つかの間の休息
「…この廃墟、何なんだ?」
「…ただの廃墟だと思ってたけど、違うのかな」
千秋は不安気で泣きそうで自信なさげな声で呟くように言った。
「違う」
「何が?」
「千秋はこんな辛気臭くないってこと」
「…そ、そうだよね! 私がいつも通りしなきゃ、いけないよね…」
「だから落ちんなって。らしくねえ」
「でも、私のせいで二人は…」
「そんなことないだろ? 二人が付いてきたのは二人の責任だし、名簿表から空の名前に目が止まったのも偶然だ。というかそれよりもそもそも俺がこの家に来ていなければ、未来が俺を襲ったりなんてしなければ。こんなことになってないんだよ。だから偶然の産物だ。誰もお前のせいには出来ねえよ」
「でも!」
「でもじゃない」
「はう…」
「…一つ聞いていいか?」
「なに?」
「千秋のシナリオじゃどうなっていたんだ? 屋上で」
「四人で屋上に行って、未来ちゃんと合流。それで謎解きでこのお話は幕を閉じる」
「けど、そうはなってない?」
「そう。二人が消えるのも変だし、屋上への階段が爆発して崩れるのも変」
「誰かが起こしたってことだろうな」
「気になるといえば、綺無海奈。あんな子今まで登場したこともない」
沈黙が流れた。
「「あのさ」」
気まずい。
「ち、千秋から話していいぞ?」
「い、いや、暁から話して」
「なら、私から話してもいいかな?」
第三者の声が聞こえ、俺らは驚いた。
「だ、誰だ?」
「紅莉栖川アリス。誰かと聞かれれば、不知火未来の分身。一度目の事件の中枢。んー、後は」
「ちょっと待った! 未来の分身? 一度目の中枢?」
「んー、未来のストレスから生まれたってのが一番分かりやすいかな。そして、私が暴走してしまったことで未来は自我を失い、お兄ちゃんである不知火暁を襲った。これが真相。分かった?」
「なんとなくなら」
「話が早いとか言わないでね。相当急いでるから…。間に合わなければあの人に全部持ってかれる」
「あの人?」
「今、未来についてる人。あの人に乗っ取られたら…未来は死んじゃう。未来強いからまだ大丈夫だけど…」
死ぬ…だと?
「はやく、そのついてる奴をどうにかしねえと!」
「早く上に上がらなきゃいけない。今、綺無海奈がどうにか止めてるけど…だいぶ未来取られかけてる。だから、今回は私が手を貸す。未来を殺されたら、私も死ぬから」
そう言って、アリスは天井を壊した。壊した!?
「三人とも上で待ってる。いや、未来も入れて四人かな」
ガタンガタンと散乱していた棚が階段になっていく。
「千秋行こう。最終決戦だ」
「うん。がんばろう」