二度目の消失
「不知火先輩。どうして、妹を助けたいんですか?」
「なんでだろうな? 肉親だからかな…」
正直なところ、理由なんて無かった。それが普通だと俺は思う。だって、理由なんて後付けだろ?
「待て。おい綺無海奈。どうしてお前は俺の名前を知っている?」
「なんでって…先輩、忘れられちゃ困りますよ。先輩方が三年生だった時の部活の後輩じゃないですか!」
「は? いや…居たか? …千秋なら覚えてるのか?」
「居ましたよ確かに母親の旧姓で…だから、不知火先輩は、二回目に軌妃空を選んだんじゃないですか」
そうだったか…? 空を選んだのはたまたま目に入っただけで。母親の旧姓が軌妃なのか…?
そもそもなんで今回が二回目って…。
「おい暁。どこまでいってんの」
その聞き覚えのある声に我に返る。
「千秋…」
気が付くと、既に千秋の家の近くまで来ていた。そして、待ってましたとばかりに千秋は玄関で仁王立ちをしていた。
「なあ、千秋」
「なに?」
「お前…軌妃って名前に聞き覚えは?」
「軌妃? ん……一人いるよ」
「なんて名前だ…?」
「軌妃栞。ほら、私達の後輩だったじゃん」
その言葉に俺は耳を疑った。
「栞…? 海奈じゃなくてか?」
「海奈? 誰それ」
それを聞いて、俺は海奈の方を見る。
「分かりました? 不知火さん」
「お前…なんなんだよ…」
綺無海奈。お前は一体どこの誰なんだ?
「ねえ、不知火さん。私、やっぱり仲間から外れますね。どうやら、お母さんが呼んでるらしくて…。ではでは!」
そう言い残して、綺無海奈は走り去って行った。
「ん? あの女の子誰? それと、そこの男の子も誰?」
「いまどっか行ったやつは綺無海奈。んで、こいつが軌妃空。俺の仲間だ」
「軌妃、ねえ…」
千秋は関心があるわけでもなく、ただどうでも良さそうだった。
「なら、空は助けるの? 未来ちゃんを」
「はい。助けたいです」
「そう。暁もいい仲間を持ったね。だけど足りない」
「え?」
「一つだけ、一つだけやり残してることがあるよ」
「な、なんの話だよ?」
話についていけていない。千秋…?
「だから、私のところに来るには一人だけ忘れられてるって言ってるの」
「一人…?」
「そう。あと一人。その人がいなくちゃ終われない。物語はトゥルーエンドを迎えない」
「…だ、誰だよ! その一人ってのは!」
「自分で考えて」
千秋はそう言うと、踵を返して家に入った。
「あ、そうそう。海奈ちゃんは関係ないからね」
玄関の向こうからそう声が聞こえたのだった。