と思った矢先、ラファエルは気絶することになったのだった。

「あ、アンデット!?なんでここに?」

「攻撃はしてこないけど怖いよう」

「あー、引き返すことも出来ないし――突っ込むよ、捕まってて」

 足を最大限に強化して、荷物とアイリをもって、次の階への階段まで走り抜ける。

 アンデットは足が遅いため、一体も近づいてきてはいない。

「はぁ、はぁ……疲れた。アイリ、大丈夫?」

「よ、酔った」

 あー、忘れていた。アイリの三半規管が弱いことを――そして、俺は気が緩むとすぐ倒れてしまうことを……

 二人同時にダウンしてしまった。だが、幸いにも探検者もモンスターも来なかった。そしてラファエルたちはこの状態で、一晩過ごすことになった。



 朝。なのかは洞窟の中なのでわからないが、気分的に朝。

 アイリはとっくに起きていた。

「あ、おはよー」

「おはよー」

 そういえば昨日は洞窟の階段の前で寝たんだった。それでも―

「とりあえずご飯食べてからいこう」

「そうだね。お腹すいたよ」

 朝食用の弁当を食べる。今回は魚ではなく肉だ。

「お・に・く?」

「うん」

 またまた一口で食べてこう言う。

「この味は…牛だね?」

「正解」

「ごほう―」

「あげない」

「ぶー、らふぁのけちぃ」

 理由は簡単。朝ご飯はアイリのお変わりようなんて持ってきてないからだ。自分の分がなくなったら困る。

「はぁ、じゃあ一口だけ。あーん」

「あーんっ……んーー、おいしいーー」

「肉だからあったかいのを食べたかったけど弁当だししょうがないよね」

「ふぁーー、食べたらまた眠くなっちゃった」

 ってもう食べたの!?早すぎない?

 いや、そんな事よりも寝かせてはならない。荷物が増える。

「寝るなら最下層の楽園に着いてからね」

「はーい」

 物わかりのいい子でよかった。

 その後もトラップばかりの階や、無駄にデカい友好モンスターのいる無駄にデカい階があったりして、色々あったけど楽しかった。そしてついに最下層の楽園に着いた。

「わーー、いい景色だねー」

「そうだね」

 ついたところは丘の上だった。遠くには川や、湖がある。小型の雑魚モンスターから、大型のモンスターまでいる。だが、ここではすべて友好モンスターとして扱われる。

 近くの草原には探検者というよりも冒険者のような人が集まって「宴じゃー」と集団で騒いでいたり、なぜか家が建ててあったりしている。一言でいうと――まさに楽園だ。

 景色を見ていると、また眠たくなり、丘の上に寝転がる。

「なんで太陽が見えるのかねー」

「なんでだろうねー」

 もう疲れ果てて考えることが出来ない。日が当たって気持ちいい。家にいるときのように落ち着く。そのまま寝てしまいそうだ――

「ってもうねてるし」

 相変わらずマイペースな奴だ。それにしても――寝る子は育つっていうけど全然育ってないよねこの子。

 っておいおい。抱き着いてきたし。こんなところで。寝相が悪すぎる。いや、家でなら問題はないけどここではやめてほしい。動けない。視線が痛い。ポリスメン来てる。

 油断してしまった。いつも朝起きたら絶対にアイリが抱き着いているのに。寝相が悪いことを忘れてこんなところで寝ようとしてしまった。殺されそうで怖い。リスポーン出来ないから死にたくない。

