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ロリババアロボ ー 6歳からの楽しい傭兵生活 ー  作者: 紫炎
第一部 六歳児の初めての傭兵団

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第81話 幼女、潰して回る

「騒がしいな」


 ヘールの街の中心にある屋敷の中からジェドが街の様子を見ていた。活気立っているというよりも殺気立っている気配が街中から放たれているのが彼には見えていたのである。

 そうしたものを見る力、幾多の戦場を渡り鍛え上げた者のみが経験上得るような気配を察知することができる眼をジェドは持っていた。近年ではいくさに出ることもほとんどなくなったが、かつて戦場を渡り歩いていたときに得たその眼力こそが彼の最大の武器であった。


「ブラゴ様が戦の準備を始めたようですね」

「まあな。俺が許可を出したのだからな」


 背後にいる従者からの言葉にジェドが笑って返す。だがその顔は笑みこそ浮かべてはいるが、窓の外を見る目は真剣そのものであった。


「いかがされました?」


 その様子に普段より付き添っている従者が首を傾げて尋ねるが、ジェドは「なんでもねえよ」とだけ返す。敵が迫っている……というのはいうまでもないことだ。だからこそブラゴが準備をしているのだ。

 しかし、ジェドには窓の外からハッキリと感じるものがあった。己の肌が粟立つような、まるで草葉の影から獲物にゆっくりと近付いてくる肉食獣の気配を感じていた。


(東から強い力を感じる。これがバル・マスカーだとすれば、良い具合に育ったと言いたいところだが)


 その気配がかつて見た男のものと同じ……とはジェドには到底思えなかった。もっと獰猛で、若い気配。だが矛盾するかのように老練の臭いもそこにはあるようだった。


「俺が指揮を執っていれば、まあ全力でソレを潰すんだがな」

「は?」

「いや、なんでもねえさ」


 再度疑問の顔を向けた従者にそう返したジェドは、窓から視線を外して歩き出した。そして従者に向かって指示を出す。


「俺の『ゼインドーラ』の準備もしておけ。或いは来るかもしれん」

「はあ……了解いたしました」


 従者としては主の言葉に疑問を抱かざるを得なかっただろう。ブラゴが百機の鉄機兵マキーニたちを率いて準備をしているのだ。万が一もあり得ないというのが普通の反応だった。

 ともあれ、主の言葉に逆らうわけにもいかぬと従者はそのまま、ガレージへと去っていった。

 その様子を見ながらジェド・ラハールはすでに己の元へと来るであろうと決定づけている誰かを心待ちにしていた。

 文無しであった己が成り上がり、ようやく手に入れた自らの安住の地ラハール領。それが今や己を閉じこめる牢獄となっているのではないかとジェドはここ数年ずっと考えるようになっていた。退屈し続けていた日々を破壊してくれる何かを彼は求めていた。




  **********




 そしてジェドが自身の元まで『何か』が来ると確信したのと同じ頃、水堀を越えた街の外ではブラゴが配下の兵たちを並べて陣取り、ベラドンナ傭兵団を待ち構えていた。


「各員配置に付きました」


 部下の報告にブラゴが「良し」と声を返す。

 時刻は昼過ぎ。すでにベラドンナ傭兵団の足取りは掴めている。まったく恐れも感じぬ速度でこのヘールの街まで進攻し続けている。又一時間ほど前に功を逸った部隊が強襲し、そのまま戻ってこないという状況でもあった。それは恐らくは返り討ちにあって全滅したと思われた。


「連中はクソ強いが……バカだからな。まあ調子に乗らせて置きゃあジョグルの豚どもみたいに火の中に飛び込んでいってくれるってえもんだぜ」


 そう言ってブラゴは笑う。彼の予定では調子付いてノコノコとやってきたところを、周囲に隠している兵たちと共に取り囲んで潰してしまうつもりだった。

 どれだけの実力があろうと数の差というものには敵わない。全方位からの攻撃には対処できまいとブラゴは考えていた。


「見てろよエナ。てめえの兄貴をブッ殺して、首もいで、そいつを肴にてめえもグチャグチャに犯してやる。それでようやく俺の心も晴れるってもんだろ?」


 街の方を見ながらブラゴはそう呟く。

 もっともブラゴの思いは叶わない。彼の耳に入ったのは、慌ててやってきた部下と驚きの報告であった。




  **********




『なんだ。あれは?』


 ブラゴが報告を受けたときよりもわずかばかり時はさかのぼる。

 ジェド親衛隊三番隊長マーティ・アンダーソンはブラゴの指示によりヘールの街より離れた塹壕のひとつに兵を隠して敵の襲来へと備えていた。本隊への攻撃が始まった時点でマーティたちはここから飛び出して、ベラドンナ傭兵団という集団の背後へと斬り掛かる予定であったのだ。

 その塹壕から外に視線を向けたマーティがあるものを見たのだ。

 

