ルーシュ侯爵領兵団と村より撤退
少し遅くなりました。すみません。
小笠原、犬山、郡司の3人は73式小型トラックに乗り、村を通り抜けると左右に展開が完了した官憲と見られる武装集団と対峙していた。
畑と草原が広がっているその向こうに明らかな敵意を向けた集団の目の前に立つのは、恐怖を通り越して気持ち悪いものが有る。
すると向こうから物の良い甲冑を着て、馬に乗った人が近づいてくる。長槍を手にしているのが確認出来る。
「犬山団長……どうしますか?」
郡司曹長が不安気に訪ねてくる。鬼教官として名を馳せる曹長も流石にこの状態は緊張するらしい。
「大丈夫……誰か? と誰何されたなら堂々と名乗り上げれば良いのよ……」
お互いの顔が確認できる距離まで近づいた時、騎兵が誰何の声を上げた。
「我はルーシュ侯爵領兵団団長名代、ロニエ騎士補である! 貴殿らは何者か!」
犬山団長は73式小型トラックの助手席に立つと大音声を上げて宣った。その手には魔法石が握られている。
「私達は日本国陸上自衛隊外地派遣隊第三戦闘団深部偵察隊である!」
無駄に漢字が羅列された部隊名を間違うことなく宣言した。
「ニホン? リクジョウジエイタイ? なんだ、それは!」
「私達はここより東方の地の国から軍隊だ!」
軍隊と言わなければ伝わらないのは分かっているが、やはり改めて言うと不思議な感じするものなのか、小笠原と郡司はなんだかなぁ~という顔している。
「ハハッ! 面白いことを言う! だがな、嘘はもう少し上手に吐いた方が良いぞ!」
「何?」
ロニエと名乗った騎士は嘲笑を浮かべて言った。
「此処より東方に国など存在するものか! 野盗風情め! 時間の無駄だったな!」
そう言うと突如、手にした長槍を振り上げて突撃してきた。
「団長!」
甲高い音がして馬が出足を挫いて暴れる。見ると郡司曹長が89式小銃を空に向けて威嚇射撃を行っている。
「わぁ!」
騎士は慌てて馬を落ち着かせようとしている。
「清文君出して!」
犬山団長の声で我に返った小笠原はアクセルを一杯に踏み込む。トラックは急加速してもと来た方向へ遁走する。郡司曹長は隙無くM2重機関銃を周囲へ向けて威嚇する。
「くそぉ! 追え! 追えぇ!」
背後から騎馬の蹄の音が追いかけてくる。
「団長より全車両、交渉失敗! 直ちに村より離脱する! 送れ!」
猛スピードで村内を駆け抜け、広場に停車して2人の陸曹を乗せて発進、車列の先頭へ躍り出た。
「厄介なことになりましたね。どうしますか?」
郡司曹長の言葉に犬山団長は息を整えながら個人携帯無線機を掴んで叫ぶ。
「五号車、追撃はあるか!?」
『五号車より指揮車へ、敵性勢力は村の入口で止まっています』
「分かった、各車速度そのまま!」
犬山団長は座席に深くもたれ掛かると溜め息混じらせながら、無線手から受話器を受け取る。
「とにかくありのままに伝えるわ……」
陸上自衛隊外地派遣隊本部
本部として建てられたプレハブの建物の中では、第一、第二戦闘団の団長、派遣隊に近いうちに加わる予定の航空自衛隊の幹部、そしてそれらを統括する陸将が集まっていた。
「現地の官憲に盗賊だと勘違いされているようで、自衛の為に威嚇射撃を行った、とのことです」
偵察隊の現状を報告した尉官が下がると1人の佐官が立ち上がって怒鳴った。
「だから私は反対したのです! あんな防大出てそこそこの犬山に偵察を任せるなんて真似を!」
強く抗議をしたのは第一戦闘団団長の松本一佐である。
「松本一佐の言い分は最もです。私も今回の人事には疑問を感じざるを得ません荒木陸将」
冷静な物言いは第二戦闘団団長の戸田一佐である。
荒木と呼ばれた五十代の退役間際の陸将は少し考えた後、
「しかし今回は誰が赴いても結果は同じだと思うが? それに我々一自衛官が防衛省からの人事に意見出来るとおもうかね?」
「それはそうですが……」
松本一佐は腑に落ちない様子である。
「では、如何されますか?」
「若者には自ら尻拭いをさせる機会を与えてやるのも大人の仕事だよ戸田一佐、松本一佐」
そう言って荒木陸将は連絡の尉官を呼ぶと、
「犬山一佐に直ちに第三戦闘団から中隊程度の戦力を抽出し、追撃してくる敵性勢力を実力を以て排除せよ、と伝えよ」
この指示に戸田、松本、その他の幹部も顔色を変えた。
「なりません、陸将! それでは戦争状態になりかねません! 世論も良くは受け止めませんよ!」
「そうです! ここは偵察隊を帰投させるべきです! 彼らの速度なら振り切れます!」
荒木陸将は抗議する幹部達に諭すような語調で言った。
「振り切った後どうする? 彼らに見つかるのは時間の問題だよ。彼らの武器は剣や槍、魔法石なるものがあるから魔法攻撃を受ける可能性もあるかもしれないが、そういう能力者の数だって多いわけじゃないだろう。しかも彼らは我々の実力を知らない。故に彼らは攻撃するだろう、彼らのやり方で。
ここで追撃部隊を破砕すれば我々の実力を知ることになる。そうすれば無闇に攻撃することも無いだろう。そればかりか彼らの指導者と交渉の席に着けることも可能になるだろう」
「陸将……まさかその為に追撃してくる官憲を撃破せよと?」
「非情だが我が国の利益と全体の犠牲の数を少なくする為には致し方ないだろう」
「……了解。第三戦闘団に指示します」
「ロニエ騎士補、賊は村より逃亡して東へ向かいました。如何されますか?」
質問してきた従卒にロニエと呼ばれた騎士補(見習い騎士のこと、準騎士とも)は厳しい顔をして言った。
「取り敢えず彼らを追って攻撃する。あれだけの数だと、どこかに拠点が在るはずだ」
「やつら東から来た軍だとか言っていましたが、あれは何なんでしょうか?」
「なんだ? お前、あいつらの言うことを信じるのか?」
「まさか! この村より東には見捨てられた神殿が在るだけで人が住まう場所はなかったはずです」
「だからこそ、あの賊らは東に拠点を構えているのだろう」
「なるほど」
そこへキール村の村長がやって来た。
「この度は我が村をお救い下さり、ありがとうございます! ロニエ様以下、精強なる侯爵様の兵団にあの賊めらは恐れを抱いて脱兎の如く逃げ出しましたな! 流石にございます!」
「我らにかなう者はこの世界広しと言えども他に無い! それにお前たちに何か有れば助けるようにとルーシュ侯爵からの伝言だしな!」
ロニエは自慢げに答えた。
村長が去って行き、ロニエは再び厳しい顔をした。
「とにかく王都に行かれているルーシュ侯爵のお心を無駄に騒がすことが無いように、我々だけで片付けるぞ」
「はっ!」
ロニエ達は日が傾き始めた大地を再び進み始めた。
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