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自衛隊高校 ~異世界実習記録~  作者: 脱色ナス
第一章 未知との遭遇編
13/46

責任の在り処

 キール村前進拠点 本部舎(旧村長邸宅)

 犬山団長以下幹部達は矢に括り付けられていた手紙を前に頭を抱え込んでいた。その理由は極めて簡単。

 「文字が読めない……」

 魔法石のお陰で言葉の壁は粉砕済みだが、文字の壁はダメだったのである。

 村人のほとんどは文字の読み書きが出来ない。ロニエはまだ一応、自衛隊の捕虜として扱われているので読ませる訳にはいかない。

 「そうなると……残りはニーナちゃんだけね……」

 賢狼の少女ならば読めることが出来るだろう。しかし、

 「民間人……しかも現地人の彼女に読ませて良いものか……」

 確かに彼女は自衛隊に友好的かつ協力的だ。しかし、それとこれとは別問題だ。

 「とりあえず派遣隊長の指示を仰ぐべきではないでしょうか?」

 「そうね……派遣隊長に連絡を取れ」




 

 外地派遣隊本部

 「……というわけで、前進拠点では手紙1つでてんやわんやらしい」

 派遣隊長たる荒木陸将は笑いながら報告書に目を通した。

 「とはいえ、我々も言葉が通じるというので失念していました」

 「確かに文字の事は頭から抜けてました」

 松本、戸田両名も困った顔している。

 「犬山は翻訳を現地人の少女に任せてみたいと言ってきている」

 「それは……うーん……」

 松本一佐は反対しようとしたが代替案を出せないので言いよどんでしまった。

 そこで作戦室のドアがノックされた。

 「外務省から外地担当官が出向されました」

 「通しなさい」

 ドアを開けて入って来たのは外務官僚の中では若い部類に入る30代半ばぐらいの男だった。

 「はじめまして、外務省外地局の松岡です」

 松岡は居並ぶ自衛官達に臆することなく堂々と自己紹介をした。

 「お待ちしてました。早速で申し訳ないが、ウチの偵察隊が向こうの統治機構と接触したのだが、書簡の文字が読めないという状況だ」

 「それを言われても、私は学者先生じゃないので文字を解読しろと言われても無理ですよ」

 松岡は苦笑いをして答えた。

 「現地人の少女が、協力的なので読ませて翻訳させようと思うんだがどう思うかね?」

 松岡は少し考えると、その意見に賛同した。

 「彼女を通じて情報が漏洩するかもしれないぞ?」

 松本一佐が懸念材料を言った。

 「外交はスピードが命ですよ。彼らが何を要求し、何を譲歩してくれるかを素早く判断し、こちらは適切な外交カードを切る。彼女はそうですね……現地人協力者として雇ったらどうです? そうすればこちらの管理下に置けます」

 松本一佐と戸田一佐も彼の奇抜なアイデアに呆然としている。

 「それは面白い。その方法を偵察隊に知らせよう。君にはいきなりで申し訳ないが、偵察隊のもとへ行き、そこで外交交渉を頼む」

 松岡は恭しく頭を下げると、

 「私はその為に来ましたから」





 「一つ、我が方は貴方らとの一時停戦を申し込む用意がある。

 二つ、貴方らを兵士として雇い入れる用意がある。

 三つ、我が方にはカノヴィール王国軍の援軍が到着している。

 以上の理由によりこれ以上の戦闘は無駄である。停戦協議に応じる気があるのならば、3日後の正午に使節を送るので、これに応じよ。

  

 カノヴィール王国ルーシュ侯爵領主 メリザ・ルーシュ」

 ニーナにより手紙の文が丁寧に翻訳されていく。

 ニーナはこの度、派遣部隊公認の現地人協力者として扱われることになった。自衛隊での身分は技官としての扱いで、翻訳以外にもこの外地の世界情勢などの情報を提供するアドバイザーとしての役割も期待されている。

 もちろん給与が支払われる。といっても日本円を渡しても意味がないので、食料の支給という形になる。

 「これが全文です」

 ニーナは犬山団長に手紙を返す。犬山団長は笑顔で受け取りながらも、

 「ありがとうニーナちゃん! もちろん内容は他言無用よ? 言ったら……」

 「分かってますよ! それよりちゃんと今度、ニホンの本を読ませてくださいよ?」

 「うんうん! 分かってるわ!」

 ものの見事に幼女を手玉にとる様子を見て、幹部達の目はもはや濁っている。

 「ショタコンかと思ったら、ロリコンでもあるのかよ……それより随分と上から目線の内容ですね。最後の項目は完全に脅しですよ」

 部隊幹部の二尉が手紙を覗き込みながら言った。

 「まあ、貴族様だしね……あと二尉は腕立て100回よ」

 「!?」 

 「3日後ですか……今日の夕方にも外務省の担当官が来ますから、ちょうど良いですね。それにしても、雇い入れる用意があるって、まだ我々のことを賊だと思っているのでしょうか?」

