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自衛隊高校 ~異世界実習記録~  作者: 脱色ナス
第一章 未知との遭遇編
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停戦協定調印

今年は色んなことがありましたが、なんとか年末を迎えられました。

来年も『自衛隊高校』をよろしくお願いします!

 ルーシュ侯爵との会談から一週間ほど後、調査結果がルーシュ侯爵から届いた。内容としては、行政官の情報解析不足とロニエ騎士補らが冷静に事に対処できなかったことが原因である、ということだった。

 しかし、情報が流れてきたのはそれきりだった。特に小笠原達末端の隊員には、その後の進展などは殆ど聞かされなかった。ルーシュ侯爵の遣わした行政官が出入りして、松岡担当官と話し合いをしているのはわかったが、その際にはお茶汲みの小笠原や当番も締め出されしまうのだ。

 そのため、部隊内では様々な噂が飛び交った。

 『協議は平行線を辿って、全く進展していないらしい』『話し合いはまとまるどころか関係が悪化。戦争に拡大するかもしれない』『政府は既にルーシュ侯爵領国との協議を終え、カノヴィール王国との協議に駒を進めているらしい』などなど、皆言いたい放題であった。

 そんな噂が流れる中、遂に停戦協定の締結のめどが示された。4日後にルーシュ侯爵領国との停戦協定締結がなされるということだ。しかし、不思議なことにこの情報の出所が外務省と内閣府であった。犬山団長に聞くと、協議は松岡担当官と数人の外務官僚らによって行われ、自衛官は荒木陸将を含めて誰も参加していないとのことだった。

 「まっ、外務官僚も活躍の場を欲してるってことよ」

 「外務省って忙しいハズですよね……」

 釈然としない隊員達であったが、ともかくも調印式の準備をしなければということで、再度大忙しな日常に戻っていった。





 調印式当日

 日本側からは荒木陸将、各戦闘団長、松岡担当官などの幹部や官僚が参加。マスコミがいないので、自衛隊と日本政府の広報担当者がカメラを構えている。一方のルーシュ侯爵領国からはルーシュ侯爵をはじめ、行政官などの文官と武官が集まった。

 太陽が一番高い高度に上がった頃、本部舍の前に真っ白いテーブルクロスを敷いたテーブルを据え、双方は向かい合った。

 「お初にお目にかかります。私は日本国陸上自衛隊派遣隊の荒木陸将です」

 荒木陸将は穏やかな表情でルーシュ侯爵を見据えた。

 「ご丁寧にどうも。この度の事、私の部下が大変なご迷惑をかけた」

 「いえ、今回の件は我らにも非はあります。そもそも急に他の世界から来ました、なんて言われても対処に困るでしょう? 今回の事は水に流し、より良い関係を築いていくことこそ死んだ者への慰めになりましょう」

 「そう言って頂けると大変有り難い」

 ここで荒木陸将とルーシュ侯爵は固い握手をした。

 「それでは停戦協定の調印を行いたいと思います。まず停戦協定の内容を確認します」

 松岡担当官によって協定内容が読まれていく。

 「一つ、ルーシュ侯爵領国軍はキール村西方の陣営より以東への進軍を停止する。また一切の挑戦攪乱行為を行わない。

 二つ、日本国陸上自衛隊は第一項の実行を確認するため随時巡察隊及びその他の方法に依り是を視察する。

 これに対し、ルーシュ侯爵領国側は諸般の保護及び便宜をはかるものとする。

 三つ、日本国陸上自衛隊は第一項をルーシュ侯爵領国側が遵守していることを確認の後、自主的にキール村の拠点並びに見捨てられた神殿の拠点に帰還する。

 なお本項においては日本国陸上自衛隊派遣隊本部が宿営している神殿を便宜上『見捨てられた神殿』と呼称する。

 四つ、日本国陸上自衛隊が身柄を拘束しているルーシュ侯爵領国軍軍人の捕虜は本協定調印後、速やかにルーシュ侯爵領国側に返還される。またルーシュ侯爵領国側はこれに対して今後の諸条約協定等の調印及び交渉時に、日本国側に配慮をする。

 五つ、本協定は調印後、即時効力を発効する。

 以上」

 はっきり言えば、日本側有利の協定である。形の上では痛み分けということになっているが、現実では日本側の圧勝であったことが大きく反映されている。

 協定調印文書は日本語と異世界語の2つが作られ、荒木陸将とルーシュ侯爵のサインが書かれる。こうして調印式は終了である。

 2人は再び握手を交わした。

 そしてロニエ騎士補と数人の負傷兵がルーシュ侯爵に返還された。

 「ロニエ騎士補、よく耐えてくれましたね」

 「はい……! ありがたきお言葉!」

 ロニエは感極まって泣き出してしまった。

 その後、ルーシュ侯爵一行はキール村から撤収していった。

 「いや~、一件落着だよ。やったね」

 犬山団長が小笠原に抱きつき、鼻をならしている。

 「これでもう安心ですか?」

 「まあ、そうだね。あとは王国の王様と話し合いして、仲良くしましょーっていう条約結んだら、もう残りは官僚の皆さんの仕事よ」

 小笠原は迷彩服に顔を埋めて匂いを嗅ぎ始めた犬山団長を、ゴミを見るような目で見ながら、

 「そろそろ家に帰れるかな……」

 犬山団長にも聞こえない声で呟いた。




 陣営に戻る途中のルーシュ侯爵は考えを巡らしていた。自衛隊の拠点で見た物や武官が話す不思議な武器、そしてあの交渉力。どれを見ても強大な国家であることには違いない。あれだけの軍事力と外交力を持つ国ならば、自らの領国などあっという間に蹂躙されてしまうはずだ。

 しかし、幸いにも彼らは話し合いに応じ、多少強引な要求もあったが概ね真摯な態度で向き合ってきた。それが救いであった。

 「これから大変になるだろうな……」

 「ルーシュ侯爵?」

 ロニエが心配そうに顔を覗き込んできた。

 「いや、これから王国とニホンの仲介役をやったり、それに備えた事務手続きなんかもしなければならないからな」 

 「私もお手伝いします!」

 「あなたに書類仕事はむかないだろう」

 「そんなこと無いと思いますけど……」

 「まずはしっかり休むことだ」

 「はい……」

 ロニエは少し不満そうな顔をしながらも、ルーシュの言葉を受け入れた。

 ルーシュは真っ直ぐ前を見据えながら、

 「それと、国王陛下にもご報告しなければならないな……」

 と呟いた。

 

ご指摘ご感想お待ちしております!

来年もよろしくお願いします。

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