解決への希望
「さて、と」
俺らは千秋に連れられ細く汚い裏路地を進んでいた。
「うう…鼻があ…」
「大丈夫か?」
「が、頑張ります…」
「空は?」
「大丈夫です」
今にも死にそうな栞とは違って、空は以外と平気そうだった。
「この奥。この建物の最上階にあの二人はいる。行くよね?」
分かっているだろう。千秋はきっと分かっている。分かっててあえて聞く。千秋はそんな奴だ。
「…ゲームだったら。ゲームだったらいいえの選択肢も選べるんだろうが、今の俺にはちょっと無理かな」
「じゃ、行こう。全てを終わらせに」
カツン…カツン…。足音がそんな風に響き渡る。
「先輩」
「なんだ?」
「謎解きって終わってるんですか?」
「その質問には私が答えよう。君たちはまだ謎を解いていない。一度目の事も二度目の事も。それでいいんだ。謎解きはあの二人がやってくれる。私達は聞いておくだけでいいんだ」
「あの二人って…?」
「それは最上階でのお楽しみってやつかな」
カツン…カツン…。
二階…三階…四階。
黙々と階段を上っていく。
「あれ? 空は?」
気付いたのは栞だった。千秋も、この俺も気づいていなかった。空がいなくなっていることに。
「なんで…?」
一番動揺しているのは千秋だった。
「ちょっと待って! こんなシナリオ知らない! 空君が居なくなるとか…これまで一度もなかった…どうなってるの?」
「おい千秋!」
「先輩!」
「ひっ!」
俺と栞の呼びかけにビクッと千秋は震えた。何をそんなに怖がっているのだろうか?
「な、なんだ。暁か」
「千秋、シナリオってどういうことだ?」
「…もう隠す意味もないかな。所謂台本だよ」
「台本?」
「そ。不思議に思わなかったの? 私にしては色々催促することに」
疑問にすら感じませんでした。
そういう内心とは裏腹に俺は首を縦に動かす。
「ってことは、その台本から物語は…俺の二回目は外れたと?」
「うん。まあ、そうなる」
「…空はどこに行ったんだ」
「…残った三人で探す?」
「それがいいな。栞もそれでいいよな?」
沈黙が流れる。振り向きたくなかった。後ろにいるんだと信じたかった。
「栞…? そんな不安になるようなことするなよ? 振り向くからな? 居たら怒るからな?」
ゆっくりと振り向くと…何もなかった。ただ暗いだけ。携帯のライト機能を使うが照らされるのはゴミやクズだけだった。
「これは…二人で一緒に探すのが良いかもね…」
「そうだな…」
「念のために手でも繋いどく?」
「それもアリだな」
ぎゅっと千秋は俺の手を握った。
「あったかい」
「千秋の手が冷たいんだよ」
プルプルプルプルプル…プルプルプルプルプル…
「あ、私の携帯だ。! 栞ちゃんから! もしもし!? ……あなた誰? ………え? …待って! …あ、切れた」
「なんだって?」
「女の人の声で二人は屋上だって…」
「行くしかねえってか」
カツン…カツン…。
五階…六階…七階…。
「この階段を登れば屋上のはず」
カラン…。屋上から転がってきたそれは…手榴弾!?
「千秋待て!」
「え?」
俺は千秋の腕を思いっきり引っ張った。
ドン!
そんな音ともに屋上への階段は壊された。
「そんな…」
「しょうがない。別のルートを探すしかないな」
「…それしかないもんね」
千秋は深く項垂れていた。
俺はそれをただ見ていることしかできなかった。