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ロリババアロボ ー 6歳からの楽しい傭兵生活 ー  作者: 紫炎
第一部 六歳児の初めての傭兵団

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第87話 幼女、妹をもらう

「ハァ……ハァ……」


 そこは鉄機兵マキーニ用のガレージだった。すでに日は落ちて外は暗く、この場の明かりはカンテラのみであった。

 ヘールの街の領主の館に隣接しているそのガレージの中では、ベラドンナ傭兵団の鉄機兵マキーニが立ち並んでいた。また鉄機兵マキーニたちの真ん前の床一面には血が飛び散っていて、力尽きて倒れているバル・マスカーの姿もあった。


 そして昼の戦いの結果はといえば、ジェド・ラハールの軍隊はベラドンナ傭兵団に敗北した。たかだか十に満たない鉄機兵マキーニ精霊機エレメントが、鉄機兵マキーニ百機を超えるジェドの軍勢のほとんどを完膚なきまでに破壊したのだ。その手腕を目撃してしまえば街の住人が全面降伏するのも当然というもの。

 もはや街を護る鉄機兵マキーニは存在せず、彼らは襲撃してきたベラドンナ傭兵団を止めるすべなど持ってはいなかったのだ。

 さらには領主の元で街を取り仕切っていた者たちが集められ、ベラが貴族であること、決闘法フェーデのこと、さらにはルーイン王国の後ろ盾があることまで知らされたのだ。僅かばかり反抗した者もいたが、ほとんど抵抗らしい抵抗もなく、ベラはヘールの街とラハール領を手中に収めたのである。


 そして街を手に入れたベラが最初に行ったことはと言えば己に刃を向けた奴隷への処罰であった。

 刑罰は二百発の鞭打ちの刑。如何に頑丈なラーサ族といえど、刑罰としてはもっとも重い百の倍の数を打たれてはまともに動くことも出来ようはずもない。

 そもそもが百という数字も過去の経験上から割り出した死なないギリギリの刑罰である。それを大きく超えた刑を喰らってはバルも心身ともに疲れ果てて、動けなくなるのも当然のことではあった。


「よお、バル。生きてっか」


 そして倒れているバルに声をかける男がいた。それは同じベラの奴隷であるボルドであった。


「ああ……すまない……な。手間をかけた」


 僅かに口だけを動かし、バルはそう言ってボルドに詫びる。バルの背を打ったのはボルドだったが謝罪をしたのはバルの方だ。

 ボルドとて憎くてバルを打ったわけではない。同じ奴隷として処罰を命じられただけであり、自らの不手際でわざわざ二百発も鞭を打たせた手間をバルは詫びていたのである。対してボルドは肩をすくめて苦笑する。


「気にすんな。それよりも生きていて何よりだ。あれだけのことをして、あのご主人様がこの程度の罰で済ませたんだ。ぶっちゃけて言っちまえば奇跡みてえなもんさ」

「確かに……」


 ボルドの軽口にバルが少しだけ笑う。

 こうなった原因はすべてバル自身にある。鞭を打ったボルドが悪いわけでも、命じたベラが悪いわけでもない。バルは主へと刃を向けたのだ。罰を受けるのは当然のこと。処刑されぬだけありがたいとバルも考えていた。

 そのバルの様子にボルドが顎髭をさすりながら口を開く。


「で、なんだってぇあんなことをしちまったんだかな。お前は」

「さて……どうしてだったかな。私にも分からん……さ」


 バルの起こした行動が、一体どうした想いから来ていたのかと言えば、今となっては焦りだった……としかバルには答えられない。目の前で繰り広げられた闘いを前に、バルはどうしようもない焦燥感に駆られ、気がつけばああした行動をとっていた。それは極めて衝動的なものだった。


「どのみち……私にはもう……」


 バルが己を嘲るように笑う。目の前で繰り広げられた戦いにもバルは心を折られたが、さらに今日分かったことは己はジェドに情けを掛けられていたという事実であった。

 かつてバルがジェドに挑んだとき、バルの鉄機兵マキーニはジェドの部下らしき者の鉄機兵マキーニに奇襲され、損傷を受けての戦いとなった。

 あの時、自分が十全であれば勝っていたかもしれない……等という考えが僅かではあったがバルの中にはあった。しかし、それがまったくの見当違いのものであったことがジェドとベラの闘いを見て明らかとなったのだ。ジェドはあのベラに対してほとんど互角に近い戦いをしていたのだ。自分が戦って勝てるものではないとバルにも分かった。自分が情けをかけられていたと気付いた。手加減されていた。それでいて負けて、鉄機兵マキーニを奪われたのだとバルは今日、理解したのだ。


「くく……道化もいいところだな」


 そう言って地面に視線を落とすバルに、ボルドは「重傷だな」と呟き、頭をかきながら後ろを見る。それから少しだけ沈黙した後、ボルドは躊躇いがちに口を開いた。


「あー、後な。こんな形での顔見せではあるがよ。傭兵団に新しい仲間……つーか奴隷が入ったんだ」

「……それは」


 ボルドの言葉にバルの顔は険しくなる。

 それが誰であるかバルにはなんとなく見当がついていた。ベラが選ぶのはある程度の実力のある者のみ。先の戦いでの強者をあげるとするならばジェドとその副官であった男だがどちらもすでに死んでいる。であれば残りはブラゴかもうひとり……