 アイリには悪いけど―

「弁当食べちゃうぞー」

 本当に弁当箱を開けて一番好きそうなやつを食べるふりをする。

 そうすれば確実に起きる。

「ダメッ!わたしのべんとう!」

「さて、下に行こうか」

「はぁ、びっくりしたよー」

「ごめんごめん。だからこんなところで抱き着いて寝るのはやめてね」

「ごめんなさい」

 もうどっちが悪いのやら……まあ二人の命が救われたわけだしそう気にすることでもないけど怖かった。

 とりあえず丘を下りて、適当なところにテントを張る。

 今度はなるべく人目のつかないところだ。もちろんやましいことなんてない。寝る時が怖いからだ。それだけだ。それ以外何にもない。

 テントを組み立て終わったら、二人で魚釣り。これはただの食料調達。今日の夕飯はすべてここで作る。

 こういう時に誰か火属性の魔法でも使える人がいれば楽なのだが、アイリは魔力不足、ラファエルはビーストテイマー兼エンチャンター。しかも攻撃系の魔法は苦手という不便なPTなのだ。後方支援系PTなのに魔法がほとんど使えないってどうなの?

 テントを立てたあたりには木がたくさん生えているし火を起こすのは何とかなりそうだ。木に火が燃え移らなけらばの話だが。

 今のところ心配な事しかないが、考えるだけ無駄なので魚がいそうな川まで行く。

「らふぁ、ん」

 上目遣いでこちらを見てくる猫耳少女(見た目は幼女)がいる。

 おんぶ

 だっこ

→歩かせる

「そうゆうわけだから歩いてくれるかな?」

 どうゆうわけか説明はしてないけどここは理解力を信じて――

「やだ」

 だめでした。

「ふとるよ?」

「わたしふとらないもん。だいじょうぶだもん」

「確かに、脂肪は付いてないよね」

 と、わざとらしく胸のほうを見ながら言ってみる。

「ス、ステータスだもん……」

 声が震えている。これは気にしておるな。

「わかったよ。人がいないとこだけだからね。人が来たらちゃんとじぶんで歩いて?」

「わかった!」

 年齢的には十七歳なんだけど――子供過ぎない?あと一年で大人なのにいまだにこれ。別に甘えん坊ということに文句を言う気はないけど夫としてこの子の将来が不安になる。あれ?これだと夫というか親じゃない?

 とまあいつもこの調子のアイリは一人でいるときはどうなるのか不安になってきた。これからアイリを置いていきづらい。

「スゥー」

「俺の背中はベッドじゃない」

「スゥー」

 起きる気配がないのでこういう時の必殺技。耳を触る。

「ひゃう!?」

「せめて起きといてくれるとありがたいかな?」

「だからって耳を触らないで!よ、弱いんだから」

「あはは、次からは気を付けるように気を付けるよ」

「またやるきでしょー!!」

 こう怒った顔もかわいい。

 ああ、なでなでしてしまう。

「なーでーるーなー」

 そう言われてもやめられない。かわいいんだから。


「キャーー、変態よーー」


 誰かに見られていた……だと!?

【速報】ラファエル・ローザハイド氏、人生終了

「ちがう。俺は決して誘拐犯なんかじゃない。これは嫁だから」

「近寄らないで!」

 ラファエルの顔の真横を魔弾が通り過ぎて、後ろの木を吹き飛ばした。

「それは死ぬから!やったらダメな奴だから!」

 それでもやめない。魔弾は一向に止まる気配はなく、女性もやめる気配はない。そして、周りにはさっそく人が集まってきている。

【速報】ラファエル・ローザハイド氏、死刑確定

 そんなことにならないようにここは何とかしたいところだけど俺たちでできたらそもそもこんなことにはなってはいなかったはずだ。お終わりだこれは。

「こんな小さな子をさらうなんて最低ね」

「かわいそうに」

「死ね!変態!」

 クソッ、好き勝手言いあがって。これは俺の嫁なのに(泣)酷いよみんな。

 だがここで一番キレているのはアイリだ。

「わたしは……わたしはちっちゃくなーーーーーーい!!」

 そう叫んだ。って問題はそこじゃないし。

「それに、わたしの、わたしの旦那をわるくゆーな!わたしは十七歳でらふぁとは結婚してるんだから。これいじょういったら心臓を射抜くぞ!」

 最後怖いよ、アイリさん?なんか性格変わってない?怒ったからかな?

