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ロリババアロボ ー 6歳からの楽しい傭兵生活 ー  作者: 紫炎
第一部 六歳児の初めての傭兵団

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第90話 幼女、戦利品を確かめる

「良いご身分だねバル。とっとと起きな、寝坊助が」


 その言葉と共に腹を蹴っ飛ばされたバルがうめき声と共に目を覚ました。


「ガゥ…あ、主様か」


 思わず反撃に出かかった自分を諌めながらバルが起きあがって返事をする。これでバルが手を出そうものならばその後にどんなお仕置きが待っているかも分からない。バルも今の状態では心はともかく身体の方は耐えきれる自信がなかった。


「調子はどうだい? まだイジケているのかい?」

「ああ、いや……大丈夫だ」


 ベラの問いにバルは苦笑しながら頷く。自分がどれほど情けない精神状態だったかの自覚はあったし、餌のひとつで調子を取り戻した自分にも笑うしかなかった。

 そのバルの様子を見てベラも頭が冷えたのだろうと認識すると視線をバルからガレージの中に置かれている鉄機兵マキーニ『ムサシ』に向けて口を開いた。


「ひとまずは面倒なことは昨日のうちに終えておいた。これから『ムサシ』の整備を行うんだから、アンタも働きな」


 その言葉にバルの目が細まる。


「それではアレを付けるのか?」

「ああ、そうだ。あんたが手に入れた怪力乱神マシラオ抜刀加速鞘クイックスラッシャーを接続する。あんまり時間もかけたくないしね。キリキリ動いてもらうよ」


 その言葉にバルの顔が引き締まる。ようやく取り戻した自分の得物だ。そのことに思うところがないはずがなかった。それからベラはバルへと確認の言葉を投げる。


「それで武器の方はオリハルコンのじゃなくて、今のヤツのでいいんだったっけ? ギミックウェポンではあるが、オリハルコンのカタナの方が単純に言や硬いんじゃないのかい?」

「問題ない。そもそも抜刀加速鞘クイックスラッシャーはオニキリとヒゲキリとセットのギミックウェポンだ。ブラゴは知らないようだったがな」


 その言葉にベラは目を細めながら「なるほどねえ」と呟いた。


「それじゃあオリハルコンのカタナは妹にくれてやる。良いね?」


 そのベラの改めての確認にバルは頷いた。


「過ぎたる得物だが使えるのはアレぐらいだからな。構わないが……その、エナはどうしている?」

「あん? あんたの妹ならご褒美に夢中さ。盛った犬みたいにはしゃいでたよ。今も遊んでる最中なんじゃないかい?」

「そうか。まあ元気でいるならば何よりだ」


 今は地下の拷問部屋にエナが籠もってから一日が経過している。外で見張りについているヴォルフによれば悲鳴の声もだいぶ弱くなっているとのことで、だから今もエナは奮闘しているのだろうとベラも把握していた。


「ま、期待はしてなかったけどブラゴはやっぱり無理そうだねえ」


 生きていればブラゴを使うこともベラは考えていたのだが、どうやら自分の足で部屋を出てくる可能性は低そうだった。

 そしてバルの確認を終えたところで、ガレージの外からボルドがやってきた。それから背負っていた鉄機兵マキーニ調整メンテナンス用の荷物をゆっくりと下ろすと「よぉ」とバルに手を振り、バルも手を挙げて挨拶を返した。


「ボルド、予定通りだ。怪力乱神マシラオ抜刀加速鞘クイックスラッシャーは『ムサシ』に取り付ける。終わったら『イゾー』に外した『ムサシ』の両腕を取り付けるんだよ」

「あいよ」


 ベラの言葉にボルドはそう返事をしながら並べている『ムサシ』と『イゾー』を順番に見た。

 ギミックアームの『怪力乱神マシラオ』は右腕のみだが、左腕も『怪力乱神マシラオ』に併せてバランス調整をした特別製の腕ではある。そのため怪力乱神マシラオを付けるためには両腕を交換する必要性があった。

 それからボルドは『イゾー』の足元を見た。よく見なければ分からないが『イゾー』の脚部には下駄のようなパーツが追加で装着されていた。


「それでご主人様よぉ。あのローラーはどうするんだ?」


 その『イゾー』の脚部に下駄のように設置されているギミックウェポンは車輪機構ローラーと呼ばれているものであった車輪を出して、平地であれば高速移動も可能になる装備であり先の戦いでもブラゴが多用していたものだ。


