帰還に向けて
キール村から西方へ数十キロメートルの所を、オリーブドラブ色の2両の73式中型トラックがガタゴトと未整地を走り抜けて行く。荷台には年齢的に高校生程の少年少女が乗せられている。彼らは一様に二型迷彩服を着込み、手には64式小銃を手にしている。
「もう少し、キール村でのんびりしたかったぜ……」
井本は流れてゆく景色を見ながら呟いた。
「ま、僕らは生徒だからね。勉強が大事ってことだよ」
小笠原は悪友に模範的な答えを返す。すると2人の前に座っていた赤十字腕章を付けた少女が困った顔で言った。
「あたしもコイツと同意見だけど、あそこだとお肌の手入れが大変だから早く帰りたいわ」
「高林先輩……任務中の化粧は……」
「黙っていてくれるよね?」
「了解」
そんな不毛な会話を垂れ流しながらトラックは突き進んで行く。
「諸君らには一端、神殿の宿営地に戻ってもらい、その後内地へ帰還してもらう」
キール村拠点の広場に集められた小笠原達自衛隊高校生徒は、突然の指示に戸惑いつつも安堵感に浸っていた。
自衛隊高校生徒に内地への帰還命令が出たからだ。というのも彼らは、先遣隊の後方支援任務の一環で派遣されてきたが、そもそも彼らは自衛官である以前に生徒である。派遣が長期になれば勉強に支障がでるかもしれない、ということになり晴れて帰還命令が出たのである。生徒の中からも帰還を望む者が少なからずいたのも事実である。
「ゲームのログインボーナス溜まってるよ……」
とぼやいた奴が居るとか居ないとか。
とにかく彼らは冒頭の通り、見捨てられた神殿の宿営地を目指した。
「……ということで、これが事の顛末です」
ルーシュは、王国議会の中心にある発言台に立っていた。キール村から帰って来たルーシュ達は王国議会にこれまであったことを報告したのである。なお、アンナ王女は王宮に戻った途端、自室に引きこもった。
「なるほど……つまり和平を結んだと?」
「短く言えばそうなります」
「しかし、驚いたな……転移魔法通路を通って来たとは……」
「はい。彼らは話し合いで分かり合える者達です。そこで国王陛下に於かれましては、ニホン国から来るであろう使節団との謁見並びに会談を行って頂きたく思います」
ルーシュがバラト王を仰ぎ見ると、バラト王は玉座から立ち上がった。
「うむ、先ずは報告大儀である。できれば、我が娘が勝手に出掛けたことも報告してくれれば、なお良いのだが……」
(王女様……バレてますよ……)
「仲介役は侯爵に一任する。朝貢を含めた諸外交手続きをさせよ。我からも文官を遣わす」
「かしこまりました」
ルーシュは心の中で安堵した。
(良かった。意外とあっさり事が運んだな)
「それと……我が娘アンナの騎士団だが……もう少しの間、お前に預ける。一度は援軍を約束したわけだからな」
「はっ!」
見捨てられた神殿の宿営地に到着した小笠原達の目の前にあったのは、施設科部隊の本気とも言えるものだった。この世界の軍隊が、剣や槍といった装備だとわかった現在、宿営地の防備もそれにあわせたモノになる予定だった。ところが出来上がったモノを見てみると、神殿を取り囲むコンクリート壁、一定間隔で立つ警戒監視塔、トーチカや塹壕。もはや必要な施設を造ったというよりも、施設科部隊の個人的欲求を具現化したようなことになっていた。
そして到着して小笠原達が最初にしたのは、Wi-Fiの繋がる所へ行くことだった。後続部隊の隊員から宿営地でWi-Fiが繋がるようになったことを聞いていたのだ。生徒達は文明の利器のありがたさを身を持って体験すると共にたまりまくったゲームのログインボーナスを消費するのであった。
次いで施設にあるカレンダーと自分達の手帳を照らし合わせた。前進拠点にいる間は、どうも曜日感覚が狂ってしまう。
「1ヶ月半か……」
「短いような、長いような……」
普通の海外派遣一回分にしては短い期間だったが、内地との文明差、価値観の差といった物が隊員や生徒達に重いストレスとなっているので、長く感じてしまう。最近は外交的交渉が積極的に進んでおり、目に見えての戦争の危機が無い分ずっと楽になったのだが。
「小笠原は何か嬉しそうだな? 楽しい所から帰らないといけないのに」
井本が不思議そうに聞いてくる。
「当たり前だよ。ようやく日本に帰れるんだから! ついでにあの変な人からも解放されるし……!」
ホクホク顔で言う小笠原であった、もちろん変な人とは犬山団長である。
その後、内地と宿営地を繋ぐ魔法通路の通行状況を鑑みて、二週間の待機命令が出た。それでも小笠原は解放される喜びから特に気にしていないようだった。その日小笠原は運動会を待ちわびる子供のような感じで、宿舎のベッドに入るのであった。
ちなみに小笠原達が到着する数日前に、会計科の幹部が施設科の幹部が出した施設拡充案に対して、
「あんなに作ったのに、まだ不満なのか!!」
とブチギレたのは内緒である。
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