「結婚だなんて」

「きっとそういわせてるんだわ」

「かわいそうに」

 さすがにこれは俺もキレた。

 流血沙汰になるのは嫌だけど怒りを抑えるのも無理そうだ。ここは解ってもらうしかない。

「黙ってくれるかな?クソババア共。こいつは本当に十七歳で俺の嫁だから。誘拐なんてしてないししたこともないしする勇気もないし。これでわかってくれないなら痛い目見ても知らないよ?」

 周りのBBA共の顔がどんどん青くなっていく。

 さっきまで怒っていたアイリも少々青くなっていた。

「俺たちが結婚しようがお前らには関係ないことでしょ?そもそもこの子からおんぶしてッて来たんだから俺には何の罪もないし。だからと言ってアイリが悪いってわけでもないけど――まあわかったら帰れクソババアども」

 周りにいたBBア共は豚のように逃げ、一部の男どもはアイリに射抜かれたそうにしている。

「らふぁ、そこのマゾ豚きもちわるい。はやくいこ」

「そうだね。それと危ないから歩いてね?」

「わかった。それとね――ありがと」

 旦那として、男として普通のことをしたとしか思っていなかったが、アイリにとってはありがたかったのだろう。最後怖がってたけど。

 まあ無事で何よりだ。

「あんな頭おかしいやつらのことなんて気にしたらだめだよ?あち、アイリもよく言ったね。ありがとう」

「うん」

 笑顔でそう答えた。この顔は一生忘れない。

 嬉しかった。あそこまで言われたのに言い返してくれたから。

 あースッキリした。

 そのまま川まで歩いて行った。



 川を見るとたまに魚がはねているところがある。

 ここはいい釣り場だった。が、その分人がいる。

「アイリ、人目は気にしないとかそういうのはやめてね?精神的に傷つくから。主にそこらの男も共のせいで」

 ついて早々痛い視線を浴びせられていた。それもラファエルだけに。出会いがないなら洞窟に潜る前にいい女でも探して来ればいいのに。

(なんていったら殺されるだろうなー)

 こっちはただ冒険してるだけなのに……

 この辺りは魚が沢山いるが、その代わり釣りをしに来た人もたくさんいる。あまり目立ったことが出来ない。あと釣った魚を取られないように。ついでにアイリがやらかさないように。

 と思った矢先――

「わわっ」

 何かと思ってみてみると餌を盛大に、というほどではないがぶちまけてしまった。

「あー、やらかした。虫がだめならちょっとどいてて。拾うから」

 逃げそうな虫を一匹ずつ戻していく。川に落ちたのはもうどうしようもない。

「……ごめん」

 今日はいろいろあったせいか、アイリがものすごく落ち込んでいる。

「わかったから、大丈夫だから泣かないで?」

「うん」

「いい子だから泣かないでね?」

「うん?……って。子ども扱いするなー!」

 怒った。アイリが怒った。なのに全然怖くない件。

「わかった、わかったからポカポカしないで?痛くないけど痛い」

「あ、うん」

 察してくれたのかすぐにやめてくれた。

 痛い視線もなくなってからやっと釣りが始められる。


                  (´・ω・`)


 魚を六十匹手に入れると、暗くなっていた。

 魔法で火を起こすことが出来ないので頑張って木を使って火を起こす。

 隣でアイリが応援してくれているけど今は正直邪魔だ。集中したい。

 こんな時に魔導書でもあればラファエルでも火が起こせるが、そんなものは持っていない。

 かれこれ一時間は続けているが、いまだに火がつかなくてイライラしてきた。

 もうやけになってひたすらぐるぐるし続ける。

 すると煙が出てきた。その数秒後に火がやっと出た。

 疲れた。応援席のアイリ氏も疲れて休んでいる。だがラファエルには休む暇がない。なぜなら魚を焼いたりしないといけないから。

「アイリー、少したってからでいいから手伝ってー」

「はーい」

 どうせすぐ寝るとは思うが一様頼んで、作業を再開する。

 おいしそうだ。涎が止まらない。

 魚の匂いにつられて、動物が集まってきた。これはビーストテイマーにとっては最高の時間になるだろう。

 動物たちをいつもの方法で飼いならす。ブラッドベアー、スライム、バッドスネーク、スライムレッド、スライムブルーetc

 次々に動物+αを飼いならす。

 今夜は宴じゃー!!

