カノヴィール王国議会にて
「女ですね……」
小笠原達は捕らえた女性騎士を興味津々に観察していた。彼女は落馬の衝撃で気絶したままだ。
「左腕を骨折、脇腹を打ったみたいですが、肋骨に問題ありません」
高林が的確に診断をして、応急処置をする。
「女性が騎士になることって多いんスかね?」
井本の尤もな質問である。
「我々の内地の世界では、女性が騎士になることもあった。しかしそれは、あくまで儀仗要員だったり、権力者のお世話役だったりと非戦闘員だ。本職の騎士になった女性もある程度はいただろうが、それは男として軍に参加したり、男装した不正入隊者だな。お前たちが知ってるのだとジャンヌ・ダルクあたりが有名じゃないか? まあ、彼女は女性として騎士になった数少ない例だな」
郡司曹長の説明に井本と高林は、あ~、うんうんと頷いた。
「この人もそういう感じなんですかね?」
小笠原が聴くが、郡司曹長は頭を横に振る。
「いや、この外地ではどういう軍制がしかれているのか分からない限り、返事のしようが無いな。もしかしたら意外とこの世界じゃ女性の社会進出が進んでいるのかも知れん」
改めてここが異世界であること感じさせられる気分である。
「ひとまず本部からの命令通り、追撃部隊を壊滅させましたが、これからはどうしますか?」
郡司は犬山に向き直った。
「本部からは新しい指示がきてるわ。とりあえずキール村に戻り、村人から事情確認をして、その後宿営地からヘリで人員や物資を送って貰うわ」
「了解。しかし危険ではありませんか? さっきの敗残兵が村にいる可能性も……」
「その時は村から駆逐する」
「分かりました」
そこで犬山は辺りを見渡して、
「後始末もしないとね」
カノヴィール王国はこの世界で西の大陸の全てを治める「西の大国」と呼ばれる存在だ。多くの貴族や小国を抱き込んで発展し、栄えている国である。
その政治の中枢である王都の王国議会は定例議会の真っ最中であった。ちなみに王国議会の議員になるためには、並々ならぬ努力が必要だ。上流貴族ならばいざ知らず、平民が議員に成るには官吏となって功績を残し、出世して地方長官などの重要職に就いて周りの貴族や王族に認められるか、軍に入り軍功を上げるしかない。比較的軍人になる方が簡単なので、平民出身の議員は自然と軍人が多い。軍で部隊長にまで出世できれば、士官学校への入学が可能になり、卒業すれば騎士に叙せられ、下級ではあるものの貴族への道も開かれてくるのだ。
扇状の議場の扇でいう要の部分には国王と議長がいる。そして左右に広がる様にいる議員達が議論を交わすのである。
喧々囂々の議論の最中、議場の後方の通用口が開き、伝令兵が駆け込んで来たが、誰もそれに気づかない。それに見かねたこの国の最高権力者たるバラト・カノヴァン・ドゥーリット王が立ち上がって、議論を一時中断させた。
「伝令よ、何の用件か?」
伝令兵は恭しく片膝を突くと、大きな声で言った。
「恐れながら申し上げます! ルーシュ侯爵領内に賊が現れました!」
「なんだそれぐらい! 儂の所領でもそれぐらい居るぞ!」
「それが……討伐に向かったロニエ騎士補の部隊は壊滅、ロニエ騎士補も賊に捕らわれてしまったとのこと! また賊らは東方にある国の軍勢を自称していると!」
「東方にある国!? ルーシュ侯爵領より東は無人の平原だったのでは?」
「でまかせだろう! そんな事有り得ない!?」
「しかし精強をほこるルーシュ侯爵領兵がやられたとなると、ただ者ではないのではないか?」
再び議論が白熱する。彼らが東方の国を強く否定しているのには理由がある。かつて王国がまだ小さく、周りも敵国だらけだった時、東方の騎馬民族に滅ぼされかけたことがあったからだ。しかし必死の抵抗で追い返し、逆に彼らの国を滅ぼしたのだ。なので東方に国は存在しない、そもそも大陸全体が自分達の王国なのだ。
「メリザ・ルーシュ侯爵は如何なされるおつもりか?」
どこの誰とも分からない指摘の声に、慌てて顔を挙げたのは、年齢にして20歳半ばの流れるような金髪と磁器の様に白い肌を持つ美女であった。
「先ほどからだんまりを決めておるが、どうするつもりだ?」
今度は王からの質問である。彼女は立ち上がると周囲の議員達に言った。
「状況がよく分からない現在、無闇に兵を出すのは危険だと思います。私はこれより自分の所領に戻って状況確認をしたいと思いますが、よろしいでしょうか?」
「まあ、良かろう。だが、お主には平素より世話になっているからな、王国軍より兵の応援を遣わす準備をしといてやろう」
ルーシュは恭しく頭を下げると、
「陛下の御手は煩わせません。ですが、無敵王国軍の後ろ盾、感謝いたします」
そう言うとルーシュは議場を後にした。ルーシュは議場から出ると軽い目眩がした。
「ルーシュ大丈夫?」
「アンナ王女……」
そこへやってきたのは真っ赤なドレスと冠をかぶったバラト王の娘のアンナ王女である。齢18で、薄い色の茶髪とくりっとした目を持った美少女だ。
「あなたの所領で賊が悪事を働いていると、聴きました」
「はい……ロニエも賊に捕らえられたと……」
「あの勇猛なロニエ騎士補が!?」
「はい。ですが王女の心配には及びません。私が行って事を収めて参ります。それに陛下は王国軍から応援を出すとまでおっしゃって下さいました」
アンナ王女は少し考えた後、顔を上げた。
「その援軍は私が務めます!」
「へ……!?」
「私も一緒に行きます。私が団長を務める赤竜騎士団の久々の活動に丁度良い上に、ロニエ騎士補の事も心配ですし、それに……」
「王宮が退屈だから、ですか?」
アンナ王女は悪戯がバレた子供の様に舌を小さく出した。
「そういう事も無いわけではないです~」
ルーシュは小さく溜め息を吐くと、
「良いんですか? また陛下にお叱りを受けますよ?」
アンナ王女はうんざりした顔で呟く。
「王宮に引きこもっていても、つまらないし、適度な運動も大切ですよ!」
そう言ってアンナ王女はルーシュの手を取ると歩き出した。
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