 広瀬二佐が手紙を眺めながら言った。

 「まっ、外交はお役人様に任せましょう。清文くーん! お茶おかわりー!」

 「了解」

 その日の夕方、松岡外地担当官が到着。日本は外地と外交関係を持つ足掛かりを着実に作り始めた。





 3日後

 「拠点内A警備を維持。使節が来るぞ準備急げ!」

 隊員達は右へ左へ忙しく動き回る。車両をきっちり並べ、昨日のうちに洗濯した迷彩服をしっかり着込んで、儀仗任務を担当する普通科隊員は赤いスカーフを首に巻く。

 即席ながらも使節を向かい入れる準備が出来た。

 儀仗任務を担当するのはもちろん、第三戦闘団である。さらに言えば小笠原の所属する小隊であった。

 「いや~、今日は日本……いや世界にとって歴史に残る日になるだろうね」

 小笠原の後ろでそう呟いたのは松岡である。

 「外交官って大変そうですね」

 「まあ、露骨に自分達の要求を通そうって国も厄介だけど、遠まわしに要求してきて、断ると経済的に脅してくる国も怖いよ。さて……この世界ではどんな外交をするんだろ?」

 松岡はどこか楽しそうに話す。

 「使節来ました! 騎馬6騎、他の兵力は見当たりません」

 「気を、つけー! 着剣!」

 「「着剣!!」」

 騎馬は真っ直ぐ向かって来た。

 「捧げー、銃!」

 騎馬は速度を落としながら、隊員に誘導されて拠点中央の広場に入って行った。

 「なあ、今のさ……」

 小笠原の隣にいる陸曹が呟いた。 

 「金髪の超絶美人じゃなかった?」

 「ですね……」




 「ようこそいらっしゃいました! ルーシュ侯爵閣下! 私はこの部隊の指揮官の犬山佳奈子です」

 満面の笑みを湛えて犬山団長自身である。そして馬上のその人が馬から下りて兜を脱ぐと、

 「これはこれは……まさか侯爵閣下が麗しい美女だとは思いませんでした!」

 ルーシュ侯爵は硬い表情である。

 「出迎え感謝します。あなたがこの郎党の長ですね? 私もまさか女性とは思いませんでしたよ」

 犬山団長は少し苦笑いをすると、

 「私たちはあなた方の軍部隊と交戦する前にも言いましたが、私たちは一国の軍隊です。盗賊の類と一緒に考えられても困ります」

 そこで犬山団長は一旦間を入れると、

 「そういった事も含めて話し合いましょう」

 「そうですね」

 その後松岡担当官が本部に戻ってくると話し合いは始まった。

 




 「では、あなた方はこの転移魔法通路を通ってこの世界に来られたのですね?」

 ルーシュは犬山団長から渡された写真を見ながら言った。

 「はい。なので正確に言えば、この世界に我が国が在るのではなく、ここから東の方角にある転移魔法通路の向こう側に我が国は存在するのです」

 「なるほど、しかもこれだけ大きい魔法通路だと自然消滅するのにも相当時間がかかりますよ」

 ルーシュの何気なしに言った言葉は犬山団長らの度肝を抜いた。

 「自然消滅するんですか!?」

 「ええ、でもこれだけ規模の大きいものだと、数年間は開き続けることがありますので、今日明日の問題ではないですよ」

 「なら安心しました」

 主だった幹部達は胸をなで下ろした。

 「さて、ここからが本題です」

 今まで黙っていた松岡担当官は真っ直ぐとルーシュ侯爵達を見据えた。

 「貴方は我が国の軍隊を、知らなかったとはいえ攻撃しました。その責任の所在を明確にしなければなりません」

 松岡の声色が変わった。口を武器とする外交官の本領発揮である。

 「先に我らの所領を侵害したのは貴国ではないか!」

 ルーシュの隣にいる騎士が抗議の声をあげた。

 「交戦前に我が部隊は所属を述べたにもかかわらず、それを頭ごなしに拒否し、攻撃したのは貴殿らですよ?」

 犬山団長もここぞとばかりに攻め立てた。

 「それは……急に他の世界から来ましたと言われて信じる者などいない! 我らには所領内の治安を守る義務と権利がある!」

 「ですが、攻撃したという客観的事実は覆しようがありませんね? つまり非があるのは其方です」

 「なに!?」

 騎士の1人が剣を抜こうとし、犬山団長と幹部達は9ミリ拳銃を抜いて騎士へ向けた。

 「控えよっ!!」

 ルーシュは騎士を厳しい語調で制した。

 「イヌヤマ殿、マツオカ殿も挑発的にモノを言うのは止めて下さい」

 ルーシュの悲痛な声色も騎士も犬山団長達もしぶしぶと武器を収めた。

 「先日の戦闘に関して責任の所在を明確にすべきというのは、我らも同じ考えです。 そして我らが先に戦端を開いたという事実は変わらない。つまり責任者の処罰を求めているわけですね?」

 「はい、それと賠償金の支払いを要求します」

 「わかりました。責任者の件は一旦屋敷に戻って、当時の行政官らから聞き取り調査をしてみましょう。賠償金も追って連絡します」

 「侯爵閣下!?」

 騎士が制止をルーシュは聞かなかった。

 「ところであなた方の国の名前をまだ知りませんね……」

 ルーシュの言葉に犬山団長は、苦笑いをした。

 「これはいけませんでしたね。我が国の名前は日本と言います」

 「ニホン……そうですか、良い名前ですね……」

 「ありがとうございます」

 ルーシュ侯爵との会談は一旦は終わった。

 しかし、犬山団長と松岡はまだ長い道のりのことを思い、安心することは出来ないのだった。

 

 







  





 

 

 





 

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