 魚が焼き終わったころにはアイリが深い深い眠りから覚めていた。

「わー、さかながたいりょー!」

「うん、どんどん食べてね」

「いいの?」

「いいよ」

 (今回は魚が六十匹もいるんだし、問題はないよね?)

 だが、それは甘い考えだった。

 アイリの底の知れない食欲があれば六十匹なんてすぐだろう。

 最初はペースも遅かった。だからラファエルも食べることができた。だが、そこからペースが上がっていく。両手に魚を三本ずつ持って一気に頬張る。見た目は幼女、性格はどっちかっていうと幼女、年齢的には少女、食欲はドラゴン。

 これは悪夢の始まりだった。

 食べようにも食べられない。魚が次々アイリの胃の中へ入っていく。 

 魚が四十六、四十三、四十、三十七、三十四と、どんどん減っていく。アイリの手によって……………

「あ、ああ、あああ、あああああ、あああああああああああ!?」

 ついにラファエルが発狂してしまった。

「アイリストップ、俺の分がなくなる。いったん食べるのをやめて?」

「ん?」

 すでに魚を十匹くらい頬張っていた。口の中ブラックホールなの?

 美味しいならそれでいいけどせめて俺の分も残してほしかった。

 空腹は満たされたけどまだ食べれるし食べたかった。


                  (´・ω・`)


 次の日。

 完全に眠気が覚めてから、出口を探す。

 入ってきたときの丘に行ってみるが、見当たらない。あるのは高い木と看板。

『帰りたいと願うと帰れます』

 と、看板に書いてあった。

((家に戻りたい))

 そう思った瞬間に、視界が真っ白になった。そして気づくと家の前にいた。

「テレポートがこんなに便利だったとは……」

「でもよったー」

「三半規管弱すぎるでしょ!?」

 確かに変な感じはしたけどあれだけで酔うのかアイリは……

「うぅぅ、吐きそぅ」

「ここではやめてね?」

「ん”」

 この後どうなったかは言うまでもないかな?


 とまあスッキリしたところで今回の収穫。

 猛獣系三匹、モンスター系五匹を餌付けした。

 そしてアイリが壊れた。

「らふぁー、だっこー」

「子供じゃないんだから」

「来年までは子供だもん」

 ってな感じで甘えてくる。

「はいはい、わかったから引っ付かないで。暑いし」

「いや」

「じゃあ上だけ脱いでいいかな?」

「うん」

 と、アイリが離れたすきに地下室へ逃げ込む。

 が、それも無意味だった。

「ここなら涼しいしいいでしょ?」

「はぁ、今日だけね」

「うん!」

 いつも以上に、今までにないくらいに引っ付いてくる。

 さすがに地下室でも暑い。今日も暑かったから涼しい恰好だったけどそれも無意味。外にいるより熱い。

 ん?外にいるより暑いって――

「ちょ、アイリ!?」

 まさかと思っておでこに手を当ててみる。

「あちっ」

 これは完全に熱だ。風邪をひいたのか火照っているのか。

 昨日は風邪をひくようなことはなかった。その前は――洞窟の中で寝落ちした……

「!あれか!」

 帰ってゆっくりできると思ったらその真逆。

 家から一番近いところだとあいつの家が近い。

 アイリを連れて馬車に乗り、急いで奴の家まで行く。近いといっても森を抜け、モンスターのたまり場を避けるように遠回りしないといけないせいで軽く五時間はかかる。洞窟が原因だったら毒という可能性もあるし急いで連れて行かないと――最悪死ぬ。

あー、これ書くの疲れたわw

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