前進命令と王国軍の秘策
先月の二話連続投稿から早くも1ヶ月以上……頑張らないとですな。
王都の100キロメートル手前 派遣隊野営地
「王都の30キロ付近まで前進せよと?」
犬山は無線機の前にいた。相手は荒木陸将である。
『そうだ、日本政府は視覚的に王国政府に訴え、より確実に外交関係を回復させるためにそういう決定を下した』
「武力による威嚇を許さない憲法に抵触しかねない作戦ですね」
『それ以上は言うな。統幕からも詳細な指令が届いてるだろう? とにかく部隊を前進させよとの命令だ』
「わかりましたよ。でも荒木陸将はこの任務をよく思われてないでしょう?」
『……ここ数週間、小規模な衝突も一切無かった。これは戦場に訪れる一種の凪のような物だ。だが凪が終わった次は大規模な戦闘が起こる。戦史を紐解けば誰にでもわかることだ。だが、実際に凪がきているかどうかは現場にいる者しかわからん』
「……」
『犬山一佐、君は何よりも国益を考えるが君が預かる生徒達の命や隊員の命も考えてやるんだぞ』
「了解しました」
犬山団長はそっと無線の受話器を置いた。
「国益こそが彼らの利益なんですよ? 荒木陸将」
二日後、早朝から前進準備が行われ、各部隊は出動待機状態となる。
小笠原達生徒小隊も当然前進命令が出ていた。その命令は郡司曹長より伝えられる。
「生徒小隊は301中隊と共に、王都の北北東35キロ地点まで前進する。301中隊の偵察隊員がバイクで先行し、続いて301中隊そして生徒小隊が前進する」
全体での前進計画は次のようになっていた。野営地からまっすぐ西へ進み王都前面へ進出するのは第一戦闘団、南側へ進出するのは第二戦闘団である。第三戦闘団は後方支援隊を直援しながら一戦と二戦の後方に予備戦力として待機する。
とはいえ、現状として作戦地域の拡大に対して投入されている部隊数が少ないため、301中隊と付属の生徒小隊も一番安全な北側配置となっている。
生徒小隊が全員が車両に分乗すると、各部隊は砂埃を巻き上げながら前進を開始した。
「いよいよ決戦か~!」
73式大型トラックの荷台で井本が弾んだ声で言った。他の生徒達も「おおっ」とどよめきの声をあげた。
「そんなんじゃないでしょ?」
小笠原は井本を落ち着かせるように肩を叩く。
「なんだよ、事実上それに近いもんだろ? 敵が交渉を拒否したらドンパチするんだろうしさ」
「それはそうかもしれないけど……でもやっぱり人が死ななくて済むならそれに勝ることはないよ」
「小笠原は甘いぜ、散々楯突いてきた敵が今更交渉になんか乗らないと思うぜ」
「そうかなぁ~」
「それよりお前、62式はどうした?」
小笠原の手には62式機関銃ではなく、64式小銃が握られていた。
「やっぱ故障多いからさ、郡司曹長に頼んでミニミに換えて貰おうとしたんだけどなかなかミニミが届かないから、しばらく小銃手で良いって言われたんだよ」
「郡司曹長はまさしく言うことキカン銃で悩まされた世代だから同情が沸くんだろ」
「でもおかげでお荷物から解放されたよ、64式が軽く感じるもん」
「マジか」
そんな話をしながらもトラックはやがて一戦、二戦の車列から分離、北を目指した。
王宮 国王執務室
「ところで王国軍はどのようにしてニホン軍を打ち破るつもりなのか?」
バラト王は居並ぶ抗戦派の将軍、軍官達に尋ねた。
「はい陛下、敵は我々が今まで戦ってきたどの国よりも手強くあります。しかしながらその一方で敵の使う武器や戦術についてもわかりつつあります」
「うむ」
「敵は我々と違い、速度と遠距離攻撃に長けています。我々が甲冑を身に着けているのに対し、敵は緑を基調とする衣服に身を包み、甲冑らしい物は着けていません。その為走る速度も速く、機動力があります。また敵は火花を発する棒状の武器を使用し、鉄片を高速で飛ばしています。これにより槍の切っ先が届く前にやられてしまいます」
