チェンジ
その日は太陽がいつもより元気で、雲さえ近づけさせないようにさんさんと光っていた。
「困るなあ〜、水野君。これで何回目だと思っているんだよ」
上司の男が、ねちねちと僕を責める。
それに僕は「すいません。すいません…」と何度も謝っている。
クーラーがガンガンに効いているオフィスは、北海道の冬並でみんなは何枚もの服を重ね着している。
僕の目の前にいる男が汗かきで、これくらいがちょうどいいらしい。迷惑な話だ。
「君は本当に、自分が何したのか分かっているのかい?」
「……課長のコーヒーを、勝手に飲んでしまいました。ホントすいません」
僕の仕事での机はこの男のデスクのすぐ隣で、しかも二人ともきれい好きだから何も置かない。
しかもこの男がいつも飲んでいるコーヒーが、私が大好きなコーヒーと同じだから、その違いも分からない。
「君ねえ…上司のコーヒーを勝手に飲むなんて、いったい何がしたいんだい?」
「そう言っている課長も、数回おれのコーヒーを勝手に飲んでんじゃないんですか?!」と心の中だけで怒鳴る。
周りにいる社員は、パソコンに目を向かせながらちらちらとこちらを見る。
ああ、またか。みたいな感じだ。
そこで、だ。
おれの人生を覆す男が、立ち上がった。
隅のほうから「かちょーさーん」と、間延びした、そして場違いな、その上、子供の声が聞こえてきた。
透通る声に、みんなが振り向いた。
そこには一人の男の子が立っていた。
いつの間に入ってきたんだろう、と思っているうちに、その少年は近く似合ったデスクの上においてあるコーヒーを手に取って近づいてくる。
みんながただ見ていたら、その子は課長のすぐそばにいた。
「なんだい?坊や」と、さっきと全然違った態度で少年に効いている課長を、その少年はじっと見つめて、そして、こちらを向いて一言。
「……あんたがこんなやつの下についているなんてね」
そして少年は、コーヒーを少し啜ると「苦い」と言って、課長の顔の位置にコーヒーを浴びせた。
「それに、不味い」
課長はその場にひれ伏すように蹲って、唸っていた。
「どう?すっきりした?」
少年はこっちを見て、にやりとした。
この場をどうしたらいいのか、ちゃんとした答えが来るのが遅かったから僕はつい、本当の感情をむき出しにして、課長の脇腹を右足で思いっきり蹴った。
僕は少年をまねて、にやりとし「ああ、すっきりした」と言った。
クーラーの音、沈黙と課長のうめき声だけでオフィスが満たされていると、少年が「じゃあ、いこうか」といっって、背を向けた。
真っ白な頭には、少年の声が不思議なほど響いて考える暇を与えなかった。
「ああ、行こうか」
僕は、少年の後を追いかける。
残された社員は、ただ、茫然としていた。
僕は、開放感に包まれたまま、見知らぬ子どもの後を追った。
この子どもが、未来から来た僕の孫だと気づくのは、まだまだ先の話………




