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プロローグ

新作です。よろしくお願いします。

 日本最高峰の山、富士山の東麓にある日本最大級の演習場「東富士演習場」。その一角の草原地帯に迷彩服の集団がいた。

 彼等は戦闘装着セットと呼ばれる88式鉄帽、2型迷彩服、弾帯、銃剣、防護マスク、弾入れ、水筒の上からさらに周囲の草を体に身につけ、入念な偽装を施していた。そして64式小銃を手にしている。

 「第一班は、突撃準備!」

 集団の中の1人が叫んだ。それに周りの班員も復唱する。

 「「「突撃準備!」」」

 「第二班はその場で、援護!」

 すると少し離れた位置にいる第二班からも「了解!」と返事が返ってくる。

 第一班班長は渾身の声を張り上げた。

 「突撃に~! 前へ!」

 すると第一班総勢5名が一斉に立ち上がり、

 「やあああああああああ!」

 その瞬間、擬爆筒の爆発の煙に消えた。




 20XX年、憲法第九条が改正され、交戦権、自衛権が明確化された。しかし、自衛隊の存在が明記されず、また交戦権の保持は認めておらず、自衛権の保持を明確化しただけの中途半端な改正で終わった。

 防衛省は少子化による慢性的な自衛隊員不足の解消を図る為、既存の教育隊及び学校の他に全国に11か所の自衛隊高等学校を設置した。これはより広く一般にも自衛隊への門戸を開こうというものであった。

 ちなみに自衛隊高校と高等工科学校とは似て非なるものである。一番の違いは高等工科学校の生徒は定数外防衛職員扱いであるが、自衛隊高校生徒は定数内防衛職員である。つまり、有事の際には授業中だろうが、夏休みだろうが関係無しに招集され、後方支援任務及び駐屯地警備任務を行う。

 11校のうちの1つ、陸上自衛隊宇都宮高等学校。

 北関東唯一の自衛隊高等学校で、宇都宮駐屯地に配置されている中央即応集団隷下の 中央即応連隊 (ちゅうそくれん ) との合同訓練や幹部が来ての座学などを行うため、「日本一空包を使う学校」ともいわれている。

 自衛隊高校の生徒は入学後、二士の階級を与えられ、二年で一士、三年で士長となり、卒業時に三曹として、第一線部隊に配置される。冒頭のは入学後二年目の二士達の戦闘訓練の模様である。




 「やっと……。終わった……」

 鉄帽を外しながら陸上自衛隊宇都宮高校第二教育隊( 二年生 ) 小笠原清文(おがさわらきよふみ )はひとりごちた。

 演習場内にある市街地訓練場では第二教育隊に面々が銃の安全点検や使った空包の空薬莢を返納している。

 「小笠原ぁ……。俺はもうだめだ……」

 気の抜けまくった表情で近づいて来たのは、 井本将(いもとしょう )である。

 「一番成績良かったくせに……。」

 井本はさらに気だるそうに、

 「最後の最後で、死亡判定はねぇよー!!」

 「ぷっ……あれは傑作だよね。 最後の突撃前に『井本一士。戦死〜』だもんね」

 「笑うな……。 来月の射撃検定で挽回してやる。お前も隠れてばっかじゃダメだろ!?」

 「あ、あれは別に隠れてたわけじゃ……」

 「お前は突撃支援のときに数発しか撃ってないことを、俺は知っている」

 「しぃー!! 黙っててよ!」

 そんな他愛無い会話をしていると、73式中型トラックが3台入ってきた。

 「第一区隊集合!」

 2人も列に並んだ。

 番号の号令がかけられ、人数確認が行われる。

 「第一区隊! 総員50名! 現在員50名!」 区隊長の報告が上がる。

 「良し! これより小隊は宇都宮に帰隊する、総員乗車!」

 本来であれば富士演習場内の宿舎に泊まれるのだが、

 「マジか。 早くこのドロドロの迷彩服脱ぎたいのに」

 乗車し終えると先頭のトラックがウインカーで発進の合図を出し、走り始める。営門を出る直前に今日宿泊できない元凶が現れた。

 「くっそ!  高工(高等工科学校 )の連中も使うのかよ!」

 つまり宿舎は高工が使うのだ。

 73式中型トラックの車列は真夜中にひっそりと宇都宮高に帰隊することとなったのであった。



 陸自宇都宮高校の生徒達が宇都宮に帰り着いた頃、富士の樹海では高工の生徒達が夜間行進演習を行っていた。

 「小隊、小休止!」

 生徒達は思い思いの場所に腰かけ休憩をとる。その時、

 「何か近くにいないか?」

 「えっ?」

 「ほら、息遣いが……」

 全員が耳を澄ます。そして、

 「誰か!?」

 1人が小銃をその方に向けて誰何した。

 「ガアアアアアアアアア!!」

 暗闇から黒い影が飛び出し、生徒に飛びかかった。

 「何だ! こいつは!」

 「助けてくれ! 助けて!」

 「早く引っ剥がせ!!」

 黒い影は生徒の喉笛を噛みつかんと暴れる。すかさず頭を掴んで剥がす。

 「ヤバいぞ! 暴れる!」

 「クソ!」

 数人がかりで銃剣を突き立てた。

 「グガアアアアアアアアアア!」

 暗闇を切り裂く様な断末魔を発し、黒い影は動かなくなった。

 これは、政府が緊急閣議を招集する数十時間前の出来ごとである。




 小笠原清文は自衛官である。

 しかし、世の国民が考える自衛官像とは大きくかけ離れたものであった。学校での評価は、

 可もなく、不可もなく。臆病。敢闘精神の欠如。

 と惨惨たるものであった。そしてベビーフェイスな見た目と相まって「見た目は女性自衛官」とまで言われるようになった。

 そもそも自衛隊高校に入ったのも家庭の問題。主として経済的に余裕がなく、授業料無償と手当として月に9万4千円もらえるというところに惹かれたからである。

 筆記試験は問題無く通過し、身体検査でも規定身長をなんとかクリア出来た。

 入隊後も落第ギリギリで進級し、現在に至っている。

 彼は、そして全国の自衛隊高校の生徒達はまだ、自分達が世界を巻き込む問題に引きずり込まれるという未来を誰も予想していないだろう。

 

 

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