「ああ、そのままでいい。ありゃあエナに使わせる。それとジェドの機体のパーツはデュナンの『ザッハナイン』に移植するが、超振動の大盾バイブレーションシールドはアンタが使いな。ありゃあ良いもんだ」

「いや、良いのは分かるけどよ。俺でいいのか?」


 ボルドが少し唸りながらそう口にする。超振動の大盾バイブレーションシールドはジェドが持っていた極めて有用性の高いギミックウェポンだ。であればデュナンにでも持たせた方がとボルドは考えていたのだが、


「黙って受け取りな。結局あんたはプレスハンマーを作業にしか使ってないようだしね。護りに専念していた方が合ってるんだろう?」


 そのベラの言葉にはボルドも「まあな」と答える。

 それからそんなやり取りをしていたベラとボルドの後ろからひとりの老人がガレージへと入ってきた。


「へぇ。なぁるほど。なかなか良い機体だねぇ」


 そんな声と共に老人はガレージの中へと入って立ち止まり鉄機兵マキーニたちを見回した。そしてその老人に対してボルドが声をかけた。


「遅いぜマギノの爺さん」

「ごめんごめん。ちょっと大きいのをしていてね」


 そう言って笑う老人をバルは訝しげな目で見た。

 それはこの地方では珍しいマーマンの精霊族だった。マーマンは水精機ウンディを操る水の多い地域にいる種族である。そしてマギノに注目するバルの反応を見て、ベラが口を開いた。


「その爺さんはマギノだ。新しい仲間だよ。つってもこの爺さんは雇いで別に奴隷じゃあないけどね」


 その言葉を聞いてバルが値踏みするかのようにマギノを見た。


「よろしくねキミィ。僕ぁ、マギノだ。鉄機兵マキーニ魔術式研究者ってぇ呼ばれている者さぁ」


 バルが『鉄機兵マキーニ魔術式研究者』という聞き慣れない言葉に首を傾げる。


「ジェドが雇ってた爺さんでね。あたしが引き継いで雇うことにしたのさ」

「ジェド・ラハールの……」


 バルが意外そうな顔で目の前の老人を見た。その視線にマギノはニィッと笑ってギョロッとした目をクリクリと動かした。その仕草にはベラも肩をすくめながら説明を続ける。


「マギノは乗り手の書き換えや、魔術式を操ってボルドじゃあできないような鉄機兵マキーニの細かい調整もできるのさ。まあ、ようするにこの爺さんは鉄機兵マキーニを研究している魔術師ってぇことなんだけどね」


 ベラの説明にバルの目が細まる。見た目はともかくとして、ベラが納得していることとジェドが重用していたという事実は間違いないようだとバルは理解し、マギノに対して顔を下げた。


「腕は確かというわけか。よろしく頼むマギノ」

「任せなさーい。怪力乱神マシラオ抜刀加速鞘クイックスラッシャーも僕が調整していたんだしねぇ。『ムサシ』でもすぅぐに自然に扱えるようにしてみせるさぁ」


 そう言ってマギノは己の胸をどんと叩いてからムセたが、特に気にした風でもなく続けて口を開く。


「とは言っても僕が一番見てみたいのは君の鉄機兵マキーニだけどねぇベラ」


 そう言ってマギノは奥にある赤い機体を見た。

 それはベラドンナ傭兵団長ベラ・ヘイローの愛機『アイアンディーナ』だ。

 今回も集めた魂力プラーナを、腰回りを中心として安定性を重視した強化につぎ込んでいたが、マギノの大きな目に映っているのは『普通の鉄機兵マキーニの部分』ではなく、有機的なフォルムの竜腕ドラゴンアームと臀部より生えている竜尾ドラゴンテイルであった。マギノはその姿を見ながら感嘆の息をつく。


「あははぁ、外にいるドラゴンにも驚いたけどねえ。ドラゴンの力を得た鉄機兵マキーニなんて長年、この研究を行っているけど初めてぇなのさ」


 そう言ってはしゃぐマギノにベラが苦笑しながら注意を促す。


「ま、イジるのは良いけど壊さないでおくれよ。ディーナは繊細な子なんだからね」

「あっはっは、僕には君もこの娘もじゃじゃ馬に見えるけぇどね。まあ言われた通りに調整はするから任せておいておくぅれよ。腕と尻尾の調整はしっかりやってみせるさ」


そう言ってマギノは己の胸をドンと胸を叩いて再びムセたのであった。


次回更新は11月17日(月)00:00予定。


次回予告:『第91話 幼女、噂を聞く(仮)』


ベラちゃんに新しい大きなお友達ができました。

少し生臭いけど、とっても頭が良いんですって。

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