届いた密報
だいぶ遅れましたが、無事投稿できました。良かったです。
カノヴィール王国との会談が大失敗に終わったとの報は、瞬く間に見捨てられた神殿宿営地及び日本政府に伝えられた。政府からは松岡担当官を非難する意見も出た。
しかし、外務省は引き続き松岡担当官を起用する事を表明している。そもそも未知の土地で、一方的な隷属要求や慣習による外交失敗を非難出来る権利を持つものはいないのである。
「ルーシュ侯爵がきっと王国側との関係改善の一手を打ってくれるはず……」
という楽観的想定が外務省に有ったのもまた事実である。外務省は一縷の望みをルーシュ侯爵に託したのだ。
キール村前進拠点
停戦協定調印後、陸上自衛隊は定期的にルーシュ侯爵領国軍との停戦ラインの監視の為に巡察隊を派遣している。この任務は第三戦闘団が担当している。
王国側との会談が失敗してから2日後。郡司曹長は本来自衛隊高校の基幹要員であり、本来なら小笠原達と共に内地へ帰還出来る予定だったが、第三戦闘団の陸曹が不足気味な為、あえて外地に留まる事になった。郡司曹長率いる巡察隊は停戦ラインを73式小型トラックと高機動車で回っていた。
「D地点……異常無し」
『本部、了解』
ルーシュ侯爵領国軍の陣地が一番近く見渡せる監視点から双眼鏡で監視している時だった。
「!? 巡察隊より本部! 送れ」
『はい、こちら本部。送れ』
「騎兵1騎が高速にて接近! 停戦ラインを越境! 送れ」
『了解。 停止させ、誰何し、目的を確認せよ。なお発砲は緊急避難に限り許可する。送れ』
「了解通信終わり」
「部隊左右に展開! 射撃用意!」
郡司曹長の号令により、部隊は展開。銃に実包が装填される。隊員たちの顔にも緊張の色が映される。そこへ騎兵が飛び込んで来た。
「止まれ!」
「うおっと!?」
騎兵は素っ頓狂な声を上げると停止した。
「ここから先は、協定に基づきルーシュ侯爵領国軍人は越境禁止だぞ!」
騎兵はずっと走り続けて来たのか、馬も騎兵も息が切れている。騎兵はなんとか息を整えると言った。
「ルーシュ侯爵よりマツオカ殿に対し、火急の用件あり!」
「どんな内容だ?」
「密報ゆえに教えることは出来ぬのだ。しかし一大事であるから、直ちにマツオカ殿に知らせねばならぬ!」
「わかった! わかった! だがおいそれと貴殿を通すわけにはいかない。本部に指示を仰ぐので少し待ってくれ」
「致し方ない……わかった」
本部に通報後、巡察隊は騎兵を伴いつつ、拠点へ急ぎ戻って行った。
拠点に戻るとまず、騎兵の武装を解除した。そして所持品検査をした後、松岡担当官と面会となった。その際騎兵は、人払いを要請した為、拠点本部の一室に松岡担当官と荒木陸将、そして警務科隊員1名のみが入室を認められた。
「はじめまして、松岡と申します。ルーシュ侯爵からの火急の用件とお聞きしましたが?」
「はい。落ち着いて、冷静に聞いて欲しいと侯爵様は仰られていました」
「……わかりました」
恐らく先日の王国の使者との会談で、熱くなりすぎた事で、釘を刺していると推測できた。
「カノヴィール王国のバラト王は会談が行われた日の翌日に諸侯に命じて、兵を集めさせています」
「は!? それはどういう事ですか!?」
松岡担当官は余りに突拍子のないカミングアウトに、つい身を乗り出した。
「バラト王がどういう目的で兵を集めているかはわかりません。ただ、会談での使者の態度や時期を鑑みても、ニホン国に対する兵力に違いないとルーシュ侯爵様は考えております」
「そんな……我々が何をしたと言うのか……」
「風の噂ですが、バラト王は領土拡大の為にニホン国を攻めるのではないかという話もあります」
松岡担当官は椅子に寄りかかると、目と目の間を揉んでマッサージをした。予測不可能な事が平然と起きる。
「とんでもない場所だ……」
改めて常識が通用しない土地であることを思い知らされる。
荒木陸将が質問する。
「集結する兵力はどのくらいですか?」
「実際どの程度集まるかは不明です。しかし過去、王国連合軍が召集された際には、300万の兵力が集結したという記録があります。その大軍は一月の間に東方遊牧民族国家を滅ぼしたと伝えられています」
「300万!?」
叫び声をあげたのは警務科隊員だった。隊員は慌てて口を閉じた。
「とにかく、詳しいことがわからない限り、不必要に王国を刺激する事は避けた方が良さそうですね」
松岡担当官は椅子から立ち上がって、騎兵を見下ろした。
「今一番の問題は、ルーシュ侯爵が今後どのような行動をとられるのか、です」
騎兵はしっかりと松岡担当官を見据えると、
「ルーシュ侯爵様はニホン国との協定を遵守すると言っておられる!」
「絶対に……ですか?」
「いかにも」
「わかりました。そういうことなら結構です」
松岡担当官は荒木陸将に向き合うと、厳しい口調で告げる。
「自衛隊も十分警戒された方がよいですね」
「わかっています。詳しいことは本部で会議を開きます」
「頼みます」
「明日にはやっと内地に帰れる! 長かった!」
見捨てられた神殿宿営地の中の宿舎の居室で、そう叫んだのはもちろん、小笠原である。居室内では自衛隊高校の生徒達が明日の帰還に向けて、荷造りをしている。背嚢の中身を確認し、迷彩服にアイロンをかけて、床にこびり付いた靴墨を丁寧にこすり落とす。
「俺はもう少しここにいたいなぁ。なんたって異世界だぜ? もっと色んなものを見てみたい」
「俺も! 俺は宿営地で物資の搬入ばっかやってたから。女騎士とか見たかった……」
「それな!」
他の生徒達もそれぞれの思い出を語り合った。そこへ、
『放送部より、宇都宮高校生徒隊へ達する。基幹要員及び各班長は直ちに本部舎前に集合せよ。繰り返す……』
「うお! 呼び出しだ!」
「いってらー」
「明日の予定を通達するんだろ」
バタバタと何人かの生徒が駆け出して行った。生徒達はまだ現実を知らない。
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