「もう外に待たせてるからよ。呼ぶぜ。エナ、入ってこい」


 そのボルドの言葉がガレージに響き渡り、それから僅かばかりの時間の後に外から褐色肌の女が入ってきた。それはどことなくバルと顔立ちの似た女だった。


「エナ……か」

「やあ、兄貴。まだ生きていたとはね」


 そう言ってバルを見下ろしているのはエナ・マスカー、バルの妹だった。ブラゴによって奴隷に落とされ、そしてボルドの言葉が確かならばベラに委譲されたのだろうと考えて、もう何年も見ていなかった妹をバルは見た。

 決闘法フェーデによってジェドのすべてをベラは手に入れたのだ。それにバルはブラゴを殺してはいない。であれば契約を書き換えてブラゴの奴隷を手に入れることもそう難しくはないはずだった。

 ボルドは双方の顔を見てから、少しだけばつが悪そうな顔で頭をかきながら、口を開いた。


「ええとな。久方振りの兄妹の再会だろ。おりゃあ、ここで下がらせてもらう……ぜ?」

「ええ、ありがとうねボルド」


 下手な芝居がかった言葉を出しながらボルドはそのまますごすごとガレージを出ていき、そして兄妹ふたりだけが残された。

 そしてボルドが去ったことでその場は静まりかえったが、その沈黙を破ったのはエナの方だった。


「ははは、ひどい格好だね兄貴。私が知っている兄貴はいつも私を見下ろしている印象しかないから、すごく笑えてくるよ」


 エナがそう言いながらその場に座り込んだ。笑っているが、その目は笑っていないのがバルには分かる。


「お前は……いや」


 それからバルは何かを言おうとして、目の前の血を分けた妹にかけられる言葉がないことに気付き、口を閉じた。

 一族の鉄機兵マキーニを奪われ逃げ出した臆病者。それがマスカー族におけるバルという男の立場だった。それにはバルにも言い分はあるが、所詮己の都合でしかない。一族に戻れば処刑は免れず、それでは『戦い続けていられない』とバルは故郷を捨てたのだ。バルにとっては一族も責任も二の次の話だった。追っ手が来るならば斬り捨てるつもりでもあった。


(交わす言葉などない……か)


 バルはひとりそう結論付ける。兄の失態の煽りを受けて一族を滅ぼされ、性奴に落とされた妹にかけられる言葉などないのだ。


「何か、言うことはないの兄貴?」


 だが妹は少なくとも会話をしようとしているらしい。であればとバルはひとつ疑問に想ったことを口にする。


「……何故殺さない」


 目の前の妹は己を殺そうとして当然であろうとバルは考えている。だがエナにその素振りはない。対してエナは諦めたような声で、その答えを口にする。


「何故って、もうマスカー族はないし、私はご主人様の奴隷だからね。今だって兄貴の治療をしろって呼ばれただけだよ。勝手は出来ない」


 そう言ってエナは笑った。

 それを見ながら空虚な瞳だとバルは思う。村にいたときの気力に満ち溢れていた頃とはまるで違う、濁った瞳だと感じた。


「今更さ。どこまでも汚された私は一族の恥さらしもいいところさ。兄貴と同じようにね」

「…………」


 その言葉にもバルはやはり返す言葉を持たない。己が一族の恥曝しという自覚はある。目の前の妹のことは……よくは分からなかった。


「聞かないのかい、父さまや母さまのことは?」

「その……資格が私には……ないな」


 そう言うバルにエナが肩をすくめながら口を開く。


「死んだよ」


 ボソリとひとこと呟かれた。


「みんな死んだ。一族の子供は殺されて、女は私みたいに何人かは売られたが大体はなぶられて死んだ。あんたの許嫁だったレモルはそれは酷いられ方をしたさ。男連中は皆殺しだ。ま、地方に稼ぎに出てた連中は生きてるだろうが今頃はどうなってることやら」


 そのエナの報告はバルもすでに聞かされていたこと。だからかバルの表情は一切変わらなかった。その様子にエナは眉をひそめながら尋ねた。


「で、それを聞いた兄貴はどう思う?」

「残念だった……と思う」


 声が響いた。


「嘘だよね」


 だが否定の声が返される。そしてエナが己の服をめくり、倒れているバルの前に立った。


「何にも感じちゃいないね兄貴。その目は後悔ひとつしていない。ほら見なよ、私はここを散々あの豚野郎にぶち込まれてきたんだ」


 そう声をあげるエナにバルはやはり何も応えられない。


「どうだい醜いだろう? あのバカは最低のサディストだったからね。ああ、一生モンの傷が付いちまった。で、あんたはどう思った?」

「妹のものを見てもな。隠せ」


 エナの蹴りが飛んだ。バルが僅かばかりうめいたが、その表情にはやはり特に変化はない。


「ああ、そうだ。そういうことだクソ男。あんたは何も思わない。結局はカタナで誰をどう斬り裂くかしか考えてない最低の屑だ」

「……ああ、そうだ。その通りだエナ」


 そう言ってバルは笑う。皮肉げに、震えるように笑った。


「お前の惨状も、父や母の死も……何も、何も思うところはない。泣き叫んで謝罪を乞いたいところだが、興味の欠片も感じないのだ」


 エナが総毛立つような怒気を発したが、バルは臆することなく続けて口を開いた。


「だが、そうとなってまで続けた今がこんなにも中途半端だとすれば、私はどうすればいいのだろうな?」


 そう口にするバルの瞳も空虚であった。それは目の前の妹と写し鏡のように濁った目をしていた。

次回更新は11月03日(月)00:00予定。


次回予告:『第88話 幼女、穴を開けろと言う(仮)』


ベラちゃんは妹をもらったようです。ちょっと大きいですがどこに出しても恥ずかしくない立派な妹のようです。

次回、ブラゴお兄ちゃんがとても酷い目に遭います。もう二度と会うこともないでしょう。さようならブラゴお兄ちゃん。

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