(犬……いや、狼か)


 愛機である『ノースアブル』の水晶眼は、森の木陰から自分たちを覗く狼らしき獣を映していた。それは完全に偶然だった。その場の部下の誰も気が付いていない些細な、だが確実な違和感がマーティを襲っていた。


『ローアダンウルフ……この地方にはいない魔物が……何故?』


 自ら出た言葉にマーティはハッとなる。そして気付いたのだ。ある可能性に。


『いかがしましたか隊長?』


 その横でマーティの様子の異変に気付いた部下の一人が声をかける。だがマーティが発した言葉は部下の疑問への答えではなく、戦闘を呼びかける言葉だった。


『敵襲だ。ベラドンナ傭兵団が攻めてきたぞッ』

『ひゃっはぁあああっ!!』


 同時に森から巨大な人影が迫ってきていた。黒い拘束具のようなものを身につけた異形の鉄機兵マキーニ。それがウォーハンマーを掲げながら襲ってきたのだ。


『気付いたかい。勘がいいね。だったらこいつはご褒美だよ』


 突如として現れたその鉄機兵マキーニは大きく構えて、ウォーハンマーをそのまま投げつけた。


「うぉぉおおおおああああああああッ!?」


 生身の兵たちが叫び声をあげながらウォーハンマーに潰されて殺され、或いは弾き飛ばされていく。そして攻め込んできた鉄機兵マキーニは身体の拘束具を外しながら接近を開始する。


『赤い鉄機兵マキーニ、ベラドンナ傭兵団の団長のものかッ』


 跳ねて飛んできたウォーハンマーを盾で弾きながらマーティが叫ぶ。外された拘束具のしたからは見事なまでの赤色の装甲が見えたのだ。


『正解っ』


 女か男かも分からぬ若い声が鉄機兵マキーニの中から響き、蹴散らした兵たちを踏み潰しながら、マーティの部下の鉄機兵マキーニたちへと迫っていく。


『ウォーハンマーがなければ、こんなヤツ』


 部下の一人が大盾を構えながら鉄機兵マキーニを前へ進ませる。対して赤い鉄機兵マキーニは右手の有機的な腕から延びている爪を構えると『せいやっ』と声をあげながら盾へと引っかけて、


『ヒャッハー』

『ぐぉっ』


 そのまま力任せに引き剥がした。そして盾ごと身体を崩された鉄機兵マキーニの懐に入り込むと左手から赤くなった鉄芯を射出して操者の座コクピットを貫いたのだ。


『そうだねえ。手ぶらは寂しいからそいつをいただこうかい』


 赤い鉄機兵マキーニはひとりそう呟いて、たった今貫いた鉄機兵マキーニの持っていた斧を手にとった。


『かかれ、かかれぇえ』


 その様子を見ながらマーティが叫ぶ。

 だが指示に従って攻める鉄機兵マキーニは次々と赤い鉄機兵マキーニに潰されていく。それは斧で頭部ごと操者の座コクピットを潰され、爪で胸部ハッチを貫かれ、尻尾のようなもので転ばされた上に踵落としで踏み潰された。

 まるで流れるように動く赤い鉄機兵マキーニにマーティの瞳は次第に恐怖に染まっていく。


『隊長、こいつはッ……ダメだ。こんなの勝てるわけがねえ!』


 マーティの『ノースアブル』の横にいる副隊長の鉄機兵マキーニから悲鳴があがる。だが、その言葉と共に背を向いて逃げ出そうとした副隊長機に鎖の付いたいかりが突き刺さり、そして副隊長の悲鳴があがったかと思えば動かなくなった。

 どうやら鉤爪が操者の座コクピット内部まで貫通したらしい。それを把握した赤い鉄機兵マキーニは錨から自らの腰まで延びて繋がっている鎖の接続ジョイントを外すと、そのままマーティの機体の方へと視線を向けて拡声器から声を出した。


『後はアンタだけかい?』


 その言葉の意味がマーティには分からなかった。だが静かになった周囲を見回して気付いた。もはや生きているのが己だけだということに。最初に潰されて蹴散らされた生身の部下たちもここまでの戦闘ですべて踏み潰されていた。目の前の赤い鉄機兵マキーニはそこまで計算して動いていたのだ。


『くっ、うぉぉおおおっ!!』


 マーティは剣を構えて己の機体を走らせる。せめて一太刀でも浴びせられれば……その想いを刃に込める。だがその願いは叶わない。そして彼らは何ひとつ残せずその場で全滅し、死に絶えた。

 結局のところ、ブラゴの元へと届いた報告はベラが次に襲った部隊からのものだった。

次回更新は10月13日(月)0:00予定。(※今週木曜日はお休みします)


次回予告:『第82話 幼女、突き進む(仮)』


逆ドッキリ大成功!

ブラゴお兄ちゃんたちの驚く顔が目に浮かぶようです。

やったねベラちゃん。

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