ルーシュ侯爵からの報告やその後のキール村での戦闘、ハンドン要塞で多くの犠牲のもとで得られた戦訓である。
「また敵は遠視魔法かそれに類する何かを使い、長距離から我々の様子を探ることができます。また定期的に飛来する敵の鉄竜もまたこちらの様子を探るために使われているようです」
「そうじゃな、敵は見慣れぬ物を使う」
「逆にニホン軍はこう思っていると思われます。王国軍は速度が遅く、白兵戦のみが頼りだと……。我々はその思い込みを逆手にとるべきだと考えました」
「逆手?」
「はい、まず兵をなるべく早いうちになるべく敵方へ移動させなければなりません。しかし甲冑を身に着けていては行軍速度は遅いままです。そこで甲冑や槍そして目立つ旗印などは荷車で別に輸送し、身軽になった兵達は走らせて移動させます。移動行程も整備された東街道ではなく、深い森をいくつも貫き、往来もほとんどない北街道を経由して移動します」
「北街道? あそこはほとんど整備されておらず獣道同然の街道だぞ。大軍が通るには些か貧弱ではないか?」
「いえ、東街道を移動すればたちまち敵の鉄竜に発見されてしまうでしょう。ニホン軍もおそらく我々がここを通ると踏んでいるはずです。しかし北街道ならば深い森が多く軍を隠しやすくなりますし、敵の虚をつくことになります」
「なるほど……だが王都の防衛はどうする? 敵がまっすぐ東街道を西進してきたら、丸裸同然の王都はどうするのだ!?」
「ご安心を、隠密行動の苦手なオーク部隊と重装騎兵部隊は東街道に配置して敵を正面から受けます。また近衛兵部隊、竜騎兵部隊は王都に残置していきます。彼らが王都の正面で陛下をお守りします」
「そうか……わかったそのように実行するがよい」
「「「ハッ!」」」
一方王宮地下牢ではアンナ王女が監禁され続けていた。一応王族なので毎日食事は運ばれてくるが、日が当たらず、衛生状態の悪い地下空間は彼女の体力を確実に奪っていた。しかし、彼女の瞳には不屈の光がまだ宿っていた。
「必ずここから出て……王国を守らないと……」
そこにアンナ王女に近づいて来る足音が響いてきた。アンナ王女が顔を上げるとそこには内務卿の姿があった。
「王女様……なんとお労しいことでございます……」
内務卿はアンナ王女の牢屋の前まで来ると跪くと大粒の涙をこぼしながら啼泣した。内務卿は古くからの王国の家臣であり、その信頼の篤さからかつてはアンナ王女に法学の教師役を務めた人物であった。
「内務卿、あなたが罪悪感に苛まれる必要はありません。あなたは父の命令に従っただけなのですから」
「しかし……」
「今は国家の大事です。あなたは貴方のやるべきことをなさい」
「……わかりました。この地下牢は私の内務省が管轄していますので、どんなことでもお申しつけください。警備兵や看守にも伝えておきます」
「ありがとう、では早速頼まれてくれるかしら?」
「なんでしょう?」
「まず、なんでも良いから本を持ってきて欲しいわ。ここは何にもなくて気が狂いそうになるもの」
あっさりとした頼み事に涙でくしゃくしゃになった内務卿の顔も思わずほころんだ。
「はい直ちに手配しましょう」
「それともう一つ、何枚かの紙それからペンとインクをお願いするわ」
「……かしこまりました。当家の物がいくつか余っております故、それをお持ちしましょう」
「あら、気が利くわね。ありがとう」
「それでは王女様、後程また」
内務卿は先ほどの泣き顔から覚悟を決めた表情をして、地下牢から出て行った。
翌日、数冊の本がアンナ王女のもとに届いた。その本のページとページの間には、何枚かの紙が挟まれていた。さらに食事のスープ皿の蓋の裏側にはペンとインクが括り付けられていた。
「感謝するわ、内務卿」
あんな王女は本を下敷きにして紙に何かを書き始めた。
感想等お待ちしてます。




